雪煙
洞窟の中に、温かな朝の光が差し込む
一歩外を出てみれば、昨夜のうちに積もった雪が一面に広がっている。
誰も跡をつけていない雪は、まるで異世界に来たかのように思わせてくれた。
「いや、そもそも異世界だった」
--いやぁ、絶好の戦闘日和ですねー!これは、いい戦闘ができそうな予感ですー!
俺に続いて、欠伸をしては頭の上に止まった。
作戦の具体的な内容を知らなくて本当に大丈夫なのだろうか・・・
寝る前に、内容を聞いてみても「秘密ですー」と言われてしまった。
「あぁ、もう行くのか」
「あなたはスノーマンの・・・」
昨日俺たちに尋問まがいの事をした男が、背後に立っていた。
そういえば名前を聞いていなかったか、まぁ名前は後でもいいか。
「こちらから、頼んでおいてあれなんだが・・・無茶はしないようにするんだな。」
--心配ご無用ですー。私とマスターは最強タッグなのですー。ただ、お願いがございますー。
「なんだ」
--どんなに大きな音や、地鳴りがしたとしてもこちらには近づかないでくださいー。巻き込んでしまうかもしれないのでー。
そんな荒々しい戦闘になるのか?
あぁでも、この前の獣人トリオと戦った時も広場がひどい状態になったな、あの時はユキの力で元通りになったが、今回は街の中でもないし結界をしないのだろうな。妙な力を使うわけにもいかないし。
「あぁ、わかった。近づかないようにほかの者にも声をかけよう」
--ご協力感謝ですー。では、マスター行きましょう。
「そうだな、すまないが留守の間ウリアスを頼む」
「承知した」
スノーマンの恐らくリーダーである男に見送られ、洞窟を後にする。
しかし、どうやってスネイスウルフを探し出すつもりなんだ。
この雪山のどこかにいるのだろうが、ウリアスが言うにはこの雪山はかなりデカい。
そこから、どうやって俺たちのところにおびき出す・・・ユキはできるだけ洞窟から離れるようにしか伝えてくれない。
洞窟から離れるのは良いんだが、離れるにつれ見晴らしの悪い所になっていく。
「ユキ、俺結構適当に歩いているんだが本当に大丈夫か?」
--大丈夫ですー、むしろどんどん前に突き進んでくださいー!気配を感じたら、必ず教えますので―
「まぁそういうなら」
太陽のが真上から、俺達を照らす。
歩きはじめて何時間か経つ、俺たちがいた洞窟は見えなくなった。
「そろそろ 見晴らしのいいところでも探すか」
これくらい歩けば、そうそうやりすぎた戦闘をしたとしても洞窟にまで危害を加えることはないだろう。
--はいー、では ここ一帯の木々をぶっ飛ばしてくださいー
「冗談か?」
--本気に決まってるじゃないですかー!大きな音を立てれば、縄張り意識の高い彼らは必ずやってきますー。
そして、此処一帯の木々をぶっ飛ばしたとなると私たちの狙っているボスの群れがやってきますよー
これが、私の考えた作戦ですー!!
作戦と言うか、完全に俺悪者扱いにされるんじゃないか?
というか、スノーマンにも怒られると思うんだが・・・、こいつの作戦を頼りにした俺も悪ったな。
「ちなみに結界は張らないんだよな」
--神力の瞳を使うのでー、後、マスターに数式を送ったりと今日はやることが多いので結界は使えないですー
「そうだよな」
せめて、切り倒した木々を無駄にしないように丸太にして一か所にまとめておこう。
「どの辺まで広げようか・・・、めんどくさいな届く範囲の木々を伐採するか。木を切れる魔法と言えば・・・」
--"かまいたち"だと風属性の魔法ですー、一応私の力で説明できますよー。
「そうだな、じゃぁそれにするか。ちなみに、あの男は見ているか分かるか?」
--神力を使った時にきちんとお伝えしますー。この距離からわかる範囲ではいないとだけは分かりますー
「わかった」
ユキがどれくらいの範囲で感じとることができるかは分からないが、あまり気にすることはないかもしれないな。
気を付けることに越したことはないが・・・
「さっと、広げるか。ユキ、あの杖を出してくれ」
ユキから出された杖を取る
「“かまいたち”」
森を切り裂くように腕を横に振るうと、自分を中心に半透明のリングが現れ根元から木々を切り倒していく。
切られた木々は雪を巻き上げながら倒れる。
杖を使って大体1キロ位ぶっ飛ばせたか?、まぁ詳しくは分からんが見晴らしはよくなったな。
「よし、じゃぁ集めるのは・・・アレでいいか、ユキちょっと風吹かすから掴まっとけよ
俺の言葉に、手短に返事をするとグシャリと俺の髪の毛を握り締めた。将来俺をハゲにしたいのか・・
「“風お越し” 繋ぎ、"根張り"」
魔力を多めに込めると、地面の雪をえぐるほどの強風が吹く。
地面に倒れていた木々は風に巻き上げられ、地面を転がり俺達の後ろに集まっていく。
ちょっと、魔力こめすぎたか?
“根張り”のおかげで、俺とユキはと飛ばされずに済んだが・・・
--素晴らしいですねー!流石マスターですー!これほどまでに整地をしてくれるとは思ってもいませんでした―!
「俺もだよ、あの木々はスノーマンにでもやろうか。あれだけの木材があれば、大きい家が建てれそうだな」
あぁでも、彼らは移動民族で洞窟暮らしだったな。
「何かしらに使ってくれるか、」
--そうですよー、とりあえず今は“彼ら”のお出迎えでもしましょう
まっすぐユキが見つめる先を同じように見ると、遠くで雪煙と地響きのような音が聞こえた。
数頭ではないのは確かだ、と言うか数百は居そうな音が聞こえる。
「ユキ、あれが大体1つの群れか?」
--いえー、恐らくマスターによって風に巻き上げられた木々を見てこの山一帯のスネイスウルフが集まっているかとー
「・・・これも計算のうちか?」
--正直、集まってもいくつかの群れだと思ったのですがー、まさかこれほどの数とは思ってなかったですー
「つまり?」
--予想外ですー
だよな、正直俺も予想外だよ。
向こうが近づくにつれ、地面が少し揺れている。
前しか見ていなかったが俺達を囲むように雪煙が舞っている、これは昨日同様に囲まれるな。
遠くの木々の間から、獲物を狙う瞳が殺風景になった空間に立つ俺達をとらえた。