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1K8畳亡命記  作者: CoA
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合理的なメス豚

今回もエロ中尉

ペルの変わり果てた姿をお楽しみください

 ペルが用を足しおえて出ていき、賢者タイムが終わって。

「いやー……マジないわ俺」

 

 下心がまったくなかったとは言わないにせよ、それでも数年後と。成長し、せめてあふれる稚気が色香にかわるころには、あるいはと思っていたはずなのに。

 それが、まさかの拾ったその日のうちである。出逢ってn秒で合体、なんてタイトルのAVがあったけれど。10時間ほどだからn=36000。誰もがインタビュー中にリタイアしてしまうだろう。ネタに短し本気に長し。難しいところである。

 さておき。男のストライクゾーンは自覚しているよりはるかに広いとはいうけれど、いくらなんでも。そういえば、心なしか、浴室を出るときのペルの目が冷ややかだったような気がする。まあ、当然かもしれないが。

 

 自己嫌悪でおちんこでてもしょうがない、と。朝は気をとりなおして立ち上がった。いやよいやよも何とかのうち。どうせ嫌がっていてもペルに出ていくあてなどないだろうし。もし仮に出て行こうというなら、今日の出費を盾にすればよし。たかだか12の少女には福沢諭吉の数人すら稼ぎ出すのは困難だろう。

 

 もっとも、警察にかけ込まれたら、今度はこちらが詰むのだが。 

 おそらくそれはなかろうと朝は思う。それならまず最初の段階で、朝になど頼らずともよかったはずなのだ。つまりペルには国家権力に頼れない理由があるということ。

 後ろ暗いすねの傷。例えば。異世界から日本に転位するのは不法入国にあたるだろうか、なんて。少なくとも戸籍やパスポートを有するようには見えないし、加えてあの外見では。

 実際に不法滞在者とみなされるかはわからないにせよ、そのおそれがある以上ペルは賭けにはうってでるまい。たぶんそういう性質だと朝はみている。


 そんな、鬼畜な計算をしながら朝が風呂からあがると。洗面台わき、洗濯機の前。朝が便宜的に脱衣所のように扱っているそこに、バスタオルをささげ持ったペルが侍っていた。

「あ、扇谷さん。身体をお拭きしますね」

 にこにこと。有無を言わさぬ絶妙な呼吸。青いバスタオルをひろげて朝の腰にかけた。なにがなんだか。状況をのみこめず、固まった朝の身体をペルが丹念にぬぐっていく。

「あ、おい。ペル!?」

「はい。なんでしょうか?」

 朝の下半身を乾いたバスタオルの繊維がなでる。まずは後ろから。中腰のペルが小さな手でぽんぽん叩いて、こしこし。優しくていねいに。

「おまえは何をしているんだ」

「お身体をお拭きしますと」

 そういうことを訊いたわけではないのだが。すね毛のはえた足も嫌な顔ひとつせず、ひざまずいて両手で片足ずつ包み、水気を取り去っていく。

「いや、だから。なんでいきなりそんなことしてんのかって……」

 ペルはしばし無言。両ひざからももをさかのぼって、一心に朝の身体を拭きながら。だんだんとペルの上半身がまっすぐに伸びていく。

 朝の身体を伝いしたたる水滴は、冷や汗ではないつもりだったが。背筋に冷えた鉄芯をさしこまれたかのようにぞぞっという寒気がはしる。

 

 そして、ついに足のつけね。ペルはひざ立ちで朝の股間に顔をうずめて。ふうっと息を吹きかけるようにささやいた。

「ごほうし、いたします」


 ぺしん、と。脳天にチョップ一発。

「あいたっ」

 反射的に頭を両手でおおうペル。バスタオルをとり落とす。半目の紅にジト目の翠。おとがいをあげて不服そうな表情を朝に見せつける。

「ひどいです。扇谷さんが物欲しそうにしていたから、だから私は……」

「あ゛~」

 キコエマセン。

「でも、あんなに大きくして」

 自分自身の若さゆえの過ちは、みとめたくないものなのだ。赤くて三倍の人もそう言っている。だから、あれはノーカウントということでひとつ。

「とにかく、身体くらい自分でふくから。話はあとできっちりつけるよ」

「はい……」

 青菜に塩のごとく。ペルはしゅんとうなだれてしまった。なんでこんなに乗り気なのか、朝には不思議でならない。異性が気になるお年頃というより、ソープ嬢みたいな興味の持ち方に近い気がする。男の生態に驚いた様子もないというのは達観の限度を超えているだろう。ロリビッチか。


 身体についた水分をひとしきりぬぐい落し、パジャマがわりのスウェットを身につけると、朝は居間へ向かった。ついでに冷蔵庫からウィルキンソンのジンジャエールをひっかけていく。最近の湯上りのお気に入りだ。

 

 部屋のドアをあけると、ペルはローテーブルの奥辺でしめやかに正座していた。顔つきも神妙で、ちゃんとパジャマも着ている。

 朝はペルの対面に座ると、昼から出しっぱなしのペアグラスにジンジャエールを注いで、しばし逡巡。はてどちらを使ったろうかと考えて。

「あ」

 ペルがひとことつぶやく間もあればこそ。確か左のだったよな、と朝は左手でグラスをとり、もう一方をペルのほうに押しやった。ひと口つけて、ごくりと。よく冷やされた温度と、口の中を跳ねまわる炭酸の感触が心地よい。

 ペルも同様にひと口。ついついいつものくせで使いさしのグラスを使いまわしてしまったことに今さら気づいたが、ペルは気にするそぶりもなく。しかし辛口のジンジャエールは口に合わなかったのか、べーと舌をだして苦い表情をしている。


