1パート
「あー、どんな研究をしているのか気になりまして。」
「なるほどわかったぞ。研究室見学だな!君は三年生か?いや、何年だろうがさして問題ではない。いやぁ、うれしいよ。来年度は学生は来ないのではと心配していたからね。お茶やお菓子もあるし是非ひと休みしていくといい。いやいや、遠慮はいらないよ。」
確実に自分の父である。おしゃべりで勢い任せ。なんの発言も許されず研究室に連れていかれ、コーヒーとお菓子を出された。
「優くん。学生を連れてきたのはいいけど、本当に研究室見学の学生なのか?また早とちりしたんじゃないのか?」
「吉田さん、おはようございます。いや、大丈夫ですよ。」
入ってきた人は吉田さんだ。拓人も軽く挨拶をした。飛ぶ前にいろいろと話してくれた人だ。逆算すれば35歳か。若い。というよりもまず父さん、というかお父さんではないので優さんは早とちりしている。何がどう大丈夫なものか。
「ならばいいのだが。教授、助教授はいないし講師の先生も出かけてるし俺も10時くらいにここ出るから。」
「学会ですか?」
「そうそう。明日発表だから今日のうちに行っておく。ご馳走してくれるらしいし。」
「うーわー羨ましいです。僕も行きたい。」
「優くんが行ったら交通費の方が高くつくからな。」
「交通費出ないのが痛いですね。」
「だな。今は9時くらいだからあと1時間くらいならここいるから何かあれば。というか優くんの研究風景を見せればいいのでは?派手だし。」
「ありがとうございます。」
吉田さんは、お菓子をいくつかもって出て行った。
「さて、立ち話もなんだから研究室へ行こう。」
研究室のドアを開けるとさまざなパソコンなどの機器が置いてあった。拓人がまず驚いたのはパソコンがとても大きい事であった。厚みが3倍近くある。まるで家具である。
「んで、名前は?」
「拓人です。」
「いい名前だな。では拓人くん。君は次元というものは知ってる?」
「はい。何度か聞いた事が。」
「霧の中で場所がいきなり移動するという事例が過去何回か外国であったらしい。それの再現が出来れば移動技術は飛躍的に進歩する。次元が関わっているではないかと。霧の条件をいじってやろうって話さ。」
「うまくいくんですかそんなこと。」
「うちの先生が偶然霧の中で物が移動したのをうまく行かせちまったからさ、その再現が出来ればいいのさ。」
「吉田先生でしたっけ?」
「いやぁちがうね。吉田さんは将来的に教授になりたいとは思ってるけどまだ助手だね。」
「あ、そうでしたか。」
「第一、入り口に矢澤研究室って書いてあっただろ。」
「あ、そうでしたね。」
話をしながら研究室の奥へ行くと3人が研究していた。
「今のところ大学院生は僕を含めて4人。卒論生は5人いるけど今日は先生がいないからこれ幸いにとみんな遊びに行ってて今日はいない。それぞれ、気圧と水分量と温度、あと場所を変えてやったりしてる。」
3人は3人ともそれぞれあいさつしてくれた。広明さん、隆弘さん、名前も名乗ってくれたがやはり一回では覚えられなかった。しかし、広樹さんはおぼえられた。大柄なため広樹と言う名前がじつにぴったりでそのせいで覚えやすかった。
「広樹くん、吉田さんはついてってご飯ご馳走になってくるんだって。んで何食べてるんだ?」
「俺も行きたかったなそこ。ん、これか、ビックリマンチョコっていうんだ。流行ってるんだぞ。」
「ふーん。そうなのか。ねぇそんなのどうでもいいんだけど、最新作のゴジラ見に行こうよ。今年のゴジラはなんかロボット使って細かく動くらしいよ。理系は身に行かんと。来月にはターミネーターって映画もやるらしいしあれも見に行きたい。」
「ターミネーターは俺も気になるんだよね。怖そうだけど。」
これが当時の流行りだったのか。拓人は心の中で言った。
「優くんも、広樹くんも拓人くん置いてけぼりになってるだろ。研究風景を見せるんだろ。」
「あ、そうだ。んで、拓人くん。こうして気圧を変えることで霧の状態を変えるんだ。次元が変動しそうならこっちのメーターが反応するから。」
優はいろんなレバーを引きながら拓人にやってみせた。拓人の方を見ていたのでレバーの方は見ていない。
すると突如隆弘が大声を出した。
「なんだよ隆弘くんはうるさいな。なんだってんだ。」
「いま、確実にメーターが動いたぞ。しかも大きめに。」
「ほんとかよ。どこ押した時だ?」
隆弘と優が機械に集中してしまった。