㉑阪神競馬場前駅「初めての馬券」
㉑阪神競馬場前
朝おきて最初のレースを見に行こうということになった.
みんなで観光もしたいから競馬場で長く時間取ってられないものね.
毎朝9時過ぎ起きの私は無理やり起こされて電車にゆられていた.
電車に乗るといっても一駅なのでそんなに時間はかからない.
しかしなぜまた媛鉄なのだろう.
窓から見えた茶色い電車にも乗ってみたかったもんだ.
媛鉄も初乗りは150円でそこまで変わらないと思うけどな…
「阪急で行くと競馬場まで歩かないといけないんだよね」
「媛鉄は? 近いの?」
「競馬場の真下に駅がある. エレベータですぐ.」
「そりゃ媛鉄が便利だ. 車両は臙脂色の方が好きだけど」
ようやく媛鉄に乗った理由がわかった.
降りると今治では見られないような建物があって
入場料を払って入ると総合公園よりかは小さいけど
立派な公園があった. まだ朝も早いし子どもはいないけど
っていうか線路がひいてある. 何か走るのかな
誰もいないように見えた競馬場も中に入っておどろいた
シートを床に引いて徹夜して券売機の前で並んでいるおじさんたちが
いっぱいいたのだ. 競馬ってこんなに!?
しかも切符なんていくらでも買えるでしょう.
「いいポジションで見るためにこんなに並んでいるんだよ」
「でもなんで? 自分らが入ってきたほうは誰もいなかったよ」
「阪急を使う人が多いからね. 媛鉄は阪急より本数が少ない.」
「あ~しかも媛鉄ってぐにゃぐにゃと京阪神を進むからね」
「すごいときは阪急の駅まで行列が続いているよ」
競馬の力はすさまじいと思った.
今治にはこんなものないからな…
そして徹夜組の後ろに並んで切符を買った.
桜川と美波ちゃんが1着で100円. 私は1着で300円賭けてみた.
すごいのは綾奈ちゃんだ.
1万円賭けるのはさすがにないけれど
昨日の2万3000円の話に惹かれたのかな?
1・2・3着で500円も賭けている.
競馬のことを何も知らないけどみんな興味津々.
当たるかわからないけど賭けてみよう.
ちなみに一着単発予想の3人は賭けた馬の番号が違う.
どこがよいポジションなのかよくわからないけど,
とりあえず空いていた屋外の隅の方で観戦することにした.
綾奈ちゃんが祈りはじめた. たかが500円… されど500円.
無駄にはできないよね.
しばらくしてレースが始まった.
目の前を横切る馬は迫力があった.
すごい! 馬きれい~!
レースはあっという間に終わってしまった.
馬の迫力に押されて肝心の自分のかけた馬を応援することを忘れてて,
奥の大型スクリーンで順位を確認することになってしまった.
…ドベ!? …ドベだった. 300円よ,さよなら~!
でも面白かったのでいいか,と思って隣の綾奈ちゃんを見ると
何度もチケットと画面を見比べている.
顔が非常に怖い. 綾奈ちゃんも無駄金つかったんやね.
「桜. どうだった?」
桜川が話しかけてきた
「外れた. しかもドベ.」
「僕も駄目やった. 美波が当たったんよ.」
「へぇ~ 美波ちゃんやるねぇ~」
「ちょっと才能があったかもしれない. ちなみにコレいくら戻ってくるの?」
「えっと…」
桜川が画面を見ようとした瞬間.綾奈ちゃんがすごい声を上げた.
「…や,あの…!」
泣いてるの?笑ってるの? なんかわからない顔をしている.
「綾奈どうしたんよ?」
「あ,あた,当たった! 見事に全部当たった!!」
3人で綾奈ちゃんのチケットを見る. それぞれが画面を確認.
何回見ても間違いない. ぴったりそろっとる.
「ね,桜川! 綾のこれ,いくらになるの?」
「今日の配当だと… 100円が24500円だから…」
桜川は暗算苦手なのかな? 指を使って1,2,3…
「122500円! だよね?桜川!」
みんなで倒れそうになった. へ? こんなん当たる人いるんだ!
「ねぇ! 美波のは? いくらになる?」
「3倍だから300円かな.」
美波ちゃんの顔が急にしょんぼりした
桜川も目を泳がせている. 綾奈の12万の後では余計に霞むよねぇ~
「美波ちゃん. 200円もうけたんだから! 私なんて300円失ったよ!」
「そ,そうだよ. 僕も100円失っとる. あわせて400円の損!」
桜川が訳のわからない慰め方をする.
