心の自覚
その光景に目が釘付けになっていた。身動き一つせず、その全てを見ていた台場龍十は瞬きすることさえ忘れて、今、目の前で展開された光景に呆然としている。倒れ伏し、ピクリとも動かない屈強そうな5人の男の脇には初老で白髪頭の男が無表情のままで彼らを見下ろしていた。そんな老人が立っているのは空き地であり、現在は午後7時で冬のためにもう暗かった。塾帰りの龍十がたまたま近道をするために人気のない裏通りを歩き、痴漢多発との看板が立ったその空き地近くを通りかかったのは運命だったのかもしれない。老人に絡んでいた20代らしき男5人がその老人によって簡単に叩きのめされてしまった、それは龍十にとっても驚きでしかなかった。しかも老人は動きらしい動きも見せていない。ほとんどその場を動かずに5人を全て一撃で気絶させたのだ。それも全てパンチだったものの、振りかぶるようなモーションも一切ない。1人目は老人の胸倉を掴んだ瞬間、腹部に拳が添えられたと思ったらもうその足元に倒れこんでいた。それを見て激昂した男2人のパンチをステップを踏むように舞いつつそっと胸元に拳を添えただけで相手は吹き飛んでいる。左右どちらの拳でもその謎のパンチが可能らしく、2人がほぼ同時に倒れこんだ。残った2人が怯えながらもナイフと警棒を取り出すが、老人は涼しい目をしつつ2人を見据えたままその場を動かなかった。そうしてナイフの男が近づくや、老人が素早く間合いを詰めて顎の下に拳を添えた瞬間、男の体が跳ね上がった。そのまま気絶したようで地面に倒れこみ、警棒で殴りかかってきたそれをふわりとかわした後に胸にピンと伸ばした腕を添えた瞬間に相手は吹き飛んだ。そのまま5人は動かず、老人は静かな目でそれを見つめた後、龍十の方を見て人差し指を立てつつそれを口元にあてがった。黙っていてくれ、そう言うゼスチャーに無意識的に頷いた龍十がゆっくりと老人に近づいていった。
「すまんね・・・まぁ、内緒にしといて欲しい」
「高崎のおじいちゃん?」
「はは、知っておったのか・・・君は台場さん家の息子さんじゃな?」
その言葉に頷く。高崎のおじいちゃんとは龍十の家の近所に住んでいる1人暮らしの老人だ。早くに妻を亡くし、子供もいないせいか近所付き合いはしているもののあまり外に出ない人であった。
「この人たち・・・」
「お金をせびられたが、まぁ、見ず知らずの人間にやるわけにもいかんしな」
倒れて動かない5人を見て死んでいるのではないかと思う龍十が身震いするが、今は高崎を怖いと思うよりもさっきの技の方に興味がいっているために恐怖心はそうなかった。
「さっきの技、あれ、何?」
「ん?んー・・・・・まぁ、特別なもんじゃ」
「特別?僕にも出来る?」
「お前さん、何年生だ?」
「1年生」
「今から頑張れば、大人になる頃には出来るかもしれん。けど、頑張らんでええ」
にっこりと微笑んだ高崎は空き地から出るように急かす感じで龍十の背中をそっと押した。そのまま2人は5人を残して家に帰る裏道を歩いた。
「あの技って何なの?」
さっきと同じ質問を繰り返す龍十に苦笑し、高崎は少し思案するように空中へと視線を向けてから龍十を見下ろした。
「ありゃ大昔から伝わっとる人殺しの技じゃよ」
人殺しと聞いてさっきの5人が殺されたと勘違いした龍十が身震いするのを見た高崎が苦笑を漏らし、技自体がそうであっても使い方でそうならないように出来ると説明した。その言葉に龍十はホッとし、それからますます興味を持った目を高崎に向けた。それを見た高崎はますます苦笑し、次に来る質問を分かっていながら前を向いた。
「あれってどうやったの?」
