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やはり会ってしまう

「よし、いくぞ!」


 利尻先輩が一球目を投げた。ボールは『ストライクの壁』の右下ぎりぎりにちょうど吸い込まれた。


「おー、ナイスピッチ!」


 僕はとりあえずほめておく。


「へへ、すごいだろ!」


 こんなので利尻先輩はいい気になるから安いものだ。さあ、二球目。――あれ、やや穴の上に外れた。


「うーん、おかしいな……」


 三球目はストライク。四球目もストライク。五球目は外れる……こんな感じで、利尻先輩は穴に入ったり入らなかったりしながら、朝の特訓を進めていった。


 ところで、この『ストライクの壁』は、球速も測れる。


「おーっと、利尻先輩、球速が落ちてきてますよ。なんすか110キロのストレートって。こんなの小学生にでも打てちゃいますよ」

「な、なんだと!?」

「おー、130キロになりました。やればできるじゃないですか先輩」


 そんなふうに、利尻先輩はまあ実力通りに投球を続けていた。ところが、そう簡単通りにいくはずもない。


「あれー? 利尻先輩と中海先輩じゃないですか? 何してるんですかー?」


 土手の上から明るい声がした。見ると、ユニフォーム姿の烏野が、僕たちに手を振っている。


「ヒェッ!」


 利尻先輩は慌てて『ストライクの壁』の後ろに隠れてしまう。でも、もう遅い。


「おはよう、烏野。せっかくだから下りておいでよ。利尻先輩が面白い機械を買ってくれたんだ」

「そうなんですか! さすが利尻先輩、熱心ですね! ぜひ試してみたいです!」


 烏野は坂道を下りて、『ストライクの壁』のところまでやってきた。でも、利尻先輩はまだ壁の向こうに隠れている。


「あれ、利尻先輩が見当たりませんが……まあいいや。中海先輩、これは何をする機械なんですか?」

「うん、これは『ストライクの壁』といってね、ちょうどこの壁の穴がストライクゾーンになっているんだよ。コントロールの強化に役立つんじゃないかな」

「へぇー! いいですね、私もやってみます!」


 烏野はさっき利尻先輩が引いていた線のところまで行くと、壁に向かってピッチングを始めた。


「おぉー、すげぇ……」


 僕はそう言うしかない。烏野のコントロールは、利尻先輩よりもはるかに良い。利尻先輩よりもストライク率が高いし、さらに全部穴の周辺部にボールが入っている。利尻先輩はときどき中心に行ってしまうことがあったのだけれど。


 もちろん、球速もある。利尻先輩の10キロほど上、140キロほどを出している。やはり見ているだけで圧巻だ。


 おっと、利尻先輩が壁の後ろから出てきて、壁の横で恥ずかしそうに様子をうかがっている。


「あれ、利尻先輩、隠れていなくていいんですか?」


 利尻先輩は蒼白な顔で首を横に振った。


「あれは無理だよお。壁にボールがバンバン当たってくるんだよ。いつ俺に激突するのか、怖くて仕方がないんだ」


 一応壁の穴は壁の向こう側には貫通していないから、利尻先輩にボールが当たることはないはずだけれど。でも、それだけ烏野に球威があるということだ。


「いやー、利尻先輩、かわいいです!」


 烏野も何か敬意のかけらもないことを言っているが、とにかく利尻先輩はさらに顔を赤くした。

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