(短編 完結してます)ツンデレ義妹に冗談で彼女ができたって言ったら「もう遅いんだ……」って走って行っちゃったんだけど…… いやいや、まだ間に合うよ!!
「グッドモーニング、七瀬」
「あ……おはよう……」
キッチンで朝ごはんを作っていると、義理の妹の七瀬がやってきたので挨拶をする。しかし、寝起きで機嫌が悪いのか彼女は俺の顔も見ないで、小声で返事をするとさっさと洗面台へと行ってしまった。
彼女の名前は花宮七瀬、年齢は俺の一つ下で十六歳の高校一年生だ。キリっとした整った顔に、ショートカットの似合う美少女である。そんな女の子と義理の兄妹になるのだ。エロゲみたいじゃんって思ったのは一瞬である。現実は厳しかった。
俺は溜息をしながらもその後ろ姿を見送っていた。彼女が俺の義妹になって、もう三日だがろくに会話をしていないのだ。お義兄ちゃんちょっと困っちゃう。
さすがですお兄様と言えとは言わないが、ちょっと頬を赤くして上目遣いで「お義兄様」くらいは言って欲しいんだけど。てか昔は言ってくれたんだけど……
まあ、赤の他人が家族ですって言っても色々抵抗あるよね。いくら昔からの知り合いだからってさ。だからこそ、こちらの方から積極的に兄として接していくべきだろう。
「じゃあ、お兄ちゃんもう行くからねー、遅刻するなよ」
「うー、違うんだから、誠お兄ちゃんは本当のお兄ちゃんじゃない!!」
返事はないかなと思いながらも、一応声をかけるとむっちゃツンツンした大声で返事が返ってきた。兄アピールをしたが完全に否定されてしまった……俺は溜息をつきながら昔を思い出す。
元々俺と七瀬は幼馴染だった。家が近所だったからか小学校の登校班が一緒というのがきっかけで仲良くなって、それがきっかけで、俺と七瀬の親同士も仲良くなった。俺の父も七瀬の母もお互いパートナーを病気で失っていたからか余計仲が良くなったのかもしれない。小学生のころからずっと家族ぐるみで週は一回くらいみんなで食事をするくらい仲良しだった。
いやいや、仲良くなりすぎでしょ。俺の父と七瀬の母!! いやあ、俺も気づくべきだよね。普通片親同士の家族ぐるみでそんなに仲良くしないよね。そして、俺は父から七瀬も高校生になり大人になったからそろそろ話したいことがあると言われて、実は七瀬のお母さんと交際していて再婚するという事をカミングアウトされたのだった。
正直驚いたけれど七瀬のお母さんの事も好きだったし、男手一つで俺を育ててくれた父にも感謝をしているので、父が幸せになるというのならいいなって思ったんだよね。何より俺と七瀬も高校になってもお互いの部屋を行き来するくらい仲良しだったからうまくいくと思ったのだ。でも現実はこのありさまである。
「なんでこうなっちゃったんだろう」
七瀬の悲しみに満ちた声が聞こえてきた。ああ、ごめんね。やっぱり幼馴染と兄妹だと距離感ちがうもんなぁ……俺がもっとイケメンだったり、なんかよくわからねー才能でもあったら自慢の兄になっただろうになぁ……俺は七瀬に気を使って早めに学校に向かうのであった。
自己紹介が遅れたね、俺は花宮誠、ごく平凡な高校二年生である。
今朝も七瀬の事を考えながら学校に登校した俺は、お昼休みを利用して信用できる先輩に相談をしていた。
「っていうことがあったんですよ、どうすればいいですかね、木吉先輩」
「君はラノベみたいな人生を送っているのね、誠君」
「はは、ラノベみたいなあだ名を持っている木吉先輩には言われたくないですね」
「はは、全部君のせいなんだけどね」
そう言って俺と一緒にランチを食べながらジロリとこちらをにらんできているのは、俺と同じ風紀委員の木吉先輩である。黒髪の肩まであるロングヘアーに、笑顔の似合う可愛らしい女性で、よく人の世話を焼いているためか人望も厚い。そしてその包容力から、「人妻」と呼ばれている。
