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恋カモ  作者: 夏みかん
第1章 カモフラージュの恋
2/12

差し伸べられた手

開け放たれた教室の中には半数近くの生徒が雑談をしている状態にあった。そんな教室にとびきりの美少女が入ってきても誰も何も反応が無い。いや、一部の男子生徒がどこか嫌な感じのニヤニヤをしつつ、その美少女の体を舐め回すように見つめているぐらいか。そんな視線を無視し、美少女は自分の席である窓際から2列目の後ろから3番目の席にカバンを置いた。チラッと窓の方を見れば、男子の制服に身を包んだ生徒が手に顎を乗せて窓の外の景色を眺めている。男なのに長めの襟足を黒いゴムで止めている特長的な髪型をしているそこ以外はいたって普通の髪型だった。そんな男子生徒を見つつ席に着く美少女の視線を感じたせいか、その男子生徒は顔を動かして美少女の方を見やった。目がバッチリ合ったこともあって、美少女は一瞬ビクッとしたものの作った笑顔を返す。


「お、おはよう・・・」

「ああ」


いつものようにぶっきらぼうにそう言い、男子生徒は前を睨むように見つめた。するとそっちにいたやらしい目の男子生徒たちが一斉に視線を逸らす。それを見た男子生徒は小さく舌打ちし、それから隣に座る美少女にしか聞こえない声で小さく呟いた。


「クソが」


その声を聞いて美少女が恐る恐る隣の席の男子生徒の方に顔を向けるものの、その男子生徒は前を見たままだ。自分の方から見える右頬に走る傷跡が鋭い目つきをさらに鋭くさせている気がする。整った顔立ちをしているため、普通にしていればかなりモテるとは思う。だが、彼はモテないでいる。そう、近寄りがたい雰囲気、鋭い威圧的な目、頬だけではない背中を走る大きな傷跡、そして最大の要因が彼にまつわる噂だった。


台場龍十だいばりゅうとは中学の時に人を1人殺している』


その噂もあってのこの態度。だからか、龍十はクラスメイトや学年はおろか、上級生や下級生からも敬遠されたその名の通りの一匹狼であった。頬の傷跡だけでなく、プールでの水泳の授業時にあらわになる背中に走る大きな傷跡もまたその噂を裏付ける証拠となっており、龍十に近づく者は誰もいない。さっきのように朝の挨拶をするのも美少女である舞浜真遊まいはままゆただ1人だけだった。それも夏休みが開けてすぐの席替えで隣同士になってからなので、ここ一週間程度の話だったが。とにかく、真遊にしても龍十は声を掛けづらい人間であることに間違いはなかった。そんな真遊がため息をついた時だった。背中から衝撃を受けて座っていた椅子や机が動くほど前のめりになった。痛みから顔をしかめつつ通り過ぎる女子生徒を見やるが、女子生徒は真遊を無視して前の方にある自分の席に、今、真遊に対して意図的にぶつけたカバンを置いた。


「梨理香、おはよう」

「渋谷さん、おはよう」

「おっはよー」


可愛らしい声での挨拶が飛び交う中、真遊は机の位置を直し、小さなため息をついた。半年前ほどから渋谷梨理香しぶやりりかを中心とした女子グループからは無視をされ、時折さっきのような嫌がらせも受けている。そんな梨理香のグループにいる多摩小鳥たまことりと目が合うが、すぐに小鳥はその目を逸らした。半年前までは親友だったはずの存在も、今は自分を無視するメンバーなのだ。クラスはおろか学年中の女子からは無視をされ、男子からは好奇の目で見られている。くだらない噂に振り回されている周囲を滑稽だと思う反面、そんな噂によって心が壊れる寸前まで追い込まれている自分もまたちっぽけな存在だと思う真遊が再度ため息をついた時、不意に隣から視線を感じてそっちを向いた。鋭い目つきで自分を見ている龍十に怯えつつ、真遊は顔を伏せた。


「ウゼェ」


吐き捨てるような龍十の声を聞き、真遊は自分の精神にまた小さなヒビが入るのを感じていた。



イジメらしいイジメはされていない。物を隠されたり破壊されたりなどは全くなかった。ただ、ひたすらに無視をされているだけだった。多くいた友達も、今はもういない。水泳の授業を前にして黙々と着替える真遊のそばでは、梨理香が友達たちに囲まれてその見事なバストを絶賛されていた。


