⑪媛鉄松山(大街道)駅「ただいまと言って泊まるのは…」
⑪松山(大街道)駅
駅を出て,オレンジ一色の路面電車と
黒く和モダン風になった大街道商店街の入り口が僕を迎えてくれた.
「お昼ご飯たべよう?」
筒石がそういって時計を見たらもう13:00だった
「この時間ならたいていのお店はすいているね.」
そうして入った店で3人ともとんかつを食べた.
なぜとんかつだったのか. 僕も美波も最初はよくわからなかったが
筒石が独断でとんかつを3つ注文したらしい.
強制的な… もっと食べたいものはあるのに.
まぁ財布の中身が寂しい僕にとっては好条件なのかも知れない.
「桜川,おごって~.」
はい? いやひとつ600円が3人分で1800円にもなるじゃないか
帰りの電車賃がなくなってしまう.
「ごめん無理. 帰れなくなる.」
「え? 4人分兵庫へ連れて行ってくれるお金があるんでしょ?」
「今はない.」
「じゃあどうやって綾たちを兵庫へ連れて行ってくれるの?」
「まさか嘘だったの!?」
だから何でそういう話になるかな…
「ちゃんと家に貯金箱があるから.」
「あ,そうだったね. 桜川も元愛媛県民やったね.」
なんで高校まで一緒だったのに忘れるのさ…
まぁ半年も,僕が居ない家に貯金箱を置いておくのも無用心だけどね
たしか4人分おごれるお金は余裕で入っていたはず.
そしてとんかつを食べ終わって
レジにみんな600円ずつ出した.
しかしそこで問題が発生した.
レジの表示は1980円 そうあわせて180円足りないのだ
「あ,わかった~ あのメニュー,消費税含まれてないんだ.」
そんなことを輪島が言ってようやく理解できた.
ここまで消費税にむかついたのは初めてだ.
何より60円とかいう中途半端な金をもう一度出さないといけない上
財布がより寂しくなってしまう.
たかが60円かもしれないが長距離旅行をしてきたものにとって60円はきつい.
「なんで消費税10%になったんだろうね」
「国が国債抱えすぎだから?」
「そんな堅苦しい話やめようよ. 公民大嫌い.」
「公民じゃなくて算数と考えてみるとか」
「なんで」
「8%より10%のほうが計算しやすい.」
「あ~ なるほどぉ」
8パーセントに消費税が上がってから何度か10パーセントにあがるのが延期されて
その話は白紙になるかなと思ったが
結局おととし,10パーセントになった.
軽減税率とかなんかややこしいのが嫌い
「ねぇ銀天街あるいて市駅までいこうや」
「あぁ,いいね」
「久しぶりに松山を歩くってことか」
「それよりも大街道から古町まで行こうと思ったら」
「わかった. 大回りになるんか.」
「その通り!」
「でも市駅まで歩いている時間と大して変わらないんじゃない?」
「気持ち的な問題だよ」
「納得」
歩行者専用の大街道と銀天街は半年前と変わらず人は多かった.
でもアーケードの形が変わっていたり
路上禁煙の区域が広がっていたりなど半年で変わっていることも多かった.
いろんな店を見ながら進んだため市駅にでるまで1時間ほどかかってしまった.
ここ松山市駅が松山市の中心だというのにJRも媛鉄もここにきていない.
伊予鉄は地方鉄道ながら結構儲かっているのではないだろうか.
まだ僕はベージュとオレンジの伊予鉄のほうが見慣れているため
中学のときから見たことはあるが伊予柑色一色の電車はまだ見慣れない.
今となってはほとんどが伊予柑色一色となってしまった.
「どうする? まだ松山観光する?」
「もう歩きつかれた. 電車乗ろう.」
市駅に轟音を鳴らしながら入ってきたのは
旧型だけど色は新しそうな路面電車だ.
兵庫でノンステップバスに乗りなれた僕にとって
大きい段差がある旧型車両の入り口は面白い.
半年でこんなに感覚が変わるもんだ.
松山に来てから何度もそう思っている.
『次は大手町駅前 高浜,横河原方面行きの方は乗り換えです.』
このアナウンスを聞いたときふと思った.
市駅から古町に行くなら郊外電車のほうが断然速い.
せっかく松山市駅に行ったのにわざわざ市内電車に乗った理由は?
「なぁ輪島. なんで市内電車を選んだの? 郊外電車の方が速くない?」
「乗りたかったから.」
「えぇ~っ …たしかに郊外電車でいけるねぇ」
「ごめん. 媛鉄で鉄道線に十分乗ったし今度は路面電車がいいなって.」
「まぁいいけど」
そういった瞬間目の前を古町へ向かう郊外電車が横切った.
同じ時間に大手町についている.
まぁ郊外電車は15分に1本だからこっちでもよかったのかもしれないけど
目の前をあのスピードで横切られるとなんかむかつく.
あっちに乗ったらあと2分で古町に着いたのに!!
そしてただでさえ轟音をだす路面電車がさらにすごい音を出して
郊外電車と交差する. 耳が痛いぐらいだ.
「そういえば桜川は知っている? 西宮北口にむかし平面交差があったの」
「平面交差? なにそれ…」
筒石もまったくわからない顔をしている
「鉄道が平面で垂直に交差することを平面交差って言うんだぁ~」
「いや関西に平面交差があるなんて知らない.」
「昔は西宮北口や京都,淡路にもあったんだよ」
「へぇ~」 綾奈とハモった.
「淡路のは最近2層式の高架橋で阪急がJRをまたぐ構造に…」
始まった. すごく長くてよくわからない単語がたくさん出てくる
下手したら英語より理解するのが難しいかもしれない.
「JRの松山駅も国体にあわせて高架化されたしね…」
いつの間にか松山の話になっている
『次はJR松山駅前 フライブルク通り方面の方は乗り換えです.』
そういえば中学生のときまでは確かに平べったい駅だったな…
なんか筒石はまだポカーんとしている.
僕も今そうなりそうだ…
しばらくして古町についた.
伊予柑色の電車が夕焼けに染まって色が強調されている.
振り向くと夕焼けがすごくまぶしい.
駅から少し歩いて,踏み切りをわたったところに
筒石の家はあった.
中学・高校一緒だったけど家に来たのは初めてだ.
しかしこんなに電車に近い家でうるさくないのだろうか
始発から終電まで関西の電車ならまだましかもしれないが
あの轟音をたてる路面電車が夜走ったら眠れないでしょ…
踏み切りもなり続けてうるさいだろうし
しかも車庫がすぐそばにあるから…
とか思っていたら輪島が声を上げた
「やっぱり綾奈の家いいよね~ うらやましぃ~」
「美波? どうしたの…」
「いやこんなに電車がすぐそばにあるなんてうらやましすぎてたまらないじゃん」
筒石と僕は目で話した.
ありえないよなぁ って