ちなみにあだ名は俺が考えてうっかり他の人に言ったら広まって定着してしまった。まさか、風紀委員の会議で、「さすが先輩、気が利きますし、頼りになりますね、その包容力まさに人妻って感じです」っていったらこんなに広まるとは思わないじゃん。
それから笑顔だけど目が一切笑っていない木吉先輩にマジで説教されて、お詫びに先輩の雑用を手伝うようになったのだ。個人的には可愛らしい先輩と一緒にいれるからちょっと嬉しいし、俺の評価も木吉先輩のファンの男子から「誠死ね」とか「ナイスボート」とか言われまくってうなぎのぼりである。いやぁ、もてる男はつらいね。
「うーん、でも、一緒に住むまでは仲良かったんでしょう?」
「はい、俺の部屋にも普通に来てましたし、バレンタインデーには普段料理をしないのに、手作りチョコを『別に本命じゃないから勘違いしないでね』って顔を赤らめながら、渡してたりしてくれましたよ。まあ、お礼に遊園地つれてっけて言われて、ホワイトデーに一緒に遊んだりしたりもしたんですけど」
「すっごい仲良しじゃないの……それって、花宮君の妄想じゃないよね? 最近読んだ漫画の話じゃないよね? 妄想じゃないなら、その子がツンツンになった時の事を思い出してみて。なにかきっかけがあるはずよ。例えば一緒に暮らし始めてラッキースケベをしちゃったとかない?」
木吉先輩の言葉を聞いて、俺は七瀬が俺と顔をあわせなくなったその日の前後の事を思い出す。
そうだ、あの日は土曜日で、確かいい夫婦の日だったな。七瀬一家との恒例のご飯会の前に、七瀬とショッピングをする約束をしていたんだ。そして、ショッピングに行く前に朝飯を作っていると、いきなり、「喜べ家族が増えるぞ」って親父にるんるん気分で再婚の事を言われたんだよね。
かなりびっくりしたけど、なんとなくそうなるかなって気もしたので納得もしたのだ。それに父がほんとうに幸せそうだったから俺もうれしくなっちゃって祝福したのだ。
それで、その後、七瀬と一緒にショッピングをしながら七瀬が何やら緊張しているようなのでこのことを知っていて意識しているのかなって気になっていたのを覚えている。やっぱり幼馴染から兄妹になるって、色々変わるからね。一緒に暮らすことにもなるだろうし……
そして、七瀬がショッピングの終わりに言いたいことがあるって言って、何かもじもじとしていたのでピンと来たんだよね。ああ、彼女も知っているんだなって……だから彼女が言う前に俺の方から口を開いたのである。
「なんか俺達、兄妹になるみたいだね。あらためてよろしくね。俺は七瀬となら家族になってもうまくやっていけると思うよ」
そう言うと彼女は一瞬きょとんとした後に「うん、そうなんだ。わかった」と言ってくれたのである。その時の七瀬は複雑な顔をしていた。もしかしたら俺がもっと嫌がると思っていたのかな? 可愛い妹ができるのだ。嫌がるはずはないのにね。
そして、その時の食事会で再婚の話がされて、近所だしっていう理由で一緒に住んでから七瀬の様子がちょっとおかしくなったんだよね、なんというかすごいよそよそしいし、言葉もちょっときつくなってて……でも、ラッキースケベなんてなかったしなぁ……となると問題は俺の部屋にあるのだろうか? 何かを見たのか……? そこで俺は友人の緑屋から買ったものを思い出した。
「あっ、まさか、俺のお宝本である、『義妹催眠調教計画』の存在が七瀬にばれたんでしょうか!!」
「後輩の性癖ぃぃぃぃ!! そんなのが好きなんて私だって知りたくなかったよ。ごめん、素でちょっとひいちゃったじゃないの。それはアウトだよ、花宮君!! その子、あなたの義妹になったんでしょ。普通にきもいもん。身の危険を感じるもん、私だったら義理の兄がそんな本もってるなって知ったら耐えられないよ!!」
