027:ロビン・ラックと公務への同行-2-
「あそこが合流地点だな」
セブンス魔法学校を出て少し経った頃、王子を待っていたと思われる一団と合流する事となった。人数は10人で、アルヴィス一行と合わせると14人というそこそこの一団となっていた。
全員がある程度の能力を持っており、クライブやサジには敵わないものの、ロビンが勝てる程かと言えばそうでもなかった。14名中、ロビンは最弱の存在だった。
「まずはどこから行きやすか?」
「ガルーザスから始めて北に回るルートを取ろう」
「了解です、俺ァ先行しますね。ロビン少年は一番後ろの一団だ」
「オッス!」
「ロビン少年、一番後ろは実は結構危険な位置だ、何故か分かるか?」
「えっと、狙われるなら前か後ろ、人数が削り易いから。で、逃げる流れになった時に後ろは実質的な先頭みたいな位置になるから、かな?」
「おっ、勉強してるねぇ。理解出来てるならいいさ。頼むぜロビン少年!」
「オッス!」
サジは先頭集団より少し前に抜けた位置を取っている。その後ろに一塊あって、アルヴィスとクライブ、そして残りは後ろである。道は開けた場所で、横からの奇襲というのはあまり現実的ではなかったので必然的に前後が厚くなる構えとなった。
何事もなく進路を辿る一行。そしてあっという間に第一ポイントとでも言うべき休憩する予定だった場所へと辿り着いた。
「どうだロビン、大丈夫か?」
「えっとね、まず馬が大変、かな?」
「あーまぁ慣れてないものな」
「うぅ、お尻が痛い」
「帰る頃には慣れてるよ。馬の呼吸が理解出来る様になってくれば案外と早い」
「馬の呼吸か、頑張る!」
「その粋だ」
休憩もそこそこに移動を進めてしまい、日が落ちる前に村に着く段取りで行動していた。特に予定を阻む事も起こらず、一行は村へと辿り着いた。
「アルヴィスは公務があるからな、ロビンはそっちを手伝っておいてくれ」
「オッス!」
馬に餌をやり、軽く拭いて綺麗にしてやる。そして自分達用に提供されている宿舎の危険をチェック。王子、側近はそこに泊まり、それ以外の護衛は宿舎の周囲にて野営。その準備を手伝っていた。
「あ、それも出来ます。それも任せて下さい」
料理や洗濯、家畜の世話に野営の準備まで。ありとあらゆる雑務をテキパキとこなしていく見習いの少年。何故か戦闘面より大活躍なロビン少年であった。
その晩、野営メンバーがとった食事は大層評判が良く、あまりにも美味い美味いと騒がしくなってしまった為、アルヴィス達が野営側へ合流し、食事を共にするという訳のわからない事態へと発展していた。
「どうだった?」
「まぁ前回からかなり良くなってたよ。ここも一時期管理しきれてなくて、酷い事になってたからさ。感謝されたんだけど、本来これが普通なんだよな。おかしな話だ」
「うーん、普通って難しいよね」
「ロビンは普通が全然なかったらしいな」
「俺って普段は掃除機兼任のゴミ箱みたいな扱いされてて、押し入れに住んでたからね」
「恐ろしい話をサラッとするな馬鹿。にしてもロビンお前、料理上手いな」
「そう? これも俺は普通なんだけど」
「お前の普通めちゃくちゃ過ぎ」
こうしてロビンにとって初めての遠足、その初日は幕を下ろしたのだった。
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「ふぁぁ、まだ眠みぃ……ん? ありゃロビン少年か?」
「あ、サジだ!」
「何してんのさこんな所で、ナイショのやつかィ?」
「へへ、俺まだまだだからみんなよりももっともっと、毎日頑張らないと追いつかないからさ!」
「だからこんな所で、健気だねぇ。因みに何してたんだ?」
「特訓メニュー! ニクス先生に教えて貰ったんだ!」
「へぇ、そんな事まで。仲良くやれててお兄さん嬉しいよ」
「俺頑張るね! いつもありがとうサジ」
「……あぁ、良いって事よ」
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翌日、村を隈無くチェックし、村長との問答を終え、少しばかり抱えていた問題を解決する作業に取り掛かっていた。とは言ってもそれ程ややこしい話ではない。寧ろ、本来王子が着手する範疇を越えた介入と言っても過言ではない。
何故なら。
「【吹き抜ける風の始め】、風刃!」
スパッと、木々の伐採。そして。
「【燃ゆる炎の種】、火炎!」
焼き畑、そして。
「【佇む地表の砂、我願いに応え大地に秘めし
大いなる力を顕現せよ】、地表流動」
耕起。つまり土木作業である。
「信じられない……これ程短時間で畑として使える土地を拡げて貰えるなんて、ありがやありがたや……」
「そんな大袈裟な。何かあったら言って下さい、俺に出来る事ならやらせて貰いますので」
風を操るアルヴィスが茂り過ぎた木々を切り、雑草を除去。またそれらを風を利用し一箇所に集めて、クライブが焼却。そしてそれらを肥料とし、サジが使いやすい畑へと土を広く耕した。
サジの使う地表流動は、本来の用途であれば戦闘中に地形干渉できる荒技として重宝する中級の魔法。農作業に流用出来ているのは彼の経験からくる知識と、その類い稀な魔力操作の賜物であった。
「最近手入れが追いつかなくて、もうこの辺りは畑としての利用は諦めようかと話していた所でした。まさか王子様にこの様な作業をさせてしまうとは……」
「そう言わずに。俺はずっとここに留まる訳にいかないので、今この一時くらいは役立たせて下さい」
「あ、ありがとうございます」
決して裕福とは言えない身なりの人々が、アルヴィスの事を感謝の念を込めた目で見つめていた。子供たちは手を振り、老人は崇め奉った。そんな様子を遠巻きに見ていたロビンはとても誇らしい気持ちで一杯になっていた。
「ねーねークライブ。アルヴィスっていつもこんななの?」
「あぁ、そうだ」
「そっかー」
「俺たちは困りっぱなしだけどな。でもその一方で、誇らしいんだ。あいつの側近でいられる事が」
「なんかさ、分かる気がする。ちょっと羨ましい」
「ふ、お前も相当アルに惚れてるな」
「うん! アルヴィス大好き!!」
先程切り出した木材を使って柵を作り、中型の草食動物が出入り出来ない様に周囲を囲んでいく。まさかそこまでしてくれると思っていなかった村人たちは、感謝の念に耐え切れず、こぞって家にある物をアルヴィスに贈呈し始めていた。子供から人形を渡されるアルヴィスの姿はとても微笑ましく、それを少し困った顔で受け取る様が輝いて見えたロビンだった。
そしてその事件は、二つ目の村での作業を終えて、三つ目の村へと向かう道中で起こってしまった。
「アル!! くっそ、俺は良い! アルを早く!!」
「ぐっ……、身体が、動かない……」
気を失ったアルヴィスが謎の集団に担がれて行くのを。
ロビンはただ見ている事しか出来なかった。
「どうして、オイ!! 何やってんだサジ!!」
「わりィ、す。く、クライブの、兄貴。俺ァここまで、みたいでさァ」
「どうして、どうしてなのサジ!!」