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生憎と神は信じないタチで!

作者: 無頼音等
掲載日:2014/07/24

 ――気が付くと、俺は見知らぬ美少女に縛られていた。


 「おお! どうやら気が付いたようじゃな!」

 「……これは一体どういう状況なのでしょうか?」


 俺は体の自由を奪っている縄を解こうと身じろぎしながら、目の前ではにかんでいる少女を観察した。

 彼女の髪は処女雪のように白くてさらさらと揺れ動いており、円らな金色の瞳がどこか幻想的だった。幼い顔立ちだが、豊かな果実を装備したしなやかな肢体には女性らしい魅力が十二分に備わっている。もし彼女がセーラー服を着ていなかったら俺と同じ学生だなんて分からなかっただろう。

 次に辺りを見回すと全面白い壁に囲まれているのが分かった。どうやらここはそれほど広くない部屋のようだ。そして密室。加えて美少女と二人きり。

 俺は一瞬、ここから逃げ出すべきなのか真剣に悩んだ。


 「ん? んん? ……もしかしてお主」

 「なな、ななんでごぜうますか!」

 「覚えておらんのか?」

 「……は? 覚えていないって、何を?」


 美少女が訝しむように柳眉の間に皺を寄せた時は俺の邪な心を見透かされたのかと危惧したが、そういう事では無いようで安心した。しかし彼女の言葉が気に掛かる。俺は一体何を忘れてしまったのだろうか?

 彼女は俺の事を知っているようだが、俺は彼女の事を全く知らない。ついでに言えば何故縛られているのかも分からない。俺が忘れてしまったというのはやはりその辺りの記憶なのか。


 「仕方ないのう。ならば、わしとお主の奇跡の邂逅を赤裸々に語ってやろうではないか!」


 そうして貰えると有難い。しかし何故彼女の話し方はこう年寄り臭いのだろう。何だか時代劇に登場しそうなお姫様みたいだ。そんな事を考えていると――


 「まず最初に言っておくが、わしは神じゃ!」


 ――という世間知らずのお嬢様でも言わなさそうな台詞を耳にした。

 俺はつい不審者を見るように怪訝な視線を目の前の美少女に飛ばした。自称神と名乗った彼女は「ふふん」と鼻を鳴らし、誇らしそうに笑っている。それを認識した瞬間、俺の目は不審者から可哀想な人を見るようなものに変わった。

 ああ……これは中二病って奴だな。俺の妹も今患っている最中だから分かる。

 妹がブドウジュースに口を付けながら俺に向かって「三世代の時を超え、あの時交わした契約をもう一度結ぼう」と言ってきた時の衝撃は中々強烈だった。現実世界に妄想を持ち込み始めた妹に混乱した俺は「あの時ってどの時?」などと真面目に考え込んだし、「とうとうこいつにも訪れたか」と嬉しいような悲しいような複雑な気持ちにもなった。

 俺は結局妹にどういうリアクションを取ったんだっけ? 確か「そのジュース、親父が口付けた奴だぞ」と親切に教えてあげた気がする。そして妹がダッシュでトイレに向かっていったのを生暖かい目で見守ってあげたのだ。


 「…………という事なのじゃ!」

 「あっ、悪い。全く聞いてなかった」

 「な、なんじゃとぉ!?」


 美少女は顔を真っ赤にして御冠だ。というか怒ってる顔も可愛いな。これだから美人は得するんだろうな。しかし何という事だ。これでは俺がどうしてここにいるのかちっとも分からないじゃないか。どうりで俺の回想が長かったような気がするぜこんちくしょう。


 「すまないがもう一度説明をプリーズ」

 「うぐぐ……仕方ない奴じゃのう! 良いか! よーく聞くがいい! わしは神じゃ!」

 「それはカットで」

 「なんと!?」


 気分を害した事は悪いと思うけれど、俺は妄想よりも現実に起きた事を説明して欲しいのですよ。眦を吊り上げた美少女を見てそんな事を考えていると、彼女はそんな思考を強制停止させる光景を作り出した。

 どこから取り出したのか、大の男でも持つのに苦労しそうな巨大なハンマーを美少女は軽々と片手で振り回している。ハンマーの見た目がピコピコ音を鳴らす玩具にしか見えないので、一見するとコミカルな光景ではあるのだが、ブォン、ブォンと唸るような轟音が俺の唇をひくつかせる。

