お嬢さまと執事とかがみ
さいきん、さいきん、おやしきに おじょうさま と しつじが住んでいました。
おじょうさまは、まいにちご本を読むのがすきなとってもかわいらしい女の子です。
そして しつじは、おじょうさまの身の回りのお世話をしたり、おじょうさまが読むための新しい本をさがしたりしている青年です。
ある日、おじょうさまは、いつものようにご本を読んでいました。
そしておじょうさまがご本を読みおわると、あることを思い付きました。きっとおもしろくなるだろうと思ったので、さっそくやってみることにしました。
おじょうさまは、すわっていた いすからおりて じぶんのへやの かがみのまえに 立ちました。
そしておじょうさまは、かがみにむかって言ってみます。
「かがみよ。かがみ。かがみさん。この世で、いーちばんかわいい人は、だぁ〜れ?」
かがみは何も答えません。
おじょうさまは、また かがみに聞いてみます。
「かがみよ。かがみ。かがみさん。この世界で1番かわいい人は、だれですか?」
おじょうさまはていねいに言いましたが、かがみは、何も答えてくれませんでした。
おじょうさまは、もっとていねいにやさしく かがみに聞いてみます。
「かがみよ。かがみ。かがみさま。教えてください。この世界で1番かわいい人は、だれですか?」
それでもかがみは答えてはくれませんでした。
とうとうおじょうさまは、いやになって へやから出てしまいました。
ろうかをおじょうさまが、ズカズカと歩いていると、しつじが、ろうかを曲がってきて おじょうさまのまえにあらわれました。
おじょうさまが、立ち止まってあいさつしました。
「こんにちは。しつじさん。」
しつじもあいさつしました。
「こんにちは。おじょうさま。」
そしてしつじは、おじょうさまがムカムカしているようなお顔をしているのに気付いて おじょうさまに聞きました。
「おや。いかがなさいましたか?おじょうさま。そのようなお顔をして。」
おじょうさまは答えてあげます。
「わたしのへやのかがみが、教えてくれないのです。」
しつじは、また聞いてみます。
「何を教えてくれなかったのですか?」
おじょうさまは、また答えてあげます。
「この世で1番かわいい人を教えてくれなかったのです。」
「そうでしたか。分かりました……。」
しつじは 少しだまってから また言いました。
「おじょうさま。それはきっと かがみが、じぶんのことをこわがっているからです。」
おじょうさまは、首をかしげて しつじに聞きます。
「かがみが、じぶんのことを?」
しつじは、うなずいて 答えます。
「はい。おじょうさま。かがみは、じぶんが、こわいのです。」
「どうしてですか?」
おじょうさまは、また聞いてみます。
「そうですね…。おじょうさま。考えてみてください。たとえば 本当にかがみが、この世界で1番かわいい人を教えてくれたとします。」
「します。」
おじょうさまがくりかえして言いました。
「かがみは、聞かれた人 みんなに 世界で1番かわいい人を教えます。」
「はい。」
「すると、それを聞いた人は、どうすると思いますか?」
「う〜ん…。」
おじょうさまは、うでをくんで考えました。
「何か考えられましたか?」
しつじがおじょうさまに聞きました。
「いいえ。分かりませんでした。」
おじょうさまは、ざんねんそうに言いました。
「そうですか。何かを考えてみることは、大切です。ときどきやってみてくださいね。」
「それで、人はどうしてしまうのですか?」
おじょうさまは聞きました。
「人は、その人が1番かわいいのだと思ってしまいます。」
しつじは答えました。
「なんだ。そんなことなのですか。」
おじょうさまは、つまらなそうに言いました。
「はい。そんなことでございます。」
しつじは、わらって言いました。
「それで、なんでかがみは そんなことを教えるのがこわいのですか?」
おじょうさまは、ふしぎそうに聞きました。
「だれが、かわいいか、きれいか、うつくしいか。そのようなことは、人、ひとりひとりが思うことです。そんなことをじぶんが、決めてしまうことが かがみにとって とってもこわいのですよ。」
しつじは、ほほえみながら答えました。
「う〜ん…なんとなく分かりました。」
おじょうさまも ほほえんで 言いました。
すると、しつじが時計を見てから 言います。
「さて、おじょうさま。そろそろおやつのお時間です。今日は、どちらでめしあがりますか?」
「わたしのへやでおねがいします。」
おじょうさまは、少し考えてから言いました。
「分かりました。では、おじょうさま。先におへやにおもどりください。」
しつじが、そう言うと
「はーい!」
おじょうさまは、元気にこたえました。
今日もおじょうさまとしつじのくらすおやしきでは、魔法のかがみがおかれた おじょうさまのへやで おやつの時間が始まります。
いかがだったでしょうか?
今作から実験的に童話らしく平仮名をベースに執筆させていただきました。善処しましたが、読みにくかったらご指摘くださいませ。
もちろん、ご感想もお待ちしております。
さて今回は、みなさんきっとご存知な あの有名な鏡のお話を題材に書かせていただきました。
今作は、この鏡を登場させるに当たって二次創作の扱いとして投稿しておりますゆえ、新着の短編小説 には載らないのですよね…とほほ。非常に残念です。
追記→おっと。載っているではありませんか。前言撤回でお願い致します。
因みに この「お嬢さまと執事とかがみ」は、シリーズ化しておりますので お気に召しましたら他の作品も読んでみてください。きっと お楽しみいただけるでしょう。
それでは、本日はこのへんで。
ご機嫌よう。