敗北フェティシズム
エロ全力全回注意
でも最近のラノベに比べたら大したことないようにみえる不思議
ざあざあと雨降る水音。もうもうと煙る湯気。
小ぶりなユニットバスを押し込めた、狭いバスルームである。今どきは倦厭される、トイレが併設されたバストイレ一体型。この部屋の家賃を低減するのにいくばくかの役をかっているだろうか。白いボードに白い浴槽は、オレンジの電灯の光が湯気に散っているせいか、クリーム色がかって見える。
その中に人影ひとつ。風呂場いすに座って、頭頂からシャワーを浴びている。ときおり手くしで髪をすき、揺れるシルエットごとにばしゃばしゃとしぶきがたつ。
それなりの時間をかけて髪を流しおえると、シャワーヘッドを持って。左肩から左腕へ。右肩から背中にかけて。胸から腰をつたい、両ひざまで。頭からシャワーをかぶってもなお落ちず身体に残ったボディーソープの泡を流し落としていく。
シャワーを逆の手に持ち替えて右腕を濡らすと、今度は立ち上がって。尻や太ももなど、座っているときは陰になる部位にお湯をかける。閉じた部屋に響くくぐもった水音が、1オクターブほど高くなる。ばしゃばしゃからぱしゃぱしゃぐらい。
混合栓のレバーをひねってシャワーを止めると、髪を軽くしぼり、顔面に残る水滴をぬぐった。そして、透き通ったお湯をたたえる湯船につま先から分け入って。身体をゆっくりと沈めると、少しあふれたお湯が波音をたててこぼれおちる。体温よりすこし暖かいお湯に全身を包まれる感覚は、羊水にひたる胎児のそれにも例えられるが。なるほど、あたかもそこが極小の天国であるかのように、ゆるんだ表情ですぅと目を閉じたのだ。
以上。時間交代制の男湯からお送りいたしました。
がっかりした奴はロリコンだ!がっかりしなかった奴は訓練されたロリコンだ!!
なお、wktkした奴は早急にバックボタンを押すべきである。お互いのために。
さておき。こなかなの話。
ピッツェリアでの晩餐はことのほかペルのお気に召したようで、ペルはその矮躯に見合わぬ取り分をたいらげたのであった。とりわけメインのマルゲリータピッツァなどは、実にスリークォーターがペルの胃袋へと消えてしまった。そのふしあなアイを以てしても見抜けなかった事態に、朝はいくばくかの空腹感を抱えたまま帰途につく羽目に陥ったのである。
二人で大荷物を抱えて帰宅し。風呂がまに湯をはりながら、過剰包装を解凍展開させ。やり場のない品々を抱えて右往左往。朝はペルに一番風呂をゆずり、とりあえず荷物を衣食住の区分に分けてまとめておくことで、当座をやり過ごすことにしたのである。
ちなみに。ペルはかなりの長風呂だった。もっとも、今日しこたま買い込んだサニタリーグッズを両手に抱え、はなから長期戦の様相を呈してはいたが。
もっとも、ペルの口と身体が異口同音に伝えるところの事情を鑑みるに、日本式の入浴がいかに贅沢で、彼女にとって得がたくも垂涎であったのかは言うまでもない。ペルの幼い理性がその怒涛のごとき快楽責めに屈してしまったとしても、責めるのは酷というものだろう。
結局、浴室での立てこもりは都合半刻に及び。朝と再会を果たしたときには、ペルの雪華のかんばせは骨抜きにとろけ、ほおは熟れたプラムのように上気し、四肢は力なくくたりとたれ下がり、およそ青少年の保護育成に有害なありさまであった。熱にほてる身体はしっとりとみずみずしく、湿って肌によりかかる銀の濡れ髪はいっそうの艶をたたえ。なんとかキャミソールとパンツだけは着せたものの、薄衣の一枚二枚ではにおい立つ官能の色をせき止めることなどとうていできはしなかった。
さすがに。エロいから勃つかといったらそういう話でもないのだけれど。すくなくとも動悸にめまいに神経衰弱のさわりというほどには、どきっとした。
難病、恋愛病のごくごく初期症状である。いつか、やがて、もしかしたら。重篤化することもあるかもしれないと、今はその程度。
そんなことを考えながら、朝がぬるま湯を堪能していると。浴室扉のすりガラスのような半透明の樹脂パネルに影がさした。人型のシルエット。ヘアキャップで髪をアップにしているせいか、少し見慣れた普段のそれよりも小柄にみえる。
ちょっとの間じっとして。キッチンのほうに歩き去って、また戻って来て。とてとてと。せわしなく落ち着きなくうろうろしている。
気にさわるというと言いすぎだろうが、目端につくのは事実なので。
「ペル? どうしたんださっきから」
朝が声をかけると、人影はいっそうわたわたおたおた。やっとの思いを振り絞ったように、それでもかすかな声で。
「……扇谷さん」
「おう。なんかあったのか?」
