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ロビン・ラックと魔法学校  作者: 生くっぱ
ロビン・ラックと王子の邂逅
27/88

025:ロビン・ラックとサジ・ノートス-4-

「さて、基本的な話は一通り出来たのでそろそろ魔獣生態学も進めて行こうと思う。それに当たってお前らに紹介しなければならない先生が居……あ、しまったな。今日はミア・ホワイトニュートが公欠の日か」


 授業の冒頭、歯切れの悪い挨拶から始まったジャミールは、少しだけ思案し、そしてすぐにいつも通りこう結論付ける。


「……まぁ良いか。こちらの方がそうだ」


 割といつも通り諦めがちなジャミールだった。そして紹介されたのは校内随一の艶やかさを誇るこの人であった。


「どうも魔獣生態学を担当しています、マリアンナです。専門的なジャンルになるので、この授業に関しては全授業を私が担当する事となります。皆さんよろしく」


 その美貌から「おぉー」と男子生徒から色めき立った歓声が上がった。そして一方で女子生徒からは疑惑の目を向けられている。男子と女子では見ている所がまるで違う様だ。


「せんせー! 質問良いですか?」

「キャルメ・バルラバーディか、何だ?」

「マリアンナ先生! 彼氏はいますか!」

「彼氏は……ふふっ」


 おぉーと男子生徒から一層色めき立った歓声が上がる、そして。


「先生、その手の質問が良いのであれば私も」

「ミリアリア・ファイアフェネックか、程々にしておけよ」


 嫌な予感がしていた。故に、釘を刺したつもりだったジャミールだが……。


「ジャミール先生とはどういった関係ですか?」

「ちょっ!?」


 飛び出したのは、最も危惧していた質問だった。


「関係? うーん、結婚してる訳でもないし、付き合ってる訳でもないし、関係か……強いて言うならセフ」

「お前らァァァァ質問はそこまでだ。授業に移るぞ」

「ええええええ!!!」

「何か文句でもあるのか?」


 ジャミールは信じられない速度で魔杖を解放し、肩の上に【黒嶺】をズンと乗せている。圧が尋常ではなかった。


「返事をしろぉ!!」

「ありませーん」


 クラスメイト一同、声の揃った返事であった。


「では後の事は頼んだ」

「えぇ、お疲れ様です」


 谷よりも深い溜め息を吐いた後に、額から変な汗を流していたジャミールはそそくさと退室した。これ以上ここにいるとマズイ気しかしなかったのである。


「さて、では邪魔者が居なくなった事だし、ジャミールくんのクラスだし、魔獣ジャミールくんの性態学の話からする?」

「余計な事を言ったら教室ごと吹き飛ばすからな」

「あ、まだ居たの?」

「分かったな?」

「もー睨まないでよ。分かったわよ」


 バンっと、威圧感のある勢いで扉は閉じられた。大人気ないとは正にこの事である。


「えーじゃあ仕方ないから授業でもしましょうか」


 そう軽く言ったマリアンナはフワリと反転するとボードに何かを書き始めた。


「軟体生物族、飛行族、自然族、水生生物族、アンデッド族、獣族、龍族。魔獣と呼ばれる自然発生生物は種類に分けると全部で七種になるのは知ってるわね?」


 七種類と大まかに言っても、当然中間系を取っている魔獣も存在している。全てを完璧にカテゴライズするのは困難だと言えよう。しかしながら人から人へ、情報を伝達する上である程度の括りがあった方が物事が円滑に進みやすいという利点があった。また魔法使いによって得意な種族や不得意な種族が存在し、多人数でチームを組む際の目安として重宝したりもするのだ。


「さて、じゃあ今日はみんなの使い魔を聞いて、それを深掘りしていきましょうか」


 そして教壇で居直り、一呼吸置いたのちに少し真面目な顔をして語り始める。


「分かってるとは思うけど、貴方たちの使い魔の命は有限よ。一度死んだら二度と蘇らないし、二度呼ぶ事も叶わない。生涯をかけて互いを高め合うパートナーなの。だからより深く、自身のパートナーを知る事はとても大切よ。分かるわね?」


 各自がその場で小さく頷く。それを見てニッコリしたマリアンナは話を進め始めた。


「まずはそうね、さっき質問してくれたミリアリアさんにお願いしようかしら?」

「……こんな事になるなら黙ってれば良かった」

「聞こえてるわよ?」

「はーい、私の使い魔は【炎狐】のエイヴィーです」

「なるほど、珍しい魔獣ね。種類は獣族、属性は【火】ね。貴女と相性が良さそうで羨ましいわ」

「ありがとうございます」

「さて、【炎狐】は元々魔大陸の奥地に生息する魔獣で気性は荒め、故に出会った際は戦闘は避けられないわ。彼らは素早い動きと強力な火炎能力、それに加えて集団で生活する特徴があるの。だから一匹と遭遇したら即離脱するくらいの感覚でいなければ、あっという間に囲まれて消し炭にされるわ」


