風格
ゆっくりと、木々の隙間から1頭のスネイスウルフが現れ、それに続くように他の仲間も現れる。
「ユキ、一応神力を使ってくれ、何となくわかるけど・・・」
--ガッテンですー・・・「神力の瞳」
恐らく最初の1頭だろうあまりにも遠くて、姿ははっきり見えないが・・・
--・・・最初に現れたスネイスウルフがボスですー。そして、各群れのボスはそれぞれ等間隔でこちらを囲んでいますー。あと、スノーマンですが、どうやら見に来ていないようですー、洞窟からここまでかなりの距離があるので途中で諦めたのかも知れませんねー・・・と、ありゃりゃー、瞬きをしてしまったので情報は以上ですー。あ、ちなみに魔獣に対しても負の感情を吸収することはできないみたいですー
ゴシゴシと目をこするユキに手短にお礼を伝え、戦いに向け軽く準備運動をする。
ふむ、大地の性質の負の感情を吸収する力は、魔獣魔人人間には効かず野生の動物のみなようだな。獣がベースの魔獣なら、もしかしてっと思ったんだけどなぁ・・・残念だ。
奴らはと言うと、こちらにゆっくりと歩いてきているな。
しかしあれだな、近づくにつれ分かったが、ボスのスネイスウルフは他の奴に比べ、でかい。雰囲気からして強いのが分かる。
ボスはトラのような体格、群れのボスは一回り大きな狼の体格、雑魚・・・他のスネイスウルフは普通の狼くらい、なんだろうか。正直大きさなんて実物を見たことのない俺には理解できないのだが。
--そうですねー、分かりやすく言うと大きいモノからマスターを一飲みできる口の大きさ、半分までのかじれる大きさ、頭一つの見込める大きさと言ったところでしょうかー
「なるほど、分りやすくしてくれたつもりだろうが分かりにくい説明だ」
などと、のんきなことを言っているうちに相手は向こうの息がかかるほどの距離にまで来てしまったじゃないか。生暖かい風が顔いっぱいに掛かるんだが。
しかし近くで見てはっきり思ったんだが、ユキの言う通りだ。ボスの口は俺なんか一飲みできそうだ。と言っても俺の体は、前世より縮んでいるわけだがな。
「お前、何故このようなまねをした」
大きな口が発っした言葉は、しっかりと聞き取れる人間の言葉だった。
「お前、スノーマンじゃないのう。それにこの辺りと匂いが違う、どこから来た」
大きな鼻が俺の匂いを嗅ぎ、大きな瞳が俺達を睨み受ける。
これだけ迫力ある瞳に睨まれても、蛇に睨まれた蛙にならないのが自分でも驚きだ。
「ほぉ、その小さい体で儂に恐怖をしないとは、なかなか肝が据わっておるな」
「俺もあんたを見てビビッてない自分に驚いているんだ。俺はアンタの言う通りスノーマンでもこの辺の人間じゃない。少し遠い所から来た旅人だ」
「旅人か、その旅人がなぜこのようなことをした。このようなことをして、ただでこの雪山から出れると思うまい」
外野から、唸り声が聞こえる。今にもとびかかりそうな雑魚ども達
「お前たちだけでは無理だ」
ボスがそういうと、認めるかのように唸り声がやんだ。
「こいつらも分かっているのだ、お前が強いことに。うまく隠しているつもりだろうがの、我ら獣にはかくせまい。といっても全てがわかるわけではないがのう」
--流石ですねー。無駄な犠牲者を出さないのは素晴らしい判断ですー。このまま黙って私たちの言うことを聞く気にはなりませんかねー?
「はっはっは、・・・ぬかせ、儂はこの山を守っているのだぞ、何もせずお前たちの言うことなど聞くわけがない」
ユキの煽った発言に、彼らの敵意が凄まじいことになっている。
なんてことをしてくれたんだお前はっ、何故煽った
「この老いぼれの狼では貴様に敵いそうにないからのう、ズルいと言われるかもしれぬがこの山のためにもこやつ等のためにも、害あるものは潰させていただくぞ。皆でな・・・」
ボスのその言葉に、大人しくなっていた雑魚どもと群れのボスたちが俺の方に向けて走り出す
--っと、そうはさせませんよー、"グロウ・フレーム・グラン"
俺の返事を待つまでもなく、ユキが呪文を唱えると足元に巨大な赤い魔法陣が現れる。
雑魚どもが入れないよう、地面が俺とボス、群れのリーダを囲んで燃えている。火が苦手なスネイスウルフひるんでいるが、度胸のあるやつが入ってくるのも時間の問題か。
それなら
「繋ぎ、"炎籠"」
足元の巨大なユキが作った魔法陣に、杖をさす。
燃えている部分から炎の線がいくつも現れ空に向かて伸びる。
「これで入ってこれないな。アンタらだけに減らせただけでいい。助かったぞユキ」
--こちらこそー、神力を使った後なのであれくらいしか出せなかったので繋いでいただいてよかったですー
あれくらいとは言うが、十分だ。俺は即座に反応できなかった、余裕をかましていたのが相手にも伝わっていたのだろう。油断はいけないな。
「火の属性の魔法を使うようじゃな。儂らの怒りにふれるような行為をした上に、弱点の属性を使う旅人とは、概ねスノーマンにやとわれた人間か」
「ご名答さ、ちょっと取引をしたんだ。本音を言うと戦いたくないんだが、話し合いで済まさないか?」
俺の言葉に、ボスがあざ笑うように鼻で笑う
「儂らを怒らせたんだ、言ったはずじゃぞ?ただではこの雪山からは出さないと」
--話し合いは決裂ですー、仕方ないので大将の首でも取ってほかの奴を黙らせましょー
ユキの言葉に、群れのボス達の目つきが変わる。
キレたな、まぁそりゃ自分のボスが命狙われたらそうなるよなぁ。
「小さいのは、どうやら早死にを望んでいるようじゃのう。人間の旅人、死んだらその相方を恨めよ」
お前に言われるよりも前から、俺がもしまた死ぬことがあればほぼコイツが原因だって思っているからわざわざ言わなくてもわかってる。
さぁ、敵はボス1頭と群れのボスが10頭ほどだ。
相手が先に動くか、俺たちが先に動くか・・・
ボスの大きな口から溢れた唾液が、地面の雪を溶かした。