誤魔化すことは簡単だ、相手は7歳の子供なのだから。しかし誤魔化すのもアレだと思った高崎は困ったように頭を掻きつつ子供でも理解できるように、それでいて簡単に説明をしていった。全身の力を大地に踏みしめた足に込め、体の芯を通す力を持って最小限の動きで最大限の威力を発揮できる技。ほとんど動きを見せない状態で筋肉を伸ばし、縮め、足から来る力をただ一点に集中させて開放する。つまり、体のバランスを鍛えて微細な動きだけで、少しの動作で一番大きな力を出す、そう説明した。完全には理解できないものの、漫画などで見る目に見えない力や気孔の類ではないと知った龍十はますます興味を示し、どうすれば自分にもそれが出来るのかをしつこく聞いてくるようになった。困った高崎だったが、どうせ1人では会得できないし、何よりも成果が出るまで何年もかかることを考慮してすぐに飽きると踏み、体のバランスを養うことを伝授した。逆立ち、鉄棒の上に微動だにせず立つ、平均台をそれぞれ踵ととつま先だけを使って歩くなど。電車の中ではしっかり足の裏を床に着けたまま一切動かさないことなどを伝えた。それが出来るようになれば技自体を教えてやると告げ、龍十を家まで送ったのだ。その日以来、龍十は高崎に会うことはなかった。元々外に出ない高崎に会うこともなく、また家に行くのもどこか怖かったからだ。それでも言われた通りのトレーニングは毎日こなした。自作した丸くて太い棒の上に大きな板を置き、その上に乗ってバランス能力を鍛える。逆立ちも練習し、筋力をつけるために鉄棒なども頑張った。その結果、3年生になる頃には電車に乗ってもまったく足を動かすことなく15分はいられるようになり、鉄棒の上にも立てるし逆立ちしながら腕で歩けるようにもなった。そしてそれをたまたま通りかかった公園で見ていた高崎は驚いた顔をしつつ龍十に近づいていった。
「君、毎日毎日欠かさず修練したのか?」
技を全て会得している自分から見れば、今の龍十の動きを見ればそれがすぐにわかった。久しぶりに会う高崎に嬉しそうにした龍十は言われたとおりに出来るようになったとポケットに手を入れたままの状態で鉄棒の上に立ったり、逆立ちしながら素早く動いたりなどを披露した。バック転なども出来るようになっている龍十に心底驚いた高崎はその素直さと素質に惚れ込んでしまい、週に1度だけ自宅に招いて技の基本を直接手ほどきするようになった。地面を踏みしめて体の芯を通すという高等技術も、さらに1年経つころにはそれなりに理解できるようになっていた。破壊力は並みでしかないものの、それが出来ただけで龍十は大喜びだった。さらに指を鍛えるように言われてそれを実行し、握力もまた鍛えていく。殺人技とはいえ使い手の心1つで活かすこともできると言われた龍十はそれを素直に聞くことで徐々にその実力を増していくようになった。そして中学に上がった直後、まだまだ未熟なれど最小限の動きで最大限の威力を発揮する『朧』と、指に芯を通すことで肉体すら貫ける『錐』という技の基本はマスターしてしまった。だが、その直後に高崎が心臓を悪くして入院し、その後すぐに亡くなってしまった。結局、その後は教えられたことを反芻し、独自に鍛えることで技の向上を目指したが、師匠のいなくなった穴は大きかった。その結果があの事件に響いているのだから。完全にマスターできなかった朧のせいで人を殺す羽目になり、友達だった神田美由紀の精神を破壊寸前にまで追いつめてしまったのだから。それでも娘の危機を救ってくれたということで、美由紀の両親からは深く感謝されている。自分の母親には罵られて今に至っているものの、それに関しては龍十の心を癒す作用に働いていた。だからだろうか、龍十は無意識的にいわれのない噂に傷ついて自暴自棄になってしまった舞浜真遊に救いの手を差し伸べたのだ。自分が大ファンだった元アイドルだからだけではない別の感情が自分を突き動かした結果だった。他人に頼ることも無い、信用もしない。干渉も同情も欲しくないと、そういう態度を貫いてきた全てを否定するその助け舟は、それでも真遊の傷ついた心を癒している。たとえそれが偽物の恋人関係であったとしても。真遊との偽装恋人が本当の恋人に変わる、そんな気は全くない。ただ真遊の噂をかき消し、噂を流した犯人を捕まえられればそれでいいのだから。自分に他人は必要などない、その意思に変化はないのだ。固い決意に揺らぎ1つなく、今はただ真遊のために動く、それだけだった。
