第1話〜迷いの森〜
空を見上げると、エミィの門出を祝福してくれているのか、太陽がサンサンと輝いている。
「ん〜。まぶしい」
太陽の光を見、目を細める。
そよ風が、エミィの髪をやさしくなで、長い髪がふわっと舞った。
「それに、風も気持ちいぃ♪」
遠出をするのは初めてだった。
不安と希望。そして、今日からの新たな環境に期待を抱きながら、木々の間を歩いていく。
「エメラルド〜。気を付けていくのよ〜。」
後ろを振り返ると、母がまだ手を振っている。
泣かない……。
そう、決めていたはずなのに……。
暖かい水がエミィの頬を伝う。
「お母様もお身体に気を付けて。」
両手を振りながら、エミィは叫ぶ。
そして、さっときびすを返すと一歩、また一歩と森の方へと歩みを進める。
それっきり、エミィが振り返ることはなかった。
――迷いの森――
ここは、大樹の周りを囲む森。
各々の木々が各自の意志を持ち、移動することで立ち入った者を惑わす不思議な森である。
人々がこの森へと近付かないのは、この木々の影響ともいえる。
しかし、よく見るとこの木々が動いていない箇所がある。
ユニコーン達が人里に行く時はこの、動いていない木々の間を通るのである。
「ん♪こっちね。」
動いていない木々の間を進んでいく。
どのくらい歩いただろうか。ふと、違和感を感じたのである。
その違和感は徐々に確実な物になり、やがて、確信へと変わった。
「んみゅぅ〜……。もしかして……、迷った?」
動いていない木々の間を通っていたはずなのに、気が付くと周囲の木々が動きまわっていた。
辺りを見回す。目印となる止まっている木が見えない
「どうしよう……。」
エミィが自らの体を抱き、目の幅涙を浮かべてどうやってここを抜けようかと考えていると、森の奥から声が聞こえてきた。
「んみゅ?」
涙を拭き、声のした方に行ってみる。そこには、一匹の黒猫が歌いながら歩いていた。
「わ・た・し、く〜ろにゃん♪て〜あしはしぃろよ〜♪」
ピンと尻尾を立て、トコトコと歩いている。
「ね、ねぇ…」
エミィは恐る恐る声をかけてみる。
「に゛ゃ!!」
黒猫は毛を逆立て、
「シャーーッ」
と威嚇してきた。
「あ、あの……。この森から出る方法、知らない?」
黒猫に尋ねてみる。
「私が知るわけないでしょ。私だって知りたいんだから。まぁ、人間に私の言葉はわからないでしょうけど。」
そう言うと黒猫はフンとそっぽを向き、森の奥へと走っていく。
「あっ、待って……。」
エミィは黒猫が走る方へと走った。
時には木の根につまずきそうになりながらも、黒猫を追い掛ける。
しかし、その努力も虚しく徐々にその姿が小さくなっていく。
「ハァハァ。見失っちゃった……。」
カップ麺が出来るか?と思われる時間走っただけなのに、エミィは息を切らせ、近くの倒木に腰を下ろす。
数度深呼吸を繰り返し、息を整え、また黒猫が去った方角に足を進めた。
先程の黒猫がどこかに隠れていないだろうかと、周辺に目を配りながら歩く。
が、もちろん見つかるわけもなく、気持ちもどんどん下火になってくる。
「あれ?」
エミィはある一つのことに気が付いた。
それは、先程の黒猫以外の動物が目に入らないのだ。
いくら迷いの森だと言っても、鳥の鳴き声が聞こえないときはなかった。エミィは嫌な予感を覚え、辺りを見回す。
少し寒気もしてきた。
寒気を紛らわすように両手で自分を抱く。
と、それと同時にガサガサっと木の葉が揺れる。
ビクッ
慌てて音のした方を見る。
そこでは、迷いの森の木々達が慌ただしく動いている。
「よかったぁ……。おばけかと思ったぁ……。」
状況は全然いいことにはなっていないのだが、エミィは膨らみ始めの胸に手をやりホッと息を吐く。
「でも、これからどうしよう……。」
安心したのも束の間、エミィは状況が好転していないことに気付き、また考え始めた。
「…………。あぁっ、ダメダメ。考えてても仕方ない、歩こ。」
いくら考えても、いい案が浮かんでこない。
一度大きくかぶりを振る。
頭をよぎる不安と戦いながらも、エミィは人里への距離を少しでも縮める為、再び歩き始めようとした。
と、次の瞬間。
激しい揺れがエミィを襲う。
始めは小さな揺れだったが、それは次第に大きくなり、やがて立つこともままならない程にまでなっていった。
「きゃ〜っ」
近くの木にしがみ付くと、エミィは目をぎゅっと瞑り揺れが治まるのを待った。
「う゛に゛ゃ〜!!」
突如、頭上から声がしたかと思うと、エミィを激しい衝撃が襲う。
ゴン ゛☆(´д`)
たまたまエミィがしがみ付いていた木にあの、黒猫が登っていたのだ。
そして、激しい揺れでバランスを崩したのか、エミィの上に落ちてきたのだ。
「うにゅ〜……。」
「うにゃ〜……。」
目の前で星が舞い、二人はその場で仲良く昏倒した。
それから、どのくらい気絶していたのだろうか。ふと目を覚ますと、サンサンと輝いていた太陽もその姿を隠し、辺りは闇に包まれている。
空では、太陽に変わって丸いお月様と、満天の星空が輝いていた。
(一体、何が起きたの?)
