019:ロビン・ラックと修行の成果-1-
ブックマーク頂いている21人の皆様、ありがとうございます。ここまで投稿した物を少し加筆修正をしてみました、良くなっていると良いのですが。では今日もよろしくお願いします。
「おはよクライブ!」
「お、おう。ロビンお前……何か雰囲気変わったか?」
「ん? そうかな?」
翌朝、家の扉を開けた先にアルヴィスを待つクライブが立っていた。そして怪奇の目を向けている。それはそうである、その変化は一晩で起こって良い物では無かった。
「……ちょっと腕見せてくれないか?」
「良いよ!」
「お前……こんな腕だったか? 腹も……胸も、下半身も」
服の上から手を当て、各部位を確認していくクライブ。信じられない物を見ているかの様なリアクションに、ロビンは内心ニヤニヤしていた。彼は頑張ったのだ。
「昨日まで本当に、それこそサジの言う様に何故ここに居るのかが不思議な程に何もなかったあのロビンが……たった一晩で?」
「えへへ」
「何をしたんだ?」
「修行!」
「……修行か」
普段なら軽快な返しの一つもするクライブだが、言葉が出て来なかった。理解の範疇を越えすぎていたのだ。
「朝から何してんですかクライブさん。そんなに尻を撫で回したらロビン少年がかわいそうっすよ、この変態」
「あ!? いや、すまんロビン。つい、な。余りにも変化が凄すぎて……」
「良いよ! また触ってね!」
「いやそれは何か語弊があるな……」
「クライブの兄貴、アンタまさか!?」
「頼むからよしてくれ、今は頭が痛い」
頭を抱えてフラフラするクライブ。その一方で。
「ロビン少年、さてはニクス大先生に何かして貰ったな?」
「うん! 修行つけて貰った!」
「おーおー良かったなー! 良い身体になってんぜ。魔力の流れもちょっと信じられないくらいに綺麗だ。まるで別人だよ別人」
「ありがとうサジ! ニクス先生ね、教えるのめちゃくちゃ上手いんだよ!」
「いやこれ上手いとかいうレベルの話か?」
何故か良い感じに受け入れている風のサジ。彼は情報収集も仕事の内なので、基本的に周囲の人間をむやみに否定したりしなかった。心的信頼は彼の活動方針の基本である。だが、だからと言って信用しているかというとそうではない。クライブ以上に警戒し、疑っていた。果たして主人に危険はないのか、それを慎重に見極める為に。
「悪い悪い、遅くなった。教科書を一つ入れ忘うぇ!?」
途中まで軽快に話をしていたアルヴィスも、日常の彼からは信じられない程の同様を見せて驚いた。勿論原因はロビンである。
「ろ、ロビンなのか?」
「そだよ!」
「お前……」
「少しは強くなったかな?」
「少し? いや昨日の今日で? えっと……」
「そうだ魔杖! 出来たよ!」
「え、もう……出来たのか?」
実は誰も口にしていなかったが、ロビンに関しては無理かもしれないと内心考えていた。それ程までにお粗末な魔力だったのだ。
「あの……さ、アルヴィス。お願いがあるんだ?」
「お願い? ……言ってみろよ」
それは突然の申し出だった。そしてアルヴィスはロビンの友人と言えど一国の王子。人からのお願いをはいはい聞いていては務まらない立場だ。それに少し警戒もしていた。劇的に変化したロビンから、王子へのお願い事。
「手合わせ……してくれない?」
「は?」
だがそれは王子アルヴィスへではなく、友人アルヴィスへの切なるお願いであった。
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「これより、大将とロビン少年で魔法なしの一本勝負を行う。ルールは相手に怪我をさせる事なく制圧する、もしくはクリーンヒットが予想出来る攻撃を出した者の勝ちとする。準備は良いですかい大将?」
「俺はいつでも大丈夫だ」
「ロビン少年は?」
「いけるよ!」
ロビンから持ちかけられた話を要約すると【自身がどれくらいのレベルか査定して欲しい】というものだった。昨日までの彼ならば、自身の実力や他者との差など考える余裕も無かっただろう。だが今は違う。ニクスとの修行によって余裕が出来、出来た余裕は広い視野を生む。気になる事は山積みだった。
