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魔術師の閉鎖試験  作者: あしべ
1章
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始まりの街ーアカプルコー【2】

「じゃあなー。もう悪い事すんなよー。」

「はい。すみませんでした。ありがとうございます!」


 ぺこぺこと頭を下げつつ去るBD。なんだかやたらと腰の低くなった彼はただ影響されやすい性質なだけで、良い奴なのだろう。

 この世界に着たばかりで調子に乗ってしまい、普段もつことの無い武器や、能力によって全能感に包まれてしまった事はおおきな理由の1つかもしれない。


「よし。無事に合流できた事だし、アーツ盤もらいに幻影旅団にでも行こうず!」

「その名前はやめるんだ。せめてギルドだ。」

「えー。幻影旅団とかかっこいいじゃん。盗賊とかいそうじゃん。」

「よし、そこでお仕舞いだ。古いネタを持ち出すんじゃない。」

「さーせーん。」


 そう嘯くジソウにやや頭が痛くなる相良だった。

 幻影旅団もとい、旅団はあまりにもシンプルなネーミングであるため、多くのプレイヤーからは親しみを込めて冒険者ギルドと呼ばれることが多い。

 旅団の主な機能は旅人登録から始まり、アーツの取り扱いやモンスターの素材売買、クエストの募集受注が上げられる。後目立つものといえばクラン(氏族)創設だ。

 パーティやレイドパーティーを組む場合は、個人間で行う事ができるが、クランを組んで拠点を据える場合は旅団で手続きをする必要がある。

 そして今回二人は、プレイヤーの必須項目である旅人登録とアーツを使うために必要となるアーツ盤を受け取りに旅団へと向かう事にする。


「気を取り直して。では行こうか。」

「りょーかいであります。」


 そういってジソウは敬礼のようなポーズをとるが、一方相良はそれを見てため息を吐くのだった。

 さて、ここで旅団の他に挙げられる、始まりの街の重要な施設、協会と教会について触れよう。

 ややこしいことに、なぜか読み方が同じ施設なので、一般的には協会を職人ギルドと呼ぶプレイヤーが多い。

 職人、という部分から想像できるように、協会の機能は生産職に関ってくる。

 こちらでは、生産職の登録から、道具屋武器防具屋といったNPAによるアイテムの売買を行う商店があったり、ランクは低いが、公共の鍛治加工場施設の無料利用が出来たりする。ちなみに、露天を開きたいときや店を持ちたいときにもこちらで申請をしなくてはならない。

 そして重要な事柄がある。

 それは、協会と旅団の両方で登録をしなければフィールドに出ることができないという事だ。どちらか一つでも欠けると、門番に待ったをかけられてしまい、外に出られない。これが、プレイヤーは全て生産職になるといった話に繋がるのだ。

 もう一つの施設、教会の呼び方は一部のプレイヤーを除いてそのままだ。

 ただ、機能の方は少し特殊で、椅子に座り、胸の前で手を組み神に祈りを捧げる格好を取る事で祝福を受け、微量ではあるがステータス補正をもらえるというものと、死に戻りの後、懺悔室に入り神父に懺悔を行うことで死に戻りのバッドステータスから復帰が早くなるといったものだ。

 そしてなによりも、慈愛に満ち溢れた美しい笑顔を持ち、夢と希望と男のロマンが詰まった素晴らしいシスターのエリーさんの出迎えが人気だ。いや本当に。性格設定が上手くいっているのか、天使のような素晴らしい人格者に出来上がっていた。

 ハイローズは多くのNPAに高度な人工知能を搭載しており、それはなかなかの完成度を誇っていて、日常生活の真似事はもちろん、お祈りに来るNPAのご老人や子ども、はたまたプレイヤーと、ある程度の会話が成立するようにできている。話しかければ笑顔で対応してくれる。下世話な言葉には眉をへの字にして困った表情をみせる。

 βテストで彼女にはまった人は後を絶たなかったという。

 ちなみに、彼女に下世話な言葉を言ったものはどこからとも無く現れた男どもに粛清されたという都市伝説があったりなかったり。


「……えーと、『メニューオープン』。で、お次は、『マップ・アカプルコ』!」


 ジソウは意識しながらキーワードとなる言葉を発する事でメニューを開き、始まりの街【アカプルコ】のマップを表示した。

 これが、意識することと現象に慣れることで、言葉を発さず今のようなメニュー操作を行ったり、アイテムを使用したりできるようになる。

 圧倒的な効率の違いが出るため、意識だけの発動をできるかできないかが初心者と中級者の判断基準になっている。

 ちなみに、上級者以上になると発した言葉と実際使用するアイテムが違う『ミスリード』といった壊れ技を使える。……pvpでしか使い道は無いが。


「分かったか?」

「大丈夫。ここからすぐみたいだな。この道を行くと大広場に出て、左手のほうにあるっぽい。」

「職ギルはどこだ?」

「職ギル? あははっ。それいいな。ギルドじゃややこしいし、職人ギルドってのも長いもんな。それ俺も使うわ。ちなみに、旅団の向かい側っすよ。わかりやすいっ。」

「……イラッとしたが、まあいいか。」


 二人の居る転移門は歯車のような形をした始まりの街【アカプルコ】の南門前広場の片隅にある。なぜ中心に無いのかと問われると製作者は街の中心には大きな噴水を置きたかったからと答えている。