 あれ? 待てよ。つい最近もあんな化け物ハンマーでぶん殴られたような気がする。いや、まさか。一体どんな状況ならそんな体験をするって言うんだ。しかし記憶に無くとも体は覚えている。


 「やはり記憶喪失にはこれが一番じゃろうて!」

 「待て! 気を確かに! 冷静になるんだ! 俺達はきっと分かり合え……ぶはぁ!?」


 美少女が体を回転させるようにハンマーを振りぬき、縛られて動けない俺にぶち当てた。全身を打ち砕くような痛烈な一撃が俺を容赦なくぶっ飛ばし、部屋の隅に叩きつける。おかげで酷く脳が揺れた。頭がクラクラする。目もチカチカするし、肺にもダメージがあったのか上手く酸素を取り込めない。

 だがしかし、これで全てがはっきりした。地球を一周して元の場所に戻ってくるように、俺の記憶も先程の一撃で元に戻ったのである。



***************



 俺の名前は神崎圭介かんざきけいすけ。思春期、中二病、共に通過済みの高校一年生だ。

 俺は入学式を終え、中学からの友達と女子高生のレベルの高さを語り合ったのち、一人寂しく下校していた。俺の両腕には誰もいない。去年までは歳が一つ離れた妹がしがみ付いていたというのに、今は誰もいない。馬鹿な。これではまるで俺が彼女無しの童貞みたいじゃないか。いや事実だけども。


 「くそぅ……。外だと恥ずかしいと思っていた妹の甘えっぷりを恋しくなる日がやって来るとは!」


 これが高校生というものか。中々にきつい試練を出してくるじゃないか。だが俺はこれくらいじゃへこたれないぜ。男は常に孤独の道を突き進むのさ。将来独身にはなりたくないけど。まぁそれは大丈夫だろ。あの父親ハゲでも結婚してるんだし。

 俺は未来の見通しが明るい事が分かって安堵し、誰も見て無いことを良いことに鼻歌を交えながらスキップを踏んだ。


 「あ、あのぅ……ちょっといいですかぁ?」

 「はい?」


 そんな時、後ろから俺を呼び止める声が聞こえた。そして、後ろを振り向いた俺は暫し口を開くことが出来なかった。

 そこにはセーラー服の美少女が立っていたのだ。それもクネクネと不自然に体を動かしながら。今時こんなあからさまな誘惑をしてくる人はいないと思うのだが、それでも俺は「これが噂のハニートラップか?」などと考えて警戒してしまった。


 「ちょっと道に迷ってしまってぇ……困っているんですぅ。助けてくれませんかぁ?」

 「勿論」


 しかし美少女が困っていると言っているのだ。無視するわけにもいかない。もしかしたらこれがきっかけで彼女が出来るかもしれないし。

 神も運命も信じない俺だが、この時ばかりは「立った! フラグが立った!」と舞い上がっていた。人の信条なんて所詮そんなものだ。実に都合よく出来ている。


 「それで……えーと、貴方の名前は?」

 「私の名前はぁ、アリアって言いますぅ」

 「なるほど。あ、俺は圭介って言います。それで、アリアさんは何処に向かいたいんですか? 自慢じゃないですが俺は十五年この町に住んでますからね。近道も裏道も猫の通り道さえも網羅していますよ」

 「わぁ! 本当ですかぁ! 凄いですぅ! ……それじゃあ人気のない公園とか案内できますかぁ?」

 「イエス」


 一々猫撫で声で返事をするアリアさんに俺はイラッとしつつも冷静な対応をこなして見せた。これは逆ナンというものだろうかと希望的観測を見出したからだ。それに人気のない公園だって? もしかして俺は童貞を喪失することになるのだろうか。やだ、凄い楽しみ。妹よ、俺は今日で大人になります。

 そう思って俺はわざわざ最短かつ人気のない道を選んで、目的の場所まで彼女を案内した。それは少しだけ古ぼけた空き地のような公園だ。小さな時計台と滑り台があるだけで、他には何も遊具がない。昔はブランコも搭載されていたのだが、新しい公園が出来た時にそちらへ拉致されてしまった。そのおかげで近所のガキ共はあっさりこの公園を見限り、新しく出来た方へ遊びに向かうのだ。よってここに来る奴は殆どいない。いるとしたらやましい事をしようと企んでいる不良とかだろう。


