第8話 彼女と焼肉
焼肉っていいですよね。実は、意外だと思うかもしれませんが、僕、焼肉が大好物なんです。え? 全然意外じゃないって? これは失礼しました。
さて、みんなでワイワイ騒いで食べる焼肉も格別ですが、彼女と二人で炭火で焼く焼肉を突付くのもいいものです。なので、彼女と焼肉を食べに行きました。
行って来た焼肉屋の名は「牛角」。チェーン店ですが、安価で肉の質も良く、さらに品揃えも豊富。僕のお気に入りの店の一つです。
さっそく注文し、肉皿が運ばれてきました。
僕は網に肉をたくさん並べるのは好きじゃありません。自分の食べたい分だけ焼いて食べるようにします。早速ロースを並べて焼きあがるのを待ちます。この焼きあがるのを待つ時間も好きです。
肉は半生がいいんです。あまり焼きすぎると肉汁が飛んでしまいますからね。口に入れた時にジュワッと肉汁が広がるあの感覚。想像するだけでヨダレが出てきちゃいます。
とか考えていると、いつの間にか網から肉が消えていました。見ると、彼女が口をモゴモゴさせています。どうやら僕のロースは食べられてしまったみたいです。
「デブが肉を食ってどうするんだ。少しは健康の事も考えろ。お前は野菜でも食えよ」
そう言って彼女は、まだ焼いてすらいない野菜を僕の取り皿に置きました。目の前に聳える野菜の山。さっき彼女が野菜を五人前も注文していたのはこの為のようです。やけに多いなぁ。そんなに食べきれるのかなぁ。彼女って野菜がそんなに好きだったかなぁ。と、あの時色々と考えていましたが、それは全て間違いでした。そう、この野菜の山は僕の健康を考えた彼女の優しさだったんです。うん、多分そうなんです。
でも、せっかく焼肉を食べに来たのに野菜だけなんて寂しすぎます。悲しすぎます。なので、僕はなんとか山盛りの野菜をたいらげ、カロリーの低い豚肉、トントロを注文しました。
早速やってきたトントロを網に乗せ出来上がるのを待ちます。五人前もの野菜を食べたので、既にお腹は膨れていましたが、肉は別腹って言うじゃないですか。余裕ですよ。
暫く待つと、程よく焼きあがった肉から、美味しそうな匂いが漂ってきました。僕は震える手で箸を掴み肉へと伸ばします。二十センチ、十五センチ、十センチ、五センチ……。
ですが、あと少しで箸が届く所で、僕のトントロちゃんは目の前で別の箸にさらわれました。見ると、彼女が僕のトントロちゃんを美味しそうに口に運ぶのが見えました。
唖然とする僕に向かって、彼女は邪悪な笑みを浮かべて言いました。
「豚が豚肉食ってどうするんだ。共食いする気か?」
僕の彼女はドSです。