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大人のお店で極悪無双

性悪男とポンコツ悪魔の第六話です。

今回は大人のお店に乗り込みます。そこでどんな無双を繰り広げるのか、楽しみですよね?

そんなムフフな期待を裏切る第六話、お楽しみください。

 日が傾き始めた街を、跋人はつひととリリルは歩いていた。


「ふへぇー……。何か魔力を吸い取られた気分だよー……」

「よく最後まで観たな」

「ふへへー、頑張ったー……」

「私はあの映画、開始五分で切ったのにな」

「えっ!?」


 振り返ったリリルには、跋人の背後に『極悪非道』の文字が見えた。


「そんなの観せたのー!? ひどーい! あんなに辛い思いをして観たのにー!」

「悪かったと思ってるさ」

「えっ」


 思わぬ跋人の言葉にリリルの心臓が跳ねる。


「跋人が悪かったって言うなんてー、な、何か意外だなー。はははー!」

「あぁ。感想文の課題を付けておけば、もっとお前の絶望を堪能出来たのに、とな」

「鬼ー! 悪魔ー! あ! 悪魔はあたしだー!」

「馬鹿な事言っていないでさっさと行くぞポンコツ」

「うー! で、今日は何するのー?」

「女を買う」

「えっ」




 繁華街の一角。煌びやか、というよりはけばけばしい印象のネオン。


「ここだな」

「うわー……。本当にそういうお店じゃんここー……」

「入るぞ」

「えっ、あたしもー!?」

「当たり前だ」

「いやー、そのー、複数でってやつー? あたしそういうの経験がさー……。っていうかそもそも」

「何をごちゃごちゃ言っている。闇金から回収した金がいるんだ。早く来いポンコツ」

「は、はーい! ……え、ここそんなに高いのー!?」




「いらっしゃいませ。ご予約は頂戴しておりますか?」

「支配人に会いたい」

「……アポイントの無い方の取り次ぎは、申し訳ありませんが出来ない事になっておりまして……」


 跋人は鞄から書類を取り出す。渡された受付が目を通すと、見る見る顔が青くなる。


「しっ失礼致しました! 少々お待ちください!」


 態度を激変させた受付が、電話を取り、何かを話している。


「ねー、何見せたのー?」

「この店は火獣組との繋がりがあったからそれ関係の資料と、警察から出させた諸届の写しだ。要は『この店の実態と表向きが違っている事を知っている』と脅したわけだ」

「相変わらずすごーい!」


「お、お待たせして大変申し訳ございません! ただいまご案内いたします!」


 背筋の伸び切った受付の男の案内で、二人は大きな扉の前に着いた。


「支配人! 大事なお客様をお連れしました!」

「大事なお客様、だってー」

大事おおごとの方が正しいな」

「失礼します!」


 扉が開く。中には鋭い眼光をした男が座っていた。


「……初めまして、ですかな? 私ここの支配人をしております、眼蛇まなへびと申します」

「お初にお目にかかる。名前は名乗る必要はないだろう。私はここで働く女を買いに来た。それが済んだら二度と来ないからな」

「成程……。つまりその女性が店に持つ借金を全て貴方が肩代わりすると」

「加えて先十年働いたとして稼いだであろう金も払う」


 眼蛇の眉毛がぴくりと動いた。


「……これはこれは。随分とこちらの事情にお詳しい」

「その条件でどうだ」

「……女性の名前は?」

「条件を呑むのか?」


 沈黙。まるで真剣の鍔迫り合いのような緊迫感。


「……分かりました」


 眼蛇が折れた。


「受付の者から伺いましたお手持ちの資料といい、事を構えるのは損のようです」

「英断だな」

「では女性の名前を伺います」

遠布路とぬのみちゆい


 息を呑む眼蛇。店の看板嬢の名に、そう知っていれば上乗せが、という考えが頭をよぎるが、その為の先程の交渉なのだろうと気づき、抵抗を諦めた。


「……そうですか。彼女は稼ぎ頭だったのですが、お約束です。致し方ありませんな」

「幾らだ」

「借金の額と、先月の売り上げを百二十ヵ月分、として、合わせますと……」


 眼蛇はパソコンに素早く打ち込んでいく。


「給与は引けよ」

「……勿論です。そうしますと……、一億五千万。こちらでよろしいですか?」

「分かった。……おい、金を出せ」

「み、見せちゃっていいのー!?」

「構わない。支配人、机を借りるぞ」


 リリルは空間から現金を取り出す。


「な!? 何もない場所から、金が!?」

「一束百万円だからー、一億五千万円だとー、百五十個ー!? ねー! 手伝ってー!」

「力を使え。女を金で買う行為は明らかに悪だろう」

「あー、そっかー」


 リリルが力を行使すると、札束が規則的に机の上に並んでいく。


