表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/9

①【 鏡面に映る姿 】

がたんごとん。がたんごとん。がたんごとん…………。


「――――ん……?」


強い上下振動と激しい音に起こされて、私の意識はゆっくりと覚醒する。

強烈な陽光が容赦無く差し込んでいるようで、

重たい瞼越しにでもその燦々とした光が視界をオレンジ色に染めていた。


がたんごとん。がたんごとん。


寝惚けている中にあっても、私は強い違和感を覚えた。

眠り込んでしまう直前の記憶が全く思い出せなかったからだ。


副社長と係長の二人とらーめん屋台へ行って、すごく美味しかった。

そんな小学生の感想文のような、簡潔で短い記憶はあるのだけれど……。

一体、何時の間に眠りについてしまったのだろう?

その部分だけがすっぽりと抜け落ちている。


座った状態で眠りについていたようで、足腰が痺れてじんじんと痛い。

もしかして電車の中で眠りについてしまったのだろうか。

何だかお腹の辺りにもやたら重量を感じるし、食べすぎたのかな?


「ふああ……」


大きな欠伸を漏らしながら、んーっと伸びをすると、

がたんごとんという動作音がぴたりと止まる。同時に上下への振動も収まった。


それにしても、寝起きにしては何だか身体が軽いような気がする。

お腹こそちょっと重たいけど、気分は若かりし頃に戻ったみたいだ。

私だってまだまだ頑張れるぞ! という事なのだろうか?


妙な不思議感に包まれつつ、未だに寝惚けている目をぐしぐしと指で擦る。

日差しは未だに少し眩しいが、ようやく視界が明瞭になってきた。


「――――え?」


ブルルン、という(いなな)きと共に私の視界に飛び込んできたのは、

筋肉質な馬の尻だった。(ほうき)のような尻尾が目前でぱたぱたと揺れている。


「……ええっ――――!?」


自らの手元に握られていた手綱に視線が止まり、私は目を点にする。

私が欠伸をしてこの手綱を勢いよく持ち上げたものだから、

この黒毛の馬はその命令に忠実に従い、ぴたりと足を止めてくれたのだ。


――――私が目覚めた場所は、正しく馬車の上だった。

そこで何よりも恐ろしかった事は、私が操馬席に座らされていたことである。

生まれてこの方、馬を操った経験など一つもない私が、だ。

取り乱しつつ周囲を見渡すが、私以外には馬車に人影は見られない。


『何だよ……』と言いたげに、馬の首がこちらを振り向いているだけだった。

いやいや君こそなんなんだ。一体どこの馬だ。


――――何かがおかしい。私には、馬車に乗っていた記憶なんて無いぞ……?


馬車が進行していたのは人の往来用に切り開かれた大道のようで、

そのすぐ両脇には深緑の森が隙間無く覆い被さって生い茂っている。


電灯も電線も無く、上にはひたすら澄み渡る雲一つ無い青い空。

信じられないほど空気は綺麗で美味しく、見渡す限りの鮮やかな緑色。

ビルも民家も、人工の建造物らしきものは何一つとして見当たらない。


何にも、無い。……というか、いくらなんでも何にも無さすぎるぞ。


もしかして社員が考案した新手の社長ドッキリか!?

やめてくれよ! 私を騙しても、きっと何にも面白くないぞ!!


普通に恐いし、かなり危険だよ! この状況!! 

馬が暴れだしてしまっても私には絶対に止められないんだからな!


誰か~っ……!! 助けてくれ~っ……!!


「んぅ――――」


洋コメディの一幕のような滑稽なポーズを取ってしばらく呆然としていると、

自分以外の誰かが漏らした寝息が確かに聞いて取れた。

しかも、私のお腹の上からだ……。まさか、まさかね……。

薄目のまま視線を落として、おっかなびっくりと確認する。


「……っ!」


危うく漏れそうになった驚愕の声を、私は己の口を押さえることで回避する。


一人の少女が、私のお腹の上ですやすやと寝息を立てていた。

何やらお腹が重たいなあとは感じていたのだが、

まさか人一人が乗っかっているとは想像だにしなかった。


見覚えのない外国人と思しき少女。年は十二、三歳と言ったところだろうか?