*
テーブルの上のココアとコーヒーが熱い湯気を上げている。今日は土曜日であり、真遊は今週も龍十の家に来ていた。ほぼ隔週ながらこうして龍十の家に来るのがに当たり前になりつつあり、時には日曜日も来るようになっていた。どこか居心地がいいのもその要因になっている。偽装の恋愛関係でありながら身の危険も感じない。今でも龍十は自分がゲイだと思っていると信じているのだろうが、龍十と友達であり、あの事件の被害者でもある神田美由紀に出会ったことでそれが嘘だということもわかっている真遊だったが、だからこそその優しい嘘にだまされている振りをしているのだ。自分には絶対に手を出さないという鋼の意思を尊重するために。それに、付き合っているとはいえ手を繋ぐこともなければまともなデートもない。そこはやはり偽装であり、犯人に対する牽制の意味をこめてのことだと理解している。だが、最近の真遊はそれでは納得できなくなっていた。こういう関係になって2ヶ月が経つせいか、龍十という人物をそれなりに理解している真遊はデートらしいデートをしてみたいと思うようになっていたのだ。勿論、それを口にしたこともある。しかし龍十はそれを却下していた。今日もいつものようにろくな会話もなくだらだらと過ごしているだけだ。昨日、元彼である有明騎士と会ったこともあって、龍十が今後の動きに関して簡単に説明をしただけで、あとは沈黙の時間となっていた。かといって居心地が悪いわけでもない。逆にこういう雰囲気が好きだった。
「私、心のどこかで有明君が犯人じゃないのかなって思ってた」
ココアの入ったコップを両手で包み込むようにした真遊の言葉に、ノートパソコンを見ていた龍十の目が真遊へと向いた。
「ああいう噂を流して、精神的に追いつめてよりを戻そうとしたのかなって・・・でも、結局そうじゃなかった。でも、人間って変わらないんだね・・・昔と同じ、体目当てだもんね」
ため息をついてココアを口にした。そんな真遊の方へと顔を向けた龍十もまたコーヒーを手に取った。
「元彼という線は俺も考えたが、そこまで遠まわしにする必要などないからな」
そう言いながらコーヒーを飲む。その根拠がわからない真遊はコップを置くと少し龍十の方に擦り寄るように体を寄せた。そんな真遊を見つつ自分もコップを置いた龍十はノートパソコンを閉じる。
「付き合っていた際のネタでもあれば、大っぴらにそれが可能だからな。行為時の写真、隠し撮りでもあれば十分だろう」
その言葉に思わず赤面する真遊だが、龍十は平然としていた。だが、確かにそうだ。浮気の原因もたまたま来たメールに添付されていたいやらしい画像が見えたことがきっかけだったからだ。それにそういう写真を撮りたがっていたこともあったし、それに関しては全力で阻止もしたし拒否もした。もしも隠し撮りがあった際には別れを切り出した時にちらつかせた可能性も否定できない。ということは、そういった脅迫できる物がないということになるだろう。ただ単に噂を聞いたことによって動きを見せただけなのだ。
「でも・・・」
「が、あいつが動いてくれたことで有益な情報を得ることが出来たし、犯人もそう迂闊に動けなくなったのは確かだ」
そう言いながらコーヒーを飲む龍十にさらに近づいた真遊だったが、龍十はそっちを見ずにコップを置いてあぐらをかいた。昨日から寒くなったせいか、ホットカーペットが出されており、足元はかなり温かい。龍十は寒がりのようで、昨日の大立ち回りを見せた後も真遊と別れるまでかなり寒そうにしていた。