 なにやらポリシーがあるようで、主要都市の中心にはそれぞれ豪奢なつくりの噴水が設置されている。

 まあそれはいいとして、街の構造について説明しよう。

 始まりの街【アカプルコ】はシンプルに、四つに区分けされている。

 初心者の平原と呼ばれる【エイビー】のフィールドにつながる南街区は宿屋や食堂が多くあり、森林の【ブレイド】につながる西街区は旅団を中心に主に住宅地となっていて、海道【ソーン】へと続く東街区は協会を中心に商業区を形成しており、丘陵地【ルート】へとつながる北街区は教会とこの街を治める貴族邸宅などが存在する高級住宅街となっている。

 上空からだと、噴水大広場を真中にして東西南北の門へと大通りが突っ切るように見えるだろう。


「では、行きましょうかね。」

「よし。」


 意気揚々といった様子で大広場へと歩き出した二人は目新しい中世ヨーロッパを髣髴とさせる石と木材の建築物や行き交う人々を観光気分で見ていた。出先に変な事態に巻き込まれたので、ジソウは今やっとファンタジーの世界にやってきたという実感を得ていた。


「そういえば、相良って、今まで普通に呼んでたけどさ。……プレイヤー名は?」


 今更感が強いが、ふと気がついたのでジソウは尋ねてみた。


「相良だ。」

「……え?」

「ん?」


 何だとでも言いたげな表情をする相良。


「いやいやいや。俺が変みたいじゃないか。」

「何か変なところでもあったか?」


 腕を組み、頭を横に傾ぐ相良。妙に似合っている。


「おいおい、名前そのまんまじゃないか!」

「リアル割れを言っているのか? それはお前に言われたくないな。」

「名前はジソウにしてあるし!」

「ソウジのジを上に持ってきただけではないか。」


 ぐぬぬ、と詰まるジソウ。

 追撃とばかりにさらに口を開く相良。


「それに、俺は種族変更をしているぞ。ジソウはヒューマンのままだが、俺のはドワーフだ。鼻が三角形に尖っていて、毛深いだろう?」

「こんな背の高いドワーフが居てたまるか!」


 苦し紛れに反論してみたが、ちょっと悲しくなったソウジだった。

 勝ち誇った顔をする相良は、つまり、名前だけしか変更してないような奴に言われる筋合いは無いということである。


「ちくしょー。後でギャフンといわせてやるからな!」

「ぎゃふん。」

「キーッ! 悔しい!」


 捨て台詞を吐いたらすぐにテンプレで返されたでござるの巻。とでもいえば良いのか、見事に粉砕されたジソウは奇声を上げて走り出した。相良は恥ずかしいからやめてくれと思ったが、止めるには彼の奇行のほうが出だしが早かった。


「なんてな。お前はそこでため息でも吐いているが良い。一足早くこのまま旅団へ一番乗りだぜ!」


 演技に騙されたなヒャッハーと、諸手を挙げてそんな事を口走るジソウに対して、友達選び失敗したかもしれん。と冷静に相良は考える。

 そしてそのまま周りを気にする事の無い突撃で、目的地である旅団の玄関の跳ね扉へとまるでゴールテープでも切るかのように突っ込んでいく。腰から胸あたりまでの高さしかない跳ね扉だ。壊すなよーと心配する相良だが、あることを思い出し、その考えをすぐ改めた。そういえば、建物には……


「ゲブフゥッ?!」

「ふむ、やはりか。」


 相良は思ったとおり、ジソウは無残にも跳ね扉を通る事はできなかった。

 跳ね扉は少しも動くことなく、一方、両手をあげて突っ込んだジソウはぼろ雑巾のように扉に拒絶されていた。


「いってぇ。強打した。メッチャ強打した。」


 特にそれほど痛みは無かったが、精神的に恐怖というダメージを感じたため自分の無事をあちこち触って確かめる。

 そこに一人の女性が駆け寄ってきた。


「だ、大丈夫でしたか?」


 どうやら優しい子のようだ。彼の奇行による自爆を目の前にしてなお心配をしてくれたのである。


ヒロインだよヒロイン!

た、多分。


ていうより、まだフィールドにすら出てないんだが、大丈夫か?

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