「待ってくださいよ、俺は別に義妹萌えだけじゃないですよ。人妻系もいけますよ。あ、そういえば、家族になる前にも、さすがですお兄様って言っててお願いしたり、俺の事は花宮先輩じゃなくて、誠お兄ちゃんって呼んでくれないと返事しないぜ、とかいってましたがそれもアウトでしょうか?」
「アウトアウトアウト!! スリーアウトだよ!! 君が幼馴染にそんなセクハラをしてたなんて知りたくなかったよ。というか、よくその子もそれまで仲の良い幼馴染でいてくれたね!? その子、天使だよ、誠君は刑務所に入ってしまい反省したけどどもう遅いってならないように気を付けてね。あと『人妻』のあだ名を持つ私に人妻好きってカミングアウトしないで!! なんか距離を置きたくなるし、身の危険を感じるから!!」
俺の言葉に木吉先輩は珍しく大声を上げた後に頭を抱えた。困っている先輩も可愛いなと思うが今それを言ったら、無茶苦茶怒られそうである。それに、七瀬の事をなんとかしないと……仲の良かった幼馴染に嫌われるのは普通につらい。
「木吉先輩俺はどうすればいいんでしょうか?」
「そうだね……多分彼女は生肉をつけてサファリパークを歩いている気分だろうから、安心させる言葉をかけてあげたらいいんじゃないかな。あなたは性欲の対象じゃありませんよってアピールするの」
「何か人妻先輩から性欲って聞くとテンション上がりますね」
「もー、変態ヘンタイへんたーい!! 私はあなたのために色々考えてるんだけどなぁ」
「すいません、ちょっと調子に乗りました」
顔をまっかにして頬を膨らませている先輩に俺は素直に謝る。しかし、先輩に変態って罵られると変な扉が開きそうになるね。とはいえせっかく真剣に考えてくれるのにちょっと調子に乗ってしまったようだ。申し訳ないことをしたと思い素直に謝る。でも、それが原因なら解決策は簡単だ。
「それならいい手段を考えましたよ、先輩」
「へぇー、かけらも期待してないけど聞いてあげるよ」
「大丈夫ですよ、木吉先輩、俺は長男ですからね、次男だったらだめでしたけど長男だから成功しますよ。ちょっと耳を貸してください」
「はぁ、まったくもう、君は世界中の次男に謝りなさい。八男くらいになったらそれはないでしょうって愚痴ってもいいけどね」
そんな風に溜息をつきながらも俺の言葉に耳を貸してくれる先輩はマジで優しい。さすが「人妻」だね。この包容力たまらねーぜ。俺が長男じゃなかったらおぎゃってたよ。
「その方法はですね……」
「誠お兄ちゃん……その人とずいぶん仲良さそうだけどどんな関係なの……?」
俺がエジソンもびっくりなアイデアを木吉先輩に伝えようと彼女の耳に口を近づけているタイミングで、聞きなれた声に話しかけられた。
七瀬だ!! 彼女はお弁当箱を手に持ちながら、俺と先輩を見て、信じられないものをみるようにこちらを見つめている。まだ、作戦会議は終わってないんだけど……いや、これはピンチじゃない、チャンスだ!!
「七瀬聞いてくれ、俺は実は年上でしか興奮しないんだ。特に人妻ものじゃないとダメなんだよ。だから、おかずも全部人妻ものなのさ!! 夫というものがいるからダメだと思いながら結局恋心や快楽に流される姿たまらねーぜ!! それはまさしく禁忌と快楽のハーモニー!! 人は俺を『綺羅星学園のヒトヅマニアと呼ぶよ!!」
「え……?」
「ちょっと、花宮くん!?」
俺の突然の暴露に七瀬と木吉先輩は驚きの声を上げる。要は七瀬は俺に異性としてみられるのが嫌なわけなのだ。ならば俺が年上で人妻好きの汚名を被ればすべて解決するだろう。なぜなら七瀬は年上でも人妻でもないからね。俺の完璧な論理に名探偵コナンもびっくりさ。そしてとどめとばかりにダメ押しをする。
「そう、そして俺にはなんと彼女ができたんだ。ねえ、マイハニー木吉先輩」
「え……ええ、そうね、誠君」
俺がウインクすると意図を察してくれたのか木吉先輩も乗ってきてくれた。わーい、呼び名も花宮君から誠君に変わったぜ!