あの世間ずれっぷりにすっかり心配することを失念していたけれど。結局のところ、この部屋はペルにとって全くの異境に違いはないのだ。少なくとも、およそありふれた、平和で幸せな環境にはいなかったのだろうし。
だいたい。独居大学生の部屋を知り尽くした幼女はちょっと嫌だと思う。
「その……あの……」
口ごもるペル。急かすのは悪かろうと、朝は静聴の姿勢。
「……イレにいきたいんです」
ちゃぷちゃぷ揺れる波音にすら負ける声で、おまけにドアごしである。朝には届かなかったと、ペルもそれは自覚していたのか、大きく息をすって。
「おトイレに入らせてくださいっ!」
言われてみれば、納得もできる話である。この部屋にトイレはひとつきり。現状、使用中では確かにないが、隣接エリアにて。あ・ひゅーじばとるしっぷ、ネイキッドとも、いず・あぷろーちんぐ・ふぁすと、である。軽々には言い出しがたかったのだろう。
しかしながら、生理現象。我慢にも限度があるというわけだ。今のところ、さらってきた猫のようにおとなしいペルのことである。きっと限界ぎりぎりまで、およそ肉体が意識を凌駕するその臨界寸前まではこらえたのだろう。肉欲と羞恥を秤にかけて、だがもうどうしようもないほど追いつめられて、やむなく後者を選ばされた。
シルエットだけでもなんとなしに推測はつくものである。きっと今ペルは、意志の力を総動員して、産まれたての小鹿のようにふるえ、目に涙をほとばしらせ、それでもなお最期のときを引き延ばしているのだろうと。
そんなペルを。いじめるのもおよそ大人げないかなと思って朝は。
「わかったわかった。すぐ出るからちょっと待って……」
「無理! もうちょっとも無理!」
思っていたより事態は深刻そうだった。
「早くここ開けて! もう漏っちゃう、でちゃう!」
祈りの空より来たりて、切なる叫びを胸に。どんどんどんと樹脂パネル製の浴室扉を叩いて涙の直訴。
ああもう仕方ないと朝がロックピンを押し下げると、衝撃に負けて折れ戸が開き。反作用を不意に失ったペルはバランスを崩してへたり込んでしまった。
「お、おいペル! 大丈夫か!?」
ペルはふるふると力なく首を左右。
「も、無理ぃ……立てないよぅ」
たったら漏っちゃう、と言って。
おそらく、立ち上がろうと足に力を込めたら、決壊を押しとどめている括約筋への力の供給が不足してしまうのだ。もうにっちもさっちもいかない。ほぼ手遅れ状態である。もう数歩で待ち望んだその地に手がとどくというのに。
「つれてってぇ…」
とろけるような懇願に。
「わかった、わかったから。もうちょっとだけ我慢できるな」
朝はぐずるペルを足と背とを支えに、横抱きに抱き上げた。
裸の男が、下着姿の幼女を、お姫様だっこ。天地神明に誓って、いやらしい事情ではないのだけれど。もう絵面がどうしようもないほど犯罪的である。誘拐的な。
数歩の距離を引っ返して、ペルを洋式便器に座らせる。あとは自分でできるな、と朝が浴室を出ようとすると。
「ぱんつ」
脱がせて、と。
末は女王様にでもなるつもりか、と見ると、未来の女王陛下が鎮座ましましていた。このネタもいい加減ぱやーんのような気がするけれど。
もう今さらひとつふたつぐらい何くれということもないとは思う。ひとつ受け容れさせて、なしくずしにふたつみっつ。ペルの策略というよりは、甘えの定石で。
トイレに座った幼い少女のパンツをずり下ろすゼンラーマンという。だれがどうみてもアウトな光景が繰り広げられた。先のだっこと併せてゲッツーである。
さらに言えば、そのせいで朝は離脱の機会を失ったのである。
ペルのパンツを脱がせてすぐ。浴室にしょわあとしぶきの音が響き渡った。ペルは両のひとみをうつろにさまよわせ、恍惚とも忘我ともつかぬような吐息をついて、一心不乱に解放感をむさぼる。
まあ。性神科医にして希代の妄想番長ジークムント・フロイスによれば、排泄は人間の性感の根源のひとつだそうで。絶頂すら覚える、とか。
要するに。上はキャミソール一枚きり、風呂場の湯気に濡れて肌に絡みついて。下は雪原にひとすじのクレバス。Vラインに捺された痛々しい焼印ともども、ペル自身の体液に濡れ、ぬらぬらと輝いて。本来そこを守るべき布切れは、ひざまでずり下ろされてその役目を果たせていない。まるで事後のような風情のにおいたつ、妖しくもいやらしいペルの嬌姿にあてられてしまい。
朝は水中エリアに逃げ出さざるをえなかったのである。
どうか察していただきたい。男には自分の身体がままならぬときがあるのだと。
どうか信じていただきたい。扇谷朝は、断じてロリコンなどではないと。
なぜならこれは理知的な帰結ではなく、本能的な反射なのだから。
むしろ輪をかけて悪い気がするが、結局のところ。スリーアウト、チェンジ。