mission 0
久しぶりなので短編形式でポツポツと。他の作品まで広げられたらなぁと思いながら頑張ります。
「あらぁ、ボス。お早いお目覚めネェ」
クネクネと朝から鬱陶しい。顔の作りも悪くねぇのに話しだすとコレだ。
それでも有能で有用だ。最近の販路拡大は殆どコイツが商談をまとめた。しかも運用する金額も桁が一つ変わっている。コイツが言った通りに無駄を省いて組織の資金も順調に溜まってきた。
「飯だ」
「も〜、分かってるわ。今日も愛情一杯詰めてア・ゲ・ル。はぁと」
うぜぇ。今までの人生で記号をわざわざ読んでるのはコイツぐらいだ。敵対組織ならそのハートを撃ち抜いていた。
...馬鹿のせいで寝起きの頭に血が上って来ているのが分かる。
「もうッ!カリカリしちゃって。ベーコンもカリカリにしちゃうわよ」
「俺はウインナー派だ!」
「知ってる?ウインナーってソーセージの一種なのヨォ。魚の中のマグロ、みたいな。だから今のボスは『某、どんなに高くてもこの銘柄の米しか使わぬ』って言う偏屈な人みたいネェ」
コイツの思考が読めん。3ヶ月程前に同業者から紹介されてから、一度も行動を先読み出来た事がない
「何で米なんだよ。...じゃあソーセージでいい」
「フフフ、カ・ワ・イ・イ。はい、お待たせ。ホットドッグよぉ。挟んだのはフランクフルトね。後はアタシのドロドロした液体をかければ、か・ん・せ・い」
「じゃあこれはお前の血で黄色いのは脂肪か。女に腹でも削がれたか?」
「失礼しちゃうわ。ボスもアタシも大好きな赤色をいっぱいかけておいたのにそうやってイジって。あと、女の子とはお互いにじっくりねっとり味わってるの。他の猿と一緒にしないでちょうだい。それに削ぐお肉もないからね。触ってみる?」
「飯が不味くなる。暇なら仕事でもしとけ」
お、美味い。変な奴だが変な所を除けば何でも出来るいい部下だ。
「そうだ。今日の取引なんだけど。本当にいいのね?」
「...あぁ。取引後、すぐに所定の位置まで持って行かせろ。上手くいかなければお前が爆破しろ」
「運び屋と運転手とその監視員は選んどいたわ。ついでに運転手ちゃんがどんなに下手でも国会議事堂まで一直線にイケるように車も改造しておいたわよぉ」
「よし。今日が日本の変わる時だ」
ようやく。ようやくだ。この腐った国を変えようとして身を粉にして働いたが全く変わらなかった。いや、より腐っている。それをこの手で変えてやる。その為に生きてきたんだ。
〜〜3時間後〜〜
都内某所
「約束の物だ。確認してくれ」
相手は三人、こっちも三人。お互いが乗ってきたトラックが2台。裏路地で少し窮屈だがまぁ仕方がない。
「確認しろ」
「りょ・う・か・い」
奴が相手のバンの荷台をクネクネしながらもチェックしていく。だが、今回の取引は大口だ。後部座席にまでブツが乗ったケースが詰められている。
「契約通りよ。すっごく頑張ってもらっちゃった」
「金を貰ってるから文句はねぇが今後も利用して貰えるならもっと先から予約してくれ。うちの倉庫は空っぽだ」
「あぁ。それに関してはすまないと思ってる」
「何するのか知らねぇが、特にアレをぶっ放すのは気をつけてくれよ。一度起動したら止まらないからな」
「分かってるわぁ。じゃあ取引終了ね。あとはよろしく」
運び屋が相手の車のキーを受け取り、そのまま所定の場所まで走っていく。これで後少しだ。
相手もうちのトラックのキーを受け取り去って行った。
「例の運転手のところへ行ってアレを設置するのに10分。そこから仲間の所まで持っていくのに20分ぐらいかしらね」
「あぁ。俺たちはとっととホテルに行くぞ。花火の時間だ」
近くのパーキングに止めていた車に乗り込む。コイツは何も言わずに運転席に座り、予約した国会議事堂が見えるホテルに移動する。
「これが遠隔キーだ。俺は少し寝る。着いたら起こせ」
ホテルまで20分。緊張していた脳が休息を求めてるのだろう。起きておいてもいいが、今は少し寝たい気分だ。そして言ってすぐ、俺は意識を手放した。
意識が浮上する。そろそろホテルに着いただろう。まだ眠たいが瞼をあげる。
「ここは、どこだ?」
見覚えのない廃ビル。紐で後ろ手に拘束された状態で椅子に座っている。せっかくの一張羅に皺が寄ってるのが妙に気になり、イラつく。
「あらぁ、ボス。お早いお目覚めネェ」
「朝と同じ...にしては随分と埃っぽい所に連れてきてくれたな」
拘束されている時点で気になっていた奴の声が真後ろから聞こえた。首を動かすと知っている後ろ姿が見える。
「残念だけど本意じゃないわ。こうやってお揃いになっている時点で気づいて欲しいわね」
よく見るとコイツも縄で縛られているようだ。せっかくの日になんてザマだ。
「ヘマしやがって。計画は上手くいったと思うか?」
「運び屋に任せた時点でアタシ達の仕事は終わりよ。時間になったら始まるはずだけど」
窓の外はもう暗い。順調に上手くいっていれば国会議事堂は最新の爆弾で爆破され、パートナー契約を結んだいくつかの組織と共に要所を抑えてる頃合いだ。
「鷲山会か聖バルビシア教会。後は警察、他国のスパイってところか?」
「さぁね。名刺ぐらい早く貰いたいわね」
拉致した奴らは現れない。焦らしているのか?
