小人姫と赤い耳
「呪いの人形っていうのはね、昔流行った小説に出てくる人形だよ。夫に浮気された妻が、愛人の家に忍び込んでびしょ濡れの人形をベッドに置いておくんだ、「絶対に許さない」っていうメッセージと一緒にね。その名残なのか、人に濡れた人形を贈るっていうのは「大嫌い」って意味になるんだよ!」
以上ピートの説明。…激しいっすね。
「女の争いって感じで男性にはそうでもなかったんだけど、女性にはそれはもう人気が出たんだって。いつの時代も女の人ってそういうの好きだよね。」
いやいやマルリさん、皆が皆そうとは限らないよ!現に私苦手だし!昼ドラ見ても気分が重くなるっていうか、あれは私がまだ未熟だからかな?とにかく女のドロドロは関わりたくないんだよ。
ていうか、そんなものに間違えられたのか、私は。ちょっとショック。
しかもびしょ濡れの人形って何だよ。ほとんど私の初登場と同じなのか。
「そういえば、あの小説はミホの何代か前の小人姫がモデルらしいぞ?」
バスクスさん…ニヤッと口の端を上げて笑う姿は大変ドキドキしますが、その話は本当ですか。そんなドロドロに小人姫が関わってたなんて…なんてことだ。しかも何代か前ってことは何百年前?そんな昔のことが伝わってるなんて、一体何があったというのか。そして小人姫は妻なのか愛人なのか…ていうか小人姫って結婚できるの?
結婚か…そこでちらっとバスクスさんを見てしまうのは仕方ないよね。バスクスさんかっこいいし。助けに来てくれた時王子様みたいとか思っちゃったし。中学生が恋するには十分なシチュエーションだよね?なんかバスクスさんが何しててもキュンとしちゃうんだけど。今更だけど、あの時抱きしめられたんだ…ってドキドキが止まらない!キャー!!
今絶対顔が赤いと思う。ああ、この過剰な赤面どうにかならないものか。
「ま、実際は何があったのか詳しいことは分からないけどね。その小説は有名だから本当にあったことだと思ってる人も少なくないけど。」
とりあえず小人姫がモデルってことは確定なんだろうな。…私はそんなドロドロに巻き込まれないようにしよう、うんそうしよう。
私が一人で決意していると、ぐう~っと聞き逃せないほど大きな音が私のお腹から…。ちょっと、なんでこのタイミングで鳴るかな?三人とも笑いを堪えてるじゃん!
「そうだな、腹も減ったし食堂に行くか。」
ぽんぽんと私の頭を撫でて立ちあがるバスクスさん。うわっ、この「ぽんぽん」がまた心臓に悪い…!でも嬉しい…!
必死でにやにやを抑え込み、マルリさんのシャツのポケットに入れてもらう。…バスクスさんは無理。ドキドキしすぎて死んじゃうよ。顔を見るだけで恥ずかしくなっちゃうぐらいなんだから。
そして只今アレイの部屋の前。さっきのことがあるから少し気まずいけど、誘わないともっとぎくしゃくしそうだからね。…ってマルリさんが言ったから。
だけど、ピートがノックして声を掛けても応答なし。もう食堂に行っちゃったのかな…。なんだよもう
、折角誘いに来たのに!
とその時、勝手にイラっとしていた私を尻目にドアを開け放つマルリさん。わお、豪快。
室内に目を向ければ、ベッドの上で眠るアレイの姿が見えた。なんだ寝てたのか。ドアが開けられたのにも気付かない程熟睡しているようだ。
どう顔を合わせればいいのかわからなかったから拍子抜けしてしまったところに、スタスタとアレイに近付くマルリさん。そうするとマルリさんのポケットに入っている私も自動的に移動するわけで。
…アレイ、顔色悪い。
呼吸は普通だから病気ではないのかもしれないけど、顔色が悪くて目の下にはクマがある。
なんでだろ、寝不足なのかな?…とそこまで考えて思いだした。アレイがこの二日間、ずっと私の傍から離れなかったってマルリさんが言ってたよね?もしや私のせい…?
「マルリさん、もしかしてアレイ、ずっと眠れなかったの私のせいかな?」
「まあそうと言えばそうだね。…ただ心配だったんだよ。さっきも言ったけど。ミホが気にすることじゃない。」
って言っても気になるでしょうが。
なんだかアレイに申し訳ない。いやアレイだけじゃないけど。こんなに私のこと心配してくれるなんて、不謹慎だけどちょっと嬉しい。
皆が私に優しくしてくれるのは小人姫だからなんじゃないかなって心のどこかで思っていたけど、わざわざそれを口にする勇気もなかった。いやもしかしたら、小人姫を傷つけないようにって気を使ってくれているだけという可能性もある。でも、皆本気で私を心配してくれたんだ…と思えるかもしれない。ただいるだけの存在である私に、堂々とここにいていいという自信があるわけじゃないけど、この人たちだったら…。
その時、ようやく人の気配に気付いたのか、アレイがゆっくりと目を開いた。アレイと私の視線が合った途端、びっくりしたような顔になって、今度は不機嫌そうに「なんでお前ら人の部屋に勝手に入ってるんだよ。」と言われてしまった。
だけどそんなアレイにはおかまいなしに、私の口からは自然と言葉が出ていた。
「アレイ…心配かけてごめんなさい。それから、助けに来てくれてありがとう。」
その言葉を聞いたアレイは顔を顰めて、くるりと私たちから背を向けてしまった。
「別に…お前に礼を言われることじゃない。」
だけどねアレイ、その真っ赤な耳を見ちゃったら、それが照れ隠しだってバレバレなんだよ。
ようやく更新できました。とは言ってもあまり話は進んでいないのですが…。
「お弁当シリーズ」もよろしくお願いします<m(__)m>