「ちょっと頼むよ、龍瞬」
「行くよ、烈破!」
両者、魔杖を解放する。互いに獲物にはまだ慣れていない。しかしながらアルヴィスは平生から片手剣で修練を積んできた経験がある。
ロビンがどう立ち回るのか。
これに関しては、アルヴィスだけでなく、クライブもサジも興味があった。
「始め!」
サジの言葉で戦いは始まった。
まず最初に地面を蹴ったのはロビンだった。
始めの言葉に一瞬の躊躇いもなく飛び出しアルヴィスとの距離を詰める。剣を振り始めるタイミングが遅れれば遅れるほど後手に回る展開になるが、ロビンの突出と共に既に剣先を走らせていたアルヴィス。
ロビンが相手であるが故に出方を伺おうかと頭を過ぎった僅かな隙を突かれた形である。
殆ど振ったというより振らされたに近い剣は力が乗り切る前に左手のガントレットの甲で受けられる。
ーキィィィンー
そんな金属音が鳴ったかと思うと、右で攻撃を仕掛けようと考えていたロビンの左脇腹に鈍痛が走る。
「っ!!」
振らされた剣は止められる事を前提とし、殆ど体重を乗せる事なく下半身の二撃目へと移行していたアルヴィス。だがこれも直撃という訳ではない。ロビンも咄嗟に右へと飛び衝撃を弱化させていた。
着地後すぐに体制を立て直し前を向く。
「遅いな」
後ろから声がした気がしたのと同時に、背中に衝撃が走る。意識が飛びそうになるのを抑え、何とかバランスを取り防御の姿勢で仕切り直すロビン。
「へー、今のを耐えるか。ならこれはどうかな?」
一転、攻められる側に回るロビン。正面からサイドステップを巧みに使い、右から左へと華麗に展開される足捌きに加え、いつ何処から襲い掛かるか分からない片手剣が控えている。
一旦攻撃の芽は捨てて防御に徹する構えをするロビン、とその時。攻撃が為されそうな殺気がアルヴィスから放たれ、意識を集中させられる。しかしー。
アルヴィスはロビンを通り抜けた。何もせずに。
「しまった、後ろ……」
「じゃ無いんだよな」
「うわっ!」
ロビンの視線を切ったタイミングでバックステップで空中へと上がり、ロビンの視界外から片腕を引き、地面へと押し付けられる。
それと同時に、首筋へと剣が添えられていた。
「勝負あり! 大将の勝ちー」
剣を使って、無傷で無力化。ロビンの完敗である。
「ダメだー全然敵わないや」
「何馬鹿な事言ってんだよ。昨日まで仕掛けられたフェイントに気付かない様なレベルだったんだぞ?」
「むー、喜べないなー」
フェイントに引っかかるという事は最低限目で追えていると言う事でもあり、またそこから何かが為されると警戒出来ている証拠でもあった。
「そりゃ昨日の今日で追い抜かれたら俺も困るって」
「それにしても、もうちょっとなー。もっと頑張らなきゃ!」
「うへー怖い怖い。大将最近修練サボってませんでした?」
「ぐっ、今日からちゃんとやるさ。ロビンに抜かれるのは流石にマズイ」
「えー、俺も勝ちたい!」
「そうなると俺が負けてるじゃねーか。俺もやだよ負けるの」
アルヴィスとサジ、ロビンが戯れる傍らで、クライブは一人言葉を失っていた。
(剣を相手に初動から正面きって立ち向かう姿勢、あの思い切りの良さは一朝一夕でどうにかなるレベルでは無かった。それにアルの攻撃に対しても決定打になる程のダメージは避けつつ逆転の隙を伺っていた。もしアルがもう少し攻撃を仕掛けていたらロビンはそれを防いでいただろう。そしてそこから反撃を狙う想定。まだまだ浅いが、戦略立てた動きだった。構えも様になっていた。一体どう指導すれば一晩でここまで……)
この勝負、勝ち負けは重要では無かった。
重要なのはロビンの現在の力量。
(この学校に入学するレベルには、なったか。俺もまだまだだな)
本当に、全く一切、ほんの少しも考えていなかった事態が起こってしまった。クライブは自身の見る目の無さに、叱責を禁じ得なかった。