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孤児院で極悪無双

性悪男とポンコツ悪魔が織りなす物語、第二話です。

悪事か不幸にしか使えない悪魔の力を、男はどのように使うのか! そして悪魔はどう丸め込まれるのか!

そんな感じのお気楽コメディーです。肩の力を抜いてお楽しみください。

 スーツに身を包んだ男と悪魔は、古びた建物の前に立っていた。


「ここは……?」

「孤児院だ。さっさと行くぞポンコツ」

「ちょっとー! その呼び方止めてよー!」


 悪魔の抗議に、男は足を止める。


「悪魔は真の名を知られると力を失うと聞く。だから間違っても真名を呼ばない様気を遣っているんだ」

「えっ、あー、確かに真名呼ばれちゃ困るけどー……。で、でもー、悪口にする必要無くない!?」


 勢いが落ちる悪魔の言葉に、男は溜息を吐く。


「他者を罵倒する行為は悪だ。それを敢えてしてやっているんだ。感謝されても文句を言われる筋合いは無い」

「う、そ、そうかー……。あ、あり、がとう?」

「理解出来たらとっとと着いて来いポンコツ」

「うぅー、何か釈然としなーい……」




「こんにちは。私副院長をしております副引そえびきと申します。本日は当孤児院に何の御用でしょうか?」

「突然の訪問、失礼致しました。実はこちらの孤児院に援助を申し出たいと思いまして」

「!?」


 驚いて顔を見上げる悪魔を他所に、男は話を続ける。


「失礼ながらこちらの孤児院は、経営が苦しいと伺いました。微力ながら支援をさせて頂きたいのです」

「そうでしたか! 有り難いお話です! 院長を呼んで参りますので、少々お待ち下さい!」


 副院長が出て行ったのを見て、悪魔は男に詰め寄る。


「どういうことよー! 孤児院への援助!? まさかそれに悪魔の力を使う気じゃないでしょうねー!?」

「そのまさかだ。悪魔の力で作った現金だと、ナンバーが被れば偽造を疑われる。宝石を出せ。価格は一億円程度で良い」

「だからー! 悪魔の力は悪いことか不幸にすることにしか使えないってー……」

「紛う事なき悪事だぞこれは」

「ふぇ?」


 口をぽかんと開ける悪魔に、男は「れんれん酔っぴゃらっれらいっ!」と豪語する酔っ払いを見る様な目を向ける。


「ここは苦しいとは言え経営自体は出来ている。そこに桁外れの支援が来たらどうなると思う」

「う、嬉しいんじゃなーい?」

「それだけでは終わらない。持ち慣れない金を持った人間は金銭感覚が崩壊する。それは額が大きければ大きい程な」

「そ、そうするとー?」


 期待する悪魔に、男は説明を続ける。


「孤児院なら、後先を考えず受け入れる子どもの数を増やしたり、建物を増築したりするだろう。収入が増えた訳でも無いのにそんな事をすればどうなるか」

「そっかー! 破産するってわけねー!」

「そしてその場合、外圧で潰された時と違い、周りは自業自得だと思い、誰も手を差し伸べない。この孤児院の未来は完全に閉ざされると言う訳だ。それでも悪事では無いと思うか」