年上好きで、彼女持ち、これならさすがに七瀬も警戒しないでしょ。人として何か大事なものを失ったような気もするけど、これで俺達は以前の様に戻れるはずだ。
そう思って七瀬の方を見ると、彼女は顔をうつむいて何かをぶつぶつとつぶやいている。どうしたんだろう。大丈夫かな。心配そうにみていると彼女ははっとしたように顔を上げて言った。
「で、でも、誠お兄ちゃんは人妻でしか興奮しないんだよね? じゃあ、なんでこの人と付き合ってるの? 性欲を持て余さない? 大丈夫?」
やっばい、速攻論破されたんだけど!! あと最近女子が性欲って言うの流行っているのかな? すっげえ興奮するんだけど。俺がどうしようとあたふたしていると、木吉先輩が俺の腕をとって、密着する。腕に当たる柔らかい感触に一瞬ニヤッとしそうになったが俺はこらえる。危ない、長男だから我慢できたけど次男だったら我慢できなかった。
「ふふ、私は『人妻風紀委員』の木吉よ。私にかかれば、独身でも、現役女子高生でも、人妻判定されるのよ。ねえ、誠君」
「そう、俺は木吉先輩の人妻フェロモンにやられてしまったのさ!!」
「な……あなたがあの噂の……『人妻』だったんですね……」
この先輩ノリノリである。俺の嘘に合わせてくれたのだろう本当に優しいなと思う。木吉先輩がそう言うと七瀬は、なぜか信じられないという顔をしてよろよろと後ずさりをした。そして、その顔にはなぜか涙が浮かんでいて……あれ、絶対安心なんてしてないよね、この顔。俺は何かを間違えてしまった気がする。
「そっか……今更素直になってももう遅いんだ……」
そう言い残すと、七瀬は走り出していってしまった。走り去る前の七瀬は本当につらそうで……あんな顔の七瀬を見たのは、彼女の父が病気で死んだとき以来で……俺と木吉先輩は想定外の事態に顔を見合わせる。
「私たちは大きな勘違いをしてたようね……花宮君いってあげなさい。多分あの子はあなたを嫌ってなんかいないわ。ちゃんと話すべきよ。多少抵抗されてもちゃんと話を聞くの。いいわね」
「はい、わかりました。七瀬と話してきます」
予想外の事に困惑している俺と、走って行った七瀬の事を見ていた木吉先輩は、何かがわかったという顔をしながら言った。そして、俺に助言をする彼女がまるで聖母のように見えたものだ。
正直何が悪かったのかなんてわからない。でもさ、そうだよね、結局俺は七瀬とちゃんと話していないんだ。勝手な想像でこうだって決めていただけで、一回も彼女が何で俺とぎこちなくなっているかちゃんと聞いていないのだ。だから、俺は彼女を傷つけてしまったのだろう。
このままではいけないと俺の直感と七瀬との思い出が告げている。もう、遅いなんて思わない。まだ間に合うはずだ。俺は急いで彼女を追いかけるのであった。
私は今日もどうすればいいかわからないまま朝を迎える。また今日も眠れなかった。多分は私はクマでひどい顔だと思う。初恋の人が兄になるなんてライトノベルだけの世界だと思っていた。せめて化粧だけでもしてから彼に会いたいと思い洗面台へ向かうと、料理をしている誠お兄ちゃんと目が合ってしまった。
こんなひどい状態の顔をみせたくないので私は顔をあわせないように、私はすぐに視線をそらす。誠兄お兄ちゃんが私の反応に困っているのがわかる。
そうだよね……一緒に住んでからこんな態度ばっかりとってるもんね。でも、私だってどうすればいいかなんてわからないのだ。本当はあの日にショッピングの時に、誠お兄ちゃんに告白をしようと思っていたのだ。彼が学校で美人な三年生と仲の良さそうにしゃべっているのを何度か見たことがある。彼女はいないといっていたけれど、誠お兄ちゃんはあの人の事が好きなのかもしれない。もしかしたらもう手遅れなのかもしれない。でも、何もしないで負けるのだけは嫌だったのだ。だから色々考えてあの日に想いを伝えるつもりだったのだ。なのに、誠お兄ちゃんは私が想いを告げる前にこう言ったのだ。
