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病院で極悪無双

性悪男とポンコツ悪魔の第八話です。

今回は病院が舞台。悪魔の力でどんな外道を働くのか、お楽しみ……、あぁ! ちょっと! 何ですかその「また外道なんて名ばかりなんでしょ?」という顔は! 人の心を読むのはプライバシーの侵害ですよ!

激しくネタバレをした様な気もしますが、気にせずお楽しみください。

「むー、悔しいけどゆいのご飯はやっぱりおいしいなー」

「ありがとうございます。お代わり、ありますからね」

「わーい!」


 和やかな雰囲気が満ちるダイニング。その横を跋人が無言で通り過ぎる。


「あ、跋人様! おはようございます!」

「跋人おっはよー」

「……あぁ」


 軽く手を上げて二人の挨拶に答えると、玄関に向かって足を進める。


「あ、あの、朝ご飯は」

「今日は要らない」

「えー、おいしいのにー……」

「お前と唯で食べろ」


 冷たい返答。しかし二人はなおも追い縋る。


「あの、お戻りは」

「昼過ぎだ。昼は食べる」

「跋人ー、そんなに急いでどこに行くのー?」

「病院だ」

「え……」

「え? どっか具合悪いのー?」


 玄関の前で、跋人は二人に振り返る。悪い笑みを浮かべて。


「悪事の下見だ」

「あたしも行くー!」

「あはは……」


 跋人の言葉にリリルは目を輝かせ、唯は困ったような笑みを浮かべる。


「いや、今日は……、よし、ついて来い。唯もな」

「えぇー!?」

「文句があるなら例の映画の全台詞書き起こしに挑戦してみるか」

「行きます行きます行かせてくださーい!」

「わ、私もですか?」

「命令だ」

「……はい」


 唯の身支度を待って、三人は屋敷を出た。




「うわー!おっきい病院ー!」

「ここは……!」


 驚き立ち止まる二人から二歩進んだ跋人は、振り返って声をかける。


「私はここの医者に用がある。お前達は二時間程時間を潰せ。連絡は唯に持たせた携帯で取る。必ず二人で行動しろ」

「えぇー!? 跋人は一緒じゃないのー!?」

「何だポンコツ。今から家に帰って映画が観たいのか?」

「おーせのままにー」


 跋人が立ち去り、二人はぽつんと残された。


「どーするー?」

「……あの、私、行きたい所があるのですけど……」

「いーよ。あたしはないしー」

「ありがとうございます」


 二人は連れ立って病院に入って行った。




 ぴっ。ぴっ。ぴっ。ぴっ。

 規則的な電子音と微かな呼吸音。それがその部屋の音の全てだった。


「唯ー、この人ってー……」

「私のお母さん……」


 集中治療室の面会用のアクリル越しに、唯は愛おしそうに目を向ける。


「病気ー?」

「はい。頭の血管が切れて倒れてから、ずっと意識が戻らなくて……」

「そっかー……」


 ぴっ。ぴっ。ぴっ。ぴっ。

 心臓は動いている証の音が、二人の沈黙の間に流れていた。




「跋人ー!」

「跋人様!」

「遅い。家に戻るぞ。唯、車を拾って来い」

「はい」


 唯が離れたのを見計らって、跋人がリリルに顔を向ける。


「唯は母親の見舞いに行ったか」

「うん、一緒に行ったー」

「母親は見たな」

「うん、頭の血管が切れて、意識が戻らないってー」

「ふむ」


 跋人が悪い笑みを浮かべる。


「お前の力なら治せるか?」

「えっ……。うーんとー、唯が喜ぶと思うからやってあげたいけどー、それってー……」


 良いことじゃないの、と聞きかけて止める。跋人の悪事は遠回しで狡猾なのだ。


「やっぱり悪いことー?」

「理解が早くなってきたな」


 リリルにも悪い笑みが伝染する。


「どんなふうにー?」

「まず唯の借金の原因はあの母親の治療費だ。それを返す為、またこれからも払い続ける為に必死に働いている。それが心の支えになっているから屋敷での仕事も大した苦痛にならない」

「それはあたしも思ってたー。無理矢理連れて来たのにー、嫌がってない感じー? むしろ何か楽しそうー」

「そこで母親が意識を取り戻したらどうなる?」

「! 会いに行きたくなるー! でもでも屋敷の仕事があるー!」

「正解だ」


 跋人が笑みを深める。


「そうなれば仕事は気もそぞろ。早く終われと時計ばかり見るようになる。そんな時間は苦痛以外の何ものでもない」

「跋人やるー!」


 そうすれば唯はすぐ帰るようになるし、とリリルのテンションは更に上がる。


「更に退院したら、住むのは私があてがったボロアパートだ。母娘で住むにはさぞ不便だろう。これで仕事と家族に縛られたジレンマの人生の完成だ」

「つ、つまりー、唯の人生そのものを操るのー!?」


 リリルの興奮は最高潮だ。


「そうだ。一人の、だが濃密な煩悶はんもん、悪くないだろう」

「悪くなーい! あ、いや、悪いー? でもでもやっぱり悪くなーい!」

「馬鹿な事を言っていないでさっさと行けポンコツ」

「りょーっかい!」


 病院に駆け戻り、看護士に注意されながら集中治療室に向かうリリルを見送り、跋人は含み笑いを漏らした。


「ククク……。これで準備は整った……」

読了ありがとうございました。

残すところあと二話! いきなり伏線みたいなのを張ったけど回収できるのか! リリルはいつ騙されていることに気がつくのか! そもそもこれは無双と名乗って良いものか!

様々な疑問が残り二話で解消されると良いですね!

では次話もお楽しみください!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 映画が見たいのか?という斬新な脅し文句。 今までこんな脅し文句を聞いたことがないです。 俳句を読め、という介錯の言葉なら聞いたことはあるんですが。 [気になる点] 院長に用事、何かの悪事の…
[一言] だ、大丈夫か?悪魔がこんなに騙されやすくて! 以前こんなコピペで悪魔が評価されていた。 【◇国人と悪魔との比較】 悪魔:契約は絶対守る ◇国人:約束は絶対守らない 悪魔:呼ばれた時だけ…
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