③新境目駅「二人だけの小さな駅」
③新境目駅
電車から降りたホームは経験上 阪急の中津駅より狭い.
ベンチどころかつかまる手すりもない.
一番奥のほうにコレより先立ち入り禁止の看板があるだけのような気がする.
駅名表は一応あるけどここだけ明るいのが怖い.
「桜川,こっからが怖いから注意して」
すると輪島が僕に摑まった. 僕はすこしあがりそうになったがつかんだわけがわかった
のぼりの特急電車だ. すごいホームをすごいスピードで通過していく.
電車が来る前から風が来るほどだ.
輪島の顔を見て少し崩壊した髪形が面白かった.
「髪崩壊しているよ」と
輪島は僕の髪を自分より先になでて直してくれた.
すごい僕は今ホームから落ちそう. 嬉しすぎて
一応僕もやったほうがいいかなと思って
「輪島のほうも崩壊してる」
といって一応直してあげた
「ありがとう」
暗くて見えにくかったけど笑顔でいってくれた.
新境目駅はいろいろ僕にとっていい環境かもしれない.
そう思って改札のあるトンネルの出口へと歩いていった.
かばんの中からまた松山まで買った切符を取り出す.
そして清算. 輪島はなぜ清算せずに改札を通るのだろう…
「清算しないの?」
「最初からここまでの切符を買っていたの.
桜川に許可もらう前に一緒に来てもらう気満々だったから」
なるほどそういう理由があったのか少し嬉しい.
僕もその手を使ってみようかな.
新境目駅は改札が1台しかなく台風のときとかは雨にぬれそうだ.
輪島は写真を何枚も撮っていた.
僕もカメラを取り出したいところだがカメラがない.
「記念写真撮らない?」
少し勇気を出して輪島に話しかけてみた.
輪島は少し顔を赤くしてうなずいてくれた.
駅の手前の道のガードレールにカメラを置いて写真を撮った.
ここまで2人で来たといういい証になりそうだ.
「ねぇこの次時間あるから今治行かない?」
そういってみた.
「嬉しい.桜川が私を誘ってくれるのが.」
どっちなの? 電車? 誘い? まあどっちでも喜んでくれたから嬉しかった.
2人分の今治行き切符をまとめてかってまたさっきの細い暗いホームに戻った.
また輪島が僕に捕まった.
今度来たのは上りの普通電車止まったけど来るまでの風がすごかった.
向かいの電車はそれなりに客が乗っていたのにこの駅で乗り降りした人はいなかった.
でも今回はなぜか輪島が手を離さない.
とうとう僕の期待している言葉を言ってくれるか? と思ったら
ゴーという音とともに下り快速特急が通過していった.
「ごめんすぐ快速特急が来るなと思って.」
「いやそれはいいんだけど,普通は?」
そして僕たちは細く暗いホームに滑り込んできた電車に乗って
すごい環境の新境目駅を後にした.
乗り込んだ車両はもうすぐお昼時で人が結構のっていた.
僕たち二人はクロスシートに座るのもなんか微妙なので
運転席の後ろのスペースに立っていた.
やっぱり輪島は嬉しそうな顔だ.
愛媛県に入ってからは景色がいろいろと変わるらしいから,
電車の前の景色は最高なんだろう.
僕も輪島の後ろで前を見ていた.
でもふと思えば何で輪島がそこまで僕を覚えていてくれたのか.
僕なんてどこかで見たことあるようでわからなかったのに.
中学のとき,かなり変だったから覚えているのだろうか
でも僕が忘れるくらいのことなら輪島も忘れているに違いない.
媛鉄はJRに乗り入れて進んでいく.
でも僕がずっと気になっているところがある.
輪島は鉄道オタクだったのか? という点だ.
中学のときはアニメとかマンガの話をよく筒石や大垣としていた.
だからそんな要素は全くないと思っているんだけど
コレはどこかで聞いておきたい.
「どうかしたの?」
いきなり後ろを振り向かれびっくりしてとっさに出た言葉は
「いや何でも」
そんな普通の言葉で返してしまった.
でもやっぱり知りたい. オタクなのか?
僕は鉄道は好きではないので鉄ヲタに対してひいている
仮に輪島が鉄道好きだったとしたら
僕は完全に引いてしまう. いくら輪島でも.
『まもなく小松,小松 お出口は…』
そのアナウンスが流れたとき輪島はなんか嬉しそうだった.
「実は始めての今治なの.」
「へぇそうなんだすぐ近くなのにね」
輪島が鉄道好きなら愛媛県は制覇しているだろうと思ったので
コレで少し安心した.
普通電車を降りたら今治線は行ったばかりのタイミングだった.