煌びやかな金髪を二つに分けて結び、愛らしくも気品のある顔立ち。

驚くほど小さな顔に長い睫毛と桜色の唇が絶妙な位置に配置されて、

まるでお人形さんを目前にしているかのような感覚に襲われる。


少女は青と白を基調にした礼服らしきものを身に纏っているが、

いかんせん小さな女の子にしか見えないので、

かなり方向性を間違えてしまった七五三のような風情だった。


この子の魅力を何かへ例えるとするのならば、私は天使としておく。

穏やかな寝顔を浮かべてすやすやと眠りにつくその愛らしく小さな姿は、

さながら童話の中の尊い一枚のようだった。

その寝台が自らのお腹の上とくれば、愛らしさ五倍増しである。


……それにしても、この鮮やかな金髪。何かを思い出すような、出さないような。

ぼんやりとだが、何かが私の中で確かに引っ掛かかっていた。


「困った……」


途方に暮れてぽつりと呟く。私は底知れない不安と胸騒ぎを感じていた。


身に覚えの無い馬車の上で、顔も知らない可愛らしい少女と二人きり。

少女が目覚めないように細心の注意を払いながら、

停止状態の馬車の上で頭を深く抱えて悩ませる。


……この事態、もしかしてとんでもなくマズいことなんじゃないだろうか?


これは中年親父がうら若き乙女を誘拐している構図に見えなくもない。

ダメだ。危険だ。危険すぎるぞ、この状況は。

親御さんに一体どう説明すればいいんだ……。


『ドッキリ大成功!!』


そんな色鮮やかな看板を抱えて満面の笑顔で走ってくる誰かを待ったが、

聞こえてくるのは馬のひどく退屈そうな嘶きと、

そよ風に揺られた葉がさらさらと擦れ合う音だけだった。


「すまない、副社長…… もしも私がお縄につくことになったら、

 君が山陽商事を引っ張っていってくれ……」


頭を抱えたまま誰ともなしに呟くと、目下の金髪少女の瞼がパッチリと開いた。

海色に輝く大きな瞳が、私を真正面から見据えている。


――――ヤバイ、泣きそうだ……。


ちなみにこの場合、泣きそうなのはこの少女ではなく、私の方だ。

そんな綺麗な瞳で私を見ないでくれ……。どうしよう……?


「――――あわわっ!?」


これまた可愛らしい悲鳴を上げながら、少女は胸の前に手を当てて仰け反る。


「ご、ごめ――――」


「す、す、すみませんっ! すみませんっ……!! 

 あれ、おかしいな。一体、どうして!?

 と、とにかく、申し訳ありませんっ!!!

