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ロビン・ラックと魔法学校  作者: 生くっぱ
ロビン・ラックと王子の邂逅
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002:ロビン・ラックと魔法学校-2-

「誰からだろう、セブンス魔法学校? ……学校?」


 人からの手紙では無かった事に少し落ち込んだロビンだったが、そんな事は瑣末な事だと言わんばかりに封を開け、中にあった手紙を読み始めた。


 手紙の内容は丁寧に始まる定型文で構成されていたのだが、これを要約すると【貴方を学校へ招待します】という事だった。招待しますも何も、何の権限も持たない立場のロビンに学校入学を決める権利など無かったのだ。勿論所持金も殆ど持っておらず、僅かに隙をみて溜め続けた渾身の貯金がベルマン銀貨15枚。仮にそれを使ったとしても教科書一冊買えるかどうかすら怪しい金額だ。


「何だよ、期待させてさ」


 手紙が届いたと言う興奮と、学校に来ませんか? という興奮は、あっという間に冷めてしまった。夢を見るには彼の現実は少々厳し過ぎたのだ。


 普通の学校にも碌に通っていないロビンは学校生活そもそもに興味があったし、それにこの学校がどこまで本気なのかは分からないが、少なくとも自分を誘ってくれているというのは事実だ。それに何より【魔法学校】というのが気になった。


 魔法は世界規模で見ても使える人はそれ程多くなかった。だが珍しいという程でもなく、もう少し昔の時代であれば捕まって火炙りにされる事もあったらしい。けれど事現代に於いては、魔法を駆使する人たちがありと凡ゆる場所に溢れ活躍していた。それこそ彼がいつも読み込んでいた【烈火の英雄】その人も、火属性を主として戦う魔法使いだった。彼の隣で背中合わせに戦う魔暴剣姫(バーサクレディ)も最高だった。憧れない筈もない。


 つまり魔法学校は、魔法の才覚を持ち合わせた人だけが入学を許される、魔法使いになる為の学校だ。他の学校とは訳が違う。違うからこそ、現実を思い知らされる。本来であれば普通の学校入学にすら通えない彼には縁の無い学校の筈なのだ。


 ふと手紙から目線を逸らすと、そこは押し入れの中だった。さっきまでは魔法だ学校だとキラキラした幻想に包まれていた彼だったが、ほんの数センチ視線を横に移動させただけでこの現実。狭くて暗いいつもの光景。


「はぁ、俺が魔法学校か」


 これにはため息も禁じ得ない。手元にあるその手紙が夢と希望ならば、今この視界にあるのは現実と絶望だろうか。彼はそんな事を考えていた。そんな時。ふと、視界の端に手紙の末端が映った。


【 YES or NO 】


 学校に来ますか?

 それは酷く短く端的な、謎の誘い文句だった。


 その部分がやけに気になったロビンは、直視し始めていた現実を一旦横に置いて、改めて手紙を読み直してみる事にした。手紙は封筒に収まっていたとは思えない長さを誇っており、全文を確認するには彼の()()は狭過ぎた。長さとは手紙の文字数の事ではなく、物理的な質量としての長さだ。少なくとも1メートルは越えているだろう。


 それでもその問い掛けだけが目を引いたのは、それが文章の終わりだったのと、そこだけが全体から浮いて見えたからかもしれない。文字が光っている様に見えた、と言い換えても良いだろう。そして()()手紙に悪戦苦闘しながら学校のシステムを判断するに、どうやら学費は必要ないらしいという事が分かってきた。これはロビンにとっては青天の霹靂だった。学校に通うのに学費が必要ないなんて事は考えもしなかったからだ。


 だがどうやら無料という訳ではない様で、この学校の学費は後から請求されるらしい。と言うのも、魔法学校の卒業生は皆優秀で、それぞれの卒業後の稼ぎから一定金額を徴収される事で成り立っている学校だと書かれていたのだ。つまり現在のセブンス魔法学校を支えているのはこれまでの全卒業生。創業何年かは知らなかったが、とんでもない支持者数と言える事はロビンにも理解が出来た。


 驚いた事はそれだけじゃなかった。どうやら生活面における全てのコストを学校が支援してくれるとも記載されている。つまり、セブンス魔法学校において最大の難関は【学校に招待される事】であり、お金の工面はどうとでもなるのだ。そんな事知りもしなかったロビンは手紙の冒頭に【最終通知便】とある事に気がついた。どうやらこの手紙は一通目ではないらしい。


(最終通知便という事は返事に期限があるのかな?)


 ふとそう考えたロビンは【 YES or NO 】の下に僅かに残されていた数行を確認した。2014年、今年の事だ。3月、これは今月の事だった。そして31日、それは勿論今日の事だね。と、そこまで読んで気が付いた。そう、


「え、今日じゃん!! ……痛っ」


 大きな音を立てて、瞬間頭を抑えて小さくなるロビン。彼の()()は過度な反応に耐えられる程広くは無いのだ。だが頭部の痛みなどこの際どうでも良かった、それより問題はこの手紙の最終通告の内容だ。ここに書いてある期日は今日まで、というならば少なくとも日付が変わる迄は有効と見るべきか。だが彼は時間を確認する術を持たなかった。時計などという()()()は遂ぞ彼に与えられなかったからだ。


 日付が変わると資格を失う。現在時刻を確認する術はない。そして彼は今日、パーティの後片付けにかなりの時間を要していた。時間を確認しに行く過程でトードルに見つかりでもしたら、懲罰と称してストレスをぶつけられる可能性もある。不用意な行動は出来ない。時間がない、故に選択余地がない。


 ー否。

 選択肢はこれしかない。

 至極単純にして人生を分ける究極の二択。


【 YES or NO 】


 少年ロビンは覚悟を決めた。

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