「ほいっ、おっしまーい。ぴったり一億五千万だよー」

「な、何が、どうなって……」


 震える眼蛇に、冷ややかな目を向ける跋人。


「金が本物かどうか確認しろ。出来たら借用書と領収者、それと二度と唯に近付かないという誓約書を用意しろ」

「貴方、一体……?」


 呆然とする眼蛇の背を言葉で蹴り飛ばす。


「教えて欲しいか? ならこの力をその身で体験させてやろう」

「い、いえ結構です! す、直ぐに確認と書類を!」

「その間に唯を呼んでおけ。そのまま連れ帰る」

「はいぃ!」

「すごーい……」


 先程までの威厳はどこへやら。慌てふためく眼蛇を愉快そうに眺める跋人を、リリルはうっとり見つめていた。




「お、お連れしました!」

「えっと、あの、……え!? 跋人様!?」

「久し振りだな唯」

「むー……」


 唯と呼ばれた女性は、信じられないものを見る目で跋人を見ていた。見つめ合う二人をリリルは頬を膨らませて見ている。


「あの、何故このようなところに……?」

「お前を買った」

「えっ!?」

「屋敷に戻りメイドとして働け。拒否権はない」

「え、あの、でも私、借金が……」

「お前を買ったと言っただろう。借金も含めて全て完済してある」

「!」


 唯の目から涙があふれる。


「あ、あああ……! ありがとうございます! ありがとう、ございます……!」

「礼を言うのはまだ早いのではないか?」

「……え?」


 きた! リリルは口元を押さえて笑みを隠す。


「借金の借主が私に変わっただけだ。ここのように荒稼ぎはできない。自由の身になれるのは果たして何年後かな?」

「そんな……」

「ここの稼ぎなら五年も働けば完済できたようだが……、残念だったな」

「っ!」


 顔を伏せる唯。涙が床を濡らしていく。


「眼蛇、と言ったか。もし唯が助けを求めてきても取り合うなよ?」

「も、もも、勿論です!」

「ではな」

「ばいばーい!」


 唯の腕を引き、建物を出る跋人。その後ろにリリルが嬉しそうに続いた。




 屋敷に戻った跋人は、ソファにどっしりと腰を沈める。立ったままの唯が、所在なさげにもじもじする。


「は、跋人様」

「何だ」

「……あの、この方は……?」

「あたし? リリルだよー! 跋人と契約した悪魔なのー!」

「あ、悪魔!?」


 驚く唯の目の前で、リリルはスーツから胸開きへそ出しミニスカの普段の格好に戻る。


「ほ、本物!?」

「そうだ。だが危険はない。適当にあしらえ」

「もー! 相変わらず扱いがぞんざい過ぎるー!」


 むくれるリリルと無表情の跋人を、唯は交互に見る。


「何をぼうっとしている。仕事は今まで通りだ。まずは夕食作り。今日は簡単でいい。それと風呂、洗濯、ベッドメイキング、仕事は幾らでもある。さぁとっとと働け」

「は、はい!」


 ぱたぱたと仕事を始める唯を見送って、リリルは跋人の隣に座る。


「ねー、あの唯って人、跋人の何ー?」

「この屋敷の元メイドだ。借金を作って屋敷を出た。それを連れ戻した。それだけだ」

「……元恋人とかじゃないのー?」

「あんな陰気な女は抱く気にならない」


 途端にリリルの顔が明るくなる。


「えー、じゃあ跋人は明るい子が好みー!?」

「ポンコツには興味すらない」

「ぐあー! さらに下の評価ー!」


 崩れ落ちるリリルと悪い笑みの跋人。二人の居間に温かいスープの匂いが漂い始めた。



挿絵(By みてみん)

読了ありがとうございました。

金額査定は適当です。実際働いた事も、そこで働く方の話を聞いた事もないので。まぁ大金をポンと払って見受けをするという男のロマンを感じて頂ければ。

次は少し雰囲気を変えて、リリル主役の物語。ちょいエロ要素もありますので、ここで裏切られたと嘆く読者諸氏はお楽しみに!


1/7追記

四月咲 香月さんから素敵な挿絵を頂きました! ありがとうございます!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 悪魔は私だ―、にぽんこつ可愛さを感じてしまいました。 イラストの唯さんの左目下の泣きボクロがとても色っぽいです。 [気になる点] リリルちゃんにライバル出現? どちらが跋人の役に立てるか…
[一言] 泡の国とキャバとはまた違うみたいですね。キャバだと高い酒なんか注文させて天上知らずらしいので泡の国設定だと妥当なのかも。
[一言] わたしも実情は解りませんが、そういうお店のトップは億を稼ぐと聞いてます。 それで10年分だと多すぎるので、3千万の10年で3億、借金と(5年で返せるとしているので1億5千万)4億5千万から…
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