 いつの間にやら寝入ってしまったようでっ――――!」


私が何ともなしにとにかく謝罪の一言を述べようとすると、

少女はそれを遮って猛烈な勢いでぺこぺこと頭を下げ、謝り始めた。


外見にそぐわないしっかりとした口調だったので私が妙な感心をしていると、

急に身体を仰け反らせた反動で――少女が馬車から転落しそうになる。


慌ててその小さな背に手を回して少女を抱き抱える。

本当に偶然上手くいったが、かなり危ないシーンだった。

この馬車には結構な高さがあるので、下手をしたら骨折してしまうレベルだ。


「ご、ごめんなさい……。え? 馬……?」


少女は目を丸くして、きょろきょろと周囲を見回した。


「いやいや、こっちこそ驚かせてしまったみたいで悪かったね。

 ……お嬢さん、おじさんが誰だか分かるかな?私のこと、どこかで見た記憶はある?」


可能な限り優しく穏やかな表情を浮かべつつ、コミュニケーションを図る。

自分と少女の関係性を見極めないことには、とにかく不安で不安でならない。


――――それにしても何だか、自分の声が異様にハイトーンな気がするなあ。

風邪でもひいてしまったのか、とにかく変な感じだ……。


「えーっと? おじ、さん……?」


少女は私の顔をすっと指差して、心底不思議そうな顔を浮かべる。


「うん? そうそう、私のことだよ。分かるかな?」


少女は目を丸くしつつ、はあ…… と生返事をする。

抱き抱えられている状況に少し照れているようで、頬をぽりぽりと掻いた。

なんなのだろう、この生き物は。とんでもなく可愛いらしい。


「お綺麗な方だとは思いますが、見覚えはありません……」


……お綺麗? お世辞の方向性を間違えてはいないだろうか。


中年親父に対しての賛辞の方法はたったの一種だけである。

『お若いですねえ!』。たったそれだけでいい。

それだけで私達の心は天高く舞い上がるのだ。


「うーん、そっか……。じゃあ、自分のお名前は分かる?

 君のパパやママは、どこにいるのかな?」


ここで少女は、不機嫌そうにぷくっと頬を膨らました。

バカにするな! と言いたいようだ。この仕草がまた非常に愛らしい。


「お嬢さん、自分の名前を分からない人がありますか?

 それに僕は父や母を探すような年齢ではありません」


いやいや、誰がどう見ても年相応の扱いだと思うのだけれど……。

それにしても一人称が僕で――私をお嬢さん呼ばわりだって?

先程からちょくちょく会話に違和感を感じるのは、私の気のせいだろうか?


「僕の名前はですね――あれ……? 名前、名前は……」


うんうんと頭を抱える少女の様子を見て、もしかしてと思いつく。

私のように、この子も記憶を軽度喪失している状態なんじゃないのか?

そうだとすれば先程の異様な慌てようにも納得がゆく。


「―――――そうだ、フラウだ! 僕の名前はフラウ、フラウ・ベルスタッドです!

 でも、どうしてだろう……? 何だか、違うような気もします……」


納得のいかない顔で少女は小さく首を傾げつつ、あやふやな自己紹介をする。

私はこの時点で、またもや引っ掛かるものを感じた。


彼女のラストネームであるベルスタッドという言葉の響きに、だ。

本当に一体、何がこのもやもやの原因になっているのだろう……?