 「ここなら誰も来ないと思いますけど……どうしてまた人気のない公園なんかに来たかったんですか?」

 「えっとぉ……実は私ぃ……貴方にお願いがあるんですぅ」

 「俺に出来ることなら何だってやりますよ」

 「本当ですかぁ!」


 俺はアリアさんの望みに全霊を持って応えようと爽やかな笑みを作ってみせる。彼女はそんな俺にベタ惚れだ。勿論全部俺の妄想だけど。

 とにかくアリアさんは俺の腕を掴むと公園の真ん中まで連れて行き、一度深呼吸をしてから俺の目をじっと見つめてきた。そして真剣な声色でこう言ったのだ。


 「私はぁ――実は異世界の神様なんですぅ。それで貴方を勇者として迎えに来たのですぅ」

 「すみません。宗教勧誘なら他所でお願いします」


 俺は丁重に断ってその場を去る事にした。

 何だよくそっ。馬鹿馬鹿しい。ちょっと期待して損したじゃないか。

 俺はそんな子供じみた感想を心の中で呟きながらアリアさんと別れようとした。しかしアリアさんはせっかく釣り上げた得物を逃してたまるかと必死に俺の腕にしがみ付く。やめろ! そこは妹の特等席なんだ! 電波さんが占領していい場所じゃない!

 逃げようとする俺と離そうとしないアリアさん。しばらくの間二人の攻防が続いた。


 「お願いじゃ! ちょっとでいいから! ちょっとでいいから話を聞いてくれ!」

 「嫌だ断る。俺はもう中二病を卒業したんだ。こんな所で混沌の世界ケイオスワールドに引き返してなるものか!」


 ああ、俺の黒歴史が甦ってくる。やめろ。妹の前で「爆ぜろリア充、弾けろカップル」と決め台詞を言っていたあの頃の記憶が、羞恥心となって俺を襲う!


 「お願いじゃ! このままだとわしは泣くぞ!? こんな美少女を泣かしてお主は平気でいられるのか!? わしはお主の良心を信じたい!」

 「出会って間もない俺を信じられたって困る! 大体俺が優しく出来るのは妹とノーマルな美少女とエロいお姉さんだけなの! 電波が入ったアブノーマルは俺の許容量を超えてます!」

 「嫌じゃ嫌じゃ嫌じゃ嫌じゃ嫌じゃ嫌じゃ嫌じゃ!」

 「うわぁ……今度は駄々捏ね始めたよこの人」


 不味い。ここは人が滅多に来ない公園だが、もし人に見られたら確実に俺が悪者にされてしまう。人はいつだって美少女の味方だからな。美少女が黒と言えば白い物も黒に変わる。それだけはなんとしても回避せねば。それに、アリアさんの涙を見てほんのちょっぴり罪悪感を覚えたのも確かだ。


 「……くっ! 気に入らないが、仕方ない」

 「話を聞いてくれるのか!?」


 くそぅ。嬉しそうに笑いやがって。これじゃ断れないじゃないか。

 俺は不服ながらもアリアさんの言葉に頷いた。


 「よっし! 流石はわしの勇者!」

 「勇者言うのやめてくんない?」

 「細かい事は気にするな。さて、まずはお主に力を与えねばな」

 「いらんわ。さっさと話を終わらせてくれ」

 「あ! さては貴様、わしの言葉を信じておらんな!? 神の力は絶対なのじゃぞ!」


 こっちは話を聞いてやろうって言っているのにアリアさんは何がご不満なのか、眦を吊り上げて俺を睨みつけてきた。彼女の態度は非友好的だ。これでは肝心の話とやらも聞けやしない。俺は肩を竦めて溜息を吐いた。


 「生憎と神は信じない性質で」

 「~~~~ッッッ!」


 そして俺のこの一言がアリアさんの逆鱗に触れてしまったようだ。彼女は地面に手を突っ込むと、己の身の丈よりも数倍でかい巨大ハンマーを引っこ抜いた。そしてそれを片手で持ち上げ何度も回転させる。化け物ハンマーはその度に風を切り、バイクのエンジン音のような音を鳴らした。

