026:ロビン・ラックと公務への同行-1-
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公務への同行。これは言葉にするよりも遥かに重い意味を持っていた。回復要員、戦闘要員、斥候要員、どの様な役割であってもある程度の突出した能力が求められ、全ては王子の安全面を少しでも高める為に用意される。
だが今回のロビンは【足手纏い要員】としか言いようがなかった。多少腕に覚えが出来たからといって、何かの役に立つ程の存在かと言えばそうではない。故に、同行が決まった後も少しだけ話は続いていた。
「誘っておいて悪いが、移動中や村々への訪問中は恐らくお前は護衛団の末席として何かしら役割を与えられて、俺の近くには居られないと思う」
「うん」
「理由は足手纏いだからだ。クライブやサジならともかく、有事の際にお前を守る訳にはいかないからな」
「そうだよね、分かった!」
少しだけ更に真面目な顔をしたアルヴィスは、意を決した様に声を低くして話を続ける。
「何かあったら自分の身は自分で守れ。仮にお前の危機があったとして、クライブやサジはお前を見殺しにせざるを得ない。そんな事には絶対なるな」
「分かった」
そして少しだけ雰囲気を柔らかく戻して。
「最後に、今回の一件で」
「うん」
「ちゃんと経験を積むんだぞ?」
「うん!」
「命の危険を側に置きながら活動すると目線が変わる。気配への配慮が変わる。状況判断の鋭さが変わる。理由は勿論、全ての活動に命が乗っかっているからだ。仮に何も起こらなかったとしても、恐らく初めはかなりキツイ仕事になるだろう」
「そうだよね」
「つまり、沢山の経験が得られるって事だ」
「……アルヴィス」
「強くなれロビン。お前とはもっと色々な事を一緒にやってみたい」
「俺頑張るよ! ありがとうアルヴィス!」
アルヴィスはこの話をすべきか少し迷っていたのだが、ロビンの素直で真面目な性格を考慮するに、話しておくべきだと判断した。
場合によってはお前を見殺しにする。本当はそんな風に考えていないアルヴィスだが、公務の形としてはそちらの方が自然である。だが仮に公務としての正しさがそこにあったとしても、アルヴィスはロビンを助けてしまうだろう。誘った以上はある程度のケジメは必要だった。
この話はロビンにしている様で、実は自身への戒めの意味も含んでいた事に、ロビンは気付いていなかった。
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それからあっという間に日にちは過ぎて。公務への同行が予定されていた日の朝となっていた。
「えっと、これも持ったでしょ? これもあるし、替えの服もここにあるし。よし、行ってくるね!」
「この水入れは置いて行くのですか?」
「あー! 水筒忘れてた!」
バタバタしない様に早い目に起きていた為時間には追われておらず、追われていない筈なのに慌てていた。さながら初めての遠足である。
「ニクス先生はどうするの?」
「俺は多分ある程度はここに居られるでしょうけど、距離が空き過ぎたら強制的に待機状態へとされるやもしれませんね」
「成る程、そういうものなんだ」
「実に忌々しい限りです」
「それじゃ一旦行ってきますで良いのかな?」
「いってらっしゃい」
「また後でね!」
「はいはい」
手で早く行けと呆れた顔をしているニクスだが、話を聞いていて少し心配もしていた。彼の目線から見て、ロビンはまだかなり拙い。ある程度の手練れが本気で命を狙って来たのなら、彼では対処出来ない可能性が高かった。故に止めたい気持ちも少しあったのだが、ロビンが希望と期待に満ちた顔をしていたので何も言い出せなかったのであった。
「お待たせー!」
「遅くはない、俺も今きた所だから安心しろ」
「アルヴィスとサジは?」
「アルはもう少しでここに来るだろう。サジは見回りだ」
「見回り?」
「アルの行く道の安全確保だな」
「あーそっか、サジ凄いなー」
隣に立って正面から戦うのであれば、アルヴィスとクライブが背中合わせにいるのが一番強いだろう。だが、サジの戦闘スタイルはそういった所に重きを置いていない。彼は事前に危険を減らし、敵の戦力を削ぎ、敵の戦略を崩し、弱り切った所でとどめを刺すタイプだ。偵察や調べ事は得意とする所であった。
「わり、ちょっと遅れたか?」
「いや時間通りだ。サジを待たせている。行ってやろう」
「そうするか」
「おー!」
アルヴィスも合流し、一同進路は西である。アルヴィスはしっかりしていたが、王族としてはまだまだ若くて幼い。故に公務といっても、公務の練習の様な事を任されているに過ぎなかったが、彼はそれを真摯にこなしていた。それは勿論彼の王族としての意識という所もあっただろう、しかし本音は違っていた。
「俺の公務はな、元々兄様の仕事だったんだ」
「アルヴィスってお兄ちゃんいるの?」
「アレディア殿下をお兄ちゃんとは恐ろしい事を……」
クライブが隣で青い顔をしていた。
「兄様はさ、強くて賢くて、同じ王族として目標であって憧れなんだ。そんな兄様に、【俺の仕事を一部代わってくれないか?】って言われてさ。嬉しくてすぐに勿論って返事したよ」
「へー、お兄ちゃん好きなんだ。良いなー」
「兄様が治めていた村々を、俺に引き継いだから対応が悪くなったなんて言わせやしない。アレディア殿下の引き継ぎはやはり素晴らしい物だったと、皆が口を揃えて言うような俺でいないとダメなんだ」
「だからアルヴィスは頑張るんだね!」
「そ。俺にだって意地がある。任せて貰った以上はやってやるさ。お前も頼むぞ? ロビン」
「頑張る!」
ロビンは決意を新たにした。