狭き門より入れ(Matthew 7:13) 2
55.空気詠まず。許してくれ。
東の御方=『淑景北記』はわかったけどさ
それがウィチハンの赤羽=魔女とどう繋がるわけ?
結局赤羽ってなにもん?
アドミンってなにもん?アドミンの目的ってなに?
オレがバカだから?根本がわかんねえ
58.=ユースケ
みんなマジありがとう。特に24、感謝してる。
55、お前の言うとおりだ。まだ俺たちはなにも分かっちゃいない。
アドミンの正体、割るぞ。
辛いだろうけど。動画見て気づいたことを上げてくれ。
66.アドミン登場シーン。絶対おかしいだろ。
バイク後ろ向きに乗って、どうやって運転すんだよ?
つうか後ろ向きに乗る理由ってなに?
69.周りに腹切られた赤んぼの人形があるのはなんで?
まじきもい。
ちょっと前にニュースになった大量窃盗のことかな?
70.アドミンはいつから赤羽に目をつけたのか
チェーンメール回したの、アドミンだろ
てことは、少なくとも6月より前から赤羽をハメようとしてたってわけだ
73.ユニコ@賞金稼ぎ
笑わないでください
アドミンこそ、魔女じゃないかと思うんです
・バイク後ろ向き乗り=魔女の世界では、物事は全部反対なんです
デューラーの銅版画にもあるけど、魔女は雄ヤギに後ろ向きに乗ってる
・赤ちゃんの人形。魔女は、魔力を保つため
またはサタンへの生贄として、嬰児の腹を割いて薬にするとあります
本物使わなかった理由はわからないけど…
わたしはアドミンが魔女のようなな気がするんです
80.ヒラ公僕@守秘義務っておいしいの?
書きこむべきかずいぶん迷ったけど、役に立てば…
連続通り魔事件。ここでは「魔女狩り事件」でいいよな?
1件目だけちょっと変なんだ。
他の被害者は犯人に「魔女だといわれ」て「襲われた」んだけど、
1件目の被害者だけは魔女だと「いわれてない」。
捜査本部はスルーだから、これは現場の人間しか知らない。
被害者は25歳の会社員の女性で、実は妊娠5か月だった。
夜中突然襲ってきた「老婆」に、腹を切り裂かれそうになった。
でも「老婆」はなぜか躊躇して、結局逃げた。
逃げる際、「私を恨むなら、殲滅戦を恨め」と言ったらしい。
あーーーこれででおれも免職かな!
ユースケ、この情報生かしてくれ。赤羽を助けてくれ。
なにもできない自分がくやしい。
82.魔女狩りを煽ってたアドミン自身が、魔女って、マジかよ!
83.1件目とそれ以後の魔女狩りが別ものってこと?
で、1件目は赤ちゃんが狙い=魔女?=アドミン?
御舟が呟く。
「確かに、魔女は人間ですから、皇居の守護網にはかからないかもしれません。江戸幕府は、魔女などハナから敵と見なしてなかったでしょうしね。なにしろ海を渡れないのですから。うん、説明はつく」
「この公僕って、きっと赤羽っちと顔見知りだな。ユニコはウチの賞金稼ぎだ。信憑性は高い」
「拝島さん、新聞社で把握してる日本の魔女リストを!」
拝島は過去の新聞の合本をめくった。
「東の御方は例外として……『ミチナリノキヨヒメ』、これ歌舞伎の『京鹿子娘道成寺』の清姫じゃん。大物すぎ。パス! 『クロツカ』も『奥州安達原』でパス! 他は『ブリューネスハイム』な。こいつが一番怪しいけど、素性が知れねえんだよ。《殲滅戦》に絡んでたってのは分かってるけど、名前が知れだしたのは戦後だ。白峯の旦那の方が詳しいんじゃねえか?」
御舟が珍しく慌てた声で叫んだ。
「堺君、大変です! 茗さんが」
92.やべえユースケ、避難板乗っ取られたぞ!
赤羽の妹を殺すって言ってる!どうしたらいい!