 一つの魔獣を例に、そこから種族としての特徴や対策などを展開していくマリアンナの授業は、記憶に残りやすく非常に好評であった。



 ━━━━━



「なぁロビン、後でちょっと話があるんだが、良いか?」

「良いよ! 俺どうしたら良い?」

「そうだな、帰りにクライブとサジを拾ったらそのまま俺の部屋で話すか」

「え!? アルヴィスの部屋に入って良いの!?」

「え」


 あれ、こいつ王族の部屋とかに興味あったっけ? などと一瞬だけ考えたアルヴィスであったが、勿論そんな筈もなく。


「友達の家に遊びに行くなんて生まれて初めて!!」

「いやどんだけだよお前」


 お友達にお呼ばれしてちょーハッピーなだけであった。どこまでも良い意味でアルヴィスを裏切るロビンである。


 そしてその日の授業終わりにクライブやサジと合流し、約束通りアルヴィスの部屋を訪れていた。呼吸は荒く、動悸は激しい。そう、彼は今初体験をしているのである。


「これが友達の家!!」

「部屋な、部屋」


 対して冷ややかなアルヴィス。もはや何を見せても驚愕しそうなロビンを見て「この状態のロビンに今から話するの?」と己が示した密会場所選びの失敗で頭が一杯だった。何ならもう「無理くね?」みたいな顔すらしていた。


「さーてロビン少年、お呼ばれして来たは良いけれど、まずは何をする?」

「……手を洗う!」

「正解!」

「よし、それなら俺が案内しよう」

「クライブはここに良く来るの?」

「まぁな、そういう役割だ」


 アルヴィスの部屋はロビンの部屋の倍ほどの広さをしており、王族の煌びやかな部屋という訳ではないが、やはり同じサイズという訳でもなかった。故にやや間取りが違っており、ロビンと部屋の構造が同じだったクライブが案内する形に。


 何とかロビンを落ち着かせる事に成功した一同は、一旦同じテーブルに着く事にする。興奮しがちなロビンをサジがワイワイやりつつも制御してくれており、その隙にクライブが紅茶を淹れていた。


 カタンと紅茶をおきつつ、クライブが口を開いた。


「さてロビンよ、今日は少し話があってな」

「うんアルヴィスから聞いた、何なに?」

「俺から説明しよう」


 紅茶を一口飲んだアルヴィスが佇まいを正した。


「実は間も無く地方査察の任があってな。俺は暫く公務扱いで学校を公欠する事になるんだ」

「え、アルヴィス居なくなるの?」

「辞める訳じゃないぞ?」


 信じられないレベルで落ち込むロビンに、話を続けるつもりだったアルヴィスだが思わず【辞めない】事を強調せざるを得なってしまった。落ち込むというより最早沈んでいる。


「えっと、どれくらい休むの?」

「何もなければ二週間ってところか」

「むぅ、二週間……か。クライブやサジもだよね?」

「そうなるな」

「そっか……」


 学校が始まってまだひと月と少し。漸く慣れて来たとは言ってもまだまだアルヴィスに依存しているロビンである。二週間の留守番は余りにも長過ぎた。


「そこで、だ」

「ん?」

「お前も一緒に来るか?」

「ふぇ?」


 変な声が出たロビン。まさかのお誘いである。


「公務っても、やってる事はパカパカ馬に乗って【お前らの贅肉を増やす為に俺たちは飢えてるんだぞ!】とか言う豪気な奴の話を聞いて回るだけだ」

「うへぇ、良く覚えてますね大将」

「珍しいタイプの馬鹿だったからな」


 まぁそれは良いと、話を区切ったアルヴィス。要するに、公務に混ざらないかというお誘いだったのだ。


「その……俺なんかが混ざっても大丈夫なの?」

「ロビンの事はこの学校でコイツらを除けば一番良く知ってるつもりだ。それに、人を見る目にはちょっと自信があるからな。ロビンは大丈夫だ」


 その発言時に、誰も気が付かなかったが。

 サジがほんの2ミリほど、片足を後ろに下げた。

 気配の変化は微塵もないままに。


「それに、約束したからな」

「約束?」

「忘れたのか? 命のやり取りのないくらいの経験は、させてやれるかもってよ?」

「あ、アルヴィス……」


 パチリとウインクするアルヴィスの仕草は、男だろうと女だろうと、この人に着いて行こうと思うのに十分過ぎる魅力を放っていた。実に人垂らしである。


「さ、そう言うわけだ。どうするロビン?」


 その言葉に思わずクライブとサジの顔を確認する。二人はもしかしたら反対してるかも……と恐る恐る視線をやったのだが、二人とも実に良い笑顔であった。そしてうんうんと頷いている。それを見たロビンはまだ少し怯えた雰囲気を持ちながらも、ゆっくり声を出し始める。


「それならさ、もし良いんだったらさ」

「おう、言ってみろ」


 覚悟を、決める。


「俺も行きたい!!」

「良いぜ、一緒に行くか!」


 こうしてロビンは王子の公務に同行する事となった。

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