 しばらくの静寂。炭酸のぱちぱちとはじける音だけがひびく。

 やがてペルがぽつりとつぶやいた。

「……不安ですから」

 耐えかねるように。心細げに。

「一緒に暮らすのに、ただのごく潰しじゃいられませんよ。それで自分になにができるかなって考えたら」

 それはそうだ。朝とペルは家族でも恋人でもない。本当にただのなりゆきと朝の厚意のみに拠る関係である。そのか細さを不安に思うペルの気持ちは実に自然だといえる。

 だから。ペルも朝に価値を提供することで理由をつけようとしたのだろう、と。でもなあ。

「アレがか……」

 気持ちもわかるし納得もいくが、認められない話である。せめてもうちょっと倫理的というか道徳的な方向でお願いしたいものだが。

 そんな思いのにじみ出た苦言に、すにっと笑ってペルが返す。

「お掃除、洗濯、お料理、せっくす」

「こらこら」

 両手を胸の前でぐるぐる回し、右手をびしっとつき付ける。教育的指導。もう合わせて一本になるぐらいのポイントはたまっている気がするが。

「いぇい」

 そんな一本調子でいぇいとか言われても。ロックの歌えるメイドさんじゃあるまいし。そういえばあれも緑眼で年下だったような気がする。げに恐ろしきは箇条書きマジック。

 

 ペルはジンジャエールをひと口飲んで、こほんとせきばらい。

「だって、扇谷さん、私に欲情してくれたでしょう」

 そうだけど。認知してはやれないので、朝も反駁。

「いや、あれは違」

「違いません」

 させない、とペルが朝をの言葉をさえぎって。

「ちょっと安心したんです。ああ、こんな身体でも求めてもらえるんだ、って」

 今度は朝は本心から反論した。

「そんな心配はいらねーだろ。もっと自分を大事にしろよ」

 あんなに綺麗なペルが、みずからそれを投げ捨てるように扱うのは。あまりに悲しいと朝は思うから。

「大事にしてるつもりです」

 身体で命の保証が買えるなら安いでしょ、とペルは大まじめに笑った。

 

 それは。

「それはあっちでの論理だろ。ここは日本だ。ただ生きるのにそんな代償は……」

 高すぎる、と朝は信仰する。人間が人間らしく生きる権利を謳ったこの国では。ただ生きるためにペルは何も失う必要なんてないと。

 けれどそれは建前にすぎないから。


「どの世界、いつの時代、どこの国だって同じです。命より重いものなんてそうはありません。命を支えられるものはなおさらです」

 それをそうも簡単に安売りできるなら。それはきっとペテンなのだと。ペルの言外の言葉が朝に突き刺さる。日本の誰もが持ちえないような、あまりに昏い緑眼に見透かされ。しょせんは学生の理想論と看破されて。

「そんなものに比べたら、身体なんて安いものです。特に私のは」

 ペルは突然に立ち上がり、パジャマとキャミソールのすそをまくって、傷だらけの身体を見せつける。

「こんな身体にされた私が、貞操だけは守ってこられただなんて、まさか思っていたわけないですよね」

「そう……なんだろうな。思いたかったけど」

 

 ペルが口角をゆがめて笑う。壮絶に陰惨に。朝のはじめてみる顔で。

「初体験は10歳の秋です。三日三晩眠ることすらゆるされずに犯されました。食事なんてもらえなかったから、精液でも排泄物でもすすって生きながらえた。大勢の前でさらしものにもされたし、馬や豚の相手だってさせられた」

 怒涛のようなペルの告白。辛苦の記憶から膿をつぶし出すように。腐れた傷口の痛みをこらえて。なお気丈に朝を見下すペルの、深淵のひとみから。

「いまさら、いまさらあなたごときにつけられる傷なんて! 痛くもなんともないんだから!」

 

 ぱあん、と乾いた音。ほおを思い切り張られてもやはり涙ひとつぶこぼさない。

「ふざけんな!」

 わかったようなことをいう、賢しらな子供が。

「そんな不感症の女を抱かされるこっちの身にもなれ!」

 癇にさわって仕方なかった。

「叩かれてわめかねえ女を叩いて面白いか!? 犯されて泣かねえ女を犯して面白いか!?」

 朝は大人げもなく。幼女相手にプチキレ。


 怒鳴り返されたペルは、きょとん、と。目をぱちくり。

 それから、堰を切ったようにけらけら笑いだした。

「それって、それって、じゃあ。私がそうじゃなくなったら、そうしてくれるってことですか?」

 私としたことが、読み誤りました、と。

「私が。傷つけられて泣きわめけるようになったら。きっと、犯してくれるんですね!?」


 ……あれ?冷静になって考えてみると、それって。

「壊れたおもちゃじゃつまらないですか。扇谷さんったら、真性のさでぃすとなんですね。ほんっとに変態さんですね。私のことも、きっと、優しく育てて懐かせて、私が幸せな希望で満たされたそのときに、へし折って絶望の淵へ叩き落とすんですね……」

 いつになく饒舌なペルの不吉な未来予想図に、ちょっとだけ心惹かれた朝は。いやいや、と。ペルのマゾヒスティックな妄言をBGMに、邪念を振り払うように思考する。

「その日が来るまでは、私は扇谷さんのペット」

 そうだ、その日までは、存分に愛情を注いでやればいい。ぼろぼろに擦り切れたペルの心を癒すように、愛玩して。そして。

「それから先は……きゃー、もう、ご主人様のおにちくー。ろりこーん」

 そのときまでには、うん、そうだ。ペルを愛さないでいられるようになればいい。そうすればペルは、また壊されなくてすむ。


 なんて、むしのいい、甘ったれた考えを。

 そのときの朝は名案だと思ってしまったので。


 扇谷朝株、大暴落。明日はブラックマンデーの予感。

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