小人姫とやさしいひと
初めてのファンタジー小説ということで、まだまだな部分もあるかと思いますが、足を運んでくださった皆様ありがとうございます<m(__)m>
また、お気に入り登録をして下さった方も予想以上にいらっしゃって、とても嬉しいです。
これを励みに頑張りますので、どうぞお付き合いください。
漸く落ち着いた(視線はビシバシ感じるけど)ので、ついに待ちに待った食事タイム!あったかシチューに心躍らせたところで、ハタと気付く。
私ちっちゃいじゃん。私サイズの食器とかないよね、ってことに…。
目の前においしそうなごはんがあるのに食べられないとか…何の拷問だ。
しかし、内心打ちひしがれる私の前に救いの神が!なんとマルリさんが小さい皿とスプーンを持ってきてくれたのだ。気が利く男の人って素敵ですね。
たぶん彼らから見たら醤油皿くらいの大きさであろう小皿と、ティースプーンかな?それでも私には少し大きかったけど、犬食いなんかしたくないから助かった!
「じゃあミホのは俺が取り分けてあげる!」
意気揚々とピートが宣言し、シチューの具を小さくして小皿に盛ったり、パンをちぎったりしてくれた。なんか手慣れてるんですけど。
ちょっと疑問に思ったことが顔にでたのか、ピートが恥ずかしげに言う。
「俺ね、妹が三人いるの。そんでさ、おままごととか人形遊びとかに嫌になるくらい付き合わされたんだよね。妹たちがリアルなのがいいって言うから、人形用の食器にきれいに食事盛るのうまくなっちゃって。」
なんて優しいお兄ちゃんなんだ…!!感動した!
そう思ったのは私だけではなかったようで、「ピートにもいいところがあったんだね。」とか「妹の尻に敷かれてるだけだろ?」「そうだな。」なんて会話が…皆さん、そろそろ可哀想ですよ。
ダメージを受けたピートを横目に、それではいただきます。
私が大きなスプーンに苦戦している中、アレイたちも漸く食事を始め、のんびりした空気(それでも感じる視線はこの際無視で)が漂い始める。
「やっぱりティースプーンじゃまだ大きいみたいだね。」
「明日買いにいけばいいだろ、あれ。ドールハウス。なっ、ピート!」
「ええ!絶対俺に買いに行かせる気だろ!店に入るの恥ずかしいんだからな!」
「でも妹のプレゼントはミホにやってしまったんだから、新しいものを買うという目的もあるだろう。遠慮せず行って来い。」
「…バスクスまで俺をいじめるのか。」
ドールハウスって人形の家?そういえばこの服もちょうどいい大きさだし、きっと他にもいろいろ売ってるんだろうな。正直言えば行ってみたい。でもまだ外に出る勇気はない。よってピートにお願いするのが妥当だろうと判断し、おねだりしておくことにする。
「ピート、ごめんね。でもいつまでも服二枚じゃ心もとないし、悪いんだけどお願いできないかな?」
そして胸の前で手を組んで目からはお願いビーム!
案の定たじたじになったピートに内心笑いつつ、次の言葉を待つ。
「…分かった。行くよ。行けばいいんだろ!もうお前ら嫌いだよ!」
「僕は好きだけどね。」
「俺も。」
「俺もだ。」
「…やっぱ嘘。俺も皆好き。」
ふっ、ちょろいぜ。
「明日の予定が決まったところで…小人姫はどこで寝るんだ?」
そんな質問を投げかけたのは、いつの間にか隣のテーブルに移動していたパイアー先生だった。
そして悩みだす男たち。私はつぶれる心配がないところならどこでもいいけど。
「こいつの面倒は俺が見るんだから、俺のところで寝ればいいだろ!」とアレイが主張すれば
「でもアレイのベッド、まだ湿ってるよ?ミホどころかアレイも寝られないと思うけど。」とマルリさんがもっともなことを返し。
「いやでもな、年頃の男女が同じ部屋で寝るなんてだな…。」とかパイアー先生は心配するし。
たかが寝る場所なのに、議論は白熱。いつまで続くかと思いきや、やはりそこを宥めたのはバスクスさんだった。
「だったら俺の部屋に来ればいい。もちろんアレイも一緒にな。」
…やばいです惚れそうです。
*-*-*-*-*-*
あーあ、とんでもない一日だったな。
学校行って泳いで、異世界に連れてこられて巨人たちと出会って――――――
与えられたクッションとタオルを布団代わりにして、今日のことを思い返す。
でもみんな良い人そうでそこは安心したかも。
―――――でもね。
誰も「帰れる」とは言ってくれなかった。きっとこれまでの小人姫もそうだったんだろう。
だけど、少しでもいいから希望が欲しかった。お母さんに会いたい。お父さんにも会いたい。友達だってたくさんいたのに。
どうして私だったの―――――――――
やり切れない思いが、涙となって頬を伝っていく。
どうしてどうしてどうして!私は今のままで十分幸せだったのに!こんなこと望んでなかった!
この怒りも悲しみも、どこへもぶつけられない。ただただ自分の内側に淀んで溜まっていくのがわかる。嗚咽をこらえて、体を丸めて小さく小さく泣く。頑張らなきゃ。私は笑ってないと。これ以上迷惑かけられないじゃないか。
だけどその時、私の固くなるばかりだった背中をそっと撫でてくれる人がいた。
「一人で泣くな。…今日だけ特別に一緒に寝てやるよ。」
そう言って、アレイはクッションごと私を自分の枕元に置いて、ずっと背中をトントンと優しく叩いてくれた。それはまるで母親が子供に向ける愛情のようで、切なくてまた涙が溢れてしまった。それでもアレイは指を動かすのをやめず、私が眠りに落ちるまでずっと付き合ってくれたようだった。
お父さんお母さん、そちらの世界では私がいなくなって心配をかけているかもしれないね。でも安心してね、こっちの人たちともたぶんうまくやっていけると思う。いつも笑っていたお母さんのように、わたしも笑顔で人を幸せにしてあげられるかな。きっとすぐには上手くいかないと思うけど、自分にできる精一杯のことをするよ。大丈夫、二人の娘だもん。
だから泣かないで。ずっとあなたたちの笑顔を覚えておきたいから。