②媛鉄徳島駅「一緒に行こうよ」
②媛鉄徳島駅
僕たち2人はほとんど人がいない電車から降りた.
トイレも自販機もない電車から開放されて気分がいい.
輪島はこういうのも楽しんでいるんだろうか.
しかし僕は考えた.もう買ってしまった松山までの1900円区間切符.
徳島で改札を出てしまうと1050円戻ってくるけどこのお釣りで
松山までは帰れない. どうしようずっと構内にいるか…
次の普通電車はいつだろうと思い時刻表を見てみた.
8:44発の普通が急行の2分後に出発する.
1時間後だ. とりあえず輪島に思いついた提案を言ってみる.
「なぁ. 構内の売店で何か買って電車見ながらホームで食べない?」
「すごいいい! けど桜川は暇じゃない?」
やっぱり突かれた.しかし輪島といい感じにしゃべりたかったから.
「いや. 最近媛鉄も面白いなと思って. 今治線も出来たでしょ?」
唯一といっていいほどの媛鉄の知識をだした.
「あ,知っているんだ! なんか好きと思ってくれてこっちが嬉しい」
瞬間意味を間違えたがその好きは電車のことだと頭の中で訂正した.
「じゃあホームで.」
そういってエスカレーターをあがり橋上駅の売店で
サンドイッチやおにぎりをかった
さすがに私鉄だから駅弁は売っていない. 地域の特産品とかは売っているけど.
そしてもう一度ホームに下りた.
もうさっきの電車は出発して徳島駅は誰もいなかった.
「次の電車1時間後だもんね.」
と輪島がいって 少しがっかりさせてしまったか… と思ったが
「でも桜川とこうやって朝ごはんを食べるのもないからいい記念になるわ.」
なんかすごい嬉しいことを言ってくれた. 徳島駅で降りて正解.
でも人がいない媛鉄だからいえることかも.
「そういえば次の普通電車は何行き?」
松山行きじゃないことを願って聞いてみたが
「松山行き. 1両編成じゃないかな.」
「そっか… しかしこの駅夏だって言うのに結構涼しいね」
「うん. 思った. なんか媛鉄の工夫があるのかな?」
「輪島でも知らないんだ.」
「うん. でももしかしたら気象関係かもしれないから美波にはわからないかも」
なんか輪島の話は電車が絡んでくると余計に納得できる.
やっぱり輪島は変わってしまったのか!?
こいつ国語力高い…なんか文系って感じがするな~, 大学どこいってるんだろう
「ん? どうかした?」
「いや大学どこにいっているんだろうなと思って」
「あ,神戸大学. 経済学勉強している.」
自分はショックを受けた. 輪島の頭のよさに…
「自分なんて私大だよ」と小さめ叫んだ.
「いいじゃない. 桜川らしい.」
どういう意味だ…
なんか引っかかる言葉を頭からのけて話を続けた.
「高校はどこいってたの?」
「東高校.」
ここでもショックを受けた. なんでお前はそんないいとこばかりなんだ.
「自分なんて北高だよ」とまた小さめに叫んだ.
「おなじ公立だって. 愛媛から兵庫にいけているんだから.」
「まぁそう考えたらそうだけど.」
でも輪島の国語力に大学は関係ないみたい.それは思った.
「ごちそうさま~. こうやってホームで二人で食べんのもなんかいい感じだね.」
「輪島はてっきり一人のほうがいいのかと思ってしまったよ.」
「そんなことないよ美波だって友達と食べるのは楽しいこと.」
僕のことを友達と思ってくれているとわかってすごく嬉しい.
「ごみ捨てに行こうか. トイレにも行かせて」
なんかもう一緒に行動する気に輪島のほうからなっているみたい
それはそれで僕はすごく嬉しいんだけど.
ごみを捨てている間に接近メロディーがなった先発の急行だ.
2人でゆっくり居たいとは思ってもなぜか後2分で来る電車をすごく気にしてしまう.