「あなたのお名前は何と言うのですか?」


少女の空色の瞳が私をじいっと覗き込んでくる。

図らずしも相手から先に名乗らせてしまった。これでは社会人失格である。


私は、と口を開きかけたところで、言葉が喉元で遮られる。

何を言ってるんだ、元からそんなものは無かったよ――そう告げるかのように。

私の記憶の棚からは、己の名前という項目が完全に失われていた。


自分の名前を分からない人がありますか。

フラウと名乗る少女の放った言葉が、私の頭の中で繰り返し反芻される。


「――――私、は……」


散乱した記憶の葉を丁寧に拾い上げつつ、たった一つの自分を探る。


――――見つけた。けれど、違う。とても似てはいるけれど、分かってしまう。


これは贋物(にせもの)だ。

何処かの誰かが、きっと代替品として私に対して授けたものだ。

それでも、今の私にはそれに縋る以外の選択肢はない。


「私は、シャーリー・ベルスタッド。

 フラウ、本当に不思議なことだけれど――私も君と同じ気持ちだ。

 ……これはきっと本当の名前ではないね。意味が分からないと思うけれど」


フラウは私の言葉に目を細めると、じいっと長いこと私を見詰めた。

そして、またしても不思議そうな顔で呟く。


「……シャーリーさんの雰囲気は、僕の知り合いとよく似ていますね。

 まあ、休みが欲しいと定期的にぼやくような中年男性ですので、

 見た目は一ミリも被っていないのですが……。雰囲気だけです」


「うーん、これまた奇遇だなあ。……君もね、私の知り合いとよく似ているんだ。

 とんでもなく堅物で毒舌だけど、それはそれで愛嬌のあるヤツでね。

 あ、勿論だけれど、見た目は全く被っていないよ。

 彼は眼鏡を掛けているし、君とは三回りも年の離れたおじさんだからね」


お互いがお互いへの些細な感想を言い終えて、ん? と怪訝な表情を浮かべる。


「あの、言い出す機会を失っていたのですが……。私はおじさんですよ?」


「何を言っているんだ、君は華のような女の子じゃないか。

 というかね、君はお嬢さんやら綺麗やらと言ってくれているけれど、

 私こそ、立派なおじさんなんだよ?」


だって私は、白髪の本数を毎朝数えてしまうような典型的な中年なのだから。


「どうしてですかね、どこか話が噛み合いませんね……」


「噛み合わないねえ……」


お互いどこか腑に落ちない部分があるようで、うーんと首を捻る。


しばらくすると、フラウが不安気に周囲をきょろきょろと見回しながら、

目をこしこしと擦る仕草を繰り返していることに私はようやく気付いた。

そのおかしな様子を見て私はハッと勘付く。


「もしかして、君は視力が悪いんじゃないのかな?」


「――――すみません。僕の眼鏡がどこかに落ちていませんか?

 視界がぼやけてしまって……」


だからだ!

だから私のような中年が綺麗な女性に見えてしまっていたのだ!


