雪狼
取引の内容は、至ってシンプルな内容だった。
食料提供をしてもらう代わりに俺達がある魔獣を討伐するという内容。
確か魔獣は獣の形をした魔物で、魔人は人の形をした魔物だったかな?
ウリアスやこのスノーマンも魔人に含まれるな。
そして、魔人と魔獣は今は敵対関係にある。
「討伐してほしい魔獣は"スネイスウルフ"と言う魔獣だ」
「ウルフって言うことは狼か」
狼の獣人のウリアスがいるのに、狼退治をさせるとは…
「たしかに、僕は狼の獣人だけれどスネイスウルフと繋がりはないよ。もしかすると、過去をたどれば繋がりはあるかもしれないけれど」
チラっと見ていたことに気づき苦笑いをしながらそう言われてしまった。
「過去のことなんてどうでもいい、恐らくアンタより俺たちの方が奴らとの繋がりは深い」
「どういうことだ?」
「俺達は狩猟をし、この雪山で移動を繰り返しながら暮らす種族だ。今も昔もそれは変わらない。だが、昔は俺たちと一緒にスネイスウルフも一緒に暮らしていたんだ。」
「それなのに、討伐するんですか?」
悲しそうに、耳を下げながらウリアスが聞く。
「アンタも知っているだろ、今は敵対関係だ。アイツらは、魔獣達は、人間と同盟を結んだ俺たち魔人を敵視している。だから俺達も対立するしかないんだ」
「放っておけばいいだろ」
軽く言う俺のことを、鋭くスノーマンが睨んだ。憎しみがあるような、悲しみがあるようなそんな目をしながら。
「こちらに敵意がなくても、アイツらは俺達を攻撃してくる。
俺達を襲ってくる、仲間も何人もやられた。酷い時は殺された」
――なるほど、だからあなた達の人数は少ないのですね。洞窟の中の人数を合わせても50に満たない。40あるかないかと言った所でしょうかー。
ユキが納得したのようにつぶやく。
改めて周りを見れば、俺たちを囲んでいるのは15人ほどのスノーマン、洞窟にいるスノーマンと合わせても40もない。
ユキが話していた人数よりも明らかに少ない。
「つまり、復讐をしてくれって言うことか?
自分達は手を汚さずに、他の誰かに…無関係の旅人の俺達に復讐を頼んだわけか」
「トージ、そんな言い方しなくても」
「俺達がお前達を襲ったスネイスウルフを討伐すれば、他の仲間が俺達に危害を組んえてくる可能性だってある。スネイスウルフに限らない、別の魔獣も必要以上に襲ってくるかもしれなくなる。」
「でも…」
お前はお人好しなのか、俺たちにだって命があるんだ。
人助け、いや魔人助けをしてコチラが危険な目にあうなんて言うのはおかしい話だ。
が、相手もそう簡単には引き下がらないだろうな。
珍しい力を見たんだ、この力を利用したいに決まってる。
「たしかに、食料と取引にしてはアンタらの利益が割にあっていない。食料の他に金をやろう、他にもこの山に隠している我らの財宝をやる。」
「財宝!?」
その言葉にウリアスの目がキラキラと輝く。
財宝なんて興味あったんだな、財宝もいいがどちら事言うと金がどれだけ貰えるかが気になるんだが…
「僕財宝とか見たことないよ!」
「俺もないよ、財宝は換金したりその価値が実際どれだけか分からないからな。俺としては金が大量に欲しいな、全財産は500円だから」
「ごひゃくえん?」
クエッションマークがウリアスの頭の上に浮かぶ。
そういえば、円という価値はないんだったな。
「銅貨10枚と同じ意味だ。気にするな」
「そういえば、トージお金持ってなかったね」
「アンタらそんな金で旅してるのか」
哀れんだ目が向けられた。
違うこれは俺が悪いのじゃなくて、このバ神が悪いんだ。 金があるならもっと俺だってほしい。
「まぁいい、金貨100枚やる。他に何か欲しいものがあれば言え」
「金貨100枚!?」
――……スネイスウルフからの危害がなくなればいいのですよね?
「要はそういう事だな。討伐と言ったが、この山には入れなくしてくれるだけでもいい」
――わかりました、ならこの話引き受けましょうー
「なら、金貨100枚と食料、欲しいものをできるだけ用意する。この内容で取引ということでいいか?」
――はいー。代わりに私達は、スネイスウルフがあなたがたに危害を加えないようにしましょう。では、私のマスターたちを解放してくださいー
スノーマンが俺とウリアスの凍った部分に触ると、パキパキと音を立て氷だけが砕けて言った。もちろん俺たちの体無傷だ。
「あー、なんか自由に動けるっていいな」
「そうだね、それほど長く拘束されてたわけじゃないんだけどね」
音を鳴らしながら、体を捻る。
しかし、ユキが取引をすると言ってしまった以上、討伐しなければならなくなってしまった。
「ユキ、お前何か作戦でもあって取引に応じたのか」
解放され自由なった俺の肩の上に留まりに来たユキに小さく耳打ちをする。
――作戦と言いますか、シンプルにマスターに戦っていただきます。
「俺かよ、て言うかお前作戦を考得ずに引き受けたな?」
――そう怒らないでくださいよー。マスターは1頭倒すだけでいいんですー。
「1頭倒したところで意味無いだろ、他の奴がいるじゃないか」
――ただの1頭ではありませんー、スネイスウルフのボスを倒してくださいー。
ニッコリと俺に笑顔が向けられる。
ボスって、その群れのボスか?どのスネイスウルフがボスかなんて俺にわからないが…
――魔獣は、弱肉強食の世界ですー。弱いものは強いものに従います、これは本能的なものなので異例はありませんー。
「じゃあ、群れのボスを倒せばいいってことか?」
――1つの群れのボスを倒しても意味はありませんー、他の群れが危害を加えてきますー。
それもそうだ、となると…
「まさか、スネイスウルフ全体のボスを倒せと?」
――はいー!当たり前じゃないですかー
誰かこの、ネジがぶっ飛んだ神見習いを雪の中に埋めてください。
笑顔のユキにたいして、ため息が漏れた。