1パート
真美の研究室に入った時、拓人は驚いた。物が何もない。機器がなく、パソコンしかない。学生は2人いて2人ともパソコンを使っている。
「研究室見学の学生さん連れてきた。」
真美が大人しく言うと2人いた学生のうちの片方がすっくと立ち上がって拓人を見た。全身をなめるように見たあと腕をじろりとみた。
「ふーん。真美ったらたまにはやるね。さて、下級生。ちょうど力仕事をして欲しかったところ。」
「え。力仕事ですか?」
「そうなのよー。アンケートを運ぶんだけど重くてさぁ。やっぱり男手が欲しいんだよねぇ。」
「志穂。アンケートの運搬やらせるの?研究室見学の学生に?」
「なに?なんかあるの?文句あるならアンケート運搬を真美がやんなさい。」
全く拓人には反論の余地がなく、運ぶ事となった。紙媒体なわけだしとなめていたが案外重い。戻ってきたらへとへとだった。
「いやぁご苦労!若者よ!案外役に立つではないか!」
もはや怒りを通り越して清々しさすら感じる。真美と志穂とも違うもう一人の女性がお茶をいれてくれた。
「ありがとう。志穂は口は悪いけど感謝してるんだよ。あれは研究室みんなのアンケートでどうやって運ぼうかって不安がってたの。私達みんな力弱くてね。私は瑠奈。」
瑠奈さん。物腰の柔らかい人である。志穂の後にあったのかなおのこと優しい感じがした。
「真美。もしかしてあなた。運ばせるつもりで拓人くんを連れてきたんじゃないの?」
真美はだまっていた。あたりのようである。母さんは頭がよくそういうところがとても狡猾だった。この頃からそうだったのかと拓人は思った。しかし、真美の狡猾さで家族が何度も救われてきた事があったのもまた事実である。優はにこやかだが騙されやすい短所があったのだ。真美の機転で何度も助けられて来た。
「拓人くん、ありがとう。」
笑顔で笑いかける真美の顔を見ながら恐れ入ったと思った。
ドアをノックする音がした。真美が開けると優だった。
「ちょっといい?拓人くんに手伝って欲しい事が。」
真美はいいよと言って頷いた。真美と志穂、瑠奈に軽く挨拶をして優について行った。
研究室に戻ると、優は必死な顔をして言った。
「僕がレバーをがちゃがちややってた時どれ引っ張った時に隆弘くんが大声だしたか思い出してくれ。」
内心えーと思いつつ頑張って思い出す事にした。