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03.痛み

 ウサギ神に転生を命じられ、その暴言小学生秘書に再構成され、美貌の黒衣の男になりここに立つ。

 それがどうやら僕らしい。

 自分の手を見つめてみる。


 ━━うわー。細くて長くて、綺麗な指だな。


 果たしてこんな指で刀など振れるのだろうか。

 自分の髪に触れてみると、サラサラと絹を撫でているようだ。


「それでは貴方のことをなんとお呼びしましょうか」


 シャルロッテに尋ねられ、考える。

 名前、かつて僕が名乗っていたそれにも未練はない。

 かといって新しい名前なんてものもすぐには思い浮かばないのだけど。


「…あ」


 そうだ、これにしよう。

 かつて考え、しかし名付けることができなかった名前。

 生まれてくることができなかった子に付けてやれなかった名前。


「じゃあ…サクラ…と」

「畏まりましたサクラ様。そちらにわが主の祝福を足し、サクラ・ルナティードとお名乗りください」

「えっと、ルナティード、ですか。どのような意味ですか?」

「趣味です」

「え」

「私の趣味ですがなにか?」

「…いいえ、ありがとうございます」


 まあいいか。


「それではサクラ様にはチュートリアルを受けていただきます。ここはとある地下迷宮の際深部、いわゆる最下層フロアボスの直前の扉前になります」

「は?」

「そこまでランクの高い迷宮ではありませんのでご安心ください。そのボスと戦いながらご自身の能力について理解いただけますよう」


 おそらく何かしらのチートスキルが僕には与えられていて、それを戦いながら理解しろということなんだな。

 異世界転生勇者といったところだろうか。

 背中の刀に手を伸ばすと抜き放ってみる。

 思っていたより長く、そして軽い。柄は指の骨が連なっているような見た目で、頭には髑髏、鍔には蝙蝠の翼があしらわれている。

 刃先は切先まで優雅なカーブを描き、そして全てが黒い。刃先まで黒く、しかしよく見ると刃紋があり、刀だとわかる。

 おどろおどろしい意匠だけど、すごく綺麗だと思った。


「では参りましょう」


 シャルロッテが手を差しのべると巨大な扉が開いてゆく。

 部屋の中の嫌な空気、自分の知らない臭気が一気に流れだしてくる。

 なんだろう、腐ったものと黴の臭いが混ざったような。

 そして圧。足が前に出てくれない。

 そんな僕の手をとると、シャルロッテは部屋に誘う。

 部屋の中は巨大なドームになっていて、僕たちが入ると扉はひとりでに閉じてしまう。


「ご紹介します。サクラ様のお相手はジャイアントスケルトンのトレイシーちゃんです。」






 部屋の中心にそれはいた。

 高さ3メートルくらいか。銀色に輝く巨大な骸骨。右手には幅広で反り返った剣、左手には円形の盾が装備されている。


「巨人族の戦士の骨を用い、骨は全てミスリル鋼でコーティング、しかもルーンを彫りこむことで攻守のステータスは跳ねあがっています」


 名前にツッコミをいれることもできないほどの圧倒的な暴力の気配に震え上がる。

 トレイシーはこちらに気づいたのか顔を向けると、両腕を威圧するように拡げて吠えた。


 ゴオオオオオオッ!


 骨だけなのに吠えるんだな。などと考えてる自分に驚いた。

 死ぬと諦めているのか、それとも未知の自分の力を信じているからなのか。

 刀を握り直すと勇気を振り絞りトレイシーとの距離をジリジリと詰める。

 刀なんて学校の授業で使った竹刀と、観光地のおみやげの木刀しか握ったことがない。

 武道の心得があるわけでもない。喧嘩すらしたことはない。

 それなのに巨大な骸骨に向かってゆけるのは勇気があるのか、それとも感情が麻痺しているのか。

 多分ここで終わるくらいなら転生などさせないだろう。この黒い刀が敵を一刀両断してくれるはずだ。


「はああああっ!」


 気合いを入れて一気に距離を詰めると刀をトレイシーに振り下ろした。


 ギィイィィィィンッ………


「痛ッ」


 信じられないほどの痛みが両手に走り、思わず刀をとり落としてしまう。

 慌てて刀を拾おうとすると、これまた信じられないものを見てしまった。

 刀が中ほどからポッキリ折れてしまっていたのだ。


「なんでぇぇぇ!?」


 悲鳴をあげる僕にシャルロッテがなんの感慨も無さげな声で話しかけてくる。


「ちゃんとお伝えしましたが。サクラ様は糞雑魚だ、と。」


 頭の中が真っ白になり、恐る恐る顔をあげると、トレイシーがゆっくりと剣を振り上げるところだった。

 逃げようと後ずさりしたところにそれが振り下ろされる。


 ━━あれ、避けれた?


 そう思った瞬間、灼熱の痛みが左肩の辺りから腹にかけて走る。


「―――――ッ!?」


 あまりの痛みに声が出ない。身体を見てみると鎧とスーツは紙のように切り裂かれ、血が吹き出している。

 そして数瞬遅れて腹の辺りからピンク色の内臓がこぼれ落ちた。


「いいいィィィィッ!」


 口からも血を吐き、目からは涙と血が混ざったものが溢れてくる。

 内臓が出ないように腹を両腕で抱いてうずくまると、少し近づいたトレイシーの足が見えた。

 トレイシーは緩慢とも言える動きで足をあげると、そのまま僕を踏みつける。

 もの凄い圧力がかけられ、歪な形で僕の体はへし折られてゆく。

 様々な骨が弾けるように折れて、内側から肉を突き破る。


「うぶぶぅぅぅぅッッッ」


 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!

 痛み?よく分からない。こんなの知らない。

 なになになに?なんだこれ。

 なんでこんなことになっているのに気絶も発狂もしないの?

 と、急に視界が乱れた。

 ぐるぐると世界が回転し、やがて止まって動かなくなった。

 そこで目に入ったのはトレイシーと、グシャグシャになった僕のカラダ。






 僕は首を跳ねられたのだった。






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