小人姫と変態
注意!!
・変態がいます。
・痛い表現があります。
先に謝っておきます。不快な思いをさせて申し訳ありませんでした<m(__)m>
誰なんだこの人。嫌な予感はひしひしと感じるんだけど…。
「やっと会えたね、僕のお姫様。」
やめてください。本気で気持ち悪くて(ここまでシェイクされ続けたことと、目の前のこの人の発言の両方に)もう泣きそうなんです。
これってあれだよ。拉致だよ拉致。さっきの光る爆弾みたいなのを投げたのはこの人で、それでもって私は連れ去られたってことでしょ?
「ああ、本当に可愛いね。すぐにお家に帰ろう。これからはずっと僕が可愛がってあげるから心配いらないよ。」
ぞぞぞっとした。ダメだこの人怖い。
恐怖で動けない私を鞄に押し込み、男は部屋を出た。廊下らしきところでは、まださっきの出来事のせいか騒がしく、外に出ようとするこの男にも気付かなかったようだ。一応「誰か助けて!」とは叫んでみたものの、厚手の生地に阻まれて誰にも気付いてもらえなかった。
十分か三十分か、暗い鞄の中では正確な時間も分からなかったけれど、どうやら男の家に着いたらしい。
「さあお家に着いたよ。」と鞄から出されて周りを見てみれば…人形だらけの部屋だった。
なんじゃこりゃ!少女趣味の女の子だってここまで集めないだろうってくらいのたくさんの人形たちが飾られている。着ている服も顔も様々だけど、大きさだけは一緒だった。もしかして、これが「小人姫」サイズの人形?
異様な部屋に圧倒されてしまい、横にいる男に注意するのを忘れていた。一番危険な奴だというのに!そいつは私を下ろしたテーブルに手をついて、はあはあしながら妄想を喚き散らしている。
「これで僕だけのものだよ小人姫。ずっと君を待っていたんだ。なかなか僕のところへ来てくれないからお友達ばかりが増えてしまったよ。たくさん仲間がいて嬉しいだろ?もちろん君は特別だよ。でもどうしてあんな餓鬼どものところなんかに現れてしまったのかな?一番君を幸せにしてあげられるのは僕なのにね。ああ、心配いらないよ。これからは僕がずっと守ってあげる。可愛い服も、おいしい食事も、全部僕が用意するから。君も嬉しいだろ?僕たちは出会う運命だったんだから。この家にいれば大丈夫。幸せにしてあげるからね。ああそうだ、僕の名前はトビーだよ。「トビー様」か「ご主人様」って呼んでね、僕のプリンセス。」
怖い。お願い誰か助けて。
目からは勝手に涙が出るし、体は震えるし声は出ない。ただできるだけこいつから距離を取ろうと少しずつ後ずさるしかできなかった。でもそんな私の動きなんて、目の前の男には何ともないんだ。
「どうして僕から離れるの?そうだ、新しい服を着よう。僕のところにいるのに他の奴からもらった服なんて着なくていいよ。君の為にたくさん用意しておいたから、きっと気に入るはずだ。…可哀想に、怖かったんだね。そんなに泣いてしまって。僕はあいつらとは違うからね、何も怖くないよ。こっちにおいで、着替えを手伝ってあげるよ。」
やめてよ!そんな鼻息荒い男になんて頼みたくない!
かろうじて首を横に振り、「いや!」と拒絶してみたものの、男は一層笑みを深くして迫って来る。
「ああ可愛いなあ。大丈夫だよ、僕はどんな君でも受け入れるから。これからは夫婦になるんだから、夫が妻の着替えを手伝うのは当たり前だろう?」
なんかまた妄想広がってるんですけど!!どうしたらいいの、どうやったら逃げられる?とにかく外に出てこいつから離れないと!
急にきょろきょろと周りを見始めた私がよっぽと不審だったのか、男の笑みに陰りが差した。
「まさか…僕から逃げようとしてるんじゃないよね?許さないよ、君は永遠に僕のものなんだから。」
そう言って私の腕を乱暴に掴んで、自分の顔の近くまで持ち上げた。もう限界だ。これ以上黙っていたら本当にまずいことになりそう。
「やだ!やだ!帰してよ!こんなとこいたくない!!」
必死に手足をばたつかせて拒絶の意思を伝える。しかし私の抵抗なんて、蚊が飛び回るくらいの些細なものだったらしい。
突然男が腕を振り上げて、そしてどうやら私は床に叩きつけられたらしい。というのは、じーんと痛みを感じる右半身で判断したんだけれども、テーブルや椅子の足が見えることから間違ってはいないようだ。これ以上はダメだ、もうとにかく家具の後ろでもいいからどこかへ隠れようと体を起こそうとすると、今度はぎゅっと足で体を押さえつけられた。
「どうして分からないのかな?外は危険が一杯なんだよ。安全なのは僕の傍だけなんだからね。これ以上痛いのは嫌でしょう?ちゃんとご主人様の言うことをきけたらご褒美をあげるからね。だから僕から逃げるなんて考えないように。」
「嫌だ!ふざけないでよ!変態!触らないで!」
そして私がありったけの声で反論したとき、ドン!というものすごい音と共に家が揺れた。
「な、何だ?!」と男がうろたえたところで私から注意が逸れた。辺りを見回すと、窓の外が真っ赤に染まっていた。今日は快晴で、まだ夕方にもならない昼間のはずなのに。
同じように外に気が付いた男が「雷?」と呟いている。なんでいきなり雷が。わけのわからない状況にますますパニックになっていれば、再び男に掴み上げられた。
「もしかしてお前の所為か?僕がこんなに大事にしてやると言っているのにお前が受け入れないから!だからか!!」
そしてまたしても床に落とされ、今度は本気で踏みつぶそうとしてくる。もう駄目かもしれない、お父さんお母さんごめんね。それから親切にしてくれた学院の皆もごめんなさい。もう私の人生ここまでかも…。
ぎゅっと目を瞑り、衝撃が来るのを覚悟していたんだけど、いつまで経っても何も来ない。おかしい…。
そっと目を開くと、そこにいたのは変態ではなく、ぜいぜいと肩で息をしたバスクスさんだった。
どうして?どうしてバスクスさんがここにいるの?
「大丈夫か…?来るのが遅くなってすまなかった。」
バスクスさんを見つめたまま何も言わない私をそっと抱きしめ謝るバスクスさんに、今度こそ涙が止まらなかった。
助けに来てくれたんだ。もう大丈夫なんだ。
バスクスさんの名前を繰り返し呼びながら必死にしがみついて号泣し、そのまま意識を失い…気付けばドールハウスの自分のベッドの上だった。
すみません、話の流れでどうしても変態が必要だったんです。
しかし苦情は勘弁して下さい。