いや、まあ、いくら視力が悪かったとしても、

この至近距離で私が女に見えてしまうというような突飛な事件は、

百歩譲って起こり得ないとは思うのだが……。


「よし、ちょっと探してみよう。

 ―――――あ、手綱は握らなくて良いからね。危ないから」


フラウを持ち上げて私の代わりに操馬車へとちょこんと座らせ、

馬車後方の荷台らしき部分を捜索してみる。


何やら数え切れないほど多くの木箱が山積みにされていた。

甘酸っぱい匂いが微かに漂っているので、きっと中身は果実か何かだろう。

やはり自分のものだとは考えられないので、触らないようにして眼鏡を探す。


「おや?」


すると、革製の質素な斜めがけ鞄が中身を散乱させて放り出されていた。

中から装飾の施されたケースらしきものをひょいと拾い上げて開いてみると、

中には高級そうな銀造りの眼鏡が入っている。……何ともお誂え向きだなあ。

よしよしと満足気に頷き、身を翻して操馬席へと戻る。


「あったよ、眼鏡。この鞄も君のものかな?」


目を細めて必死に遠くを眺めている金髪の少女へ、眼鏡と鞄を差し出す。


「ああ、お手数をお掛けしました……。

 眼鏡がないと、僕の視力では何も見えないものですから――」


感謝の言葉を述べながら、フラウは眼鏡をすちゃりと装着する。

輝かしい金髪に冷たい銀の縁が栄えて実に似合っていた。


「ほらね、フラウ。私はおじさんだっただろう?」


「? いえ、そんなことは全くないですけれど。

 むしろ視界が良好になったお陰で、更にお綺麗に見えますよ」


フラウはそう言うと、何とも魅力的な表情でにこっと笑ってみせた。

ヤバイよ、娘を通り越して孫みたいな年の女の子に落とされちゃうよ。


それにしても、これでも話は噛み合わないのか。いよいよ訳が分からない……。


「この鞄は僕のものではありませんね……。

 何だか色々なモノが入っているようですけれど――あっ!」


ごそごそと鞄を漁っていたフラウの手元から、一枚の手鏡が滑り落ちる。

膝の隙間を咄嗟に締めて、辛うじて落とさずに済んだようだ。


「ほっ…… ああ、割れなくて良かっ――――」


フラウは安堵の言葉を漏らしつつ、膝の上に転落した手鏡を拾い上げる。


――――すると、少女は握った手鏡としばらく無言で見詰め合った後、

ぱったりと仰向きになって卒倒してしまった。

あまりにも自然な流れだったので私は思わず言葉を呑む。


「ちょ、ちょっと……!? フラウ、大丈夫かい!?」


慌てて声を掛けながら、少女の華奢な身体をゆっくりと揺する。

息は確かにあるようだが、完全に気を失っているようで全く反応しない。

柔らかな金髪が尻尾のようにふわふわと揺れるだけだ。


私は周囲を見渡して、先程までフラウが覗き込んでいた手鏡に気付く。

――――前後の状況から推測するのならば、

あの手鏡に何らかの細工が仕掛けられていたとしか考えられない。


「……よいしょ、っと」


フラウを抱き抱えたまま手を伸ばし、地面に横たわる手鏡を拾い上げる。

こうして見る分には平凡な木造りの一品だが……。

問題は、鏡面を覗き込んだ時に一体何が起きるのか、だ。

おっかなびっくりではあるが、ここは身をもって試してみることにしよう。


(ままよっ!)


鏡面に映し出されていたのは、確かに年若い少女だった。


――――最も印象的だったのは、ハーフアップにされたその長い白髪(はくはつ)である。

白髪(しらが)とは読まないのがポイントだ。


色素を根こそぎ持っていかれてしまったかのような、完全無欠の白。

その白さと言ったら、もはや純白と表現するべきだろう。


この白髪の少女の顔はフラウとよく似ているようで、完全に異なるものだった。

これは気品にも愛嬌にもまったく当て嵌まらない。

そして、単純に美しいという枠組ともまた違う。


――――人は芸術作品を評価する際、作品に行使された単純な技術よりも、

作品によって己の心へと湧き出し、奔流する感情を最も優先する傾向にある。

簡単に言えば、「純粋な客としてモノを見るよ」ということだ。


後世に名を刻むような名作は、なるほど技術面も多くの研鑽があるに違いない。


しかし作者が本当に重要視していたのは、人々へ与える感情の機微なのだ。

私のような素人には小難しく作品を讃える表現などは沸いてこないが、

それはきっと先程のように、気品があるだの、愛嬌があるのだの、美しいだの。


ともすればそんな陳腐な表現でも、ちっとも構いやしないのだろう。

……その作品が、誰かの手心と愛情の篭った作品の一つである限りは。


おっと、閑話休題だ。


つまり、私は鏡に映っているこの顔。

この白髪の少女の面を、何だか気持ちが悪いなと思ってしまった。


この少女の造形は――どちらかと言えば、"魔性"に近いものだ。


文句無し。どこを取っても完璧すぎる。

見ていて妙な寒気を覚え、薄気味悪く感じてしまうぐらいに。


最高の芸術家に、「君の感情は抜きにして綺麗な顔を造ってくれ」と頼んだら、

きっとこの白髪の少女のようなものが出来上がるのだろう。

そこには誰の真心もきっと存在しない。


いくらなんでもやりすぎだろう?

私も含め、周囲がそう不平等を訴えかけたくなるようなくらいに。

少女は飛びぬけて完成されていて――それ故に、不自然だった。


その見る者全てを取り込んでしまうような少女の深い紫色の瞳は、

私の方をまんじりともせずに見詰めている。


――――君は一体、何者なんだ?

思わず声に出して、白髪の少女へと問いを投げかける。

すると少女もまた、同じようにして私へと問いを投げかける。


そうか。やっぱりそういうことか。

「そのまさか」ということもあるからと、試さずにはいられなかったのだが……。


事実に気付いてしまった瞬間、私の意識は唐突に遠退き始めた。

視界がスローモーションに大きく揺らぎ、その隅を黒が次々と埋めてゆく。


またか。いやいや、またかって――これ、二回目なのか……?


手からすり抜けた手鏡が地面に砕け散る音を最後にして、私は意識を失った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