「なんか俺達、兄妹になるみたいだね。あらためてよろしくね。俺は七瀬となら家族になってもうまくやってけると思うよ」
最初は冗談だと思っていた。誠お兄ちゃんが私の想いに気づいていて、遠回しに断るための冗談だったりして……実際はそんな事はなかったのだけれど、そんな風に思えてしまって結局、その日は告白はできなかった。そしてそのままデートをして、恒例の食事会で再婚の事を聞いたのだ。それからはもう、頭が真っ白になってしまい、何をしゃべったかも覚えていない。
そして、この三日間、誠お兄ちゃんともどう接すればいいかわからないため避けてしまっている。だって、私は彼の事を異性として好きなのに、伝える事はできなくて……なのに、彼は現状を受け入れて、私の事をまるで本当の妹のように接してきてくるのだ。
「じゃあ、お兄ちゃんもう行くからねー、遅刻するなよ」
「うー、違うもん、誠お兄ちゃんは本当のお兄ちゃんじゃないもん」
顔を洗いながら私は反射的にに誠お兄ちゃんの言葉に反論をしてしまう。ああ、またやってしまった。私は自己嫌悪に陥りながら朝食へと向かう。テーブルに並べられているのは、トーストの上にカリカリのベーコンと半熟卵がのっており美味しそうだ。これは私がいつか誠お兄ちゃんに作ってもらったことがあり、大好物だから毎日食べたいなと昔言ったもので……それをみた私はこの人を余計好きになってしまうのであった。だからこそ今の現状がつらい。
「なんでこうなっちゃったんだろう」
トーストを齧りながらつい私は弱音を吐いてしまう。その声は誠お兄ちゃんに聞こえていないといいなと思いながら、朝ごはんに再度口をつける。塩はつかっていないはずなのになぜかしょっぱかった。
「もう、遅いのかな……」
私は今朝の事を後悔しながらお弁当を片手に校内をうろついていた。友人にも相談をしてようやく頭の中が少し整理できた。とりあえず、誠お兄ちゃんに今までひどい態度をしていた事を謝らなきゃ。お兄ちゃんは兄として頑張ってくれたのにひどい事を言ってしまった。ラインでもいいのだが、もしもスルーされたらちょっと立ち直れない。それに謝るならば実際にあって謝らないと気が済まないのだ。
勇気をだして、誠お兄ちゃんのクラスに行くと、誠お兄ちゃんはいなかったけど、クラスの人がいそうな場所を教えてくれた。
私は意を決してその場所へと向かう。そしてそこには誠お兄ちゃんと綺麗な三年生の先輩が楽しそうに話していた。前までは私があそこにいたのになった思うと胸がズキッと痛んだ。
私は二人が仲良さそうに話しているのをみて話しかけられないでいた。二人は付き合っているのかな? それともただの友達なのかな? 後者であって欲しいと願うけれど、確かめるのがこわくて足がうごかなかった。だけど……誠お兄ちゃんが、女の人の耳元に顔を寄せて囁くのをみると体が勝手に動いていた。
「誠お兄ちゃん……その人とずいぶん仲良さそうだけどどんな関係なの……?」
私の言葉に二人の視線が集中する。聞きたくはないけれど、聞いてしまった。そして、その答えは私が最も恐れていたものだった。誠お兄ちゃんは年上が好きらしい、誠お兄ちゃんは人妻でしか興奮しないらしい……そして、目の前の先輩と付き合っているらしい。
「そっか……今更素直になってももう遅いんだ……」
私は目の前が真っ暗になるのを感じだ。そして二人の前にいたくなくて思わずかけだしてしまった。ああ、もっと早く告白していれば変わっていたのかなぁ……
「七瀬待ったぁぁぁ!!」
「ついてこないで!! 誠お兄ちゃんは人妻先輩と仲良くしてればいいじゃない!!」
俺から逃げる七瀬だったが追いかけっこはすぐに終わった。男子高校生と女子高生である。体力の差はあるからね。本気になったらすぐに追いつくことは可能なのさ。
七瀬が逃げないようにと彼女の手を掴むと、少し暴れるが離さない。本気で抵抗しているっていうわけではないみたいだしね。それにさ、木吉先輩がアドバイスをくれたのだ。無駄にはできないよね。だから俺は彼女が落ち着くのをゆっくり待つ。しばらく暴れていた七瀬だったがぜーぜーと肩で息をしながら俺の表情をうかがうかのようにしていった。