「……なんだって」
ブラウザのタブを切り替えて避難板を表示させた。悠介の解明板設置の書きこみから下火になっていた避難板だが、全ての投稿が削除され、画面が真っ黒に変えられていた。ひとつだけ残った投稿。
1.アドミニスター
やってくれるじゃん、ユースケ。
あたしは。そうさ魔女。
赤羽出せ。じゃないと赤羽の妹殺す。
添付された動画を再生すると、あの男子が殺されたのと恐らく同じ場所で、口を粘着テープで封じられた小学生くらいの女の子が、椅子に縛りつけられていた。肩までの髪を結んでいる。黄色いカーデガンにジーンズ。目に涙をため、こちらを見ている。
フレームの外から例のくぐもった声がした。
「今夜じゅうに赤羽を出せ! 妹を殺すぞ! 公開処刑だ!」
ピピ、と再び着信音が鳴った。
「妾が出てもよいか? 妾、けいたい使ったことなくて」
発信は佐田からだった。迷わず通話ボタンを押した。
「ああいけず」
「……赤羽君」電話の向こうで佐田はしゃくりを上げていた。「ごめんなさい……ほんとは……なんども言おうと……」
「佐田? なに、ど、どうしたんだ?」
泣くばかりで次の言葉が続かない。と、代わりに他の人物が出た。静かで落ち着いた声。石垣だった。
「今の精神状態だと無理っぽいから、俺が話す。佐田から全部聞いた」
「全部?」
「ウィチハンとやらの、はじまりについて」
石垣は、次のように話した。
一比古が転校する前のこと。林間学校の三日後くらいに、佐田の家を「新しく賞金稼ぎになった」と話す女性が訪れた。勉強のため眞夜中新聞のバックナンバーが読みたいというので、見せてやった。
女は、海坊主からA・K君がクラスメートを守ったという記事を熱心に読んでいたので、佐田は親切心から赤羽の事を教えた。
「へええ、すごい子もいるのねぇ」
と女は感心したように言ったという。その日はそれで終わった。
『赤羽一比古は魔女だ』というチェーンメールが広まるのは、それから数日後のことだった。佐田は女の素性を怪しんだが、再び女が現れ、
「真夜中新聞社に知らせれば、お前の両親を殺す」
と脅したので、誰にも言えなかった。正体が分からない。それがなにより恐ろしかった。
そして一比古が平巡査に補導された日、佐田は三度、女に呼び出された。女は下級審問官を殺せと命じた。佐田は呪縛を振りきって逃げた。女は何度か攻撃してきたが、最後は諦めたようだった。
「そういえば、交番に来たとき、佐田は怪我してた」
「逃げてきた直後だったんだ。たぶんその女が下級審問官を殺し、お前の妹を攫った。その女が、アドミニスターで間違いない。林間学校の記事を読んでお前に目をつけたんだ。今ウィチハン見てるか?」
「いいや」
少しの沈黙があり、石垣が言った。
「アドミニスターが、動画をアップした。赤羽を出さないと妹を殺すって」
携帯を取り落としそうになった。一瞬心臓が止まる。
かはっ、と肺から空気が漏れた。
東の御方が扇で一比古の頭を叩いた。
「しゃんとせい! 呪詛はそのままお主の身中に残っておるのだぞ。気を抜けばすぐさま喰い殺される!」
「わかって……る」
遠くで佐田の泣き声が強くなった。
ここにも、傷つけられた人がいる。
「佐田!」携帯の向こうに呼びかけた。「佐田は悪くない! 俺、絶対負けねえから」
「……ごめん。助けに行きたいのに。こ、怖い……よ、弱くてごめんなさい」
「大丈夫だ。石垣、佐田のことを頼む」
「おう。お前はやればできる子だ。小学校ん頃、いじめてた俺を殴り返した時から知ってる」
「ばーか。俺はまだ恨んでるからな!」
そして、ある文章をウィチハンに書きこんでほしいと石垣に告げた。
「御方、行こう!」
「阿呆、場所が分からぬわ。それに『淑景北記』がなければ術も使えぬ」
「分からなくたってじっとしているよりマシだろ。止めたって行く――」
「場所、知りたい?」
背後から女の声がした。反射的に糸を放つ。
「痛ぁ! 解きなさいよ! 右手完治してないんだから」
ショートパンツにレギンス。ハンチング帽。そして聖書。どこか緊張感の欠けた《魔女の鉄槌》審問官補佐。
「綾瀬?」
「そーよ。スターンさん、本領発揮。津久戸ってカメラマンの死霊を呼び出してガチで拷問。撮影場所を吐かせたよ。マジきっつかった~トラウマになりそう。おえええ」
と言って綾瀬は顔をしかめた。
なんで教える? 罠か。
「『罠だろ』って思ってるんでしょ、どうせ。これ、私の独断で動いてるんだから。帰ったら絶対ペナルティもんなんだから」
「なんでそこまでしてくれる?」
綾瀬はハンチング帽を取って頭を掻いた。小声で言った。
「私だって、あれから色々考えたの。人が死ぬこととか。魔女のこととか。そしたら、やりすぎたかなって思った。だから罪滅ぼし」
「……ちょっといい奴じゃん」
「フン。魔女狩り自体は悪いことだとは思わないもん。いい? 一度しか言わないよ。場所は、台場の青海埠頭のBブロック、一番海寄りの小さい倉庫。以上! 綾瀬帰還します!」
手にした聖書をばさっと開くと、光が溢れ出した。綾瀬の輪郭が薄くなっていく。去り際に、彼女はこういい残した。
「急ぎなよ赤羽。あんたの顔、死相が浮かんでるよ」
*
2.赤羽一比古
Schreiten, wie Nachtwächer!!
ウィチハンのみんなと一緒に戦ってる。
夜明けは、かならずくる。
*
第九章 日と月と星にしるしが現れるだろう(Luke 21:25)につづく