エミィはズキズキと悲鳴をあげる頭を押さえ、軽く頭を振る。
自分の倒れていた辺りを見ると、先程の黒猫が頭に大きなたんこぶを付けて、目を回していた。
エミィは黒猫を膝に抱き、目を閉じる。
そして、額に精神を集中させる。
すると、今まで何もなかったエミィのおでこに、15cm程の金色に輝く、可愛らしい角が現れた。
と、それと同時に金色の光が黒猫を包む。
きっかり3秒後、黒猫のたんこぶはきれいになくなっていた。
そのまま、黒猫が目を覚ますまで膝の上に抱き、頭を撫でてやる。
「にゃ、にゃ〜……。ここは……、どこにゃ?」
黒猫がうっすらと目を開ける。と、いきなり暴れだした。
「は、離しやがれにゃ。人間!!」
エミィは手を引っ掻かれ、
「きゃっ」
と悲鳴をあげて黒猫を離した。
「おい、人間!私は頭を打った怪我猫にゃ!!そんな私の頭を撫でるにゃんて。」
黒猫は頭を擦りながら怒ったような口調で言った。
「あ、あれ?全然痛くにゃいにゃ?」
「えっと……。私が治したの……。」
エミィは伏せ目がちに言う。
「おにゃえがぁ〜!?」
と、今まで気が付かなかったのか、黒猫はエミィの額にある一本の角に気が付いた。
「にゃ、にゃにゃにゃ?
もしかして……。人間じゃにゃい?」
「は、はい。私、聖角獣なんです。」
エミィは何故自分が人里に行くのか、どうしてこうなったのかを事細かに黒猫に説明した。
「もしかしなくても、お前は馬鹿にゃ?」
話を聞き終えた黒猫が、すかさずエミィに聞いた。
「何故、人間にゃんかの手助けをするにゃ?
奴らは自然を破壊し、無駄に生き物達を殺す。
食べる為にゃら文句は言わにゃいが、食べずに捨てたりもする。
それにゃのに、どうして助けようと思うにゃ?」
黒猫はエミィをじっと見つめ、返事を待つ。
「‥‥‥‥。」
エミィは目を閉じ、何故、自分が人を助けたいのかを考える。
やがて、一つの結論に辿り着いたのか、口を開いた。
「それは……、多分全ての人間が悪い訳ではないからだと思う。
少ないかもしれないけど、私のお母様は狼に襲われているところを人間に助けられたの。
その人は、銃を持っていたらしいのだけど、威嚇するだけで狼を殺さずに逃がしたんだって。
自分が襲われてしまうかもしれないのにだよ?
普通だったら、狼を撃つと思わない?
でも、その人間はそれをしなかった。
後でお母様が聞いたら、無益な殺生はしないって言ったらしいの。
すごいでしょ?私は、そんな心の綺麗な人間に会いたいからだと思う。」
そういうと、エミィは黒猫に微笑んだ。
「ふぅ〜ん。そっかぁ……。そんな人間ばかりじゃにゃいと思うけど、それでも行くのかにゃ?」
「うん。」
黒猫は腕を組み、しきりに頷く。
「そっかぁ……。にゃら、それにはここから出にゃいとにゃ。
ユニコーンの力でどうにかにゃらにゃいかにゃ?」
「うん、でも……、私達の力は自分の為には使えないの。
例外は人間に変身することだけ……。」
そう、私達の力は他の生き物を幸せにするための力。
自分の為には使えないようになっているのだ。
「にゃら、私の為に力を使ってくれにゃいかにゃ?
私もこの森から早く出たいから。」
「あっそっかぁ。その手があったんだ。」
ぽんっと手を打つと、エミィは近くの木に手を触れ、額に精神を集中させる。
「お願い。力を貸して…」
そう言った瞬間、エミィの角が金色の光を放ち始めた。
と、動く木がサササっと道を開ける。なんと、人里までの一本道が出来上がった。
「す、すごいにゃ。」
黒猫のただでさえ、丸い目が更に丸くなる。
二人は、木が退けて出来た道を歩き始めた。