「誠お兄ちゃんは私みたいな意地っ張りな子よりも、人妻先輩みたいな優しいひとがいいんでしょ? 私みたいなめんどくさい女の事なんてもう嫌いになったんでしょ?」
「いやいや、俺は七瀬みたいなツンデレも好きだよ。むしろ七瀬の方が俺の事を嫌いになったんじゃない? いきなり兄妹になるっていわれても困るよね。距離感ちがうもんなぁ」
俺の言葉に七瀬は一瞬目を見開いたと思ったがすぐにその言葉を否定するように首を振った。そして俺の顔をしっかりみてこう言った。
「違うよ……私が誠お兄ちゃんの事を嫌いになるはずないじゃない!! でも、よかった……私が最近誠お兄ちゃんにひどい態度ばっかりとってたから絶対嫌われたと思ってたの」
「そっかー、よかった。こっちこそ嫌われてたと思ってたよ。じゃあ、なんで最近はあんまり話してくれなかったの? やはり俺のお宝本を……」
「それは……秘密!! でも、誠お兄ちゃんを嫌いになったからとかじゃないから!! それだけは信じて!! あと、ひどい態度をとってごめんなさい」
「ああ、気にしてないから大丈夫だよ、それより、ちゃんと話せてよかったよ」
「仲直りできてよかった……このままだったら私……死んじゃうところだったよ……」
俺の言葉に七瀬は顔を真っ赤にして答える。そして、緊張が途切れたからか、俺に抱き着いてくる。あ、ちょっと前みたいで嬉しい。久々にちゃんと話せたこともあり、つい昔の癖で頭をなでると彼女は嬉しそうに笑いながら俺に体を預けてくる。しばらく、そうしていると七瀬は少し気まずそうに言った。
「誠お兄ちゃん、つい、抱き着いちゃってごめん……人妻先輩に悪いよね。だって付き合ってるんでしょ?」
「ああ、ごめん七瀬、あれは嘘なんだよ。七瀬が俺に異性として見られるのが嫌なのかなって思ったから演技してもらったんだ。彼女なんてすばらしいものはいないよ」
「そっかぁ……彼女いないんだぁ……じゃあ、甘えても大丈夫なんだね」
俺の言葉に七瀬はなぜか嬉しそうにつぶやいて、俺の身体に抱き着いてくる。なんかいい匂いがするなぁ。俺と同じボディーソープとか使っているはずなのに何が違うんだろうね?
「えへへ、久々に充電しちゃった。それと……誠お兄ちゃんにいくつか聞きたいことがあるけどいいかな?」
「いいよ、何でも聞いて」
しばらく俺に抱き着いていた七瀬は満足したとばかりに幸せそうな笑みを浮かべていたが、ちょっと真剣な顔になった。一体どうしたんだろうね。
「あのさ、年上しか好きにならないって言うのも嘘なのかな?」
「ああ、もちろんだよ。俺のストライクゾーンは学校一広いって定評があるよ」
「じゃあ、年下も恋愛対象になるのかな?」
「ああ、もちろんだよ。さすがに小学生は無理だけどね」
「じゃあ、人妻先輩の事を好きってわけじゃないんだよね?」
「人としては好きだけど異性としてはあんまりみてないなぁ」
「ふーん、じゃあ人妻好きって言うのも嘘なんだよね?」
「ごめんそれは好き」
「……」
おっと、いきなり七瀬の視線が冷たくなった気がするね。ハイライトが消えた目でみてこられるとちょっとこわいんだけど……
「でも、まだチャンスはあるんだ……誠お兄ちゃん、私のせいでちょっとぎくしゃくしちゃったけどまた仲良くしてくれますか?」
「ああ、もちろん、俺の方こそこれからも七瀬と仲良くしたいなって思ってるから安心してよ」
「うん、よろしくね。あと……私は誠お兄ちゃんに異性として見られるの嫌じゃないからね!!」
そう言うと七瀬は顔を真っ赤にして、顔をうつむいた。え、待って。それってフラグが立っているって事? いやいや、待って。いや、マジかな? 俺はちょっと困惑しながらまさかなとおもう。そうして俺と七瀬は仲直り?をしたのであった。でも、この胸のドキドキはなんだろう?
