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ロビン・ラックと魔法学校  作者: 生くっぱ
ロビン・ラックと王子の邂逅
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010:ロビン・ラックと使い魔召喚-4-

「お前ら料理なんて出来たのか?」

「んや、出来てる物だけ買うんですよ大将」

「俺もだ、どうも料理は上手くいった試しがなくてな」


 寮を出て歩く事5分、ある程度の食材をストックしてくれている【ストアイーグル】へと辿り着く。ここでは野菜や肉の様な生鮮食品から即席食品まで、そして石鹸洗剤やゴミ袋、そういった日常に必要な物を大体取り揃えてくれている。専門的過ぎる物は取り扱いが無いが、ここがあって日常生活に困る事は少ないだろう。


「ロビンはどうなんだよ?」

「ん?」

「聞いて無かったのかよ、料理だよ。出来るのか?」

「料理できるよ?」

「出来るのかよ!」


 それぞれがそれぞれの必要な物を買い込み、支払いは鍵に仕込まれているシステムによって処理できる事になっている。所謂【出世払い】というやつだ。


「んでよロビン少年、ぶっちゃけどうよ?」

「ぶっちゃけ?」

「アレよアレ、使い魔。大将から聞いたぜ?」


 この青年、サジ・ノートスは王子の護衛役。戦闘面でも勿論活躍するが、本職は裏方である。つまり情報収集は彼の本分なのだ。


「やべー奴って聞いたけどさ、どうだった?」

「良い人だったよ!」

「おーそうかそうか、なら良いんだ」

「まだ慣れてないから痛いって叫んでばかりなんだー」

「へー、なるほどね。どこの誰とかは?」

「言えないみたいだね、魔法陣がどうとか」

「魔法陣? 本人の意思ではなくって事か」

「うーん、可哀想だからなんとかしたいんだけど」

「まー追々なんとかなるっしょ、俺も何かあったら言ってくれよ? 大将の友人の頼みってんなら喜んでやるぜ?」

「良いの!? ありがとうサジ!」

「良いって事よ!」


 隣で聞いているアルヴィスは「またやってるよコイツ」みたいな顔で隣を歩いており、その横のクライブは「それなら無闇に危害を撒き散らす事はないか」といった真面目な顔をしていた。


「二人の使い魔はどんなだった?」

「ふふん、ひ、み、つ。男は時にミステリアスである方がモテるんだぜ?」

「そうなの!?」

「俺の使い魔は【ライガー】だったな。虎みたいな奴」

「言っちゃうとモテないよ!?」

「俺はモテなくて良いんだよ……。つかサジ、変な事ロビンに吹き込むな」

「へいへい以後気をつけます。クライブさんは厳しいねぇ。でもあーいうのが実は一番モテるんだぜロビン少年」

「何で!?」

「オイ」


 こんな素敵な会話は生まれて初めてだとでも言いたげな笑顔を展開するロビン少年だが、この時この話題に一歩引いた位置で混ざっていない者の存在に気がついた。アルヴィスだ。


「アルヴィスはモテるの?」

「いやお前それ話題の振り方よ」


 一番欲しくなかったパスが突然胸元に強襲した形である。


「大将はモテるっちゃモテるんだけどねぇ、王子様だからややこしいんだよなァ」

「ヤメロ」


 この話題を一刻も早く切りたいアルヴィス。ハァと少し溜め息を吐いたのちに観念する様に自ら先手を取りに行く事に。


「俺はさ、決められた婚約者がいるんだ」

「婚約者……婚約者!? アルヴィス結婚するの!?」

「まだしねーよ」


 まだ、という言葉にやや語気が篭っていた。


「でも決められたって……王子だから?」

「そ、別に嫌いな奴ではないけどな。好きでもねー」


 両手を頭の後ろに回し、気怠るそうに話しをするアルヴィス。だからヤなんだよこの話題と顔に書いてあった。


「断ろう!!」

「ばっ、お前冗談でもそんなやばい事言うなよ!!」

「アハハ、ロビン少年が居ると大将のすんごい顔が見放題で俺は嬉しいぜ」

「サジまで……、はいはいヤメヤメ。この話はここまでな」


 アルヴィスの一存で話題がぶつ切りとなり、たわいもない話を続けた面々は寮に着いた時点で解散し、それぞれの自室へと帰還した。先程のやり取りで鍵の扱いに関して知見のあったロビンはドヤ顔で道を切り拓き、自室へと辿り着いたのだった。