「さすがリュニオンのセンター!人気も一番だし」

「ご当地アイドルっても、最近じゃいろいろ取材されてるしさぁ、梨理香はもうすぐ全国区じゃない?」


そんな声に梨理香はニヤニヤしつつ横目で真遊を見やった。


「まぁ、実際、大手の事務所から声は掛かってるんだよねぇ。でもいつまでも恋愛禁止ってのも面倒だしさ、高校出たら自動的にリュニオンは卒業だしね」


梨理香は得意げにそう言い、水着に着替えた。


「そっかぁ、恋愛禁止はメンドイよね」

「恋したい年頃だもんねぇ」


わいわい騒ぐ女子を尻目に真遊がさっさとプールに出ようとした時だった。


「恋愛どころか、男をとっかえひっかえしてるビッチもいるのにねぇ」


梨理香のその声を背中に聞きつつ、真遊はそのままプールに出た。閉じかけたドアの向こうで大笑いが起こったが、もう何も感じない。根も葉もない噂だと否定することもしなくなって久しいせいか、真遊はまぶしく陽光を反射する水面を無表情で見つめていた。半年前から急に流れ始めたその噂は、何故かあっという間に学校中に広まった。真遊が誰にでも体を許す女、金目当てに体を許すといった売春女だという噂。一回5千円も出せば簡単にセックスできるという噂に何人の男子生徒からお金を渡されそうになったかわからない。その中には教師もいたほどで、学校も噂を規制する動きを見せつつも真遊への聞き取り調査をする反面、それ以上は何もしなかった。無理矢理襲われそうになったこともあった。それでも女子からの無視は続き、いつしか精神を疲弊させた真遊は噂を否定しなくなった。それがより一層噂を大きくしたが、逐一毅然とした態度を見せる真遊は学校では誘われなくなったものの、今でも下卑た男子からの誘いは消えていない。今日もまた自分の水着姿を見た男子たちからいやらしい言葉や視線を感じる。元ご当地アイドルのメインを務めていたことも有名であり、真遊はそれもあって好奇の目にさらされていた。梨理香は県が主導する地元のアイドルユニットに所属しているが、真遊が所属していたのは中学生を限定とした地域の振興アイドルユニットでしかない。それでも真遊の可憐さはインターネットを通じて各地に広まり、わずか1年足らずの活動だったにも関わらず多くのファンがいたほどだった。高校進学と共にユニットは消滅し、それと同時に同じ中学で別の高校に進学した有明騎士ありあけないとと付き合った経験を持つ。半年足らずで騎士の浮気で別れはしたが、真遊にとってはいい経験だったといえる交際だった。それから1年、今は噂で孤立し、別れた元彼からもいろいろ言い寄られていた時期もあった。もう誰も何も信用出来ない中、ただ両親だけは悲しませまいと今日まで頑張ってきていたのだった。


「いい体だな、おい」

「5千円って噂なのになぁ・・・・やっぱ3万はいるのかな?」

「金持ちの親父限定だって話だしな」

「渋谷の胸もいいけど、バランス的には舞浜だな」


勝手な言葉を耳にし、もうどうにでもなれと思う自分を自覚する。すべて噂通りにすればいっそのこと楽になれるのかなと思い始めている自分がいることには気づいていた。元彼と性的な経験も既に済ませているため、もう抵抗もない。ため息をつき、水面に視線を戻した時だった。あれほど騒いでいた男子が一斉黙り込む。その様子に顔を上げた真遊のすぐ傍に大きな傷跡を残した背中が見えた。龍が這っている、そう思えるほどの傷跡の持ち主は龍十であり、噂を口にしていた男子たちを睨むようにしつつそっちへ向かって歩いた。会話を弾ませながらプールサイドに出てきた梨理香たちも龍十を見て皆黙り込む。持っている雰囲気だけで周囲を黙らせるその圧倒的なオーラこそが龍十にまつわる噂をより大きくしている要因だった。それに、真遊でも知っている事実。それは、人を殺したというのは噂ではなく、真実だということ。それは龍十と同じ中学だった生徒による証言もあってのことである。