次の日俺が朝起きると、キッチンから少し焦臭い匂いが漂っていた。何だろうと思い覗くと何かを調理している七瀬と目が合った。
「おはよう、誠お兄ちゃん」
「グッドモーニング、七瀬、なにしてるの?」
「それはその……」
満面の笑みで俺に挨拶をする七瀬だったが、俺の質問に気まずそうに目を逸らす。彼女の手元には焼け焦げたベーコンとぐちゃぐちゃのたまごがあった。
「これはその……いつものお礼に朝ごはんを作ろうと思ったんだけど……」
「へぇー、美味しそうだね、もーらい」
「あ……失敗作なのに……」
彼女が何かつぶやくが気にしない。少し焦げがじゃりっとしたけれど、愛しい義妹が頑張って作ってくれたと思うと幸せで胸がいっぱいになるね。
「美味しいよ、でもそうだなぁもっと上手になるために今度から一緒につくろっか」
「うん、ありがとう誠おにいちゃん」
なんといわれるのか不安そうにしている七瀬の頭をなでながら優しく伝えると彼女は俺の言葉に満面の笑みでうなづく。そして一緒に朝ごはんを食べて、登校するのだった。
「おはよう、誠君。その様子だと仲直りできたみたいだね、よかった」
「あ、おはようございます。こんなところで奇遇ですね」
「え、なんで……まさか……」
玄関を出たところで声をかけてくれたのは木吉先輩だ。朝から会えるなんて嬉しいな。七瀬がびっくりしているが俺もびっくりである。木吉先輩の家は反対方向だもんね。
「偶然じゃないよ、君と登校したくて待っていたんだよ。だって私達恋人同士じゃない」
「誠お兄ちゃんどういうことかな……? あれはうそって言ってたよね」
「え……いや……」
うわぁぁぁぁぁ 隣にいる七瀬から殺意しか感じられない視線を受けて俺は思わず悲鳴を上げそうになった。なにこれ無茶苦茶怖いんだけど。てか、俺も事情が知りたいんだけど。困惑していると木吉先輩が近づいてきた俺の耳元に囁く。
「君が昨日学校であんなに大声で付き合っているとかいうから噂が広まってすごい事になっちゃたんだよ。だからほとぼりが冷めるまで恋人ごっこに付き合ってくれるかな? お互いすぐ別れたとかなったら色々と変な風に思われちゃうでしょ。それに、めんどくさい男除けにもなるしね。だめかな?」
「あーなるほど。確かにそうですね。今回もお世話になりましたし大丈夫ですよ」
「ふふふ、よかった。それに誠君なら私も彼氏と思われても嫌じゃないしね。疑われたらガラス越しにキスでもしよっか」
「むーーーー」
俺は彼女の言葉に納得する。確かに付き合ってすぐ別れるっていうのはあんまり印象良くないよね。てかガラス越しのキスって何、すっごいハレンチなんだけど……でもこれって七瀬にも言った方がいいよね。なんか隣ですごい唸っているし……などと思っていると、木吉先輩が今度は七瀬の耳元で何かを囁いた。すると彼女は顔を真っ赤にしてこちらを見て……次に木吉先輩を睨みつける。
「さあ、行きましょ、誠君」
そういって右腕を引っ張って俺と歩く木吉先輩、別にいいんだけど、胸が当たってやばいよ。てか距離が近くない? いやぁでもこれくらい恋人同士なら当たり前なのか。恋人ってやばいな。天国じゃん。
「まって、私だって負けないんだから!! 私だって誠お兄ちゃんと結婚すれば人妻だし……まだ間に合うし…」
そう言って七瀬は俺の左腕を引っ張りながら横でぶつぶつと言っている。ちょっと待ってラブコメの主人公みたいになってるんだけど。嬉しいというよりも困惑のほうが強い。ていうか二人が引っ張ってるから左右に裂けそうで、無茶苦茶痛いんだけど……まあ、七瀬とは仲直りできたからめでたしめでたしである。
もう遅いって俺も言いたくて書きました。リアルに妹がいると義妹ヒロインは難しいですね……
アマガミの七咲みたいなヒロインを書きたかったんですが無理でした。
感想やブクマ評価何でもお待ちしてますー。特に評価や感想をいただけると無茶苦茶嬉しいです。ヒロインが可愛いとか、ここが惜しいとかの指摘でもなんでもいただけると嬉しいです。
広告の下に☆☆☆☆☆があるので面白かったら★★★★★に、面白くなかったら★☆☆☆☆でも良いのでつけといてもらえるとありがたいですよろしくお願いしますー!
また、幼馴染とのいちゃらぶものもかいているのでよかったら読んでくださると嬉しいです。よろしくお願いいたします。
『催眠ごっこで結ばれるラブコメ ~初恋の幼なじみの催眠術にかかった振りしたらムチャクチャ甘えてくるんだけど』
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