「どういうこと?」
もう肩がくっつくほど近づいた真遊を見た龍十は小さなため息をついて要点を口にする。
「匿名の電話がお前の卒業した中学の同級生にあったということ。そして、電話の主、この場合は犯人になるわけだが、かなり話術に長けているとみえる」
「話術?」
「少ない会話で相手を自分の思い通りに動かす、という感じかな。電話の相手に指示を出しているのかもしれない。おそらく、精神論、脳科学、いわゆる暗示に詳しい者か、あるいはそういった能力を有している者か」
「そういう能力って・・・」
皆、ただその話をされても何も思わないだろう。噂を利用して無視を決め込んだ渋谷梨理香にしても、それを実行するまではかなり早かったし、なによりそれに賛同する者の動きも早かった。親友だった多摩小鳥が離れたのも呆気なく感じたほどに。人の心に入り込むことが出来る話術、詐欺師などが扱う手口だと説明されれば納得もいく。
「そうやって他者を扇動し、自分は計画した結果を待つ」
「結果?」
「舞浜真遊を精神的肉体的にも追いつめる、そういう結果だ」
肉体的には追いつめられていないかったとはいえ、精神的にはもう崩壊寸前にまで追いつめられていた。ヤケになって噂通りに振舞おうとした相手が龍十でなければ、今頃自分はどうなっていただろうか。それを想像するだけで震えが起きる。
「相手の誤算は、私たちの関係ね」
「ああ、今までの策ではどうしようもなくなってきたことからしてそうなるな。現にお前は立ち直り、そして俺は噂を利用しない。全員に敬遠されている眼中になかった男が標的と付き合っている。そこで次の策として元彼を導入しても無駄だったんだからな」
「龍ちゃんの強さも予想外だよね?」
「・・・・かもな」
2人で家にいるときはいつも名字に君付けだったが、今日は一貫して龍ちゃんだ。真遊の心理的な変化もそこにあったのだが、龍十はそれを癖だと判断していた。真遊の中にある龍十への信頼、そして微妙な心境の変化がもたらした結果だとは分かっていなかった。
「けど、次の動きが気になるね」
「本人が動かざるを得ない状況になっていれば、解決は早いんだろうが」
「龍ちゃんにつけいる隙がないんじゃ、しょうがないんじゃない?」
「だが、敵には駒がまだ残っている」
「駒って?」
「多摩小鳥」
その名前に真遊に動揺が走った。既に梨理香たちグループに入り、保身のために親友を裏切って無視をしている小鳥が駒とはどういうことなのだろうか。だが、真遊は理解している。小鳥は自己嫌悪に陥りながらも梨理香に従っているということを。何故ならば立場が逆だった場合、自分もそうしたと思えるからだ。集団の心理は怖い。集団の中の意思にそぐわない場合は爪弾きにされて終わるのだから。それが怖くて葛藤の中で親友を裏切っている。龍十との恋人関係が本物かどうか確かめる際に接触した際にそれが感じられたため、真遊はこの騒動が終わった後でちゃんと小鳥と話し合おうと思っていた。その小鳥が駒とは、意味がわかりかねる。
「小鳥が、駒?」
「お前のアキレス腱、心の拠り所。つまり、そこを突けばお前の心に再び影を落とすとことが出来る」
「今更何を言われても・・・・私は平気だけど」
「逆なら?」
「逆?」
「お前に謝罪し、そして親友関係に戻る。が、それは策略でお前を裏切る。芝居だったと暴露し、お前を酷く罵ってな」
「・・・・・それは立ち直れないかも」