 もうこの時点で俺は考えることをやめていた。ただあんなので殴られたら死ぬんじゃないかと思って化け物ハンマーとそれを担ぐアリアさんとを見比べていただけだ。

 そして、危惧していた事態が現実になった。


 「信じないのならば……実力行使じゃ!」

 「ぶぎゃう!?」


 俺は頭から化け物ハンマーを叩きつけられ、そのまま意識が暗闇の中へ沈んでいくのだった。



***************



 「――『俺がお前を守ってやる……永遠にな』。そう言ってお主はわしの唇を奪い、勇者の契約を結んだのじゃ」

 「全部大嘘じゃねえか!」


 俺が取り戻した記憶から回想を始めている間に、アリアの奴は事実を十割歪曲した妄言をベラベラと語っていた。何が『俺がお前を守ってやる』だ。俺はもう中二病は卒業したんだよ。出来ない事は言わない人間になったのさ! というかこいつ、最初に話していた時もこんな感じだったのか? 聞かなくて良かったぜ。


 「……チッ! お主、本当に記憶を取り戻したのか。せっかく頭を打ち付けて朦朧としている間に洗脳してやろうと画策していたのに」

 「何て事を考えてやがる」

 「しかし、これでわしが神だということは信じてくれるじゃろう?」

 「まぁ……人間じゃない事だけは確かだな」


 流石にあのどでかいハンマーを何も無いところから取り出すなんてマジシャンにも無理だろう。気に入らないが、そこは認めるしかない。だがそれが分かったとして、こいつの目的は一体何なんだ?

 何故こいつは俺をあの場で気絶させ、この部屋に誘拐したんだ。しかも望んでもいないのに束縛監禁プレイだ。これは貞操の危機かもしれない。


 「ふふふ。ようやく話が通じるようになったところで改めて自己紹介をしようか! わしは【アーク・ワールド】という異世界の女神、アリアじゃ! お主を勇者として迎えに参った者なり!」

 「……本当に電波が入ってるんじゃないのか?」

 「失礼な! また殴られたいのか!?」

 「すみません気のせいでした。どうぞ、話を続けてください」


 どうやらここは黙って話を聞くしかないようだ。また余計な事を言ってハンマーの餌食になるのはご免だ。次喰らったら死ぬかもしれん。


 「ふふん、分かればよいのじゃ! それでは早速説明するかの。まずさっきも言ったが、わしの目的はお主を勇者にして【アーク・ワールド】の危機を救ってもらうことなのじゃ」

 「それは初耳だな」

 「何故お主が勇者に選ばれたのか気になっているようじゃな? それはな、世界を救うとなると強力な勇者を生み出す必要があるが、その為にはわしの加護を受け取れる者が必要になる。それがお主だったのじゃよ」

 「別に気になってないけどな」

 「勝手に異世界に連れて来たことは無礼であったと謝罪しよう。しかし、わしはお主の良心を信じておる! どうかわしの勇者となって、世界を救ってくれ!」

 「ちょっと待て! 今聞き捨てならない言葉を耳にしたんだが!?」


 こいつ今異世界に連れて来たって言ったのか? まさか……えっ? 嘘だよな? そんなもの、ゲームとかマンガの世界の話だろ? でもこいつは少なくとも人間じゃない。ということは信憑性もある……えっ、じゃあ妹とはもう会えないの? あれ? 涙が出てきた。


 「さて、では早速お主に力を与えよう。お主の世界で言う“チート”という能力をな」

 「いらん! 勇者になるつもりもない! さっさと俺を家に帰せ!」

 「……勇者になるとハーレムに」

 「ちょっとだけ話を聞こうじゃないか!」


 全く、危ない危ない。短絡的な言動は控えるべきだ。ここは冷静になろう。冷静に損得勘定を考えるんだ。聞かなければならない質問を尋ねたうえで、ここは慎重に考えよう。


 「勇者の話をする前に幾つか質問したいんだが」

 「ん? 何じゃ? わしのスリーサイズなら教えんぞ」

 「それは残念だ……じゃなくて! その、お前の言う世界の危機ってのは具体的に何なんだ? あと、世界の美人率は俺の世界に比べてどうなんだ!?」

 「何故後半の方で必死になるんじゃ? まあいい。世界の危機とは封印されていた魔王が復活し『世界は我のものだ』と宣言したことなのじゃ。故に勇者になって調子に乗ってる魔王を軽くボコって欲しいのじゃ。それと、美人は確実に多いのう。イケメンも多いが」


 世界の危機が魔王の復活って定番だな。しかも予想以上にアリアの頼み事が軽い。何だよ、軽くボコれって。出来の悪い子供を叱るような感覚で良いのか? しかし美人が多いのかそうですか。イケのあたりで耳を塞いじゃったからその後の言葉は聞き取れなかったけど、これは中々美味しい話なのではないですか?