「ただいまー!」

「早かったですね」


 そこに待ち構えていたのは、椅子に座り何かを考えていた様な雰囲気のニクスだ。ロビンから視線を外し、少しだけ考えを巡らせる。ロビンはというと、買ってきた食材達をせっせと冷蔵庫に片付けていた。その様子を横目に見つつ、決意した様な表情をしたニクス。そして。


「ロビンに話があります、とその前に」


 ニクスは徐に立ち上がると、魔力を構築し始める。それは静かでいて途方もない程に圧縮されている様でもあり。相対す者を牽制するには十分過ぎる迫力を携えていた。


「そこにいる曲者、死にたくなければ消えなさい」


 何かが侵入している気配があった。だが可視化されているわけではない、不可視の何かだ。


「……?」


 当然ロビンには何も感じられず呆気に取られていた。だがそれもニクスが雰囲気を軟化させた事で落ち着きを取り戻す。


「去りましたか。ロビン、アナタ誰かに恨みでも買っているのですか?」

「うらみ? お肉なら買ったよ!」

「……まぁ良いでしょう、それではそこに座りなさい」

「どうしたの?」


 構築していた魔力を納め、改めて周囲を探知するニクス。しかしながら周囲に怪しい気配は無さそうなので少しだけ肩の力を抜いたのだった。そして、物々しい雰囲気で少しだけロビンを睨みつつ、言葉を紡ぎ始めた。


「まず、俺はアナタの命令に従いません」

「オッケー!」

「ふん、例え拒もうとも……え?」

「それで?」

「あ、えっと。先生として、指導を仰ぐのであればそこは良しとしましょう」

「え!? 指導してくれるの!!」

「あ、えっと……」


 ロビンの買い物中に想定していた幾つかの応対、これらは初手から見事に使い道を失った。想定外のまま無理矢理元の話題に戻したものの何故か落とし所は想定通り。想定通りなのだが、それすらも失敗だったのではと数秒も経たぬ間に後悔を始めるニクス。奥歯を噛み締める、何だこいつはと。


「えっとねー、じゃあ」

「ロビン、何を……」

「まずは」

「まずは……?」

「ご飯かな!」


 ガックリ、そんな言葉が聞こえて来そうな凹み方を見せるニクスだった。そして彼は思った、「自身の中のロビンの解像度を上げなければ手球に取られる、こいつは恐ろしい奴だ」と。認識を改めなければ想定が意味を為さない事は必至だった。


 闇の世界に生き、在りと凡ゆる修羅場を越えたニクスだったが故に、汚れを知らないロビンは逆にやり辛い相手だったのかもしれない。ロビンは単純一途なのだ。


「……?」


 徐に立ち上がったニクス。ゆっくりと歩みを進め、料理を進めるロビンの背後に回った。そして。


「良い匂いですね、何を作ってるんですか?」

「回鍋肉だよ! 良いピーマンがあったんだ!」

「隣りのは?」

「ワンタンスープだよ!」

「……美味い」

「あ! まだ食べちゃダメだよ!」

「ぐっ、良いでしょう。大人しく待ちます」


 テーブルに並べられたご飯は、貴族のそれやレストランのそれと比べると見劣りするかもしれない。しかし、そこには確かに暖かさがあった。


「お待たせー! さ、食べよっか!」

「頂きます。……っ!!」

「美味しー!」


 ガツガツとご飯を平らげていくロビンとニクス。思いの外ニクスの食いつきが良く、それを見たロビンがニヤニヤしていた事に、ニクスは気付いて……いた。だが料理の美味しさに我慢が出来ず、甘んじて受け入れていたのだ。


「ふんっ」


 少しだけ、頬を赤らめつつ。

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