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魔術師の閉鎖試験  作者: あしべ
1章
6/35

始まりの街―アカプルコ―【1】

ようやく、ようやくVRMMORPGの世界へ来ました。



 光が薄れ、視界が広がる。ジソウの目前には白刃が迫っていた。


「なんですとぉぉぉ?!」

 体を物体が通り過ぎて行くという、とてつもなく気味の悪い感覚が背筋を震わせる。

 宗二もとい、ジソウは「あ、死んだ」とその瞬間思ったが、無事であった。

 凶刃は確かにジソウの左肩口から入り、右脇腹へと抜けていった。だがそれは切り裂いたのではなく、通り抜けて行っただけなのである。

 死に戻りが起きずに済んだこの現象は、転移門からの移動後60秒間は無敵時間が発生するという仕様のおかげである。

 とは言っても、周囲に降り立つプレイヤーたちには、ジソウが現在無事であったとしても、彼の体を通り過ぎていく刃の様子がありありと目に映っていた。これはなかなかに衝撃的であった。

 そして、ジソウだけでなく、彼らにとっても、理解不能な状況が、ハイローズへの輝かしい第一歩を踏みしめ、グラフィックの美麗さに、五感の完全再現のすさまじさに、剣と魔法の世界へ実際に飛び込むことができたという喜びに、雄叫びを上げようと、飛び回ろうとした矢先の出来事で、まんまと出鼻をくじかれてしまった。


「チッ!」

 凶刃を放った男は相手を倒す事ができなかったことに驚きつつも、話が違うじゃねぇかとでも言いたそうに、舌打ちをした。

 ブツッ。

 一瞬にして、その舌打ちを耳にしたジソウは、まさに怒髪天をついた。かのように怒りのゲージが限界点を超えた。ふざけるな、と。何をしてくれるんだ、と。

 そのときのジソウの動きをその場に居合わせたプレイヤー達は誰も追う事ができなかった。

 いつの間にか、男は右手を掴まれていた。

 いつの間にか、男は武装を解除されていた。

 いつの間にか、男は右手首を引かれ重心を崩されていた。

 そこまでされて、ようやく男は己の危険に気付くが、圧倒的なまでに手遅れ。

 そのままジソウに襟を掴まれて、体が浮き、そして唐突に加速した。

 男はそこからの記憶が飛んでいた。頭から落ちた事でスタンしたのだ。

 一方、ジソウは男が気を失っているとは露知らず、うつ伏せに倒れる男の背に乗って腕をひねり挙げていた。ピロン。

 さて、これからこいつをどうしてくれようか――。


「う、うおおおおおおおっ! 何だそれ!」

「今のどうなった?」

「知るか、俺も分からんかったわ!」

「やべー、まじやべー。」

「おうふおうふ、は、早業でござるな。まるでニンジャですかな。」

「おぉぉぉぉ! 本当かい? おおう、あれがジャパニーズニンジャ!」

「おおー、リアルニンジャ? 素晴らしい、流石ニンジャ、素晴らしい!」

 間接を極めたところで、とりあえず落ち着いたジソウの耳に音が戻ってくると、なにやら変な雰囲気になっていた。謎のニンジャコールである。


「ニンジャ。ニンジャ。ニンジャ。ニンジャ。ニンジャ。ニンジャ。ニンジャ……」

「……な、何じゃニンジャ?」

「意外と余裕だな。ジソウ?」

「いや、いっぱいいっぱいだよ。全く。」

 いつの間にかジソウの隣に立っていたのは相良であった。

 どうやら彼には今の呟きを聞かれてしまったようで、なんとも恥ずかしい。なので話題をそらそうと今の状況を聞くことにした。


「なんか、多分俺だよなニンジャって。」

「ああ、先の戦いに随分驚いたみたいでな。誰かが忍者だといったら、外国人の、まあアレだな。琴線に触れたらしい。」

「あー、なんか気勢殺がれたわ。はははー。」

 ジソウは少々きつく捻っていた腕を緩め、苦笑を漏らす。どうやら男のスタン状態が解けて目を覚ましたのか、下から呻き声が聞こえてきた。


「おお、起きたか。」

「な、何……が?」

 男は自分に何が起きたか分かっていないようだ。頭に、空いている方の手を当て、ふらつく頭を抑えている。

 だが、辻斬り紛いな卑劣なまねをした者に情けを掛ける必要は無いだろう。無理やりだが覚醒させるため腕を少しばかり捻りあげた。HPヒットポイントが痛みとともにじわりと削られていっている。


