小人姫とガードマン御一行様
目の前に広がる光景に思った。
やっぱり、ここ地球じゃないや。
それはドミニクさんの一言から始まった。
「学院長が国主のところへ報告に行ったんだが、予想通り、すぐにでも会いたいそうだ。ということで、明日俺たちと一緒に行くぞ!」
思わず口に入れたスープが出て行きそうだったよ。なんなの、明日って。
まだ驚きで落ち着かない私を横に、盛り上がる外野。私の意見は端から気にしていなさそうな…。
若干置いていかれる状態に慣れてきてしまった自分が嫌だ!
「それじゃあミホ、明日はこの服にしようね。」
「ええー!ちょっと大人しすぎない?こっちの方が可愛くていいと思う!」
「…ピートの意見なんて聞かなくていいからね。」
以上マルリさんとピートの会話。ちなみにマルリさんはベージュのベルベット生地のワンピースで、ピートは…なんというかレースとフリルが多めなワンピース。ここの人にとって私は小さいから子供扱いしてしまうのは仕方ないと思うけど、ピートのそれはさすがに…ねぇ。どっちかと言うと大人っぽいのに憧れる年頃ですから、と心の中で言い訳をしてマルリさんの差し出すワンピースを手に取った。
そういえば初めに服を着たときから思ってたんだけど、サイズが丁度いいんだよね、ここの服。そのあと買ってきてくれた服も問題なさそうだし、なんて考えてたらマルリさんから衝撃の事実が。
なんと、この国で最も流通している人形は、全て小人姫サイズで統一されているらしい。なんでも小人姫は幸せの象徴であり、国民の憧れなんだそうだ。今までの小人姫がほとんど同じ身長だったことから、服はもちろん、家具や食器なんかもそれに合わせたものになっているんだって。それって日本で言う○○ちゃん人形ってこと?実際この国の女の子はほぼ百パーセント持っているようだし。思ったよりすごい存在かもしれない…。
明日の段取りを確認した後、皆が「おやすみ」と言いながら部屋から出て行った。ああ、ちなみに私の部屋はアレイ達と同じ並びの一室をもらった。そしてその部屋の中に家がある。そう家が。
もとは小さな物置として使われていたらしいこの部屋の約四分の一を占める大きさのドールハウスが。かなり広めの3LDK。マンション育ちの私にとっては階段のある家が憧れだったから、かなりテンションが上がる。
実はこれ、ここの生徒からの寄付なのだ。二年生のミリアン君のお姉さんが使っていたものらしい。普通のドールハウスより大きく豪華で、正直かなりお値段しそうな…。
初めにこれを使ってくれって言われたときは断ったよ。だって流石にいろいろ買ってもらった上にお古とはいえ家だからね。なのにミリアン君のしょげた顔が…。「せっかく荷車で運んできたのに…。姉も小人姫に使ってもらえるって大喜びしてたから今更返すなんて…。」とか言うもんだから。もしかしたら計算済みのしょげ顔だったのかもしれないけど、その場では何も反論できず、あれよあれよと部屋が決められ、家とその他諸々が運び込まれたのだった。
新しい家具に囲まれて、少々居心地の悪さを感じつつ眠り、気付けばもう朝で。そしてあっという間に外出の時間となった。
マルリさんお勧めのお出かけ着を着て、ついに学院の外へ!そして冒頭へ戻る!
学院の門を開けば、どうやらここは住宅街のようだ。建物はそれほど奇抜ではなさそうだけど、なんとなくテレビで見たヨーロッパみたい。素材はレンガなのかな?幅の多少はあるけれど、高さが統一されていて美しい街並みとなっている。むしろそこだけ見れば地球のどこかだと思ったかもしれない。でも、往来している人たちのカラフルさに、ないなと実感した。服装は女の人はワンピースが主流なのかな?
「おい、あんまり乗り出すな。見つかるぞ。」
ちなみに今日はアレイのジャケットの胸ポケットに入って移動。意外と揺れが心地良くて、これからはこれが定番になりそう。先頭に寮長と副寮長、右にマルリさん、左にピート、そして後ろにバスクスさんという鉄壁のガード付きだから、見つかる可能性は低いとはいえ、もし見られたら騒ぎになること間違いなしだよね。でも初めて見る町に興奮が抑えられないんだもん!
