第5話 魔導戦闘と家族
「なんだぁ、こんな安酒しかおいてねぇのかこの店はよぉ!!」
突然の罵声に昴は声の方を振り返る。見ると、戦争映画なんかに出てきそうないかにも、といったゲリラ風の男が二人立っていた。
「なんだい、お客さん。うちは食堂なんだ!いい酒が飲みたけりゃ、他所行きな!!」
すると、奥からおばちゃんが出てきて怒鳴り返す。
「んだとっ!ババァ、もっぺん言ってみろよぉ!!」
「酒もクソなら店主もクソだな!」
男たちは口汚く罵倒する。どうやら、すでに他で酒を飲んでいたらしく、酔っているのがまる分かりで、足取りもおぼつかなかった。
「おい、そこのゲリラども。せっかくのいい店が汚れるだろ。」
「ちょ、ちょっとスバル!?」
昴は立ち上がり、酔っ払い二人に声を掛けた。男たちは最初、突然のことに驚いていたが、すぐに言葉の意味を理解し、顔を真っ赤にしてズンズンと近寄ってきた。
「なんだとクソガキ!文句あんのか!?」
「ふざけたことぬかしやがって!!」
昴は罵声を無視して二人組みを観察した。二人とも武器を持っているが、身のこなしからして、素人だ。服装が旅をしていたのか、汚れているところを見ると、自衛のために所持しているようだ。
「黙れ、無法者ども。店から出て行け。」
「野郎っ!!」
「死にやがれ!」
昴の挑発に真正面から殴りかかって来る二人。昴は一人目の男の拳をかわし、その腕を横から掴み、足を掛けて転ばせて無防備になった腹に踵を落とす。
「ぐはっ!」
「テメっ」
そして続くもう一人の男はナイフを抜き放ち迫ってくる。拳銃を抜き、攻撃を避けて腕をねじり上げ後ろに回り、肩に銃口を押し当てる。
「ぐあぁ、いてぇ!!」
男が喚くが昴は気にせず、ストライクヘッドと呼ばれるスパイクが付いた銃身を押し付ける。
「抵抗するなら、撃つ。」
「くそがぁ!!」
尚も男は抵抗しようとサブマシンガンに手を掛ける。昴は無傷で捕らえるのを諦め、引き金を引き絞る。
(殺すと面倒だ。死なない程度に!)
バンッ、と乾いた銃声が食堂に響く。エミは口に手を当て、目を見開いている。しばしの静寂は薬莢が床に落ちた音で終わる。男は床にドサッと倒れ伏した。驚くべきことに銃で撃ったはずの部位からは血が一滴も出ておらず、男は気絶しただけだった。
「あれ?なんで…?」
当事者である昴も首を傾げる。確かに撃ったはずだ。
「ス、スバル!あなたなんてことっ」
エミが我に帰り、昴に駆け寄る。
「い、いや、迷惑だったし、周りも困ってたろ?」
「だからって…」
昴はエミの問答に答える。すると、厨房から声がした。
「ほう、兄ちゃん魔導弾が使えんのか。」
どうやら声の主は料理を担当している旦那のようだ。ゆっくりと厨房から出てきて昴の前に立つ。
「魔導弾?」
昴はこの大男が話した単語を聞き返す。
「魔導弾ってのは、弾丸に魔法効果を付ける技術だ。簡単にはできねぇ。」
「これが…魔法……」
昴は初めて使った魔法に驚いた。偶然であり、直接的なものではなかったが、何か感じたことの無いような感覚を覚えた。
「恐らく、電気系の魔導弾でスタンしたんだろう。」
料理人の旦那曰く、込められた魔法効果が電気系統だったため、スタンガンのような役割りを果たしたそうだ。
「まあ、なんにせよ厄介事を片付けてくれたのはありがたい。こいつ等は自警団に引き渡しとくぜ。」
と言って旦那はロープで男二人を縛り上げると、荷物のように二人を担いで、店からでて出ていった。
「悪いね、お客さん。それにしてもいい腕っ節だねぇ。名前は何てえの?」
するとおばちゃんが尋ねてきた。注目を集めてしまったらしい。店の客達が昴の方を向いている。しまったなと思う昴だが、後の祭りだった。仕方なく名乗りをあげる。
「俺は神宮寺昴です。」
「スバルって言うんだね?分かった、また来なよ。」
「ありがとうございます。ほらエミ、行こう。」
「あ、うん。」
昴はおばちゃんに礼を言い、事態を見守っていたエミの手を引いて店を出た。
「でも、びっくりしたわ。スバルが魔法を使えるなんて…」
「俺だって驚いたよ。」
時刻はもう夕方で、少しづつ日が落ちてきたため、二人は村長宅に戻ることにした。その道のりの途中でエミが話を切り出してきた。
「ただ、殺さないように、致命傷にならないようにって考えてたらああなったんだ。」
「驚いたわね…確かに魔力は大きいとは感じたけど、提唱も何も無しにやるなんて。」
エミによると、大抵の魔法は言葉の提唱が必要なのだそうだ。魔導弾等の戦闘用魔法は提唱が必須らしく、先ほど昴がやったのはかなりイレギュラーなことらしい。
「ちょっと念じただけなんだがな。」
「…スバルがこの世界に来たのも、それが関係してるのかしらね。」
「どうだかな。さあ付いた。」
そうこうしていると、村でもそこそこ大きな村長の家に到着した。
「ただいまー」
「お邪魔します。」
二人は帰宅の挨拶と訪問の挨拶をそれぞれし、家に入った。
「おかえりエミ。スバルさんも。」
廊下に優しそうな女性が顔を出した。何故名前を知っているのかと考えたが、恐らく村長から聞いたのだろうと一人納得する。
「ただいまお母さん。」
「え、お母さんなの?」
昴はエミの言葉に疑問を覚えた。エミが母といった女性には耳も尻尾もなかったからだ。すると、その疑問を察知したかのように、エミの母は答えた。
「エミは養子なのよ。この子がまだ幼い頃に引き取ったの。」
「そうなんですか。道理で…あ、すいません。」
昴は納得したように呟くが、失礼なことだと気づき、謝罪する。
「いいのよ。この子の耳、可愛いでしょう?」
「は、はい。そう思います。」
「あら、エミ、良かったわね。可愛いそうよ。」
「お母さんまで!?」
エミの母は悪戯っぽく微笑む。エミは、母にもからかわれ、またかといったリアクションをした。
「ご飯、もうすぐだから居間にきて頂戴。」
エミの母はリビングへ歩き出し、思い出したように振り向いた。
「あ、私はアリシア。アリシア・マギットよ。よろしくねスバルさん。」
「こちらこそ、お世話になります。」
こうして、昴の異世界一日目は過ぎていくのだった。