「よーし、全員揃ってるな」


男子を担当する九段下一郎くだんしたいちろうの野太い声に男子が整列をした。女子を担当する岡池真一おかちしんいちがダラダラとしている女子をまとめる中、九段下は大きなバストを誇る梨理香、そして噂の美少女である真遊を横目で見つめていた。口元に浮かんでいるのはやらしい笑みだ。筋肉質な太い腕を組み、男子に休みを与えることなく泳ぎ続けるよう指示して自分は女子生徒の水着姿を堪能するのがこの授業の楽しみ方だった。特に真遊に対しては教師でありながらも大金を握らせてでも自分の女にしたいとの欲求を持っているほどの変態だったが、もちろんそんな様子は微塵もみせない。ただ、チャンスだけは窺っている。真遊との行為を想像してニヤつく顔を引き締め、必死に泳ぐ男子を見た九段下の顔色がさっと変わったのは龍十の視線を浴びたからか。人を見透かすようなその鋭い視線、何より、龍十という人間が苦手な九段下は笛を吹いて男子をプールサイドに整列させた。龍十には入学当初から苦手意識を持っている。噂のこともあるせいか、どうにも苦手な存在だった。運動神経も良く、成績も優秀。寡黙でクールな性格が難を呼んでいるものの、だからといって校内で問題も起こさない。そんな龍十に押されている自分を情けなく思う反面、その理由を探すものの見つからずに今に至っている。前世の因縁でもあるのかと思うが、それでも九段下は龍十を苦手としていた。



今日も誰ともしゃべらず、1人で帰宅する。部活をしていないこともあって、真遊はいつも決まった時間に帰宅していた。友達もいなくなって半年、寄り道すらしなくなった。携帯電話は鳴ることもなくなり、今ではもうクーポンやらお知らせメールぐらいしか来ない状況だ。もういろいろと限界が近いと思う。噂通り振舞えば何かが変わるのかなとも思う。知らない人と寝て、お金を貰う。それでもいいかもしれないと思った。一時の肌の温もりでも得たい、そんな風に思っている自分をなんとか否定し、次の朝を迎える。今日もまた快晴だった。気持ちはどんどん沈んでいくのに、天気だけは今日も晴れだ。重い足取りで教室に行けば、今日も梨理香たちが楽しそうに話をしている姿が目に入る。


「おはよう」


何故か自然にそう口が動いた。相手は今日も窓の外を眺めている龍十だ。


「ああ」


いつもと同じ返事が来る。そう、いつも龍十はぶっきらぼうに返事をする。それでもちゃんと返してくれることが嬉しかった。そんな今日は龍十と日直になっている。これまた会話もなく、黙々と一日の作業を終えて今日もまだ日が高い夕方を迎えた時だった。最後の授業を担当していた数学教師に呼び止められた2人は大量の資料を数学準備室に運ぶように言われたのだ。真遊にしてはわいわい雑談で騒ぐ放課後の教室にいたくなかったこともあってすんなりとOKしたものの、龍十はどこか不満そうな表情を見せていた。その表情の原因が自分と一緒にいると良からぬ噂が加速するからかなと勝手に落ち込む真遊だったが、さりげなく自分よりも多くの資料を持った龍十に少なからず好感を得ていた。そうしてあまり人のいない古い特別校舎に向かい、数学準備室の前に立った。ここ特別校舎の扉はどこも古く、特にこの数学準備室に関してはきっちり閉めた場合は外からしか開けられない欠陥構造になっている。だから龍十は扉を半分だけ開けておいてから中に入った。奥の机の上に資料を置き、やって来た真遊から強引に資料を奪うようにして受け取るとその横に置いた。


「あ、ありがと」


お礼を言った真遊を鋭い目つきで見たために、真遊は思わずたじろいでしまった。その視線が扉に向いた時だった。ピシャンという音が響いて扉が完全に閉じられる。駆け寄る龍十が扉を開こうと奮闘するものの、固く大きな扉はびくともしなかった。


