016:ロビン・ラックと神級の修行-2-
【ストアイーグル】
ーウィンッー
「ほぅ、これはなかなか。これ程までに種類が整っておりましたか」
その日、事件が起こった。時刻は夜。まだ買い出しに来る人もそれなりにいる時間帯の事。
「な、なんなのアレ……ヒィィこっち見た!!」
「か、帰りましょ、ね? また今度、ね?」
「そうね、そうしましょ」
信じられない生物が【ストアイーグル】に降臨した。
「ふむ、これはなかなか。興味深い物が多い」
有無を言わさぬ圧迫感を放つ存在が現れ、まるで獲物を探すかの如く店内を彷徨っていた。鷹よりも鋭い目付きで、喰い散らかす為の子ウサギを探して徘徊する悪魔の如き絶対強者。
「これは湯をいれるだけ? 面白い趣向ですね。ん? 先程から何だか異臭がしますね、衛生面は大丈夫なのですか?」
我が物顔で店内を練り歩く様はまさに歩く災害。彼の通る周囲に無事な者など誰一人居なかった。
人々は皆恐れ、慄いた。
ある者は泣き崩れ、ある者は気を失った。
またある者は小便を漏らし、ある者は吐き出した。
阿鼻叫喚の地獄絵図とはまさにこの事だろう。
「調理しない物の方が良いですね、後はタンパク質とカロリーになりそうな……これも良いですね。飲み物からカロリーを取れる物も良いですね」
何かをブツブツ言っている様にも見えたが、聞き取ろうとする者など誰一人いなかった。聞こえただけで耳が潰れそうな気さえした。耳を塞ぎ、口を抑えるに腕が2本では足りない事をこれ程悔やんだ日は、後にも先にも無い事だろう。
可能な限り壁際に張り付き、壁に減り込む勢いで距離を取ろうともがく者もいた。足元の収納スペースに自身を捩じ込む者もいた。兎に角、接触は避けなければならない。目に見えた【死】がそこに居るのだから。
【奴】が居る所を経由せずに店を出られる者の中で、意識を残していた者は全員が既に逃げ出していた。
そして【奴】が居る位置のせいで出入り口を封じられていた者たちは死を覚悟していた。口から泡を吐き、足は震えに震えて、互いに漏らしていた糞尿など気に留める余裕もない程に青ざめた表情をしていた。絶望、その一言がまさにそれを表す唯一の言葉だろう。
そして店員たちは。
その場でゲロを吐きながら震える足を叩き、何とか逃れようとするも、足が動かず。汗と涙と涎でぐちゃぐちゃの顔で呼吸をするのに必死になっていた。激しい動悸に見舞われ、酸素を取り込む事すら困難な現状にひたすら怯えていた。
そんな彼らの目の前に。
【奴】が訪れた。
「これらの商品を下さい。ここに鍵を当てれば良いのですね?」
「オェェェオロロロロロロロ」
「ちょっ!? 何という下品な……折角の品揃えが台無しですね。信じられないほど不快な店だ」
ーウィンッー
【死】が目の前まで迫り、何もせずに去って行った。
そう、去ったのだ。
誰の命を刈り取る事もなく。
目に見える全てを破壊するでもなく。
何も無く、去ったのだ。
「た、助かった……のか?」
「奇跡だ、あの状況で生き残れるなんて……」
【奴】の目的はついぞ不明のまま。
謎は謎のまま、解決される事はなかった。
【犠牲者零の破滅】
後に【奴】という存在がセブンス魔法学校の七不思議の一角を担った事は、言うまでもないだろう。