⑨今治城駅-4「昨日何があったの?」
⑨今治城駅4
美波は変な夢を見ていた.
よく覚えていないけど変な夢を見た.
そのあと窓から差し込む朝日によって目が覚めた.
目を開けたとたん横に桜川の顔があってびっくりして目を閉じてしまった.
そういえば今は今治にいるんだった.
なんか変な夢を見ていてすっかり忘れていた.
でもあの桜川に救われたのは現実だったんだよね.
その現実もよく覚えていないけど.
もし桜川が来てくれなかったらもう死んでいたかもしれない.
そう思うと桜川が中学のとき以上にいい人に思えた.
「今何時? あ~もう6時か.」
桜川起きてきた.
美波はまだ眠いので座布団の上でごろごろしていたけど
桜川はお茶を飲んだりトイレに行ったりと朝早い奴だ
「あ~2人とも早いね. おはよう.」
綾奈もおきた. 肝心の桜ちゃんが全く起きる気配がしない.
美波はただ布団に転がって目を開けていた.
なんか桜川と綾奈の話し声が聞こえ始めた.
2人の姿は見えないけれど何かで遊んでいるみたいだ.
「美波もやろうよ. 人数多いほうが楽しいから」
なんだトランプか…
そうは思ったけど暇だし楽しそうだから参加した.
しかし8:00を過ぎても桜ちゃんは全くおきない.
もう何回ばばぬきやじじぬき,七並べなどなどやっただろうか.
「そろそろお腹すいてきたね」
「大垣もなかなか起きないもんだな」
なんか美波は眠くて思考は途切れ気味だったけど
2人の間でずっと議論は続いていたらしく
気付いたら2人とももう着替え終わっていた.
「輪島も着替えてきなよ. いつ大垣が起きるかわからないから」
そして奥の部屋に行って着替えていたら
綾奈が入ってきてびっくりした
「ごめん. まだ着替えていた?」
桜川だったらしばき倒すところだった…
あ,優しくしてもらったのにそれはないか…
とりあえず着替えて戻ってもまだ桜ちゃんは起きてこない.
「死んでないよね~.」
「筒石. それだけはやめろ.」
9:00を回ったところでようやく桜ちゃんが起きた.
「ごめん寝坊しちゃった」
「寝すぎだろ~」
「いや,昨日遅くまで起きていたから」
「日付こしていなかったのに!?」
桜ちゃんは朝に弱いらしい.
しかも大学にも行ってなく働いているから
それなりにフリーなんだな.
朝ごはんを頂いてから
3人で準備を始めた.
「じゃあ明日の12:00に媛鉄小松駅だね」
「うん. 絶対来いよ」
桜川は強くそう桜ちゃんに言った.
家から駅まで5分.
昨日美波が迷って倒れた道の近くだ.
今日は3人いるし,電車だし絶対迷わない.
「どこまで切符買うの?」
「大街道じゃない? 終点.」
「大街道? 綾は古町まで行きたいんだけど」
「媛鉄と伊予鉄は別だからとりあえず大街道」
切符でいろいろわからない2人をサポートしながらホームへ向かった
小松行きの電車はいいタイミングで滑り込んできた.
3人で運転席の後ろの3人がけシートに座った.
来たときよりは車内に人が多く,
自分たちの貸しきり電車ではなかった.
電車が大きなカーブを曲がり地上に出たとき
自分は寝ていたみたい.
せっかくの今治線をあっという間に過ごしてしまった.
桜川に起こされた
「輪島,終点だよ.」
綾奈と桜川が何を話していたかは知らないけど
なんか怖いぐらいに私がおいていかれているようなきがする.
※
今度は松山まで3人でいけるなんて.
同窓会も何もないのに2人とも松山に来てくれたことが嬉しかったし.
何より綾のことを覚えていてくれたのがすごく嬉しかった.
でも桜川がまさか美波のことを好きとおもっていたなんて
予想も出来なかった.
アニメに没頭しているだけの奴だとおもっていたし
恋愛なんて興味ないものだと…
なのに高校のときはそんな桜川のことが綾は好きだったみたい.
今となっては彼氏もいるしそんなことはおもわないけど
桜川の優しさは健在だった.
「どこまで切符買うの?」
「大街道じゃない? 終点.」
「大街道? 綾は古町まで行きたいんだけど」
「媛鉄と伊予鉄は別だからとりあえず大街道」
綾は電車のことなんてさっぱりわからないから
美波をすごいとおもう. 電車なんてただの交通手段としかおもわないのに
それのどこに魅力を感じているのか…
伊予鉄の前のカラーリングは好きだったけど別に…
媛西電車って四国らしくないカラーをしている
何でこんな田舎に超ハイテクそうな電車が?
電車が地下から抜けたとき,
美波は好きな電車の中で寝ていた. 嬉しそうな顔をしている.
そして美波が寝ている間に桜川と電車について聞いてみた.
「ねぇ. 電車のことをどう思う?」
「交通手段」
「だよね. 美波はどこに魅力を感じているんだろう」
「わからないけど,人と大して変わらないんじゃないかな?」
「どういう意味?」
「人に対して好きや嫌いがあるように電車も前からみたらよかったりするとか…」
「お? 美波と同じことを思うようにしているの?」
「なわけないじゃん」
「まぁ前から見ればかわいいもんね,電車.」
「かもね」
「美波は?」
「なんじゃない.」
その瞬間,内心爆笑してしまった.
真顔で気付いていないのか知らないけど美波のことをかわいいと言ったようなもんだ.
そんな綾を不思議そうに見るな,桜川.
「で,どうなの?」
「なにが」
「美波と. なにかあった? 昨日の夜.」
「いや. 輪島寝ていたし」
「どうだったんだろうね. 桜川の背中で寝ていて」
「そんなの本人に聞かないとわからないじゃない.」
桜川の顔が少し赤くなっていた.
紫外線カットの窓ガラスが使われているであろう電車のなかで
桜川の顔の色はよくわかった.
電車がタオル美術館の横を通った.
今治のタオルは有名だけどつかった覚えがない.
そんなことを考えながらふと思ったことを聞いてみた.
「桜川っていつから美波のことが好きなの?」
「昨日の朝ぐらい.」
絶対冗談だと瞬間思ったけどそれは結構ありえる話だった.
桜川と美波は一緒に小松まで来ていた.
今治に行く電車の中で好きじゃないとか言っていたけど
あっちのほうが冗談なんだ.
どっかの駅で途中下車したとかも言っていたし
たしかホームがすごい狭いところだよな…
でも,高校のときに美波のことを気にしていたのはなんだったんだろう.
「美波を好きになる前は誰が好きだった?」
「誰もいない. 特にそういうの興味なかったし」
「なんだやっぱり興味なかったのか」
「え? やっぱりって?」
「別に. じゃあ高校のときはアニメ一筋だったわけね」
「そんな一筋でもないけど 夜はテレビ見せてもらえなかったし」
「教育テレビで我慢していたのか~ さすが」
「いや録画していた.」
「一筋じゃない. 第一,高校で何かとアニヲタグループに入っていたもんね」
「そういうわけじゃないけど…」
その先桜川と高校の時の話になった.
すごく懐かしいことだらけだった.
でもやっぱり高校のときに好きな人はいなかったみたい
電車はどんどん田舎らしいところを走っていく
桜川と話している間に終点のアナウンスが聞こえた
20分ぐらいがこんな楽しく,早いのは初めてかもしれない.
小松に着いたら3人で松山方面のホームへ向かった.