「くだらないとこしやがって・・・」


吐き捨てるようにそう言い、ガンと扉を蹴る。その時だった、外で小さな悲鳴が上がったのだ。


「おい!誰かいるのか?」


叫ぶ龍十に反応する何者かが扉の近くにいる。扉を閉めた人間か、あるいは通りかかったものか。


「誰か知らないが閉じ込められちまった!男の先生を呼んできて欲しい」

「あ、はい」


どうやら後者だったようで、怯えたような女子生徒の声がしてパタパタと走り去る音が聞こえた。ホッとした顔を見せた真遊を見つつ、龍十は近くの机に腰掛けた。


「どこかのバカがわざと閉めたんだろう」


その言葉に何故か梨理香の顔が浮かんだ。いや、梨理香ではないのだろうが自分を嫌う誰かが嫌がらせでしたのだと思う真遊は咄嗟に謝ってしまった。


「ゴメン」

「なんで謝る?」


すぐにそう返す龍十を見れず、真遊はうつむくしかなかった。


「多分・・・・私のせいだから」


消え入りそうなその声は龍十の大きなため息でかき消される。心底うんざりしたようなそのため息に真遊の心が壊れる音がした。何故か龍十には親近感を得ていた。同じ噂を持ち、同じように周囲とかけ離れた存在になっていたせいだろうか。それとも、一週間程度とはいえ席は隣同士で朝の挨拶を交わしていたからか。悲しくなる自分を不思議に思いつつ、真遊は顔を上げることが出来なかった。ただでさえこの半年で友達を全て失い、噂に翻弄されて辛い日々を送ってきた。無視に慣れてきた頃に入った夏休みというインターバルがあったこともあって、真遊の心はもう悲鳴を上げる力もないほどに疲弊していたのだろう。だからか、次の龍十の言葉で真遊の心は完全に崩壊してしまった。


「お前のあの噂な、あれ・・・」

「5千円でいいよ・・・」


龍十の言葉が言い終わらないうちにそう呟く。しんと静まり返る数学準備室に服が擦れる音だけが響いた。真遊はブラウスを脱ぎ、上半身がピンクの下着姿になっていた。顔を伏せたまま、今度はスカートに手をかけるが、その手を龍十が掴んだ。


「自分で脱がしたい?」


虚ろな目でそう言い、口元が笑う。そんな真遊を冷たい目で見た龍十は落ちていたブラウスを手に取ると真遊に投げつけた。咄嗟に受け取った真遊が光の無い目でそれを見つめる。


「さっさと着ろよ・・・・それとも、ヤケになって俺に抱かれるか?残念ながら俺は童貞だ。女の扱い方もしらねーし、知りたいとも思わない、興味もない」


鋭い目つきに冷たい言葉。真遊は我に返った顔をしつつ龍十を見つめることしかできないでいた。そんな真遊にブラウスを着るよう急かし、龍十は再度机に腰掛けた。


「お前、噂を肯定したいのか?お前の噂はでっちあげだろうが?ヤケを起こして噂を噂でなくすなら、それこそ噂を流したヤツの思う壺だろうよ」


初めて聞く龍十からの長い言葉。それは真遊が聞きたくて仕方がなかった救いの言葉だ。まさか龍十からそれを聞くとは思わなかったせいか、真遊は頬を伝わる涙をそのままにゆっくりとブラウスを着始めた。


「泣くほど辛かったのなら全力で否定すりゃいいのによ」


吐き捨てるような言い方しかできないのかと思う真遊は、自然と流れてきた涙を手で拭う。絶対に噂なんかに負けないと思っていた頃の自分を思い出し、鋭い目つきを龍十に返した。


「したよ!したって!でもね!誰も信じない!女子はみんな無視して、男子は私にお金を握らせて迫ってきた!頑張っても頑張っても無駄だった!あんたなんかに何がわかんの?噂に振り回される気持ちなんか、わかんないよっ!」


くすぶっていた感情が一気に噴出した。スカートからだらしなくはみ出たブラウスをそのままに今にも殴りかからんばかりの剣幕を見せた真遊を見た龍十はため息をつき、机から降りた。しゃくりあげる真遊を見つめるその表情はどこか優しくも感じられたが、鋭さは消えていない。


