014:ロビン・ラックと魔杖の生成-2-
「ロビン少年って何でこの学校に来れたワケ?」
「俺に言われても分からないよ」
合流後の帰宅道、いつもの4人組になりつつあるメンバーで歩いて寮を目指していた。寮までは10分ほど歩くので、一人だと物思いに耽るかもしれないが、人数がいると賑やかになる。ロビンはこの空気が好きだった。
「サジ、言葉が過ぎるぞ」
「そう睨まないで下さいよクライブさん。いやだってロビン少年ときたら魔杖を生成出来ない様なレベルで入学してるんでしょ? にも関わらずニクス大先生を召喚しちゃう辺り謎が過ぎると思いません?」
「そこは俺も疑問に思う。だからと言って言葉が過ぎる事を看過する理由にはならん」
「話題逸らし阻止がハンパないねクライブの兄貴。今上手く転換出来たと思ったのに」
「お前の悪い癖だぞサジ、ロビンに謝れ」
「大将まで……。いや、確かに俺が悪かったか。すまんロビン少年、悪気は無かったんだ」
「俺は気にしてないよ!」
サジが余計な事を言い、クライブが諌め、アルヴィスが纏める、そして場合によってはサジがカウンターを放つ。そんな言葉の応酬が楽しくて、ロビンはいつもニコニコしていた。この時間は確かに楽しいのだが、だからこそというべきか。
「しゃあまた明日な!」
「バイバーイ!」
皆と別れた後の一人の時間、【自分だけ出来損ない感】が彼の肩に重たくのしかかっていた。皆は非常に優秀で、それが比較的当たり前の学校で。しかして自身は出来損ないで。その事実から、三人と別れて間もないというのに、重々しい気持ち全快で扉を開いていた。
「おや、暗いですね」
「ただいま。……あれ? 何でそこにいるの?」
家に着くとそこにはニクスが椅子に座り、本を読んでいた。
魔法学校の教科書だ。
「ねー聞いてよニクスー」
「……何かあったのですか?」
帰って早々、ロビンは真っ直ぐにニクスもとへと近寄った。その信じられないレベルの詰め寄りにニクスは少したじろいだが「ここで狼狽えている様子を見せようものなら己の敗北である」と考えていたニクスは深い懐でこれを受け止めていた。
「これなんだけど」
「魔杖ですか、見るだけで吐き気がします」
「えっ」
とても嫌な物を見る目で魔杖を見つめるニクス。どうやら魔杖に何かしら思う所がある様だった。
「えっとね、これ形が変わるらしいんだけどさ」
「魔杖ですからね。出来なかったのですか」
「そうなんだ、何でだろ……」
「当たり前じゃないですか、出来る訳がない」
「え?」
ニクスは「ハァ」と溜息を尽くと、とても嫌な物を見る目で魔杖を見つめて言葉を紡いだ。
「魔杖はある程度の魔力を吸わないと形状変化をしない。今のアナタは魔力を垂れ流す事は出来ても意図した方向に向かわせる事なんて出来ないでしょう?」
「……うん」
「今まで行き当たりばったりで凌いできた話とは訳が違う。こういった魔力操作が必要な件、今のアナタには不可能です」
「あ、あのさ。明日までに何とかしろって先生が……」
その言葉を出し切ると同時に。
「けど俺……」
彼の両目から、大粒の涙が溢れ出る。
「俺、退学になるのかな……」
「うっ」
ニクスが泣かせた形である。
「いや、まぁ技術としては習得困難って程の事ではありませんし、アナタがズブの素人だとしても、1ヶ月もあれば出来るんじゃないですか?」
「ー!!?」
彼のその言葉に、更に涙は溢れて出てきていた。
1カ月、それは今のロビンには長過ぎたのだ。
「うっ」
言葉を間違えてしまった。
下手に関わらなければ良かった。
だが、この状況は彼が招いたとしか言えないだろう。後の祭りとは正にこの状況だった。
「えっと、ほら、大丈夫ですよ、多分、ね? きっと、恐らく?」
オロオロし始めるニクス。言葉が見つからなかった。何故なら彼が言い放ったのは全て事実ベースなのだから。そしてそんな彼に対して、涙でぐしゃぐしゃのロビンはこう言い放ったのだ。
「ニクス先生、助けて……」
「ぐぬぬ……」
やられた。
その言葉を受けたニクスが最初に抱いた感想がそれだった。出会って間も無いこんな小僧に、しかして自身が招いた状況には違いなく、彼は飲み込み切れない事象を目の前にただ下腹部に力を入れて、奥歯を噛み締め、考えに考えて、やがてニクスは観念したかの様に脱力した。
「ハァ……仕方ありませんね。時空魔法でも使いますか」
「時空、魔法?」
「闇属性の魔法です。本来はある程度の達人が、息子や弟子に技を伝授する為に使用するのですが、仕方ありませんね」
「それを使うと……どうなるの?
「俺が生成する別空間に移動し、そこで修行します」
「しゅぎょ……修行!!」
「その空間ではここでの時間を殆ど進める事なく修行に励めます、アナタの場合、大体2時間くらいですかね」
「えっと、よく分からないけど修行するのは2時間だけ?」
「2時間で【1カ月分の修行が出来る】という事です」
「凄い!! ありがとうニクス先生!! 大好き!!」
「あ、こら、鼻水もそのままに抱き着いて、離れ、や、ヤメロォォォォォォ」
こうしてロビンとニクスは、一転、二人きりで修行する事となった。