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07.はじまりの街

 アリアス達に連れられて僕はある都市の手前まで来ていた。

 彼らは僕が記憶を失っていることを信じてくれたようで、ここに至る道中、色んなことを教えてくれた。




 アリアス達はあの森へホーンラビットというモンスターの角の採集に来ていたらしい。

 それはギルドから受けた依頼らしく、依頼には難易度というのがあるという。

 難易度はギルドで各個人に設定されたランクと対応していて、下から黒鉄(アイアン)青銅(カッパー)白銀(シルバー)黄金(ゴールド)白金(プラチナ)魔法銀(ミスリル)日緋色金(ヒヒイロカネ)に別けられる。

 受けられる依頼は本人の1つ上のランクまで。

 青銅(カッパー)の人が受けられるのは白銀(シルバー)の依頼までということ。

 アリアス達は青銅(カッパー)の冒険者だと言っていた。




 アリアスが剥ぎ取ってくれたのは魔石といって、魔物はその体内に必ず宿しているのだそうだ。

 空気中からや、他の魔物を補食することによって魔素というのを吸収し、結晶化して蓄積する。

 よって、長寿であったり強力である魔物は、より大きな魔石を保持している。

 魔素は魔法の触媒であり、その結晶である魔石は魔道具の材料や道具の動力源になど様々な用途に使われ、高値で取引される。

 その価値は【鑑定器】というもので測定され、決定される。

 アリアスは今回の依頼でホーンラビットの角採集の達成報酬とホーンラビットの魔石の代価を得ることができるのだ。




 魔物にもランクがあって、今回倒したポイズンスパイクリザードはBランクだったらしい。

 ランクはそのまま魔物の強さを表し、

 Eランク━初心者の冒険者でも討伐可能なもの

 Dランク━低ランク冒険者がチームで討伐可能なもの

 Cランク━高ランク冒険者がチームで臨むべきもの

 Bランク━複数のチームで臨むべきもの

 Aランク━高ランク冒険者が複数のチームで臨むべきもの

 Sランク━軍をもって臨むべきもの

 SSランク━国家に甚大な被害を及ぼすもの

 SSSランク━世界に甚大な被害を及ぼすもの

 これはざっと定義されたもので、最高位の日緋色金(ヒヒイロカネ)のチームなら1チームだけでSランクを討伐することもありえるのだそうだ。

 因みにポイズンスパイクリザードはあの場所にはいないはずの魔物で、本来は森林の最奥の更に向こうの山岳地帯に生息するとのこと。






 そんな講義をうけながら、目的地である街の防壁にたどり着いた。

 城門で簡易な審査を受けてから入れるらしい。

 冒険者ギルドに登録していればギルドカードですぐに入れるのだが、僕は身分を証明するものは何も持っていない。


「大丈夫ですよ。我々がなんとかします」

「こいつ、ミリス教の司祭登録もしてるし、なんとかできると思うッスよ」


 ネスはミリス教の司祭。これも重要なワードな気がする。

 宗教とかは後々絡んできそうだよね。

 それはまた今度ゆっくり調べてみるとして、審査待ちの列の最後尾に並ぶ。

 結構長い列ができていて、その中には冒険者と分かる人や、商人の一団であろう人たちなど様々な業種の人々がいた。

 城門の大きさと合わせ見て、中々の規模の都市だと推測できた。


「ここは中継都市ラース。王都と海洋都市を結ぶ街道の丁度中間にある街なんだ。あたしたちはここで生まれ育ったんだー。いい街だよっ」


 ミーファが本当に自慢そうに街のことを話す。

 自分の生まれた街に誇りを持てるのはいいことだ。

 僕は生まれた街どころか世界が大嫌いだったけど。

 列に並ぶ他の人達を見渡してみると、笑顔の人が多い。

 検問の守衛の兵士もしっかり仕事しているみたいだけど、殺伐とした雰囲気は無いし。

 みんな何らかの繋がりを持ってこの街を構成しているのだろう。だけど、その糸の先に僕はいない。

 僕はこの世界に溶け込めるだろうか。僕は誰かと繋がれるだろうか。

 この世界で初めて会った住人、アリアス達と友人になれるだろうか。

 正直怖い。

 あっちの世界でも仕事仲間はいたし、妻である人もいた。

 それがある誤解で全て切り離された。

 昨日まで笑顔で接してくれていた人達が、凍りついた目で僕を見るようになったんだ。

 人を信じるのが、人と繋がりを持ってしまうのが、怖い。

 切り捨てられるのが、怖い。


「サクラさん、すいませんサクラさん」


 ミーファに呼ばれて我にかえる。

 ちょっと考え込みすぎたかな。

 今は目の前のことに集中するのが一番いい。


「サクラさん、もうすぐあたしらの番だよ。そろそろお顔出してもらえます?」


 ここに来る途中で何人かの冒険者とすれ違ったのだけど、僕の顔を見る度に魂を抜かれたようになったり、ひどい例だと放心してしまった女の子に声をかけたら失神してしまったり。