「ようやっと本音を出したか」

「なによ・・・」


手で涙を拭い、ブラウスを直す。


「お前の噂、俺は信じてない」

「・・・その根拠は?」

「発生が突然すぎるし、裏もない・・・なのに広がる速度が異常だったからな」


その言葉に真遊の表情が曇った。他人に興味がなさそうな龍十が自分の噂を分析していたとは驚きだ。


「じゃ、なんで噂が流れたのか、あんたの推理を聞きたいわね」


もう悪態ついでにそう聞いてみる。龍十は頭を掻きつつ、扉の方へと視線を向けた。


「さぁな・・・でも、理由はあるはずだ。例えば、苦しむ顔を見たい、心を壊したい、とか」

「えらく抽象的ね・・・犯人はドSなわけ?」

「かもな」


嫌味も軽く受け流す龍十に苛立つが、結局何もわかっていないと思う。今度は真遊が机に腰掛け、龍十の横顔をまじまじと見やった。そこから見える右頬の傷跡を。


「ただ、今、はっきりしたことは、お前の噂は偽物ってことだ」


真遊の心からの否定、涙、そしてヤケを起こした行動からそれは理解できた。元々噂を信じていなかった龍十にすれば確信を得ただけのことでしかない。


「でも、消せないけどね」

「お前に覚悟があるのなら、噂を流した犯人と戦う意志があるのなら、俺の提案に乗ってみるか?」

「提案?」

「毒を持って毒を制す」

「毒?」

「お前の噂は偽物、だが、俺の噂は本物だ」


その一言に息を飲んだ。人を殺した、その事実を本人が認めたのだ。


「俺は別に1人でも生きていける。けど、お前はそうじゃないんだろ?」


素直に頷く真遊はそうした自分に戸惑いつつ龍十から視線を外した。だからか、龍十の口元に浮かんだ微笑を目にすることはなかった。


「噂を流した犯人には目的があるはず。しかも、それは男だ」


そこで再度龍十を見やる。根拠がありそうな言い方だったからだ。


「男?」

「勘、だが、憶測はこうだ」


そう前置きし、龍十が説明を始めた。まず、真遊へのイジメが目的ならばもっとやりようがあると言う。犯人が女子ならば、もっとイジメの仕方が陰湿だったりもするだろうが、実際は無視と嫌味しか言わないということだ。また、何故か無視だけに留めているのも理由があるはずだと言う。


「例えばだが、渋谷に彼氏がいて、お前を追い込むためにそいつが噂を流す。それでいて渋谷がお前を孤立させるように働きかけるとかな。他にもお前を好いている男がいたとして、噂を流してお前を追いつめたところで優しくして、お前を手に入れる、とかかもしれん。お前が誰かに犯されようが何をされようが、結果手に入ればいい、みたいな」


説得力があるが、何故そんな遠まわしなことをする必要があるのだろうか。噂通り、自分を追いつめて金を渡してものにすればいいと思う。


「あるいはお前が苦しみもがく姿を見て性的に興奮する、そういうヤツかもしれない」

「・・・吐き気がしてきた」

「とにかく、噂を流した理由があるはずだ。短期間にこうまで流行させた手口からして、な」


確かにそれはそうだ。あっという間に噂は広がり、そして女子の無視も早かった。言い寄る男子もすぐだったことを思い出し、真遊は龍十の推理が的外れではないと思えた。


「でも・・・確信はないんでしょ?」


恐る恐るそう尋ねる真遊だが、腕組みをした龍十はまっすぐに真遊を見つめた。思わずドキッとしてしまう真遊はあらためて見た龍十の顔がかなりイケていると思ってしまった。


「確信はない。けど、そういう意図を感じる・・・勘、みたいなもんだが、俺のこういう勘はよく当たるから」


龍十の言葉に頷くしかない。確かに自分の噂に関しては何か裏を感じずにはいられない。ならば、龍十の提案を聞くという選択肢を選ぶ理由も出来たといえよう。


「じゃぁ、提案、聞きたいんだけど」


恐る恐るそう言った真遊に頷いた龍十はまっすぐに真遊を見つめ、そしてゆっくりと口を開いた。


「俺と恋人同士になることだ」

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