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児童文学、短編集

ボロボロの木

 ここは森林の奥深く。でもちゃんと整備された公園の中なんだ。僕はその中にある一本の木。くぬぎや松の木、杉、桧、椿、金木犀。他にも沢山あるけれど、僕のプレートには『ボロボロの木』と書いてある。なぜこんな名前が付いたのかと言うと、僕の体がとても弱いからなんだ。すぐに皮が剥けたり、穴が開いたり、少しの衝撃でもボロボロ崩れてしまうから。



 背の高いくぬぎや栗の木は、面白がって体をユサユサ揺すって、わざとドングリや栗をぶつけてくる。松の木はとても背が高いから、遠くから僕目掛けて松ぼっくりを飛ばしてくるんだ。


 以前は僕の仲間も沢山いたけれど、皆が意地悪をするから、皆ボロボロと崩れていった。僕はとても悲しかった。僕たちはただ立っているだけなのに、精一杯生きているだけなのに、どうして意地悪をするのかな? 他の木にとっては悪ふざけのつもりかも知れないけれど、僕たちにとっては、体が傷付いて痛くて、とても苦しい事なんだ。皆の体は堅いから、分からないのかも知れないね。


 それでも僕は精一杯立っている。


 沢山の木に苛められても、風が意地悪をしても、一生懸命踏ん張って、力一杯手足を延ばして。僕はここに居るよって、太陽や小鳥たちにアピールしてるんだ。


 でも、どうして僕は頑張っているんだろう。すぐに崩れてしまうから、本当は立っているのだって凄く辛い。時々心が折れそうに成る。だけどきっとこの先、体の弱い僕だって何かの役に立てるって、僕が生まれた事に意味があるんだって、そう思える日が来るまで、僕は負けないで立ち続けていたい。







 今日はとても風が強い日だ。空の雲がぐるぐると大きく渦を巻いている。一番背の高い松の木も、他の中位の木たちも、物凄く葉を揺らして、枝を揺らして、倒れ無いように踏ん張っている。背の低い僕たちにも風が当たっていく。雨も強くなってきた。僕等は耐える。横殴りの強い雨にも、叩き付ける強い風にも。体が痛くても、バラバラに成りそうでも。いつでも僕たちは耐え抜いてきたんだから。






 朝になった。耐えきれなかった僕の体はボロボロに崩れて、地面に倒れていた。


 ここまでなのか、僕は何の為に生まれて、何の為に生きてきたのだろう。


 今まで僕に意地悪をしていた木たちが、悲し気に枝を揺らす。皆、悲しんでくれているのか…。目を閉じようとした時に、小さな双葉が目に入った。一本や二本じゃ無い。沢山、沢山、小さな双葉が風に揺れていた。


 これは、僕の子どもたち。こんなに沢山生まれてきてくれた。



 そうか、僕は命を繋ぐ為に生まれてきたんだ。僕が生きて来た事は無駄じゃ無かったんだ。そうか、そうか……


 良かった。僕の生まれた事に意味があって良かった。


 どうか無事に育って、僕の子どもたち。どうか逞しく生き抜いてね。


 僕は土に成って、子どもたちの為の栄養に、なるよ。









読んで頂き有り難うございました。


九州地方に生息する実際にある木です。本当にボロボロなんですよ~。




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― 新着の感想 ―
[良い点] なろうことなら、人生の終焉を迎える代償として己の存在意義を悟りたくありません。 なろうことなら、いまだ精気溌溂としている今、悟りたいと願います。 しかし、生あるうちに子孫を残せるものばかり…
[良い点] 良い話ですね! 「ボロボロの木」にすごく励まされました。 [一言] 「ボロボロの木」が命をつなげるために生きてきた、というのも、もちろん立派な目的だと思うんですけれど、きっとどんなことにも…
2013/02/22 19:14 退会済み
管理
[一言] どんな物にも、もちろん人にも無駄な命などないでしょう。小鳥や小動物、虫にとっても大切な宿り木です。そんなエピソードを添えても面白かったかも。昔からそこに立っている。木の生命力って本当に凄いで…
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