…綾奈ちゃんが急に泣きながら叫んだ
「122500円…十二万二千五百円!!!綾のワンコインが札束になって返ってくる!! ひゃー!」
あ…ついに綾奈ちゃんが興奮のあまり空気読めなくなった
美波の顔がさらにしょんぼりしていく.
「まぁ2人とも. 引き換え,引き換え!」
4人で窓口へ向かった.
周りのおじさんたちはぶつぶつ言いながら馬券を捨てて立ち去ったり,新聞をにらんだり,
次のレース?の用紙を書いていたり… いろんな人がいるんやねぇ…
桜川と私は柱にもたれて待つことにした.
「綾奈すごいよね. スーパーのレジでの計算も天才的だし. 金融系すごいよ」
「計算とコレは関係なんじゃない?」
「そっかww」
今にも飛んでいきそうな綾奈ちゃんといつもどおり?の美波ちゃんが戻ってきた
「みてみてみて!」
綾奈ちゃんが1万円札で膨らんだ財布を見せる.
「綾奈. 閉まいなよ. 盗まれたらどうするの?」
連絡通路を歩きながら美波が真顔で注意する.
「そうだよ. どこで誰が見てるかわかんないし」
「そうだね. 嬉しさはかばんの中に!」
うらやましい. いや妬ましい!!
私の300円返せ阪神競馬場!
あれ? 連絡通路の先に止まっているのはあの茶色い電車.
そっか. 媛鉄に乗るんじゃないんだ.
媛鉄と違い艶があってきれいな車両だ.
券売機で切符を買ってホームに並ぶ
「もうけた200円が1秒で消えた.」
美波ちゃんが暗くつぶやく. 桜川が…
「いいじゃない.宝塚までただでいけるよ.」
「まだまだ大量にある~! 愛媛に帰ったらATMに入れよっと」
綾奈ちゃん… もはや嫌味にしか聞こえない.
「何か買うわけじゃないの?」
桜川が無邪気に話しかける
茶色い電車は伊予鉄より静かな音で出発した.
でも静かさでは媛鉄のほうが上かな.
驚いたのは車掌の生アナウンス.
媛鉄で自動放送になれた私に,肉声のアナウンスは新鮮だった.
電車から降りたらすでにタカラヅカ感が漂う駅舎を出て
花の道という割にはあまり花のない道を歩いた.
桜川の言う話ではこの道はタカラジェンヌは通れないらしい.
そこまではいい情報だけど桜川は理由を忘れたって…
この場所でのサインお断り,の張り紙がある
この辺を普通にタカラヅカの人が歩いているんかな?
ちょっとワクワクして周りを見渡したけど
電車の音が聞こえるだけで人気がない.
美波ちゃんはめずらしく電車ではなく大劇場に興味津々.
オレンジの屋根とベージュの壁の大きな建物は伊予鉄を連想させる.
やっぱり伊予鉄はこの色だよね~
松山にはオレンジ一色が似合わない!
交差点の名前は『手塚治虫記念館前』
手塚治虫も宝塚出身なのかな?
宝塚はあまり知らないけどすごい街だ.
「美波. 中入ってみる?」
「入れるの!?」
「窓口までだけどきれいだよ」
と,言うことで中に入った.
照明がひめぎんホールとは違って美しい.
美波ちゃんが歓声をあげた. 確かにすばらしい劇場だ.
「そういえばこの大劇場,綾奈の家を思わせるものもあるね」
「え? こんな大きくないよ?」
「大きさじゃなくて雰囲気の話.」
「綾奈の家,豪華やもんね~」
「そんな金うちにないから」
「だれだよさっき12万円当てた奴」
「家の豪華さと競馬のあたりは関係ないっ!」
「その12万円.うらやましいぃ~」
「っていうか当たるんだったら1万円賭けてもよかったかもね. 誰かさんみたいに」
「そしたら245万円!? 死にそうな金額!!」
「ビギナーズラックだって. 欲出したら当たらないよ.」
「…ここではまって失敗したらやばいもんね」
「ほんと元も子もない!」
「そうだよ. 綾奈ちゃん,気をつけなよ」
「愛媛に競馬場ないから大丈夫.」
「競馬のために宝塚に定住しちゃったりして」
「そんなんで12万を無駄にしない. 大事~にしないと」
さっきから12万,12万言わないでほしい.
私の300円… たかが300円だけど20分働いてようやくもらえる金額.
惜しい… うらやましぃ~