023:ロビン・ラックとサジ・ノートス-2-
俺ァザントってかなり田舎の出身だ。俺たちの地元は結構良い作物を育てるってんで田舎の割には知ってる奴もいる様な所だったんだが。
実際はまぁひでぇもんでよ。俺の家も四人兄弟だったんだけど、上二人は出稼ぎに行っちまって顔も殆ど覚えてねぇし、下は頼りになんねぇ妹ときた。ま、大体一人だったな。
村にゃつまんねぇ農作業に、家の補強だの農具の修理だの、やる事があるようで前進のない変わり映えしない毎日の連続で。ある時たまたま村に戻ってた兄貴から筋トレと魔力の訓練って奴を教わってよ、暫くはずっとそればっかやってた。
んで俺が十になるかどうかって頃に村は本格的に飢え始めた。俺ん家は特に酷くてよ、妹なんて病気してそのまま死ぬんじゃねぇかって程の衰弱っぷりで。ロビン少年にゃここで大将が来たって伝えたが、実際はここから二年先になる。このままじゃ確実に死ぬ、それはガキの俺にも理解出来ていた。
だからまァしゃーねーっちゃしゃーねーのよ。大体の悪事ってのは悪政から始まる。正当化するつもりはねぇが、俺ァ盗みを始めた。だが同じ様に飢えている所からじゃねぇ、丸々肥え太ったクソ貴族からだ。堂々と盗まずに、バレない様に、コソコソとな。んで、そこで得た物を闇ルートで換金して。家の買い出しは俺が行くっつってよ、家の金と俺の得た金を合わせて三倍くらいの飯を持ち帰ってた。「おい聞いてくれよ上手い買い方見つけたんだ、飯が食えるぞ」って妹にな。そしたら妹どころか家族みんなが大層喜んでよ。そりゃあ……引き返せなくなるよな。
で、暫くそれをやってたらそのうち別の奴とタイミングが被っちまって揉め事になっちまって。話を聞いてりゃそいつらは何処かに所属してるとか。三人がかりで無理やりそこに連れて行かれてよ、内心ヒヤヒヤだったぜ。アイツらの事はその時初めて知ったな。義賊【山薙】。やってる事は盗みだったり悪い事なんだが、心根は俺と同じでよ。貴族のボンボンから金巻き上げて、自分達と近隣の村の特に飢えてる家に飯を配ってる様な連中だった。その時思ったのは【俺みたいな馬鹿が他にもいた】って感じだったか。なんつーか、仲間に出会った感じがしたんだ。
俺たちは地元最強のチームだった。リーダーの【ゼルドリス】、サブの【ペルフェンダー】、そして何だかんだと三番目のポジションになった俺。チームの人数は五十人を越えていた。この人数感なら多少運が悪くても、最悪正面きった争いだって可能だった。ゼルドリスとペルフェンダーはかなり強ぇ奴らだしな。元公式ギルド【深淵】の末席とか言ってたか、マジかどうかは知らねーけど。ま、そうやって俺たちは大きくなっていったのよ。
そうは言ってもいつも上手く行く訳じゃねー。時々仲間は減った。死んだり、捕まったり、連行されて監獄行きになったりな。実際死ぬってのは殆どなかったが、捕まる連中は後を絶たなかった。やってる事自体がリスキーで、みんながみんな俺みたいに鍛えてる訳でも身体を上手く使える訳でもなかった。だから必然といえば必然なんだ、そのうち捕まるってのは。
この後なんだよなー大将が来てくれたのって。大将が来たのがもうちょっと早かったら。俺ァ【山薙】なんて入らずに真っ当な道を行っていたのかねぇ。
「で、どうなんだ。ルートは絞れたんだろうな?」
「ったりめーだろ。ほらよ、この三つだ。今の段階じゃこれ以上は絞れねぇ」
「上出来だ」
「そっちはどうなんだよ」
「テメーみてぇな王子様付きに機密なんて漏らせるかよ。黙って情報だけ流してろ」
「チッ」
薄暗い部屋の中、俺ァ壁の岩肌に背中を付けて立っていた。そしてテーブルの上にテーブルランプ、俺の出した大将たちの行動予定の紙、それに酒とナイフと金貨。
「くだらねぇ事考えるなよ? 情に絆されちゃ御仕舞いだからな?」
「分かってる」
普段大将たちの前では余り見せない裏の時の顔。本当はこっちの表情の方が素だったりする。ニコニコするのは好きじゃない。いや違うな、ニコニコしたくないのにするのは好きじゃないって感じか。大将たちといる時間の笑い顔ってのは、割と嫌いじゃなかった。最近じゃ弟みたいな奴も増えてよ。楽しくなってきたってのに。
「流れだけ聞かせろ、詳しい話は求めねぇから」
「オウ、単純にいくぜ? 王子が査察に出る、護衛をボコる、王子をダシにして仲間を奪還する。言葉にすりゃ単純だが、これが一番効くだろうよ」
「やれやれ、義賊が聞いて呆れるぜ。誇り高かった【山薙】は山賊にでも鞍替えしたってのか?」
「馬鹿言え、主要メンバーが足りてなさ過ぎるんだよ。今まで捕まった奴らを全員解放してみろよ。俺たちは辺境どころか国内最強のグループだって目指せるぜ?」
国内最強ねぇ、義賊がそんな事考えちまった時点でもう義賊じゃねーんだよ。自分達が既に山賊だって事にすら気付いてねーのかコイツら。
「だからお前は今回の仕事が終わったら戻ってこい。ゼルドリスの旦那が高待遇で迎えるってよ。噂じゃ副官とかって話だ。羨ましいぜ」
「俺が頭になれんならいつでも戻ってやるよ」
「自惚れも大概にしろよ? ペルフェンダーの兄貴たちの考えもよく分からねーぜ。何でこの俺を差し置いてこんな裏切り者を厚遇すんだよ、気に入らねぇ」
「てめーがザコだからだろ?」
「あ? やんのかコラ」
頭に血が上ったチンピラをボコボコにして、岩場を背中にするよりも心地の良い椅子を手に入れる。あーケツが落ち着く。
「て、テメー覚えてろよ」
「お前が忘れるなよ、次は殺すからな」
「俺を殺したらゼルドリスの旦那が黙って……」
「アイツがお前如きに構うかよ」
「このクソや……うげっ! ぐふっ!」
「もう黙れ、殴るのも疲れるんだ。勘弁してくれ」
もう一度、自分が手渡した情報に目をやってみるが、やはり確信する。これがゼルドリスに渡れば、あいつらは確実にやる。だが恐らくゼルドリスじゃ大将にゃ勝てねぇ。だがそうなったら……。奴は【アレ】を使っちまうかもしれない。もしそうなったら、多分大将でも無理だ。だからって今更……。なら、俺が身体を張るしかねぇのかもな。
はぁーあ、嫌だなァ。
何でこんな事になっちまうんだろ。
先に会ったのがゼルドリスじゃなく。
大将だったらなァ。