表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
廃人ゲーマー、異世界のラスボスを秒で倒す  作者: 大輔
転生の始まり

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/23

第九話 噂が広まる

 深淵鬼の討伐報告が提出されてから、三日後。


 ギルドの雰囲気が変わった。


 遊が入口を通るたびに、視線が集まった。これまでも目立つ外見のせいで見られることはあったが、今回は違う。好奇心と、それより少し重い何かが混じった目だった。


 エリスに聞くと、あっさり教えてくれた。


「噂になってる。Sランク魔物を単独で倒したBランクがいるって」


「もうAランクですが」


「昇格したのが昨日だから、情報が追いついてない」


 遊は「そうですか」と言って、依頼掲示板に向かった。


 掲示板の前に立つと、後ろから声がかかった。


「おい、お前が例の新人か」


 振り返ると、大柄な男が立っていた。


 年は三十前後。体格は遊の倍近い。短い金髪に、顎に無精髭。鎧の傷が多く、使い込まれた両手剣を背負っている。目が鋭いが、敵意というより値踏みに近い光だった。


「例の、とは」


「Sランクを一人で仕留めた新人だろ。俺はガリス。一ヶ月前に灰の牙から撤退した、そのパーティのリーダーだ」


 遊は少し考えた。


「あの壁の爪痕は、あなたたちですか」


 ガリスが眉を上げた。


「見たのか」


「中層の壁に深い引っかき傷がありました。高さからして、人間が吹き飛ばされた跡かと」


「……正確には、俺が叩きつけられた跡だ」


 ガリスは苦い顔で言った。隠す気はないらしい。


「物理攻撃が一切通らなくて、魔法使いが魔法を撃っても大したダメージにならなかった。俺が突っ込んで吹き飛ばされて、撤退を決めた」


「妥当な判断だと思います」


「お前はどうやって倒した」


「魔法の出力を最大にして、一発で撃ち抜きました」


 ガリスはしばらく遊を見た。


「魔法使いか?」


「一応、剣も使えます」


「どっちが得意だ」


「まだあまり剣を使ってないので、わかりません」


 ガリスは腕を組んだ。


「強さを試させてくれ」


「今ですか」


「訓練場を使っていい。本気でやる気はない。ただ実際に動くところを見たい」


 遊は少し考えた。断る理由もないが、積極的な理由もない。ただ、ガリスの目が純粋な興味を持っていることはわかった。馬鹿にしているわけでも、害意があるわけでもない。


「わかりました」


 エリスがカウンターから「気をつけて」と声をかけてきた。どちらに向けた言葉かは不明だった。



 ギルドの裏に訓練場があった。


 砂を敷いた広場に、的と木製の柵がある。昼間は使っている冒険者も多いが、今は二人しかいなかった。


 ガリスが両手剣を抜いた。木製の練習用ではなく、本物だ。


「俺が攻撃する。お前は捌いてみろ。武器は何を使う」


「腰のナイフで」


 遊は宿屋で買った安物のナイフを取り出した。ガリスが少し表情を変えたが、何も言わなかった。


 ガリスが踏み込んだ。速い。Aランク上位の実力は本物だと、動きだけでわかった。


 横薙ぎの一撃が来た。遊は半歩引いて、刃の軌道から外れた。


 ガリスが続けて縦に振り下ろす。遊は横に体をずらして、ナイフの柄でガリスの手首を軽く叩いた。


 ガリスが剣を取り落としそうになって、足を止めた。


 沈黙が落ちた。


「……剣術のスキルは何だ」


「神域、だそうです」


「だそうです、って」


「自分では実感がなくて。ゲームで言えばキャラクターの性能みたいなものなので」


 ガリスは剣を鞘に収めて、遊をまじまじと見た。


「強いのに、欲がない顔をしてるな」


「欲、ですか」


「強くなりたいとか、認められたいとか。そういう顔をしてない」


 遊は少し考えた。


「今のところ、ないです。ただこの世界のことが少しずつわかってきて、それが面白いとは思っています」


「面白い、か」


 ガリスは低く笑った。からかっている感じではなかった。


「俺が冒険者を始めたのも、似たような理由だったな。世界を見たかっただけだ。いつの間にかここまで来てた」


「グレンさんも似たようなことを言っていました」


「あの人は別格だ。比べるな」


 ガリスは砂の上に腰を下ろして、空を見上げた。


「一つ聞いていいか」


「どうぞ」


「これから先、どうするつもりだ」


「依頼をこなしながら、この世界を知っていくつもりです」


「仲間を作る気は?」


 遊は少し間を置いた。


「今は考えていません。一人の方が気楽なので」


「そうか」


 ガリスは立ち上がって、砂を払った。


「俺のパーティに誘おうと思ったが、やめておく」


「すみません」


「謝るな。気持ちはわかる。ただ──」


 ガリスは遊を見た。


「いつか、一人じゃどうにもならないことが出てくる。そのときは声をかけろ。助けに行く」


 遊は少し驚いた。出会って一時間もたっていない相手に、そんなことを言われると思っていなかった。


「なぜですか」


「灰の牙を片付けてくれた礼だ。俺が引けなかったものを、お前が解決してくれた」


 遊はしばらくガリスを見て、頷いた。


「わかりました。そのときはお願いします」


「ああ」


 ガリスは訓練場を出た。遊はその背中を見送って、空を見上げた。


 曇りかけた空に、薄い雲が流れていた。


 仲間。その言葉を頭の中で転がした。


 ゲームでもソロプレイが好きだった。パーティを組むのが苦手だったわけではないが、一人の方がペースを乱されない。


 ただ、ガリスのことは嫌いではなかった。


(まあ、いつかそういうこともあるかもしれない)


 遊は立ち上がって、掲示板に戻った。今日の依頼をまだ決めていなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