そう口にしたが、そこまで追い込まれるとは思えなかった。確かに親友だった小鳥とまたそういう関係に戻った後で再度裏切られれば人間不信になるだろう。しかし、今は違う。龍十は理解していないのだろう、龍十というその存在こそが今の自分の心の拠り所になっていることを。確かに小鳥とは親友に戻りたいと思う。けれどそれは犯人を捕まえて噂が嘘である事を証明してからでいい。それ以外は作戦通り龍十以外の人間とは孤立した状態でいようと決めていた。なにより、龍十がいればいい。そこで真遊は気づいてしまった。いや、本当は少し前から自覚はあったものの、それを無意識的に否定していたのだ。自分は龍十に恋をしている。それは偽物の感情ではなく、本物の恋だということに。龍十という存在が救いであり、拠り所であり、そして今の真遊を支えている柱でもあるのだ。自覚したせいか、コーヒーを飲む龍十を見つめつつ少々顔を赤くしてしまった。彼氏がいた経験もある自分がこんなに純情だったとは驚きだ。恋を自覚した矢先、今の2人きりのシチュエーションすら恥ずかしくなってしまったのだから。
「多摩の件は、俺が動いてみる」
「ど、どうやって?」
「お前は知らなくていい。知ったら知ったで、いろいろボロも出そうだしな」
「あ、うん、そうだね」
目を逸らしてそう言う真遊を見る龍十の目が細くなるが真遊は気づかない。龍十にしても、今の言い方をすれば真遊ならば突っかかってくると思っていただけにどこか拍子抜けしてしまった。
「まぁ、任せておけ」
「うん」
そう言いながら少し離れる真遊を横目で見つつ、龍十はどうやって小鳥と接触するかを思案するのだった。
*
弁当箱の蓋を開け、龍十は絶句した。箱の半分を支配している白いご飯の上に書かれたある意味不気味な形をした模様のせいだ。ピンクのふりかけがハートを描くようにして自己主張をしている。さすがの龍十も困った顔をし、それを見た真遊の表情が緩みきった。
「どういうつもりだ?」
低い声に戸惑いがにじみ出ている。
「どうって、ラブ・ラブ!」
「・・・・・なるほど」
手でハートを作る真遊に対しそう言うしかない龍十だったが、ここが誰もいない予備教室でよかったと心底思っていた。さすがに11月ともなれば中庭は寒い。そこで使用されていない予備教室に入り込んで弁当を食べているのだ。龍十は教室でいいと言ったが真遊がここを見つけてきて今に至っている。龍十はここが自分たちの教室でなかったことに心底ホッとしつつ、それからジロッと真遊を睨みつけた。真遊にすれば自分の本心の表現でもあり、また龍十の反応を想像して面白そうだと思っての行動だ。効果はてき面であり、あのクールな龍十が激しく動揺している様子は見ていて楽しい。
「2度とするなよ」
「えー、付き合ってるんだもん、こんくらい普通でしょ?」
「・・・カモフラージュなんだし、ここまですることはないだろ?」
「照れちゃって」
「照れるだろ、普通!」
珍しく声を上げた龍十はハッとなって罰が悪そうな顔をする。逆にこういう龍十が見れた真遊の表情からはニヤニヤが濃くなっていた。最悪だと思いつつも弁当を食べていく。突き返すことなくちゃんと食べてくれる龍十に微笑みながら自分もまた弁当を食べていった。
「小鳥の件、どうするの?」
「今週中にでもなんとかする。先手を打たないとな」
「優しく接してあげてね?」
「・・・・努力する」
出来ないことを出来ないとは言わない、それが龍十だと理解している。愚痴もなく、ただ言ったことに責任を持つ龍十が好きだった。自分に対する優しい嘘といい、逆に龍十が犯人だと言われてもおかしくないと思う真遊だったが、それはないと断言できた。今、龍十に裏切られた際のダメージは想像を絶する。もし犯人が龍十とつるんでいた場合、自暴自棄になって犯人の思惑通りの結果になることは間違いなかった。それほど龍十に依存している真遊だったが、だからこそ龍十が犯人ではないと言い切れる。
「お願いね?」
その口調、表情を見た龍十の表情に少しながらの動揺が見て取れた。真遊は新鮮なその反応ににんまりしつつ、今日もしっかりと全部食べてくれた龍十に感謝するのだった。