警察署で極悪無双
性悪男とポンコツ悪魔の第四話です。
今度は何と警察に乗り込みます! 悪魔の力は国家権力に通じるのか! そしてそこで何を得るのか!
主人公の新たなる一面も併せてお楽しみください。
「初めまして。暴対課の問題児、堀洲刑事でよろしいですか?」
「随分なご挨拶だな」
堀洲と呼ばれた刑事は、跋人を睨み付ける。
「これは失礼。確認したかったまでです。今回お持ちした情報は、普通の方では活用出来ない。貴方の様な清濁併せ呑む度量が無いと無価値なので」
「……ヤバいネタって事か」
「御明察。……おい」
「はーい」
リリルが鞄を跋人に渡す。その中から数枚抜き取って堀洲へと手渡す。
「……! これは……!」
「如何ですか?」
「先日解散を宣言した火獣組の内部資料……。銃火器の密輸ルートに、こっちは麻薬取引……。お前さん、一体……?」
「振天堂跋人。ただの暇人ですよ」
「ただの暇人、ねぇ……」
堀洲の額に汗が浮かぶ。喉から手が出る程欲しかった資料をいとも簡単に手に入れ、無造作に渡す姿。堀洲の刑事の勘が、相手を大物だと告げていた。逃がしてはならない。
「お前さん、今俺に渡した情報はごく一部って感じだな」
「仰る通り」
「何と交換ならそいつを寄越す?」
跋人は実にわざとらしく、大きな溜息を吐いた。
「残念です! 実に残念です堀洲さん! 貴方なら私の交渉相手足り得ると思っていましたのに!」
「な、何!?」
「今日はここまでとしましょう。その資料はお時間を取らせたお詫びとしてお持ちください」
「ま、待て! 待ってくれ! 俺を見込んで話をしに来てくれたんじゃないのか!」
腰が浮ききらない堀洲と、立ち上がり見下ろす跋人。二人の今の力関係を象徴するかの様だった。
「えぇ、その通りです。しかし貴方は『何と交換ならそいつを寄越す?』と仰いました」
「い、言い方が悪かったなら謝る!」
「違います」
「な、何?」
混乱する堀洲に、それまでにこやかで礼儀正しかった跋人の雰囲気が激変する。
「私は情報の価値を示した! 対等に交渉する気なら貴方が出せる物で見合う対価を貴方自身が示すべきだったしかし! ……貴方は私に対価を決めさせようとした。自分が何を持っているかも示さずに」
「うぅ……」
凄まじい激情、かと思えば氷の様な冷徹な言葉。堀洲は完全に呑まれていた。
「それは私の情報をあわよくば買い叩こうとする傲慢な態度。故に交渉相手に相応しくないと判断致しました。何か反論でも?」
「わ、悪かった……。済まない……。素晴らしい情報に浮き足立ってしまって……」
「ではこれで失礼を」
「いや待ってくれ! もう一度チャンスをくれ! その情報は、俺が長年追っている奴らの尻尾どころか喉笛に食らいつける代物だ! 俺が持っている物は全部見せる! その上でお前さんの情報と釣り合うか、それだけ聞かせてくれ! 頼む!」
「ふむ……」
土下座の様に頭を下げた堀洲と、それを見下ろす跋人。時計の秒針が耳を刺す様な沈黙が続く。
「分かりました」
「!」
「貴方の手持ちというのを見せてください。交渉するかしないかはそれ次第、という事で」
「わ、分かった! 二十分、いや十五分待ってくれ!」
堀洲が慌てて応接室から出ていくのを見送り、跋人は含み笑いを漏らした。
「すごいね跋人ー。あの刑事さんすごい人なんでしょー? それがあんなに必死になってー……」
「私が最初に下手に出たから、他の情報提供者にするように高圧的に出てきた。その足元を掬われたら、今までの経験や自信など跡形もない。これであいつは、本来なら絶対に渡さない情報や権限を私に差し出すだろう」
「ふぇー……。だからあんなに気持ち悪い丁寧さだったんだー」
「気持ち悪い?」
「あ、いやー、そのー……」
リリルの言葉に、跋人はにっこり微笑む。
「それでは今後はこの丁寧な物言いでお話させて頂くとしましょうかポンコツ様?」
「いやー! ぞわぞわするー! それでもポンコツ呼びは変わらないのねー!」
「おや、どこかお加減が悪いのですか? 頭ですか? 頭ですね?」
「丁寧な言い方でも的確に悪口言ってくるー!」
リリルいじめは堀洲が戻るまでたっぷり続いた。
「まあまあの収穫だったな」
「うぇー、あたしは散々だったよー」
警察署から出て、二人は街を歩く。
「こちらの要求する情報の無条件提供と、署長を含めた幹部十数名の全面協力まで引っ張ってきたからな、あの刑事。余程私の脅しが応えたらしい」
「そりゃそうだよー……」
「これであの警察署は実質私に永続的に協力するしかなくなった。これで色々やりやすくなる」
「でもさー、あたしの力で操っても良かったのにー。警察を言いなりにするなんて完全な悪なんだからさー」
「だからお前はポンコツだと言うんだ」
リリルへの跋人の目が、臨時休業と気づかず、朝からパチンコ屋の前に並ぶ人に向けるそれと同じになった。
「操られて動く奴に熱意は期待出来ない。自分の追う事件の為なら何もかもを投げ打つ、その情熱を持った人間を自在に操ってこそ、より質の高い悪を実行出来るというものだ」
「うわー! 深いなー! 跋人にはいつも驚かされてばっかりだー!」
「お前が悪魔として未熟なだけだこのポンコツ世界ランク百二十八位が」
「びみょー! 上位でも嬉しくないけどそのランクびみょー!」
リリルは何とも言えない身悶えをしながら、跋人の後を追いかけた。
読了ありがとうございました。
慇懃な態度で相手を思うままに操る、正にドSの鑑! 絶対身内にいてほしくないけど、それ以上に敵に回したくない、そんなキャラの巻き起こす騒動を遠巻きに見る楽しさよ。
次は箸休め的な日常回ですが、ドS度は更に増量! どうぞお楽しみください!