「楽しい話しましょう。どちらにせよ、出来ることはないわ」
「あぁ。そうだな」
無理にテンションを上げようとしているらしい。本当に俺には勿体無い部下だ。
「そうね。じゃあ、あれにしましょう。よく爆弾の解体の時に『黒と白どっちが好きだ』『今日のラッキーカラーは白よ』みたいな場面あるじゃない?しかもあれって当たってて不思議だったのよね。占い師すごすぎって感じ。
それで気になったんだけど、トラックに積んでたのはどっちだったの?あれだけは教えてくれなかったじゃない」
「...もういいか。とっくに爆破し終えているしな。あれはな。青がトラップで赤が本命だ。だがな、両方紫に塗った」
「あら」
驚いた声が聞こえる。少し胸が空く。
「そもそも自分で解除する予定がないんだから分からなくしても問題ないだろう」
「フフフ。それもそうね」
「それにタイマーだけじゃなくてリモートでもいけるから。バレた時点で監視から連絡が来た時にヤればいい、切る余裕すらねぇ。これで俺の改革がーーー」
「...予想通りだな。赤を切れ」
バサッと何かが落ちる音が後ろから聞こえた。あ?今何を。
「ビーグルは切断後、適切な処置を施した後に回収せよ。ウルフは制圧後、銃器を押収。以上」
どういう事だ。コイツも俺と同じハメられてーー
「さて、ボス。いや、荒山東輝。仕上げの時間だ」
結ばずに見えないように持っていたのだろうか。奴の縄は役目を終えたとばかりにしおらしく地面に這っている。
そして奴は椅子を手に持ち、俺の前に座った。今までと全く印象が違う。凪いだ海を前にした感覚だ。
「サツだったのか?」
「いや、先程君が言っていた組織には属していない」
「それはいい。俺を裏切ったな!」
ウザいオネエも全部嘘だったのか!心のどこかが萎縮していても、はらわたが煮えくり返って仕方がない。
「君は本当にいい奴だと思うよ。頭も良く、カリスマもある」
「クソが!ブチ殺してやる」
「だがね。少々やりすぎた。まさか米国仕様の爆弾まで持ってくるとは。正直驚いたとも」
「そうだ。だが、もう爆発してるはず」
あれは日本にはノウハウが無いという事で大金を叩いたのだ。必ず起動して政治家共を木っ端微塵にしているはずだ。
「あぁ。もうこれはいらないな」
「あ?何言って....おいおいなんだよこれ」
虚空を押すと、ほんの数秒で廃ビルから小部屋になった。地面は所々かけたコンクリから継ぎ目のない鉄に。先程窓だった部分も凹凸のない鋼鉄だ。
「すまないね。全て映像だ。加えて言うならまだあれから10分も経っていない」
地面が崩れていく様な気がする。脳が追いつかない。こんな技術聞いたこともない。
「言っておくがこれはもう使えない。このカバーは電波を妨害するんだが、特殊な薬液を使わないと取れないんだ」
先程渡した遠隔キーがラップな様なものに包まれて奴の手にある。もう手はない。
「さて、教えてほしい。君に投資したのは誰だろうか?私が潜入した時点で跡はもう何もなかった。君には用意できないだろう現金と爆弾の予約以外にね」
「言うわけねぇだろ」
「ふむ。なら仕方ない。これを使おう」
鋼鉄の壁を2度叩くと壁が割れ、よくわからない多数の機器が飾られていた。奴はその中から一つ取り出し、そこから飛び出た電極パッドを俺に貼り付けた。ひんやりとした感覚が胸と腕と腿から感じる。
「準備がいいだろう?これは一種の爆弾だ。今から3分後に感電死は必至の電流が流れる。解除するには情報を渡すか赤か青のどちらかのボタンを押さなければならない。もし間違えたり、決断できない場合は、まぁ察してくれ。私としても3ヶ月共にした人間が下手な人形遊びの様に跳ねて見るも無残な格好になるのは見たくない。では、スタート」
カウントが進む。背中の汗が止まらない。しかし、
「ブラフだ!もし俺を殺せば完全に情報は引き出せないんだぞ」
そう。あの人の情報は俺しか知らない。そして俺は俺を拾ってくれたあの人を売らない。
「やるならやれよ。どうせ何もない」
「...ふむ。1分マイナスで」
カウントが一気に進む。そして腕に耐えがたい痛みを感じた。
「イッッッアッ!!」
