犠牲
唾液が持つ熱によってとけたのだろうか、分からないがそんな事を細かく考える前に鋭い爪が俺に向けて飛んでくる。
図体が大きいせいか、動きが思っているよりも遅い
「なんだ、案外とろいな。てっきりすばしっこく動くと思ったんだけどなぁ」
--炎籠のせいでうまく本来の力を出せないみたいですー、彼らは暑さの中素早くは動けませんからねー
そうか、火の属性と言うより暑さが弱点なのか。
となると、一番早く片付くのはこの中を灼熱の海にすればいいということか。
でもそうなると、俺自身も暑くて耐えられん・・・水の魔法を使って"春風"のように纏うこともできるが、戦闘をしながら魔法考えるとか俺にはできない。
いや、出来るとは思うが無傷でこの勝利を収めたい俺としては、戦いに集中するのがいいだろうな。
ということで、灼熱地獄案はなしだ
いつの間にか籠の中の雪は、熱さにより溶けてしまいこの景色は似合わない土の地面が見えている
--十分今でも考えながら戦ってるじゃないですかー
「魔法を考えるのと戦い方を考えるのでは集中力が違うんだよ」
四方八方から飛んでくる鋭い牙や爪を、上手くかわす。
頭がいいといったが、どうも手当り次第襲い掛かってきているように見える
それに俺の狙っているボスはと言うと、初っ端の攻撃から一歩も動いていない、と言うか地面に座り俺と群れのボスたちの戦いを見物している。
「何か裏がありそうだな、妙な行動をされる前に早く片付けた方がよさそうだ」
--そうですねー、ではこちらから反撃と行きましょうー。マスターは呪文を唱えることに集中してくださいー。私が魔法のコントロールを行いますー
「よし分かった、とりあえず俺たちに近づけないようにするか"纏い火"」
俺達に向かって飛んできていた爪や牙がピタリと止まる
「ほぉ、自身の体に火を纏ったか、どうやら変わった魔法を使うようじゃのう」
ボスがゆっくりと立ち上がる。
馬鹿でもわかる、何かを企んだ瞳
「しかし、魔法が使えるのはお前たちだけじゃないぞ、我らも使えるのだ"ヴァッサ・ザイル"」
--ッマスター!この場から離れてください‼
その声が聞こえた時には遅く、地面が青色に光り、水で出来た紐が纏い火を消し俺とユキを縛る。
「なんだこれ、どっからッ」
地面をよく見れば、いつの間にか魔法陣が書かれている
「さっきの爪や牙の攻撃はカモフラージュで、本命はこの陣を書くことだったか」
「お前たちにまともに攻撃しても勝てないのは明白だからのう、少しばかり動きを封じらせてもらった」
ボスの姿が俺の視界いっぱいに映る
「と言ってもこれだけでは、意味がないだろう。その口をとりあえず開かなくしてやろう」
ボスの後ろから、勢いよく1頭のスネイスウルフが大口を開け突っ込んでくる
俺の口を噛みちぎる気か!
--そうはさせないですー!
肩で俺と同じように縛られていたはずのユキが俺の目の前に現れ、足で俺の顔を突き飛ばす
景色は大口のスネイスウルフから空へとゆっくり移る
視界の下で、口の中に入っていくユキの姿
「ユキ!!」
ドサリ、という俺の地面に倒れた音と大きな口が閉じられた音が重なる
縛られ上手く動けに体を何とか動かし上半身だけでも起き上がる
辺りをいくら見渡してもユキの姿はない
「まさか、望み通り早死にするとはな。安心しろお前も一仕事すれば奴のもとに連れて行ってやろう」
「・・・一仕事だと」
「そうじゃ、もう二度とお前のような者が来ないように、スノーマンの前で見せしめに殺してやる」
高笑いをする、ボス
それにつられるように、群れのボスたちも笑う
「そうだ・・・最初からそうすればよかったな」
「なんだ、急に弱弱しくなったのう、仲間が殺され怖気づいたか」
「いや、回りくどい平和的な解決なんていらなかったってことだよ、最初からお前を見せしめに殺せばよかったな」
最初からユキの言う通り、一番力のあるコイツを倒せばよかったな
ならこんなことにはならなかったな。
「ある程度は生かしてやるよ、全員殺すほど俺もひどくないんだ。一生俺と言う存在に怯え、ひれ伏せながら暮らせ」
「なんじゃ、血迷ったか」
警戒し、俺から距離を取る奴ら
大丈夫、血迷ってなんかいない。ユキは仮にも神様の見習いだ、そうやすやす死なないとは思う
俺の気持ち的な問題だ。俺のせいであいつが喰われた、初めからこのボスを倒せばよかった
「なぁ、ご老体・・・そろそろ本気でお前を倒す」
自身を縛っていた水の紐を、引きちぎった