 「俺が魔王をボコったら元の世界に返してくれるのか?」

 「お主が望むならそうしてやろう」

 「因みに今返してもらうわけには」

 「わしはお主の良心を信じておる!」


 んだよ。結局選択肢は一つだけかよ。ゲームでも確かあったな。どっちの選択肢を選んでも結果が同じ展開が。まさに今そんな感じだな。アリアが美人じゃなかったらぶん殴ってるところだったぜ。

 仕方ない。ここは美人に応じてやるか。


 「分かった。要はハーレムになればいいんだろ?」

 「お主がなるのはハーレムではなく勇者じゃ! ……まあ分かってくれたのならよい。今からお主に勇者としての力、わしの加護を授ける」

 「それはいらん」

 「何でじゃ!」


 アリアは完熟したトマトみたいに真っ赤になって激怒している。そんなに加護を与えたかったのか。しかし俺はゲームを遊ぶ時、チートや攻略本には頼らない主義なのだ。こつこつとレベルを上げて、自ら考案した作戦を用いてボスを仕留める事を楽しむタイプでもある。まあ、たまに優越感に浸りたくなってバグ技やら裏技使ってボスを瞬殺することもあったけれど。とにかく基本的には普通に遊びたいと思う人種のだ。そして何よりも俺は――


 「――生憎と神は信じない性質で」


 次の瞬間、俺は凄まじい勢いで化け物ハンマーに殴り飛ばされた。視界がぐるぐると周り、部屋の壁に激突した。意識が飛びかける。それだけならばまだマシだったかもしれない。

 しかし部屋の壁は俺を受け止めきれず瓦解し、俺を部屋の外に放り出したのだ。部屋の外は見事なまでに青い色で囲まれている。空だ。今俺は、空中にいる。そして落ちている。


 「ああ!? しまった!」

 「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」


 こうして俺はわけも分からないまま異世界の旅に出てしまった。縄で縛られたままで真下に向かって。つーかこれ死にますよね。死にますよねコレ!

 どうしようもない恐怖が俺を襲った。走馬灯が脳の中を駆けて行く。可愛い妹。ハゲ。母さん。友達。中学の頃お世話になった水柴先生。皆……さようなら。

 見なければ良いのに俺はつい下を向いてしまった。より一層恐怖が俺を苛烈に襲い出す。真下には禍々しい雰囲気の城があり、その屋根に俺は激突する。激痛がした。しかし俺はまだ死んでない。これは助かるのか?

 屋根を貫通し、暗い部屋の中に到達した俺の落下速度はまだ止まらない。そして真下で大きな椅子に踏ん反り返っている、なんか黒い奴の頭上に墜落したのだった。


 「ぐぼあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」

 「あいたぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」



***************



 気が付くと俺は自分の部屋のベッドで眠っていた。何故か妹が潤んだ瞳で俺を見下ろしている。一体どうしたというんだ。今度はどんな設定で俺に迫ろうとしているんだ?


 「お兄ちゃん……大丈夫?」

 「大丈夫って何が?」

 「あの女に変な事されなかった?」

 「は?」


 どうやら妹の話によると、俺は頭にたんこぶを作った状態で白い髪・・・の美少女に運ばれてきたらしい。しかもその少女は自らの事を俺の婚約者だと言っていたそうだ。きっとそいつは中二病なのだろう。まあ気絶していたところを助けてくれたそうだし、悪い奴じゃなさそうだ。機会があったらお礼しないとな。

 まあその話は後だ。それよりもまず俺がやらなければならない事は、目の前で拗ねている妹のご機嫌取りである。

 そうして俺が何事もなく一日を過ごした次の日。


 「神の力を使わず魔王を倒すとは、やはり私の勇者じゃったの!」

 「宗教勧誘は他所でやってくれ」


 頭のおかしい女が見舞いに来たので俺は早急に追い払った。なにせ俺は――


 「――生憎と神は信じない性質で」

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