「いだだだだ。」

「しっかりしろー。どうする、観念するかー?」

「しますします。すいませんでした。いだだだ、何だこれすごく痛いっ。」

「そかそか、よし、制裁としてHP1割までとりあえず減らすかー。」

「ヒーッ。」

 ――HP1割を実行するために掛かった時間、プライスレス。

 周りのギャラリーはジソウの手際の良い拷問に、引いた。しかしそのおかげでニンジャコールがやんだのだからジソウにとっては満足だ。

 反面、一部はもしかして本物なのではと囁きあっている。なんだ、こんなの遊びの一環だよ。遊びの。とは、ジソウの談。

 しかし、いつまでも立ち止まっている者はいなかった。せっかくの新世界なのだ。そんなことより、俺はこの男の悲鳴を聞くぜ! などという変体趣味を持つ者は存在せず、空気を読んだのか、あとは当人達の問題と思い、ギャラリーはいつしかいなくなった。

 時折、近くを通る始まりの街の住人NPAノンプレイヤーアバターや、新しくログインしてきたプレイヤーの奇妙なものを見る視線がちらりと向けられてくるだけである。

 

「……はい、制裁しゅーりょー。」

「こんなことしてすんませんでした。生まれてきてすんませんでした。」

 じわじわと締め上げられるのはよほどこたえたようで男は憔悴していた。反省は海より深く山より高くしただろう。ジソウは男の腕を解放してやり背中から降ると、男を立たせてやった。

 ちなみに締め上げている間、暇だったので男に自己紹介をさせた結果、彼のキャラ名がBDブルードラゴンだと判明した。大分痛い奴だった。また、制裁途中の話し合いで決定した勝者報酬として、200H(ハイローズでの通貨の単位はハーツという)を接収することに決まった。

そしてようやく本題である。


「なあ、お前はなぜ俺を狙ったんだよ。つか、狙ったにしては間抜けな結果だけど。」

「あの、実は、『ハイローズ裏話』ってサイトがあって、そこに割りの良い稼ぎ方として載ってたんです。それがさっきの『ログインキラー』ってやつです。」

「ああー、やっぱり。予想はついてた。」


『ログインキラー』

 彼が行おうとした行為は、βテスターの間でそう呼ばれた。

 ハイローズはプライベートゾーンと一部の非戦闘地帯を除いてpvpがどこでも出来る仕様であり、それはログインの際に出てくることになる転移門でも行えた。そしてβテスト中盤頃、その仕様を逆手に取り、一番無防備となる時であるログイン時を狙った輩が現れたのだ。

 どんな形であれ、対人戦で相手を倒した場合のリザルツ(報酬)は相手の持つ金額の半分の獲得。そして、相手が持つアーツの中からランダムで経験値を5%吸収するというものだった。

 真面目に真正面からpvpを行使した結果ならばまだ良い。しかし、『ログインキラー』の手法は奇襲による、非人道的で悪質な手だった。

 この異常なやり口が多くのプレイヤーに知れ渡ると、やってはいけないラインを超えてると判断され、即座に対抗策が練られ『ログインキラー』をやる者は激減した。しかし、抑圧された事で中毒者のように嵌ってしまったものは意固地になり、一般プレイヤーから指名手配のようなことをされてもなお最後まで散発的に行っていたという。

 『ログインキラー』の手口を知り事態を重くみた運営は、正式版の改善内容として、ログイン直後にクールタイムと称した60秒間の無敵時間を設けたのだった。


「なぁ、お前は馬鹿か?」

「うう、返す言葉もありません。」

「そのサイト見ていたやつ居たのだな。」

 しみじみと呟く相良の言うとおり、BDの見ていたサイトはある意味有名で、しかし、ほとんど誰も読む事の無いサイトであった。内容がきな臭いまたは古い情報しか載っていないのだ。コアなネット民の全会一致で見る必要なし。と、そう評価をされていた。


「まあ、読んでたのは良いとしても、公式サイトの情報は普通に目を通せよ。無敵時間の事載っていたぞ。そうだ、『ログインキラー』についてなんて書いてあったんだ?」

「ええーとですね。画期的なキャラ育成方法発見みたいな感じで、仕様を用いた賢いなんちゃらだったかと。方法のところは、『ログイン直後のプレイヤーをララバイバイ。お前の屍で俺は次のステージへ!』みたいな見出しだったかと。」

「なんでだよっ?! 何でお前はそんなもの読んでそれを試そうと思っちゃったの?!」

「ふむ。逆に、一度目を通してみたくはなったな。ネタ的な意味で。」

「まさかの、布教……だと?!」

 BD、名前からも感じ取れてはいたが、残念な頭を持っているらしい。



なんか、違う気がする。こんな始まりにするつもりじゃなかったんだ。でも、筆がのっちゃったんだ。


訂正・pvpがどこでも出来る→プライベートゾーンと一部の非戦闘地帯を除いてpvp がどこでも出来る

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