「いや! 確かにこれは悪いことだねー!」


 満足げに頷く悪魔に、男は冷たく言い放つ。


「理解したならとっとと宝石を出せこのポンコツが」

「その悪口、何とかならないかなー……」

「あぁ、それと公式の鑑定書も作れ。それと私が高額品を譲渡する旨の証明書もだ。これは公式でなくて良いから用意しろ」

「うえぇー!? そっちの方がハードル高ーい!」




「お待たせ致しました。院長の孤月こづきと申します。この度は寄付のお申し出と伺いました」

「えぇ、こちらを寄付させて頂きたいのです」


 男の手から、悪魔が作った宝石と鑑定書が差し出された。


「まぁ! こんなに立派な宝石を……! ありがとうござ……、時価一億円相当!?」

「子ども達の為にご活用下さい」

「あの、でも、これ程高価な物を何故……」

「理由が必要ですか?」


 戸惑う院長に男は冷たい目を向ける。


「勘違いをなさらない様にお願いします。私は貴女やこの孤児院にこの宝石を差し上げるのではありません。ここの子ども達の未来に投資する為にお待ちしたのです」


 院長は息を呑んだ。子どもの為を思うなら理由を聞くな。そんな脅しが言外に感じられたからだ。下手な詮索をしたらこの話は無くなりかねない。


「……有り難く、頂戴致します」

「ではこちらを」


 男はもう一枚書類を差し出す。


「これは?」

「突然高額な品を換金したら、周りに不審がられるかも知れません。その時の為の、譲渡されたと言う証明です」

「そんな事まで……。お心遣いありがとうございます」


 その気遣いに少しほっとして、頭を下げた院長の目が、署名の欄で止まる。


振天堂しんてんどう跋人はつひと様……? 振天堂……?」

「お忘れですか? 先生。無理も無い。もう十年ですし、忘れ去りたい記憶ですものね」

「貴方、まさか……!? 安藤君!?」

「お久し振りですね、先生」


 男はにっこりと微笑む。まるで血の通わない人形の様な笑顔で。


「以前は大変お世話になりました。これはそのほんのお返しですよ。では失礼致します」

「ま、待って! 待って下さい! 安藤君! 私は貴方に謝らなければ……!」


 引き留めようとする院長を、立ち上がった男は冷たく一瞥いちべつする。


「貴女に私を引き留める資格があるとでも?」

「っ……!」

「行くぞ」

「えっ、でもー」

「早くしろ。さもなくばお前の呼び名をベンジョコウロギに変更するぞ」

「それはいやぁー!」


 固まる院長をそのままに、二人は出口に向かう。


「……ごめんなさい、ごめんなさい……」


 残された院長は、涙と共に言葉をこぼした。




「ねーねー、あの人知り合いだったのー?」

「私はあの孤児院で育った。あの院長はその時の保育士だ」

「えー!? じゃあ恩人じゃん! あれ恩返しじゃん! 良いことに悪魔の力を使うと、あたしの力が失われちゃうんだよー!?」


 帰り道、抗議をする悪魔に、カラスに荒らされたゴミ袋を見る様な目を向ける男。


「馬鹿かポンコツ」

「ひどーい! あ、ほめてるんだっけー……? いや今のは普通に悪口でしょー!?」


 混乱する悪魔に背を向け、肩越しに話し出す男。


「さっきの話を忘れたのか。私はあの孤児院を潰すつもりで寄付をしたのだ」

「あっ、そ、そうだった……。で、でもでも何であそこをつぶしたいのよー!」

「あの孤児院では寄付金目当てに、成績優秀な子どもを金持ちの養子にしていた。私はそれで振天堂家に売られた」

「あっ、だからあんたの家、あんなに豪華なんだー……。若いのにあんな屋敷に一人暮らしって変だと思ってたー」


 うんうんと頷く悪魔。


「じゃあその仕返しって事かー……。でもでも何でわざわざ知り合いってことを伝えたのー?」

「察しが悪いなポンコツ。売った子どもが大人になり、常識では考えられない多額の援助を持ってくる。使えばどうなるか分からない。しかしその金は喉から手が出る程欲しい。……あの院長、苦しむと思わないか?」

「うわー……。エグーい……」


 男の含み笑いにドン引きする悪魔。


「これは復讐だ。身勝手で自己満足に満ちた復讐だ。それは善か? 悪か?」

「悪だねー! あー良かったー!」

「悪魔ならこれ位瞬時に理解しろベンジョコウロギ」

「その呼び名はやめてー! あたしは昔から人間には『リリル』って呼ばせてるんだからー!」

「そうか、分かった。ベンジョコウロギ『リリル』」

「嫌ぁー! ベンジョコウロギの名前みたいになるー!」


 リリルの悲痛な抗議は男の背中に跳ね返された。

読了ありがとうございました。

馬鹿とハサミは使いようで切れる、この物語の大きなテーマの一つです。

こんな悪魔を喚び出したらどんな風に使うか、考えると脳トレになるとかならないとか。宝くじの使い道位な思考価値はあるかと思います。

こんなノリが続く第三話もお楽しみください!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 跋人の言ってることも間違いではないのがなんともまた心憎い。 院長がざまぁされるような愚か者なら確かに破たんしてもおかしくない訳で。 表の面と裏の面、敢えて裏の面を強調することで高等な悪事…
[一言]  拝読しました。  悪事にしか使えない、という縛り。  面白い設定ですね。  善行とは?悪とは?  それを、これからどんどん問われる気がしています。  主人公の背景が少しだけ見えまし…
[一言] ポンコツカワイイ悪魔っ娘(笑) モーゼも神様を上手く誘導した話しがありましたね。
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