第一話
それはあるいは、一つのきっかけに過ぎなかった。
ただ、人は。
ただ、人はいつまでも、いつの時にも、宇宙の星々に恋焦がれながら、
大地から離れることができない。
…あまりにも大きなそれに圧倒される。
砂粒のようなちっぽけな私の悩みなど、本当に小さなものだと思い出す。
それでも人は、その悩みを抱え込み、もがき苦しみながらも今日を生きる。
ーーーこれは、今よりも未来の話。
人間は地球に残った人々と、
大地を離れ、宇宙へと生活の拠点を移した人々の二つに分かれた。
そんな時代の話。
ーUD203年.4月10日ー
ー本日も気象プログラムに異常なしー
ー8:47に起床ー
ー9:00 宇宙ステーション内、アカデミー中等科へ登校ー
中略
ー16:45 エアリアル練習後、友人のソランと下校ー
ー18:02 夕食ー
ー19:49 今日は久しぶりにバスタブを出して湯に浸かるー
ー20:28 就寝ー
……俺は簡単に日記を打つと、端末を放り投げてベッドに寝転がった。
「…めんどくせ」
親に聞かれたら、それこそ面倒になる独り言をつぶやく。
1日の報告は、宇宙に住む人間にとって義務である。
と教えられたのは、いつだったか忘れるくらい小さい時の話。
物心着いた頃には打ち始めていたから、簡単にでも作成しておかないと落ち着かない。
その過程を面倒だと思うようになったのは、ソランのせいだと、寝ぼけた頭でぼんやり考える。
……
「宇宙で暮らすには、状況把握能力、そして規律と協調性が必要です。
宇宙ステーションアカデミー中等科へ入学した皆さんには、この3年間でこの3つを身につけて、高等科への進学をしてもらいます。
最高の教師たちが皆さんを教えますので…」
中等科の入学式。俺も含めたその他大勢が校長の話を真面目に聞いている中、
「ふぁあ…眠い……」
と、誰よりも興味がなさそうに聞いていたのが、ソランだった。