ここは徳島. 京阪神と違って10分に1本ではない1時間に2本だ.
つまり次のを逃すといくら輪島と話せても1時間ホームの硬いベンチは耐えられない.
しかし輪島がトイレから出てきたとき橋上駅舎から見えたのは松山方面に消えていく
普通電車だった. いってしまった…
「あ,ごめん普通電車乗り遅れちゃったね…」
「どうする?」
「駅でない? 徳島の街歩いてみようよ」
ここでごめん金がおしいとかいえないよね…
少しそこだけ残念に思いながら清算機に切符を入れて
1050円を財布にしまった. 残りのお金は5000円ほどだ.
でも初めて歩いた県だったけど楽しかった.
輪島のおかげだ. こうして2人で歩くのも中学のときはあまりなかったしな
あったときも長くて10分だ.
「JRまで歩こう?」
「いいよ けどJRには乗らないよね」
「当たり前だよ. JRに乗るほどのお金は持っていない.」
この発言で僕は安心した. 輪島もお金はあまり持っていない.
この時間がまだ午前だと考えるとすごく気分が快い.
「ここがJR徳島駅. やっぱりJRよりは媛鉄のほうが好きだな.」
「僕もそう思う.」
「たとえば,どういうところ?」
このような質問をされたら少し困る. 電車の知識はほとんどないから
「え? ピンク色で明るい印象をくれるじゃん. しかもなんていうのあれ
うえの黒い線.あれがJRは汚い感じがする.」
「ピンク色じゃなくて桃色だよ.」
え? どういう違いがあるの…
色鉛筆ではピンクも桃色も色に変化はないし,
果物の桃をピンク色という…
「あ,そこ深く考えちゃ駄目だよ. 媛鉄の会社概要に書いてあるんだ」
「そうなんだ… どういう違いがあるのかと思ったよ」
「でも媛鉄は京葉線とも京王線とも違う感じの色の濃さでしょ?
そこら辺と区別しているんじゃない?近鉄はさくらライナーで桜色らしいし少し…」
全く意味のわからないことを言い出した. 輪島は何かに洗脳されているのか!?
いくら輪島でもこの話を聞くのは疲れます.
でもなんとなくの意味は理解できる.
「徳島といえば阿波踊りだよね.」
その話の後でようやく鉄道から話がそれた. しかしそう思ったのもつかの間
「徳島空港は徳島阿波おどり空港って名前になっているでしょ? 媛鉄の駅名にもなっているけど地方空港では結構こういうの多いんだよ. 電車でも最近あるんだけどね…」
いろいろと僕までオタクにされそうな勢いで話したけど
それも楽しかった. 気付けばもうそこら辺を一周して媛鉄徳島駅.
特急が入ってきたタイミングで
2分後の普通電車に2人で乗りました.
9:44発普通松山行き.
乗って電車が動き始めたときに輪島が
「ねぇ新境目駅一緒についてきてくれない?」
「新境目駅? どこにあるの?」
「愛媛県と徳島県の県境にあるの」
でも不思議に思ったなぜ僕についてきてほしいのか
一瞬僕はいろいろ輪島に期待した.
「新境目駅はほとんどがトンネルの中にある無人駅で昼間でも暗くて怖いんだって
今までずっといきたいって思っていたんだけど一人じゃ怖くて… だから.」
期待したものではなかったけど僕をバネに駅で降りてくれるのは嬉しい.
電車は川を渡り高速道路に沿って田んぼの中を進み,
また川を渡ってJRに乗り入れ,そしてさらに川を渡って山の中に入っていった.
そして普通電車は11:08新境目駅のひとつ手前三次駅に到着した.
「わぁどきどきする~.」
トンネルの中あんまり人のいない車両でそんなことをいわれ結構勘違いするもの.
これぞ吊り橋効果 11:12電車はトンネルの中で止まり扉が開いた.
無人駅でも改札はちゃんとあるらしく普通に降りることが出来た.
西宮から出発して5時間ぐらい. どこまで一緒に行動することが出来るか…