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第二十話:世界の牙、毒の記憶

永世中立を謳い、平和の象徴であるはずだった鋼鉄都市アイゼン。

しかし、その門を叩いたフィンたちを待っていたのは、歓迎の宴ではなく、無慈悲な砲火でした。

なぜ、中立の街が牙を剥いたのか。

背後に蠢く帝国の影と、語られる「世界の毒」の正体。

傭兵団《鉄の梟》は、自分たちが既に世界の巨大な歯車に巻き込まれたことを悟ります。

GWに入りまして。今年も今日まで学業に、お仕事に、ご家庭の大切な家事、子育てにと忙しい毎日をお過ごしかと思います。ここで後半にかけての小休止連休でゆっくり出来る時に箸休め程度で楽しんでいただければ幸いです。

アイゼンの外縁部、黒煙が燻る荒野。

《鉄の梟》は、追撃を振り切り、岩陰に身を潜めていた。


「……永世中立、ねぇ」


副長ガルドが、愛剣を鞘に納めながら吐き捨てた。

彼の視線の先、堅牢な城壁を持つアイゼンからは、未だに不気味な警笛が鳴り響いている。

目的の地であったはずの場所から攻撃を受けたショックは、団員たちの間に重い沈黙を落としていた。


だが、団長アリシアだけは違った。


「嘗めた真似をしてくれるもんだぜ」


彼女の唇は、獲物を見つけた猛獣のような笑みを形作っている。

怒りを超え、あまりの無礼さに笑いが込み上げているのだ。


「とっくに俺たちがどういう集団か知れ渡っていると思っていたんだが……うぬぼれていたか。今までどの戦場でも、ぬるい戦闘はしてきたつもりはないんだがよぉ」


その冷たい笑みに、古参の団員たちが密かに身震いする。

アリシアがこの笑みを浮かべる時、彼女の剣は容赦を捨てる。


「団長……アイゼンは敵に回りました。ここから先、どこへ向かっても安全は保障されんだろうな」


ガルドの言葉に、アリシアはフィンの震える肩を力強く、だが優しく引き寄せた。


「ああ、覚悟は決まった。世界中がこの子を狙うってなら、世界中を敵に回して暴れるだけだ」


フィンと出会ったあの廃墟で、すでに理屈抜きでこの子の事を守ると誓いを立てたのだ。


この言葉に誇張はなく、マジもマジ、大マジであった。 


その時、上空から一筋の影が舞い降りた。

偵察に出ていた翼人のルミナだ。

彼女は、鷲掴みにしていた「何か」を地面に投げ捨てた。


「本当、私らを舐めてるよあいつら。……ムカつく!」


地面で火花を散らしているのは、奇妙な形状をした金属の塊だった。

鳥の羽はないが、プロペラのようなものが高速回転の末に停止している。

それは、魔法の杖でも魔石でもない、あまりに無機質な――


「敵の偵察か。……見たこともない魔道具ばかりだな」


アリシアが剣の先でそれを突く。

それはこの世界の理から外れた、異世界の技術「ドローン」だった。


同じ頃。

アイゼンを統べる「領主の館」の深部では、二人の男が密談を交わしていた。


一人は、この街の領主。名を、草薙クサナギという。

もう一人は、サンテスの村を焼き、ガイルを連れ去ったヴァルガルド帝国の将軍、ゾルザルだ。


「……しくじったか」


草薙は、モニターに映る《鉄の梟》の戦闘記録を見つめ、苦々しく呟いた。


「あの鉄の梟、侮ったわけではないがあれほどとはな。国家規模の戦力で見れば少数。だが、まさに一騎当千。団員の一人一人がA級冒険者クラス、そしてあの結束力。よりにもよって厄介な連中に、あのサンテスの末裔が囲われたものよ」


「……しかし、あの生き残りの童が、これほどまでに重要であったとはな」


ゾルザル将軍が、重々しい鎧を鳴らして窓辺へ歩み寄る。


「ヴァルガルドの皇帝陛下は、そこまでお主には明かさなんだか。無理もない」


「我が皇帝は孤高の人故な。

……だがクサナギ殿、お主も理解しているはずだ」


「ああ、とにかく『所長』が復活すれば、世界は終わる。

何があっても阻止せねばならん」


「うむ……」


草薙は自らの掌を見つめた。

彼もまた、かつてこの世界に「転移」してきた、失われた時代の末裔の一人だ。


領主のクサナギは遠くを見るように虚空を眺め

「それにしても……先輩(佐野宏樹)もとんでもない荷物を残してくれたものよ」


魔素マソの拡散により、魔族の領域はエリュシオン大森林を超え、今や我が帝国領にさえ広がっている。これでは人類は死に絶える」


「……魔素か」


ゾルザルが嫌悪感を込めて言葉を繰り返す。


「かつて我らが世界の毒素――『放射能』と、この世界のマナが最悪の化学反応を起こして生まれた呪いだ。今まで何とか抑えてきていたが……限界か」


「サンテス族のコアだけが、その毒を浄化できる唯一の可能性だった。……だが、今はもう遅い。あの少年は『覚醒』している。所長の意志を継ぐ前に……我々の手で引導を渡さねばならんのだ」


密室に、重苦しい沈黙が流れる。

クサナギとゾルザル。

かつての科学を知る者と、この世界の武を象徴する者。

彼らの視線の先にあるのは、サンテス族の無念を晴らすフィンのただの復讐劇ではない。

世界の「崩壊」を止めるための、あまりに身勝手で切実な正義だった。


アイゼンの城壁を背に、フィンは手の中の耳飾りを握りしめた。

触角が、不吉な微動を繰り返している。


「アリシアさん……」


「わかってる。行き先を変更だ」


アリシアは遠く、魔族の息吹が漂うエリュシオン大森林の方向を指差した。


「敵が予測できない場所へ行く。アイゼンが敵なら、アイゼンの敵を味方につけるまでだ」


不眠の少年の、本当の戦いがここから始まる。

家族を奪った者たちの正体、そして世界の毒。

真実は、暗い森の奥底に眠っていた。

第20話、いかがでしたでしょうか。

物語の黒幕である「ヴァルガルド帝国」と、中立を装う「アイゼン」の関係。そして「魔素=放射能+マナ」という、本作独自のSF設定が初めて明かされる重要な回となりました。

まだまだ続いてまいります。今までのお話で出てきた謎、そしてさらに増えていく謎と新展開、物語は深さと面白さが増していくように頑張ります。ちょっとでも面白いと思っていただけましたら、応援、高評価、ブックマーク登録をお願いします。大変励みになります。

これからもよろしくお願いします。

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