今通っているのは商店街のようで、パンの焼けるいい匂いや、お店の人の呼び声、人の往来でにぎやかだ。見たことのない果物らしきものや、ドルネケバブっぽいのを売っている屋台もある。これは帰りにいろいろ買ってみなきゃ!楽しみー!
一人でキャッキャとあれが食べてみたいだのもっと近くで見てみたいだの言っていたら、いい加減にしろと怒られた。ちょっとぐらいいいじゃん、アレイのけち。
「ああ、可愛いミホがこんなに俺におねだりしてくれてるのに顔も見れないなんて、どんな拷問だ!やっぱりアレイなんかより俺のポケットで連れて行けば良かった…!」
「仕方ないでしょう、アレイのところに小人姫が来たんですから。それに今は私たちはミホの護衛役です。しっかりしなさい。」
また危ない発言をしているドミニクさんを窘めるリースさん。もう慣れました。
そうこうしているうちに、周りの建物が大きなものに変わってきた。どうやら国主のいる国議会館が近いようだ。なんとなく社会科見学で行った霞が関を思い出す。
そしてついに到着した国議会館。左右に長く伸びた三階建てくらいの立派な建物だ。
中に入ると、定番なのか赤い絨毯が敷かれた廊下が見える。入り口横の受付で入館証をもらったところで、ここの職員らしい人に声を掛けられた。
「その制服…ミネハルア学院だよね?ということは、学院長から連絡があった生徒さん達と、小さいお嬢さんかな?」
「はいそうです。私は寮長のドミニク・オースクレストです。本日はお時間を頂けるとのことでやって参りました。」
おお、なんてまともな受け答えをするんだ、ドミニクさん!いつもこうならもっといいのに!
「皆さん初めまして。私は国主の第一秘書をしております、ナルバウ・クロリアです。本日はようこそいらっしゃいました。それでは早速ですが、国主のところへご案内致します。こちらへどうぞ。」
そう言って先導するナルバウさんに着いて廊下を進む。しかし、閉じているはずのドアがすこーしだけ開いて、中から視線をビシバシ感じるのは気のせい?しかも毎回。
もしかしなくても私を見ようとしてるんだよね…わー、私ってば超人気者じゃーん。はあ。こうなると長い廊下が恨めしい。一体いつになったら着くんだろう。
そんな私の焦りを読み取ったのかもしれないが、ナルバウさんが一室のドアを開けた。
「しばらくここでお待ち下さい。申し訳ありませんが、国主は来客中で少々時間がずれ込んでしまっているんです。そう長くはお待たせしないと思いますが。準備ができましたら呼びに来ますので、それまでお寛ぎ下さい。」
お辞儀をして出て行ったナルバウさんに、ほーっとため息をつく。ここでやっとアレイのポケットから出て、ソファに座らせてもらった。傍に皆がいるとはいえ、やっぱり緊張する!国主様、優しい人だといいなあ。
これからの会見にドキドキしながら、ここまで来る間に見た(私にとっては)珍しいものについて質問したりして時間を潰していた時だった。突然ドアが開いて何かが投げ込まれ、バスクスさんの珍しく焦った声が響く!
「危ない!伏せろ!」
しかしその忠告が終わらないうちに閃光弾のような眩しい光で部屋が包まれる。悲鳴をあげる暇もなく誰かの手によって掴まれ、気付けば廊下を疾走していた。もちろんこの場合私は掴まれたままなんだが、頭がシェイクされて状況が全く把握できない。こんな持ち方するのはアレイかピートっぽいけど、それでもここまで走ったらそろそろ止まってくれてもいいはずだし。
働かない頭でどうにか考えていれば、またしても突然ドアが開きどこかの部屋に入ったようだった。
気持ち悪さから「うー」しか声の出ない私と、全力疾走しただろう人の荒い息遣いだけが静かな部屋に響く。どうにか私を掴んでいる人を見上げれば、そこには見たこともない小太りの男がいた。
………誰ですか?
漸く新しい展開に入れました。
そして今回は自分にとっては長文となり、達成感でいっぱいです。よし。