「言い忘れていた。1分ごとに各電極が10秒作動するんだ。2分経過で次は太腿だ。ほら、後20秒」
腕が痛い。思考が纏まらない。雰囲気は相変わらず変わらない。これは俺を殺しても何も感じない目だ。
「正直、君にそこまでの情報は期待していないんだ。どうせ、その人物も二次受け三次受けだろうからね。
なんならここで死んだ方がいい。片付けが手間だがもし生きていても未遂とは言え終身刑だ。税金でこれからの人生生きていくなんて申し訳ないと思わないか?そもそもこの改革とやらに使った金を寄付でもしてた方がよっぽどいい日本になってただろうな」
「アアアアァァァアア」
今度は腿と腕両方だ。痛い千切れそうだ。次はこれに心臓もだ。こんなはずじゃなかった。こんなはずじゃなかった。俺は何の為に、こんな
「痛ぇ、痛ぇ。助けてくれ」
「言うか、言わないか。赤か、青か。どっちだ。君は軍事訓練も受けていない素人だ。痛いだろう。苦しいだろう。受けたことも無い痛みだ。次はもっと痛い。痛みの中で死にたいか?」
嫌だ、嫌だ。あの人の事は言えない。ならどっちだ。どの色だ。二分の一だ。当たるはずだ。
「ちなみに今日の君のラッキーカラーは赤だ」
おい、これってさっきあいつが言ってたやつだ。ブラフだ。俺は理解している。ドラマの通りのはずがない。
「後20秒。なんなら両方押してみるかい?」
ここに来て選択肢を...!ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ、ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ
「10秒前。だんまりかい?では、
ーー」
「赤だ!」
言い切った。言ってやった。言ってしまった。
「ふむ。赤をポチッ」
「......」
「...........」
「よしっ!!」
やった。やったぞ。俺はやはりここで死ぬ人間じゃない。
「...最後まで他人任せだったな」
「あ?負け惜しみをーーーあぁああぁあっぁあぁぁぁぁぁぁっぁぁぁっぁぁぁぁぁぁぁ」
焼ける、裂ける、燃える。自分の体に何があったか分からない。腕が、脚が、胸が、痛い。
「自分の意思は弱く。計画だけ考えて後は他人任せ。それが上に立つ者の仕事だと言うかもしれないが、それは導くのであって、頼りにするものじゃない。国の指導者には役不足だ。」
奴が何か話しているのはわかるが、もうほとんど聞こえない。視界もぼやけてきた。
「薬が効いてきたのか。安心しろ。殺しはしない。今はゆっくり眠るといい。なに。目覚めた後にじっくり教えてくれたらいい。素直になる薬はもう打っておいた」
聞こえない、聞こえない。もうほとんど見えない。
「あと、私は赤じゃなくて青が好きなんだ」
そしてまた俺は意識を手放した。
「あらぁ、ボス。お早いお目覚めネェ」
「え、計画?大成功よ。鷲山会に拉致された後遺症で目があんまり見えてないし、記憶もゴチャゴチャになってるだろうけど、ここからなら壊れた国会議事堂がちゃんと見えるわよ」
「フフフ、アタシがボスを拷問ですって?ひどい夢でも見たのね。アタシが裏切るわけないじゃない。大丈夫、この有能で優秀なアタシだけがボスの味方よ。ね?」
「さて、ボスが言ってたあの人って人にお礼しないと。名前わかる?」
「あら、結構な政治家じゃない。わかったわ。信頼してくれてありがと。ちゃんと菓子折りを送っておくわ。アタシの愛情一杯のやつをね」
「じゃあ、ちょっと出てくるわね。少しの間不自由するかもだけど部下がちゃんと世話するから。ここならよっぽどの事がない限り狙われる事ないでしょ。外の景色があんまり見えないのが欠点だけど。まぁ目が見えるようになったら部屋替えしましょ」
「じゃあね。ボス」
彼の名前は間宮正幸。赤よりも青が好き。そんな嘘つきの話だ。
3人称形式派なので、1人称をどれだけ強くするかちょっと分からなかったんです(言い訳)
話によって切り替える予定です。
分かりやすく書きたいんですけど、作者の最近見た映画や出来事にゴリゴリ影響されるので細かいところは許していただくか優しく教えて下さい。
まぁこういう作品って基本ご都合主義だからセーフなはず...