 厄介なのでアリアスからフード付のマントを借りて、布でマスクをして顔を隠しながらここまで来たのだった。

 マスクは外したけど、フードは順番がきたら外そう。


「よう、アリアス。しっかり稼いできたか?」


 門番の1人がアリアスに話しかけてきた。

 僕らの順番は次だ。


「ああ、依頼はこなしてきたぜ。なぁ、マイク。今日は少し検問に時間かけてんだな」


 マイクと呼ばれた門番は少し顔をしかめてあご髭を撫でながら答える。


「ああ、ちょっとな。城塞都市に向かう途中にレーベって小さな町があるだろ?そこで少し不可解な事件が起きてるらしくてな。近隣の都市は検問を強化しろって上からのお達し」

「へぇ。レーベで事件ね」

「まぁ、興味があんならギルドで聞いてみな。さぁ、お前らの番だ。一応ギルドカード出してくれ」


 アリアス達はギルドカードを提示する。

 そしてカードを見せながらネスが僕を手招きした。


「マイク、こちらの方も冒険者扱いで許可をもらいたいのですが」

「ああ、ラースに来たのは初めてか?ギルドカード見せてくれればいいよ」

「それがな、こちら、サクラさんというのだが、身分証をもっていらっしゃらないのだ」

「んー、そりゃ無理だろ。王都か海洋都市、それか城塞都市で身分証発行して貰わなきゃ。それか貴族様が保証人になってくれるか」

「それは道理なのだが、我らが保証人になるゆえ、通行許可をいただけないか?街に入ればすぐにギルドに登録していただくから」

「普段ならな、そんな融通も効かせてやるんだがな、ちょっと今は無理だろ」


 どうやら近くで事件があったことで検問が厳しくなっているらしい。

 通常の手段だと大都市でまず身分を登録しなければ、都市間の自由な行き来はできないようだ。

 アリアス達が懸命に頼み込んでくれているので、僕も頭を下げるべきだろう。


「なぁマイク。ネスはミリス教の司祭だ。信用するには充分だろ?」

「わかってるさ。いつもならお前ら3人の誰かに頼まれれば信用するさ。だけどな、今はだめだ」


 僕はフードを脱いでマイクに近づく。


「あの、すいません」

「ああ、すまんがな、ちょっと通行は…」


 マイクと目があう。

 するとマイクがポカンと口を開けたまま固まってしまった。


「申し訳ありません。実は身分証どころか荷物もお金も持っていなくて。街の中ではアリアスさんたちの指示に従いますので、通行を許可していただけないでしょうか」


 頭を下げる。

 固まっているマイクをアリアスが揺さぶって声をかけた。


「おい、マイク、なっ、いいだろ。通してくれよ。サクラさんは俺たちの恩人なんだ」

「う?あぁ、しかしだな…」


 追い討ちでミーファが助け船をだす。


「マイクぅ、サクラさんはね、この近くにでたポイズンスパイクリザードを1人で退治してくれたんだよー?」

「あ?」

「そうだぜ、サクラさんはポイズンスパイクリザードに襲われた俺たちを助けてくれたんだ」

「馬鹿いうなアリアス。あのトカゲを単騎で討伐なんて簡単にできることじゃねえ。出くわしてお前らが生きて帰ってこれるわけねーだろ!」


 検問が長引いているのを不審に思った後続の人たちや他の門番たちも集まってきて、ちょっとした人だかりができてしまった。

 もっともその視線の大半が僕の顔に注がれている。

 …気まずい。


「何事ですか!」


 突然、よく通る笛の音のような声が喧騒を破って響いた。

 人々が声のした城門の方を見ると、そこには真紅の鎧を身に纏った女性が1人。


「おぉ、フラーレア様!」


 門番達が一斉に礼の構えをとる。


「アリアス。何を騒がせている」


 声をかけられたアリアスたちは滅茶苦茶緊張している。


「すいません、フラーレアさん。いや、俺たちはただ…」


 フラーレアと呼ばれた女戦士はまっすぐ僕の前まできた。


「ほぅ、これはお美しい」


 フラーレアは僕に向かって優雅に騎士風のお辞儀をしてみせた。


「フラーレア・エーデルハイドと申します」

「あ、サクラ・ルナティードです。はじめまして」


 僕も彼女のお辞儀をコピーしてみせた。

 真紅の鎧に真紅の髪。そして強い意思をもった瞳。

 鎧の形状は女性の体の魅力を引き立たせているけど、どこか貴公子といった佇まいがある。

 フラーレアは視線をマイクに向けると再度尋ねる。


「何事です?」

「はい、フラーレア様。実はこの者が身分証を持たずに通行を求めていまして」

「ほう」

「ですが、いまこの時期ですし、許可できぬ旨を伝えていたところです」


 そこにミーファが割って入る。


「フラーレアさん、サクラさんはね、あたしらをポイズンスパイクリザードから守ってくれたの」

「なんと」

「だけどね、サクラさんは記憶をなくしてしまってて…。それであたしらは恩返しにサクラさを助けてあげたいの!」

「だから、あのトカゲを倒せるわけねーし、こんな近くに出てくるわけないだろうが!」


 またマイクと言い合いが始まる。

 その肩を叩くとフラーレアは言った。


「マイク殿、ならば証拠を見せていただけばよろしい」

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